買い得で走りが軽やか!シトロエン「C5エアクロスSUV」の個性はガソリン車でも健在

2019年5月に日本での販売がスタートしたシトロエンのミドルクラスSUV「C5エアクロスSUV」。これまで同車のエンジンはディーゼルターボのみの設定でしたが、今回新たに1.6リッターのガソリンターボ車が追加されました。

今回は、以前レポートしたディーゼル仕様との比較を交えながら、新たに追加されたガソリン車の魅力についてご紹介します。

■見た目と装備はディーゼルと変わらないガソリン車

シトロエンといえば、1919年の創業以来、独自の思想を貫いて数々の名車を登場させてきたフランスの自動車メーカー。本国のラインナップを見ると、小型車には“シトロエンらしさ”と感じさせる挑戦的なモデルも存在しますが、販売面ではミニバン、そしてSUVを主力に据えています。

屈指の個性派メーカーたるシトロエンが手掛けるとあれば、今や定番カテゴリーとなったSUVでもなんらかの“らしさ”を求めてしまうもの。その点、C5エアクロスSUVには、熱心なシトロエンファンも納得の個性が備わっています。

2019年5月、日本で先陣を切って導入されたのは、最高出力177馬力、最大トルク40.8kgf-mを発生する2リッターの直列4気筒ディーゼルターボエンジン搭載車。装備レベルによって、スタンダードな「シャインBlueHDi」と、そこにレザーシートやパノラミックサンルーフをプラスした「シャイン BlueHDi ナッパレザーパッケージ」という2グレードが設定されています。

新たに導入されたガソリン車は「シャイン」の1グレードのみを設定。搭載される1.6リッターの直列4気筒ガソリンターボエンジンは、最高出力180馬力、最大トルク25.5kgf-mを発生します。ディーゼル車と同じく、8速ATを介して前輪へと駆動力を伝えますが、トランスミッションのギヤ比はディーゼル車とは異なる専用設定となっています。

4WDの設定はありませんが、「ノーマル」「スノー」「マッド」「サンド」「OFF」といった走行モードを選択することにより、電子制御で駆動力を調整する“グリップコントロール”を備えており、一定の悪路走破力を実現しているのもディーゼル車と共通です。

上陸から1年が経ったモデルなので、一般的なインポーターであれば「せっかく新エンジンを導入するのだから、装備面で差を付けた新グレードを設定して買い得感をアピールしよう」などと考えそうなものですが、装備一覧を眺める限り、ガソリン車とディーゼル車との違いを見つけることはできません。例えば、C5エアクロスSUV は“ADAS(先進運転支援システム)”関連の装備がかなり充実しているのですが、アクティブセーフティブレーキ(被害軽減ブレーキ)やレーンキープアシストはもちろんのこと、前走車と一定の距離を保ちながら走行できるアクティブクルーズコントロールや、停止からの再発進に対応したトラフィックジャムアシストなども、両エンジン車ともに標準で備わります。

一方、スペックシートを眺めても、全長4500mm、全幅1850mm、全高1710mmというボディサイズは両エンジン車ともピタリと共通。とはいえ、エンジンの違いが重量に現れていて、ディーゼル車が1640kgであるのに対し、ガソリン車は1520kgと120kgも軽く仕上がっています。ほぼ大人2名分の重量の違いが走りにどんな影響を及ぼすのか気になるところです。

ちなみにシャイン・ガソリン仕様の価格は415万円。同ディーゼル仕様は438万円ですから、23万円以上もお手頃となっています。

■チープチックな内装とソフトなシートは秀逸

今回、ほぼ1年ぶりの対面となったC5エアクロスSUV。ドアを開けてシートに腰を下すと「あぁ、この感じだったよね」とすぐに記憶が甦ってきます。かつてのシトロエン車に比べれば、インテリアデザインの奇抜さは希薄になりましたが、ダッシュボードにベルトを模した装飾が施されるなど、ディテールへのこだわりはいかにもシトロエンらしいところです。

とはいえ、分かりやすい高級志向に走らず、カジュアルさやチープシックな雰囲気を狙っている辺りは、シトロエンらしいところといえるでしょう。このサイズのSUVともなると、高い質感や高級な仕上げを目指したモデルが少なくありませんが、C5エアクロスSUVは決して見栄を張っているような印象がありません。

例えば、ダッシュボードやドアのインナーパネルなどは、ひと目で樹脂と分かる仕上げですが、室内全体のカラーコーディネートやディテールのデザインでしっかり補うことで、不思議と安っぽさは感じません。高級スーツにチープな腕時計、といったチグハグさは一切なく、全体を品良くカジュアルにまとめる辺りはすがすがしく感じます。

一方、シトロエンといえばシートの出来が気になりますが、こちらは期待どおり。ソフトな感触なのに単に柔らかいだけでなく、一定のストローク以上ではしっかりとコシを感じさせます。

昨今、かつて見られた“硬いは正義”といった発想から離れたシートを採用するメーカーも増えていますが、この絶妙なフィット感はシトロエンならではといえるでしょう。

■ガソリン車は軽やかに回るエンジンが美点

走り出しての印象は、これまたシトロエンらしさを感じさせるソフトさが貫かれます。とはいえガソリン車の加速感や足まわりの感触は、ディーゼル車とは微妙に異なります。

エンジンの印象は、ひと言でいって“軽やか”。発進時から思いのほかパワフルで余裕を感じさせるディーゼル車に対し、ガソリン車は右足の動きとの連携がより自然で、滑らかにスピードが乗っていくというタイプです。おおむね2000〜4000回転の間では、ドライバーが意図する通りの加速力を得られます。また、ディーゼル車は静粛性の高さも美点ですが、かすかに感じられる音や振動の粒の細かさにおいては、ガソリン車に軍配が上がります。

一方、C5エアクロスSUVのフットワークは、シトロエンらしさが満ちあふれたもの。かつてシトロエンといえば、“ハイドロニューマチック”や“ハイドラクティブ”といった、金属スプリングとショックアブソーバーの代わりにエアスプリングと油圧ポンプを用いたサスペンションを採用し、“魔法のじゅうたん”と形容されるソフトな乗り心地を実現していました。それを現代に再現するために、C5エアクロスSUVではショックアブソーバー内にセカンダリーダンパーを組み込むことで、かつてのハイドロに通じるソフトな乗り味を実現した“PHC(プログレッシブ・ハイドローリック・クッション)”を装備。その乗り味はガソリン車においても健在で、乗り心地は相変わらずしっとりとソフトな上、荒れた路面では不快な振動がカットされ、まさに快適至極です。

あえてガソリン車とディーゼル車の違いを探すなら、後者は路面のうねりなどをゆったりいなしてゆくタイプであったのに対し、前者はスムーズにうねりに反応するといったイメージで、若干ではありますがタッチが異なります。これが車重120kgの違いなのか、発売から1年の間に施された商品改良によるものか、判断は難しいところですが、往年の愛好家からすると、ディーゼル車の方がよりシトロエンらしくと感じられるかもしれません。とはいえ、ガソリン車も乗り心地は快適で、他のSUVとは一線を画す仕上がり。シトロエンファンはもちろんのこと、乗り心地に一家言ある方でも納得の乗り味といえるでしょう。

このようにC5エアクロスSUVを見ていくと、日々のパートナーとして気軽にシトロエンを迎えたいというならガソリン車が、ロングクルーズに出掛ける機会が多いとか、よりシトロエンらしさを求めたいという向きにはディーゼル車が向いているように思われます。ともあれ、シトロエンというと、ついつい“らしさ”を求めてしまいがちですが、かつてのように、独特の乗り味と引き換えに、所有するにはそれなりの覚悟が必要ということもありませんから、まずは気軽に接してみてはいかがでしょう?

<SPECIFICATIONS>
☆シャイン
ボディサイズ:L4500×W1850×H1710mm
車重:1520kg
駆動方式:FF
エンジン:1598cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:180馬力/5500回転
最大トルク25.5kgf-m/1650回転
価格:415万円

文&写真/村田尚之

村田尚之|自動車専門誌やメーカー広報誌などを手掛ける編集プロダクションを経て、2002年にフリーランスライター・フォトグラファーとして独立。クルマや飛行機、鉄道など、乗り物関連の記事を中心に執筆・撮影。そのほか、カメラやホビーアイテムの取材・執筆も得意とする。


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