常識を変えたスポーツ性!ヤマハ「TMAX560」は走りに酔えるスクーター

スクーターは通勤などの“移動のアシ”というイメージが強いせいか「スポーティな走りを楽しめる2輪ではない」という印象を抱く人が多いようです。

そんなイメージを覆したのが、2001年に初代モデルが誕生したヤマハの「TMAX」シリーズ。移動時の快適性はもちろん、スポーツ性能をも強く打ち出したTMAXは、スクーターのマーケットに新風を吹き込みました。

今回はその最新モデル「TMAX560」に試乗し、走りの魅力と人々から支持され続ける理由について考えます。

■衝撃だった初代の走行性能をさらにブラッシュアップ

初代TMAX

初代のTMAXは衝撃的なモデルでした。CVT(無段変速機構)を搭載するスクーターでありながら、スポーツバイクのようなルックスと、約50度という深いバンク角を実現した走行性能を兼備し、従来のスクーターのイメージを一新。世界中に多くのファンを生み出します。

アクセル操作だけで走り出せる気軽さは一般的なスクーターと同じですが、ワインディングではスポーツライディングも楽しめるなど、日々の通勤から長距離ツーリングまで対応できる懐の深さでベストセラーとなったのです。

初代TMAXが、従来のスクーターの常識を超える走りを実現できた要因のひとつがエンジンです。大排気量エンジンでも単気筒、というのがスクーターでは一般的な中、TMAXは直列2気筒エンジンを搭載。これにより、滑らかな吹け上がりと振動の少ない走行フィールを実現しました。

そして最新モデルのTMAX560は、排気量を561ccに拡大。2020年施行の新しい排出ガス規制に対応しつつも、先代モデルと変わらない最高出力48馬力をキープしています。

多くのスクーターでは、エンジンとスイングアームを一体化した“ユニットスイング式”と呼ばれる構造を採用していますが、これにはリアのバネ下重量が大きくなるというデメリットがあります。そこでTMAXシリーズは、エンジンとスイングアームを別体とし、CVTはエンジン側に搭載。スイングアームには動力伝達ベルトのみを装備しています。その結果、バネ下重量の低減に成功し、路面追従性を高めただけでなく、前後の重量配分も理想的な50:50に近づけています。

TMAX560の骨格ともいうべきフレームは、軽量なアルミダイキャスト製。スイングアームもアルミ製とするなど、スポーツバイクと同等の構造を採り入れています。

また、リアのリンク式モノクロスサスペンションは、リンクの働きによって低荷重時はソフトに、高荷重時にはハードな減衰力を得られる設計。今回試乗した上級グレード「TMAX560 TECH MAX ABS」には、プリロードと伸側減衰力の調整機能も備わります。

一方、フロントの足周りもスポーツマシンと呼ぶにふさわしいもの。フロントフォークは41mm径の倒立式で剛性が高く、路面追従性も良好。ブレーキにはラジアルマウント式のキャリパーをダブルで装備し、ディスク径は267mmとしています。

制動力だけでなく、コントロール性の高さにもこだわったパーツチョイスですね。

■上級グレードだけあって電子制御デバイスも充実

TMAX560 TECH MAX ABSは、近年のスポーツマシンには欠かせない電子制御デバイスも充実しています。

前後のABSはもちろんのこと、後輪のスリップを感知して駆動力を調整するトラクションコントロールシステムも装備。また、市街地での快適性を重視した「Tモード」、パワー感やスポーツ性を高めた「Sモード」など、2段階に調整可能な走行モードも搭載しています。そのほかTECH MAX ABSには、長距離ツーリングでライダーの疲労を軽減するクルーズコントロール機能も備わります。

さらにTECH MAX ABSには、電動で高さを調整できるウインドスクリーンも装備。高速巡航時に一番上のポジションまで上げれば、走行風が直接カラダに当たることはほとんどありません。

併せて、グリップヒーターやシートヒーターも装備されているので、これからの寒い季節の通勤やツーリングも快適にこなせそう。

これらの機能は、走行中でもボタンで操作でき、それぞれの作動状況はマルチファンクションメーターに表示されます。

■オンロードでの走りのキレ味はライバル不在

またがってみると、TMAX560の着座位置は800mmというシート高の数値よりも高めに感じます。シートやサスペンションの沈み込みが少なく、シートの幅が広めなのが要因。この辺りも、街乗り重視の一般的なスクーターとは異なる部分で、信号待ちなどにおける足つき性よりも、ライディング中の運動性を重視していることが分かります。

一方、シート高が高めな分、シート下の収納スペースが広くとられているのはうれしいところ。ヘルメットはもちろん、バックパックなどの荷物も難なく収められるので、身軽な状態でライディングに集中できました。

街中を走っているだけでも、このマシンがただのスクーターでないことがヒシヒシと伝わってきます。まず排気音が、他のビッグスクーターとは明らかに異なります。2気筒エンジンらしい滑らかかつ迫力あるエキゾーストノートは、耳にしただけでTMAXであることが分かるくらい個性的。

もちろん、加速フィールもシャープです。アクセル操作に対してリニアに反応してくれるのでコントロールはしやすいのですが、パワー感を重視したSモードは街中では持て余してしまうほど強力。高速道路の合流などでは、アクセルを軽くひねるだけで速度を乗せることができます。

高速巡航時の車体の安定感も特筆もの。ハンドルに手を添えているだけでピシッと走行ラインを保ってくれるため、クルーズコントロールを使うと高速移動も全くストレスになりません。

それでいて、ワインディングでのフットワークは軽快。左右に車体を倒し込む操作感が軽いだけでなく、フロントタイヤが素早くインへ向いてくれるので、普通のビッグスクーターのつもりでいると予想より早く向きが変わるのに驚きます。また、バンク時に車体を擦ってしまう心配が皆無なため、峠道でも思い切った走りを楽しめました。

通勤のアシとしてなど、スクーターは依然として高い人気をキープしていますが、「どうせ乗るならツーリングやスポーティな走りも楽しみたい」という人は多いはず。近年、スポーツ性の高さをウリにしたスクーターも増えていますが、オンロードでのキレ味鋭いコーナーリングという点においては、TMAX560は並ぶものがない存在です。

スーパースポーツバイクの前傾姿勢はキツいけれど、バイクならではの車体を深くバンクさせて曲がる楽しさも味わいたい…。TMAX560はそんなライダーたちにおすすめの1台。「スクーターなんて…」と思っている人にこそ、ぜひ味わってもらいたい乗り味です。

<SPECIFICATIONS>
☆TMAX560 TECH MAX ABS
ボディサイズ:L2200×W765×H1420mm
車両重量:220kg
エンジン:561cc 水冷直列2気筒 DOHC
トランスミッション:CVT
最高出力:48馬力/7500回転
最大トルク:5.7kgf-m/5250回転
価格:141万9000円

文&写真/増谷茂樹

増谷茂樹|編集プロダクションやモノ系雑誌の編集部などを経て、フリーランスのライターに。クルマ、バイク、自転車など、タイヤの付いている乗り物が好物。専門的な情報をできるだけ分かりやすく書くことを信条に、さまざまな雑誌やWebメディアに寄稿している。


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