<&GP自作部>
先日、買い物をしようとして、財布に穴が空いているのを発見しました。この合皮製の財布を購入したのは、確か2年ほど前のこと。近所のショッピングセンターで2000円だったと思います。高価なファッションアイテムなどに縁ない暮らしを続けてきたとはいえ、50代を目前に控えた男がこれでは少々恥ずかしい。そこでインターネットで本革製の財布をチェックすると、お値段は想像の数倍を超えていました。そこで例によって、ふと思いついたんです。
「これ、自分で作れるんじゃね?」
好きなアウトドアの分野でも、革製のアイテムを自作している人は少なくありません。早速、皮革DIYの世界を検索してみると、オリジナルアイテムを作製するDIYerが大勢おりました。しかも、そのために使う道具類は、どれもこれもカッコ良く、道具好きの男心が疼きます。
「よしよし、これは面白そうだ。これでオリジナル革財布を作るぞ」
と勢い込んで財布の作り方を調べたのですが、これが思いのほか難易度が高そう。これはいきなり、財布に挑戦するのは無謀というもの。DIYでは自分の技量を冷静に見極めることも重要なのです。まあ実際のところ、材料となる革が高価で、成算もなく切ったり貼ったりすることにビビってしまったというのが本当のところですが…。
ではまず何を作るか。革細工の解説書などには、入門編としてまずはキーホルダーやパスケースなどが紹介されていますが、いかにも初心者の練習用という感じで、なんだか気分も盛り上がりません。どうしたものかと洋書の革工作解説書「The art of making Leather Cases 」をパラパラとめくっていると、ナイフシース(鞘)の作り方に目が止まりました。ちょうど前回までの連載で作ったオリジナルナイフが、剥き身のまま目の前に転がっています。
「ナイフの鞘を自分で作る」これはなかなか男心をくすぐるアイデアです。思い立ったら一直線。早速アマゾンで革細工の工具セットと工作用の皮革を購入し、初めてのレザークラフトに挑戦です。
■レザークラフトに使う道具は種類が豊富
レザークラフトには多くの工具が必要で、同じ工具でもサイズ違いも複数用意しなければなりません。近くに専門店があれば、その都度買い足すことも可能でしょうが、そうでない場合はある程度揃ったセットを購入するのが良さそう。
インターネットではさまざまなセットが販売されていますが、その中で評価の高さとお値段のバランスが良かったのが、「YIGIZAレザークラフト 工具セット」(9880円)。手元に届いた箱を開くと、中にはぎっしりと工具が詰まっており気分は盛り上がります。ただし初見の道具が多いうえに種類も多いので、初心者は道具の整理だけでも一苦労かもしれません。
■まずは革を切り出すための型紙作り
英語の解説書だけでは苦しいので日本製の入門書も併読し、なんとか作業を始めました。まず作るのは革を切り出すための型紙ですが、ここでナイフシース独特の難しさが判明します。
通常の初心者向け革細工なら、コインケースや小物入れなどの作品の型紙が入門書に付いてきます。まずはそれで練習し、次第にオリジナルの作品へと進んでいくのですが、ナイフシースではベースになるナイフの形状や大きさが決まっていないため、その都度ナイフを基に型紙を自分で作らねばならないのです。
厚紙の上にナイフを置き、見よう見まねで線を引いてみます。ただナイフが入るだけでなく、抜き差ししやすいサイズを考えなければなりません。せっかくなのでベルトに通すループもつけてみたいです。半日、あーだこーだと線を引き続けようやくオリジナルの型紙が完成しました。
型紙が完成すれば、その形を革に写し取りカットしていきます。今回用意した革は厚さ2mmの牛革で、A4サイズ1枚が約900円。失敗はなるべく避けたいところです。
ボールペンで慎重にラインをトレースし、革の切断へと移ります。
工具セットには切断用の道具として、革包丁とカッターナイフが入っていました。革包丁はカッコ良くて切れ味も抜群なのですが、初心者では細かい細工が難しいく、ここは使いなれたカッターナイフの方が安心でした。
写真中央にある、オタマジャクシのようなパーツがナイフシース本体となり、その手前の船のような形は、鞘内に空間を作るための中子と呼ばれるパーツです。
■本体のパーツに折り目を付ける
続いて本体のパーツに折り目をつけます。革は厚みがあるので、この作業をしておかないとうまく折り畳めません。本体パーツの中心線に沿って、U字型の彫刻刀で細く溝を彫っていきます。思いのほか作業効率は良く、気持ちよく彫り進むことができました。
彫り終わったら、革の裏側全体にトコノール(594円)というクリームを塗りました。毛羽立ちを防止する効果があるそうです。
クリームが落ち着いたら、革用接着剤で中子を接着します。接着すると簡単には外れない一発勝負なので、とても緊張しました。
■「ハトメ抜き」と「カシメ打ち」でベルトを固定
この辺りから色々な専用工具が登場し、楽しさも倍増してきます。次に登場するのは「ハトメ抜き」と「カシメ打ち」です。今回作るナイフシースですが、初心者の私では鞘本体だけでしっかりとナイフを保持するような、精密な工作はできません。
そこでハンドル部分を固定するベルトを付けることにしました。ベルトといっても薄手の革を細長く切っただけのものです。このベルトを本体に「カシメ」で固定します。
まず本体とベルトに穴を開けます。「ハトメ抜き」を所定の場所に据え、上からハンマーで叩くと綺麗に穴を開けることができました。その穴にオスとメスのハトメを上下から通し、台座の敷いて「カシメ打ち」で打てば、ガッチリと接合することができました。
■縫い付け工程が皮革DIYのメインイベント!
いよいよレザークラフト のメインイベントである、縫い付け工程が近づいてきました。裏側にきて目立たないベルトループ部分で練習したいと思います。
まずは接着剤で仮固定します。
乾いたところで、「菱目打ち」というフォークのような道具を使い、糸を通す穴を開けます。
革小物の縫い目は作品の見た目に大きく影響するので、整然と美しく開けねばなりません。
さあついに針と糸の登場です。一番重要な道具と材料なので色々と種類もうんちくもあるようですが、初心者の私はセットに入っていたものをそのまま使いました。縫い方も、昔、家庭科で習った布の縫い方と少し違い、二本の針を使って交互に挟む混むように縫っていきます。
手作りの革製品は頑丈なイメージがありますが、これは確かにしっかりしています。
ベルトループの次は本体の縫い付けです。ループ部と同じように接着剤で仮固定ですが、折り返し部分の反発があるので洗濯バサミを使ってしっかり固定し乾燥させました。
本体裏側だったベルトループと違い、本体の縫い目は非常に目立ちます。「菱目打ち」を持つ手にも力が入ります! このラインがしっかり並んでいると、見た目も精悍な印象になります。
すべての穴が開け終わったら縫い付け。上下と中子の3枚の革が重ねられているので、針を通すのにも力がいります。糸のたるみは見た目が悪いだけでなく、強度も落ちるので、ひと針ごとにしっかりと糸を引っ張り締め付けました。
正直、こういった単調で細かい作業はあまり好きではなかったのですが、この革細工に限っては、ひと針ごとに強度を増していく感覚が心地よく、とても楽しいものでした。
最後に「打ち棒」でベルトにホックを付け、全体が完成!
うん、なかなかカッコ良くできたと思います。
仕上げに革の断面部分を紙やすりで磨き、トコノールを塗布。表面全体をオイルやワックスで仕上げることもできますが、じっくり経年変化を楽しむために今回はそのままで楽しむことにしました。
完成形はこんな感じ。初めてにしては納得の出来です。
ナイフの抜き差しは滑らかで、奥まで入れると思いのほかしっかりと保持されました。ベルトループの形状もぴったりで、なかなか満足度の高い仕上がりとなりました。
※ ※ ※
何か1つの作品を作れば、なんとなく全体の流れがわかるのは、レザークラフトも他のDIYも同じ。私は次はキャンプ用の革製トートを作ろうかと思案中。
そしていつの日か複雑な財布にも挑戦してみたいと思います。今回のナイフシースの作り方は、そのまま他のナイフにも使えますので、ぜひ皆さんも手持ちのキャンプ用ナイフや包丁のオリジナルシースを作ってみてください!
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写真・文/阪口 克
阪口克|旅と自然の中の暮らしをテーマに国内外を取材するフリーカメラマン。秩父郡長瀞町の自宅は6年かけて家族でセルフビルド。家を経験ゼロからDIYで建てる。家族でセルフビルドした日々を描いた『家をセルフでビルドしたい』が文藝春秋から発売中。ほか近著に『笑って!小屋作り』(山と渓谷社)、『世界中からいただきます』(偕成社)など。
- Original:https://www.goodspress.jp/reports/327525/
- Source:&GP
- Author:&GP
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