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脳はアルコールが好き? 専門家に聞いた「なぜ、こんなにもお酒は我々を虜にするのか?」

【酒と泪と男とカルチャー】

お酒を口にして「美味しい!」と感じる瞬間。その感覚はただ舌で感じる味だけでなく、ふわりと漂う香りやグラスの温度、その場の空気感、さらにはその日の気分や過去の記憶までさまざまな要素が重なり合って生まれているのではないでしょうか。

最近はクオリティの高いノンアルコール飲料も人気を集めていますが、「美味しいけれどやっぱり何か物足りない…」と感じてしまうこともしばしば。しかし、なぜそう感じてしまうのでしょうか? もしかして私たちは“アルコール”という物質そのものを美味しいと感じているのだとしたら——。

▲左:肝臓専門医 浅部 伸一さん/東大医学部卒の肝臓専門医。日米の医療機関での臨床・研究や製薬会社での新薬開発を経て、現在はアシュラスメディカル代表として診療にも従事。自身も大の酒好きであり、専門知見を活かし「お酒と健康」をテーマに執筆や講演活動を広く展開している 右:酒ジャーナリスト 葉石かおりさん/ラジオレポーターや女性週刊誌の記者を経て酒ジャーナリストに。「お酒と健康」や「酒と料理のペアリング」を軸に各企業でセミナーや講演を行う。代表作にシリーズ累計21万部を突破した『酒好き医師が教える最高の飲み方』(日経BP)などがある。

これからもお酒と長く楽しく付き合い続けるためにも、先述した仮説やお酒自体の魅力、そして長く付き合っていく秘訣について消化器内科・肝臓専門医の浅部伸一先生と酒ジャーナリストの葉石かおりさんに伺いました。

── ズバリお聞きしますが、これだけクオリティの高いノンアルコール飲料が出ているにもかかわらず、「物足りない」「お酒のほうが美味しい」と感じてしまうのはなぜでしょうか?

浅部伸一先生(以下、浅部):実はお酒に含まれるアルコールは科学的に見てかなり特殊な物質なんです。我々の脳は“ブラッドブレインバリア(血液脳関門)”という障壁によって外界から守られており、余計なものが入らないようになっています。例えば塩分のような“水に混じりやすい物質”はブロックされ、直接脳細胞には入っていきません。一方で“油に溶ける物質”は入りやすいという特徴があります。少し特殊な例ですが、医療用の麻酔薬なども脳に直接作用させるためにわざと油に溶けやすく作られているんですよ。

しかし、アルコールは“水にも油にも両方よく溶ける”という変わった特性を持っています。水に溶けるので我々は飲み物として体内に摂取できるわけですが、体内に入った後、今度は油に溶ける性質によって障壁をスイスイとすり抜けて脳へと到達してしまうのです。

── ── 脳の障壁を直接すり抜けてしまう、と。それではお酒を飲むと楽しくなる、こちらはどのような仕組みなのでしょうか?

葉石かおりさん(以下、葉石):それはアルコールが直接脳に作用することでホルモンの分泌が促進されるから。その代表が幸せホルモンと呼ばれる“ドーパミン”です。これが分泌されることで脳内に“報酬を欲する条件付け(アルコール摂取=ドーパミン分泌)”ができあがります。つまり、お酒を飲むとハッピーな気分になれる、というのを脳が学習してしまうんですね。

浅部:また、アルコールは知性を司る“大脳皮質”を比較的麻痺させやすい性質を持っています。この大脳皮質が程良く麻痺することで抑制が取れ、リラックスできるのです。完全に麻痺する前の少しほぐれた“ほろ酔い”くらいの段階が1番ハッピーに感じるはずです。

── さらに飲み進めてしまうと、体や脳にはどのような変化が起きるのでしょうか?

浅部:お酒を飲み続けると大脳皮質だけでなく、さらに脳のほかの部分(“海馬”や“小脳”)も麻痺します。 例えば、短期記憶を司る海馬が麻痺すると新しいことが覚えられなくなることも。海馬は一旦パソコンのRAMのようにメモリーとして記録し、寝ている間に深い記憶に書き換える役割を担っているからです。また、筋肉の運動調節を無意識に行っていられるのは小脳のおかげなのですが、麻痺するとうまく歩けなくなってしまうんです。大脳皮質が麻痺してその奥にある、本能を司る“大脳辺縁系”の働きが表に出てくると理性が飛んで本性がむき出しになってしまいます。

葉石:飲みすぎると飲んでいるときの記憶がなくなったり千鳥足になってしまったり、泣上戸や笑上戸になってしまうのはこの脳機能の麻痺に原因があるんです。

── ちなみに、酔っていると味覚も変わるのでしょうか?

葉石:味覚だけではなく嗅覚の働きも落ちます。実は、嗅覚というのは鼻から大脳皮質に直接上がっているんです。そのため、大脳皮質の働きが落ちるとともに嗅覚も鈍くなり、お酒や料理の複雑な美味しさがわかりにくくなってしまいがち。それで比較的感覚が残っている味覚に執着するようになり、しょっぱいものや濃い味付けのものが欲しくなるのです。

── なるほど。つい飲みすぎてしまうこともあるのですが、なぜでしょうか?

浅部:ドーパミンが出てハッピーになっている間はなかなかやめられない、という理由に加えてやはり理性的な判断を行う脳の部分がアルコールによって麻痺してしまっているからでしょうね。肝臓がお酒を“代謝・分解”するには結構な時間が必要で、1合飲んだとすると3時間くらいは体内に残りますし、意外と酔いは長く続くものなんですけどね。

葉石:なので、個人差はありますが“たくさん飲まないと酔えない、楽しめない”わけではなく、本来であれば適量でも十分楽しめるんです。

── 飲みすぎを防ぐ秘訣はあるのでしょうか?

葉石:やはり1番手っ取り早いのは物理的に飲む量を制限してしまうこと。ケースで買ってストックを作らず、“飲むときだけ買う”。あと、例えばビールなら“飲むと決めた本数だけ冷やす”、と工夫してみてください。また、アルコールには利尿作用があって体内の水分がどんどん出てしまうため、必ずチェイサー(和らぎ水)を合間に挟んで水分補給をすることも大事ですね。

浅部:アルコールとそうでないものを交互に飲む“ゼブラ飲み”という飲み方が海外でも流行り出しています。水を飲んでもすぐに酔いが飛ぶわけじゃありませんし、気持ちの良い具合が長く続くのでぜひ試してみてほしいですね。

── 何でも、長くお酒を楽しみ続けるための秘訣をまとめた書籍を出されたそうですね。

葉石:そうなんです。『お酒がいつまでも飲める「100年肝臓」になる秘訣を教えてください!』(主婦と生活社刊)という本を出しました。お酒を飲み続けながら丈夫な肝臓を自分で作る方法をインタビュー形式でまとめていたり、漫画も入っていたりで読みやすい内容になっていると思います。健康書でありながら“お酒を飲むな”とは一言も言っていないのが最大の特徴なので、お酒好きの皆さんにぜひ読んでいただきたいですね。

* * *

今回、お酒の“美味しい”、“楽しい”という感覚はアルコールによる脳への直接的な作用やホルモン分泌によってもたらされる、ということを科学的見地から教えてもらいました。アルコールが入ると脳の理性が麻痺してしまうため、つい飲みすぎてしまいがちですが、きちんと飲む量をある程度制限し、途中必ずお水を挟むといった工夫次第でお酒ともっと長く健やかに付き合っていけます。まずは買い溜めを止めること、ここからスタートしてみませんか?

<取材・文/山口健壱手柴太一(GoodsPress Web編集部) 協力/浅部伸一葉石かおり

 

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