VW(フォルクスワーゲン)からまた1台、新しいSUVが登場。先頃上陸した「Tロック(T-Roc)」は、VWにとって「ティグアン」、「Tクロス」に続く3モデル目の日本向けSUVだ。
今や群雄割拠のSUVマーケットにおいて、Tロックは成功を収めることができるのか? じっくり乗ったから見えてきた、その魅力と気になる部分についてご紹介したい。
■クーペのようだが実用性は犠牲にしていない
世界的な人気を受けて、日本でも選択肢がどんどん増えているSUV。例えばトヨタは、最小の「ライズ」から最も大きい「ランドクルーザー」まで、車体やエンジンのサイズを少しずつ変えながら8車種(ピックアップトラックの「ハイラックス」を含む)ものSUVをラインナップ。また輸入車ブランドでも、メルセデス・ベンツやBMWはそれぞれ7車種を日本市場に投入している。気づけばセダンよりSUVの方が、選択肢が多いという状況になっている。
日本における輸入車のベストセラーカーである「ゴルフ」を展開するドイツのVWも、そうした流れに乗っているブランドのひとつ。定番SUVのティグアンに続き、2019年秋にはコンパクトモデルのTクロスを投入。さらに2020年夏には、今回紹介するTロックを上陸させた。
Tロックのポジショニングをひと言で表すならば、ティグアンとTクロスの中間。4240mmという全長はティグアンより260mm短くTクロスよりは125mm長い。感覚的には、ティグアンがミッドセダンの「パサート」、Tクロスがコンパクトカーの「ポロ」、そしてTロックはその中間の「ゴルフ」と考えれば、立ち位置を理解しやすいかもしれない。ちなみに日本車と比べたら、ホンダ「ヴェゼル」よりちょっと短く、ちょっと幅広いというボディサイズだから、十分にコンパクトといえるだろう。
一方Tロックには、ボディサイズ以外にもティグアンやTクロスとの大きな識別点がある。それは、クーペを想起させるプロポーションだ。サイドからみると明らかだが、Tロックのリアピラーやリアウインドウはかなり寝かされていて、ステーションワゴンのそれに近いティグアンやTクロスとは明確に方向性が異なっている。
しかしクーペライクとはいっても、メルセデス・ベンツ「GLCクーペ」やBMW「X4」ほど極端には寝かされておらず、実用性を犠牲にしないギリギリの範囲で留まっている。そのバランスは絶妙で、例えばリアシートに座ってみると、乗員頭上の空間がしっかり確保されているのはもちろん、フロアに対するシートの着座位置を高めに設定していることで、大人が座っても足がしっかり収まり、リラックスした着座姿勢をとることができる。空間構成の巧みさに裏打ちされた後席の居心地の良さはVW車の伝統であり、クーペライクなスタイルとしながらも、それを守り通した点は高く評価できる。
また、クーペライクなスタイルというとラゲッジスペースに悪影響を及ぼしそうだが、結論としては「これだけあれば十分」と思えるスペースを確保。確かに、大きく傾いたリアピラーの影響から、荷室の“後席の背もたれより上の空間”は実質的には使えないし、容量自体も445Lと弟分のTクロスと比べて10Lほど小さいものの、ラゲッジスペースの広さで高評価を得ているホンダのヴェゼル(393L)や、マツダ「CX-30」のそれ(430L)よりは広いことから、日頃から荷物をパンパンに詰め込む人でなければ気になることはないだろう。
さらにTロックの荷室フロアは、フロアボードの高さを2段階に調整できるなど、使い勝手にも配慮。高い位置にセットすれば、空間を床上と床下に分割して効率よくスペースを利用できる上、リアシートの背もたれを倒した際にはフロアがフラットになる。一方、低い位置にセットすれば荷室高を稼げるなど、シーンに応じた使い分けが可能となっている。
このように、Tロックは軽快なスタイルのクーペSUVでありながら、VWが元々得意とする居住性に優れた後席空間や実用的な荷室といった秀逸なパッケージングが、しっかり受け継がれているのである。
■先進的なコックピットと力強いディーゼルターボ
Tロックの運転席に座ると、ナビゲーションのマップを大きく映すこともできる全面液晶のメーターパネルがまず視界に入る。加えてインパネの中央には、表面をガラスパネルで覆った8インチのタッチパネルディスプレイを組み込むなど、先進的な雰囲気をさり気なく演出している。
ここまでは最近のVW車に共通する仕立てだが、さらにTロックでは、グレードによってブルーやイエローのデコレーションパネルを選べるなど、デザインに遊び心を感じさせる。ルーフ部をホワイトに塗り分けた仕様を始め、カジュアルなスタイルこそがTロックの目指す世界観なのだろう。
エンジンは、全グレードとも2リッターのディーゼルターボを搭載。取り立ててパワフルというわけではないが、わずか1750回転から34.7kgf-mという最大トルクを発生するため、走り出した直後から力強さを感じる。その上、高回転域で極端に加速感が鈍ることはないし(時折、そうした性格を見せるディーゼルターボも存在する)、低速でジワジワと前進している時に、ちょっとした上り坂でジワリとアクセルを踏み増した時などにも滑らかに反応してくれる。こうしたシーンにおけるディーゼルターボのフィーリングは、Tロックの美点のひとつといえるだろう。
走りに関しては、もうひとつ特筆すべき魅力がある。それはハンドリングフィールだ。高速巡行中の直進安定性に優れ、速度を高めるほど落ち着きを増していくというドイツ車らしさを感じられるのはもちろん、「お!」と感心したのは交差点を曲がる際や峠道でのフットワーク。車高の高いSUVとは思えないほどドライバーのハンドル操作に対して俊敏に反応し、スッと向きを変えていく。そのため、右へ左へとコーナーが続く峠道では、活き活きと軽快に走ってくれる。
VWによると「(同社の)他のSUVと比べてTロックは重心位置がやや低く、その分、ハンドリング特性が最適化されている」とのことだが、背の高いSUVであることを全く感じさせないこれら挙動は、ドライバーに運転する楽しみをもたらしてくれる。Tロックの特徴であるクーペライクな味つけが、ハンドリングにおいても統一されている印象だ。
■どこか懐かしい古典的なドイツ車を想起
このように美点も多いTロックだが、じっくり乗ってみると「ここが改善されたらな」と思える部分がいくつかあったので報告しておきたい。
その第一は静粛性だ。搭載される2リッターのディーゼルターボは、動力能力においては不足はないが、アイドリング時だけでなく走行中においても、昨今の他社のそれと比べ、かなり騒がしい印象だ。
続いて気になったのは乗り心地。足回りは全体的に硬めのセッティングで、時折、路面の凹凸を乗員へと伝えてくる(電子制御式の減衰力可変ダンパーを装着した上級グレード「Rライン」では多少緩和されるが)。以上の2点だけでもリファインされれば、走りの快適性は格段にアップすることは間違いないだろう。
一方、インテリアの質感が少しチープな点も気になるところ。例えばダッシュボードの表面処理は、日本車の場合、コンパクトカーでも主力グレードには柔らかいソフトパッドがあしらわれているのが昨今の潮流だが、Tロックでは硬い樹脂がそのまま使われている。ベーシックグレードでも400万円近い価格設定だけに、さらなるクオリティアップを望みたいところだ。
今回、パッケージングが合理的で、乗り心地は硬くても高速安定性と操縦性に優れ、先進性を備えながらも質実剛健な仕立てのインテリアを備えたTロックにじっくり触れてみて、どこか懐かしい古典的なドイツ車を思い出した。Tロックはイマドキの見た目でコーディネートもカジュアルだが、基本性能にこだわり、昔ながらのドイツ車の主張が感じられる典型的なドイツ車といえるだろう。
<SPECIFICATIONS>
☆TDI スタイル デザインパッケージ(青)
ボディサイズ:L4240×W1825×H1590mm
車重:1430kg
駆動方式:FF
エンジン:1968cc 直列4気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:150馬力/3500〜4000回転
最大トルク:34.7kgf-m/1750〜3000回転
価格:405万9000円
<SPECIFICATIONS>
☆TDI Rライン(濃銀)
ボディサイズ:L4240×W1825×H1590mm
車重:1430kg
駆動方式:FF
エンジン:1968cc 直列4気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:150馬力/3500〜4000回転
最大トルク:34.7kgf-m/1750〜3000回転
価格:453万9000円
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
- Original:https://www.goodspress.jp/reports/324166/
- Source:&GP
- Author:&GP
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