ウッドデッキの完成を喜んだのも束の間、編集長のわがままで始まったウッドデッキの屋根作り。母屋側に支持材を取り付け、次は柱と桁の作成が始まる。
「さて編集長、柱を立てますよ!」
「柱が出てくると、いよいよ建築物って感じだな」
「それだけ屋根工事というのは大ごとなんですよ」
前回も書いたが、特殊な工法や材料が使えないDIYの屋根工事では、どうしても屋根を支える柱が必要になってくる。
▲もともとの束を取り外し、柱を差し込む。このため太い角材は使えず、床束に使ったものと同じ9cm角の柱を使用
「柱に使うのは、床束に使ったものと同じ9cm角の材木か?」
「そうですね。本当はもうワンサイズ太い10.5cm角、三寸五分が柱の定番なんですけどね」
「じゃあ、なんで使わないんだ。そんなに値段も変わらないだろ」
「この工事では、最初は柱を立てる予定がなかったですからね。今ついてる束を、すっと抜いて、そこに柱を差し込むので束と同じ太さでないとダメなんです」
すぐ隣にある既存の庇(ひさし)の高さに合わせて9cmの角材を切断し、元々束が立っていたところに柱を差し込んだ。
「うーん、角材って縦に持つと不安定だな。立ち方はこんなもんで良いか?」
ぐらぐら揺れる柱を保持しながら、ビスでさっさと固定しようとする編集長。しかし遠目で見ると明らかに傾いている。
「ダメダメです。もし屋根に雪が積もったとしたら、ほんの少しの傾きでも一気に倒れてしまいますよ」
「それは、こわいな」
「前もいいましたが、平たいウッドデッキと、人の頭の上に重量物がある屋根では、安全の重要度が大きく変わります」
「そうは言っても、ぐらぐら揺れて難しいぞ」
長さのある資材は、横にして持つときに比べ、縦に立てると格段に不安定になる。なるべく二人で作業し、安全に配慮しながら素早く固定しよう。
▲垂直が取れないと屋根を乗せたときに傾いてしまうため、水準器を当てて慎重に立てる。横に持つのと比べて、材木は縦に立てると格段に不安定になる
「さ、水準器を柱にあてがって前後左右方向の傾きを慎重に整えて」
「こんなもんかな?」
▲90mmのコーススレッドでしっかりと固定。かなり長いネジなのでパワーのある電動ドライバが活躍する
長めのコーススレッドでしっかりと固定できたら、次は屋根を支える桁を取り付ける。
「いわゆる軒桁ってやつですね。材木はこれを使ってください」
「おお、これは太いな」
我が愛車ハイラックスの荷台から取り出したのは、デッキ材に使った2x4の倍の太さがある2x8材。
▲両サイドに立てた柱の前後に、2本の桁を渡す。柱にビスを打ち桁の置き場を作った後に、短いビスで桁を仮止めしていく
「本当はウッドデッキの真ん中に、もう1本の柱があれば、もっと細い材木で大丈夫なんですけどね」
「せっかく開放感のあるウッドデッキの真ん中に柱は嫌だな」
「そういうと思って、柱はデッキの両端だけにしたんです。そうすると柱と柱の距離は約3.6m。流石にこの長さになると、桁にはこれくらいの太さが必要になりますね」
日本の大工さんの世界では古くから「間四の法」という教えが伝わっている。これは「柱と柱の間が一間(1.8m)なら、梁桁の太さは四寸(12cm)」という考え方だ。このセオリーに編集長のウッドデッキを当てはめれば、柱間は二間(3.6m)なので、桁の太さは八寸(24cm)必要ということになる。
もちろんこの考え方は、角材を使った時の場合なので、今回はセオリー通りの材料は使えないが、必要な材木の太さを考えるときに、非常に参考になるので覚えておきたい。
▲短めのビスで桁を仮止めしてから、長めのコーススレッドでしっかり止めていく。桁の上においた水準器を見ながらきちっと水平を保つことが大切だ
「しかし柱と同じで、長いから水平に取り付けるのが難しいな」
「脚立に上での作業ですし、一度にしっかりと固定するのは無理ですよ」
「じゃあどうするのよ」
「焦らずゆっくりとです。短めのビス1本で仮止めして、反対側に回ってください」
「そして反対側からしっかり固定か?」
「いやいや焦らずです。反対側も仮止めして、また反対へ。急がば回れですよ」
長尺材の施工では、手元の少しの誤差が大きな傾きにつながる。ビス留めする時は、一気に固定せず、短めのビスを使って両端で微調整を繰り返しながら、位置決めと固定を繰り返すのが、結局は早くて確実なのだ。
「よーし、しっかり水平に固定が終わったぞ」
「おめでとうございます!!」
「祝福はありがたいが、まだまだ屋根の形も見えてないぞ」
「いやいや、ここの屋根の場合は、前回に母屋外壁につけた支持材と今回の桁で、屋根の構造材は完成です」
「まあそういうことだな」
「ってことは、これで棟上げってことですよ」
「棟上げかー。そう言われると、結構嬉しいな」
本来なら屋根の乗る横方向の材木が全て据え付けられ、一番てっぺんの横木=棟木が完成して「棟上げ」だが、今回の屋根はいたってシンプルなのだ。
「めでたい棟上げの次は、屋根の斜め部分の下地となる垂木の施工です」
「次から次と大変だなー」
「編集長が屋根作りたいっていったんでしょ。さ、これを使ってください。ここまでで一番大物の電動工具の登場ですよ」
「おう、すごいなこれは!」
▲HiKOKI「卓上スライド丸ノコ C7RSHD」(12万2000円/税別) 狭い現場でも作業しやすいパイプ固定のスライド方式で、狭い現場や壁際でも切断が可能。両傾斜により、材料を反転する必要がなく傾斜切断が可能。左右のライトで広範囲を明るく照らす本体内蔵式ツインLEDライト、墨線合わせに役立つレーザーマーカを搭載する
今回登場するのは、HiKOKIの「卓上スライド丸ノコ C7RSHD」。
卓上スライド丸ノコは、電動丸ノコが作業台となるベース部分と一体になっている工具で、安全性と切断精度が通常の丸ノコに比べ非常に高い。
「おお、丸ノコがブレたりしないから、とても安心だな」
「角度の調整も確実なので、同じ部材を大量に作るときに、とても便利なんですよ」
垂木には屋根の重さが強くかかるので、強度の高い太めの材木を使うことが多い。
▲同じ寸法の木であれば連続してカットできるから、丸ノコよりもスピーディにカットしていくことができる
「そんな材木を何本も同じ寸法で切断するのはしんどいですが、これを使えば簡単です」
「怖くないだけでも、疲れ方が変わるな」
「そこが卓上丸ノコの利点のひとつです。セルフビルドの現場に友達が来てくれた時とかに、比較的気軽に頼めるのがよいですね」
▲垂木と桁を固定していく。片側は今回取り付けた桁に、反対側は前回取り付けた壁側の材木に固定
必要な本数の垂木を揃えられたら、桁の上にコーススレッドで固定していく。使用するコーススレッドは90mmを選択。
「今回は長いビスが多くて疲れるな」
「それだけ負荷がかかる重要な場所ってことです。垂木は台風などの強風をもろに受けるので、しっかりとした固定が必要なんですよ」
軒先から入り込んだ強風は、屋根を持ち上げる方向へ力をかける。垂木の固定が甘いと、屋根が飛んでいってしまうので気をつけよう。
「屋根が飛んでったら、怖いな」
「怖いだけでなく危険です。DIYもここまで大きくなると、責任重大ですからね」
「気をつけるよ」
▲約3.6mの桁に7本の垂木を固定。脚立の上での作業なので力を入れにくく、1本固定するたびに脚立を移動させなければならないので作業効率は悪い
長めのコーススレッドを打つには、やはり36vのインパクトドライバは大活躍であった。
「よし、最後の1本が完成っと」
「編集長、インパクトの扱いが本当に上手になりましたね」
「垂木の斜めのラインがつくと、一気に屋根っぽくなるな」
「これで上に屋根材を張れば、ついに完成ですよ!」
>> 連載
(写真・文/阪口克)
旅と自然の中の暮らしをテーマに国内外を取材するフリーカメラマン。秩父郡長瀞町の自宅は6年かけて家族でセルフビルド。家を経験ゼロからDIYで建てる。家族でセルフビルドした日々を描いた『家をセルフでビルドしたい』が文藝春秋から発売中。ほか近著に『笑って!小屋作り』(山と渓谷社)、『世界中からいただきます』(偕成社)など。
- Original:https://www.goodspress.jp/howto/287323/
- Source:&GP
- Author:&GP
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