本家よりも味わいが濃密!BMWアルピナ「B3」は玄人好みで上品な高性能車だ

日本の自動車業界における最大の章典“日本カー・オブ・ザ・イヤー”にて、2020-2021年シーズンの“パフォーマンス・カー・オブ・ザ・イヤー”を受賞し、一気にクルマ好きの注目を集める存在となったドイツのBMWアルピナ。

今回は同賞を受賞した高性能ミディアムセダン「B3」をテキストに、アルピナというブランドの魅力に迫る。

■BMW車をベースとする高性能車ブランド

エンジンはすべて職人が手作業で組み立てる。フレームにあるBMWの車体番号が消され、代わりに独自の車体番号が打刻してある。欧州車はカタログに最高速度を表記するのが一般的だが、記載がない代わりに、その速度で走り続けられることを保証する“巡行最高速度”が表記されているーー。

クルマ好きなら、アルピナに関するそんなエピソードを一度は耳にしたことがあるかもしれない。しかし、実際にその真偽を確かめたことのある人は少ないだろう。何しろアルピナのモデルは、市場への供給台数が極めて少ないからだ。

アルピナが世に送り出す新車は、全モデル合わせて年間1700台ほど。それは、7000台超のランボルギーニや約1万台のフェラーリといった、スーパーカーブランドよりも少ない。本当に限られた人だけが手に入れているのがアルピナなのだ。

中には、「BMW車をベースとする高性能チューニングカーだから、自動車メーカーではないのでは?」と思う人がいるかもしれない。しかしアルピナは、れっきとした自動車メーカーだ。BMW車をベースに高性能車を仕立てるメーカーではあるものの、ドイツ政府からひとつの自動車メーカーとしてしっかりと認定を受けている。そのため日本でも、車検証上の車名は“BMWアルピナ”となっている。

BMW車をベースとするものの、独自の思想に基づいたレシピで仕立てられたオリジナルのクルマ、それがアルピナなのである。

■今では本家BMWの研究や開発にも携わる

そんなアルピナのルーツは、創業者であるブルカルト・ボーフェンジーペンが1962年にBMW車をチューニングし、高性能車を仕立てたことから始まった。ボーフェンジーペンはその3年後にアルピナ社を設立し、BMWのエンジンをパワーアップさせるキットの開発・販売を始めた。

創業当初は、BMWのオーナーたちが自らのクルマをアルピナに持ち込んで、もしくは、BMWを販売する各ディーラーで車両にキットを組み込むスタイルだったが、1978年からあらかじめキットを組み込んだ状態の新車を販売するコンプリートカースタイルをスタート。そして1981年には、ドイツ政府の自動車局より自動車製造者の認定を受け、独立した自動車メーカーとなっている。

加えて、並行して行っていたレース活動でも、アルピナはBMWのワークスチームを上回るほどの成績を獲得。これもアルピナの名声を高めるものとなったのだ。

今では、BMWとの関係がますます親密になり、例えばエンジンはアルピナ独自の設計ながらも、BMW車のエンジンブロックを使って仕立てている。また開発も、ベースとなるBMWの市販車と並行して開発されるように。そのためエンジンルームは、初めから大きな改造なしにアルピナのエンジンが収まるよう設計され、液晶メーターの表示も、ベースモデルの開発時から独自メニューへの展開を盛り込んで作られているほどだ。

結果、現在のアルピナは、メーカーというよりもBMWのエンジニアリング会社に近いポジションとなっている。アルピナの職人が作り上げる独自のエンジンやインテリアをクルマに組み込むのと並行し、理想を追求した味つけにますます注力しているのだ。その一方、アルピナは本家BMWの研究や開発にも携わるなど、BMW本体との結びつきもより一層密接になっている。

■珠玉の3リッター直列6気筒“ビ・ターボ”エンジン

そんなアルピナを代表する1台が今回採り上げるB3だ。BMW「3シリーズ」をベースとし、“リムジン”と呼ばれるセダンと、“ツーリング”と名づけられたステーションワゴンが設定される。ちなみにB3の巡行最高速度は、リムジンが303km/h、ツーリングが300km/hとなる。

エクステリアは、下部の張り出した部分に“ALPINA”のロゴが入ったフロントバンパーが目立つものの、他のエアロパーツは全体的に控えめ。ボディサイドには“アルピナライン”と呼ばれるサイドストライプが入り、足下には大径タイヤに細い20本スポークのアルミホイールを合わせている(標準装着の19インチと、オプションの20インチとでホイールデザインが異なる)。いずれもアルピナの伝統を継承したエレメントだ。

インテリアは、上質な人工レザーであるアルカンタラとセンサテックをあしらったシートが標準だが、オプションとして最高級レザーをシートやダッシュボードに張り巡らすことも可能。さらに、オーナーの好みに合わせてインテリアの細かいカスタマイズを行えるエクスクルーシブ性も、アルピナの魅力といえるだろう。

アルピナといえば、注目はなんといっても心臓部だが、B3には珠玉の3リッター直列6気筒“ビ・ターボ(ツインターボ)”エンジンが搭載される。興味深いのは、BMW車との関係性だ。実はB3のエンジンは、ブロックをBMW純正の超高性能モデルである「M3」の最新モデル用(S58B30A型)と共用している。

しかし、最高出力と最大トルクは、「M3コンペティション」が510馬力/6250回転&66.3kgf-m/2750〜5500回転なのに対し、B3は462馬力/5500〜7000回転&71.4kgf-m/2500〜4500回転といった具合に、特性がかなり異なる。B3の最高出力はM3コンペティションより低いものの発生領域がよりワイドで、対するトルクはM3コンペティションよりアップさせつつ、より低い回転域で発生する。

こうしたスペックを見るだけで、日常域での扱いやすさを重視したエンジンであることが伝わってくる。これこそが、アルピナのキャラクターを象徴する点といってもいいだろう。

■刺激よりも味わい深さが印象的なB3

B3は462馬力もあるため、アクセルペダルを踏み込めばガツンと速い…のは当然だが、むしろそうした一時的な刺激よりも注目すべきは、日常領域における振る舞いだ。

例えば、高速道路を巡行中、前を走るクルマを追い抜こうとジワリとアクセルペダルを踏み込んだとする。その時のエンジンの鼓動とトルクの立ち上がり方は、まるでドライバーの意思をクルマがくみ取ってくれたかのように繊細で心地いい。ドライバーの操作に対してクルマが絶妙に反応するという味わい深さを楽しめる。

高性能車は、アクセルペダルを深く踏み込まないと面白くないと思われがちだが、そんなことはない。作り手の魂がこもったアルピナは、低回転/低速域でも実に美味で好印象。アクセルペダルの微妙なオン/オフに対してエンジンが繊細かつ滑らかに反応し、太いトルクによってスムーズに加速してくれる。こうした過渡領域における心地良さこそがアルピナの真骨頂だろう。

例えば、同じBMWベースの高性能車でも、M系のモデルはアクセルペダルを思いっきり踏み込み、エンジンをガンガン回した時の突き抜けるような刺激こそが本領で、圧倒的なエネルギーから発散されるパンチ力が強烈だ。食べ物に例えるなら、山椒がピリリと効いた時のような状態で、それはそれでアドレナリンが噴き出すほど楽しい。一方のアルピナは、美味いチョコレートを口に入れた際、ジワリと口の中に美味しさが広がるような感覚。それを静かに味わうのはまさに悦楽でもある。

そうした甘美な味わいを増幅させてくれるのが、極上の乗り味だ。今回の試乗車はオプションの20インチタイヤを履いていたが、しなやかなサスペンションが生み出す快適な乗り心地は、大径タイヤを履いているとは思えないほど。ちなみに足回りは、電子制御の減衰力可変式ダンパーこそBMW車と同じものだが、制御はアルピナ独自のものであり、スプリングやスタビライザーなども専用品を組み合わせている。

アルピナ車はいずれも、かつてから大径タイヤを履いていたが、サスペンションの巧みなセッティングによって上質な乗り心地を実現していた。最新のB3にも、そんな魔法のセッティングがしっかりと受け継がれているようだ。

速い上に乗り心地が良く、刺激よりも味わい深さが優る。そんなB3に乗って分かったのは、アルピナは今も昔も変わらず、玄人のためのクルマだということだ。

<SPECIFICATIONS>
☆リムジン オールラッド
ボディサイズ:L4720×W1825×H1445mm
車重:1840kg
駆動方式:4WD
エンジン:2993cc 直列6気筒 DOHC ツインターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:462馬力/5500〜7000回転
最大トルク:71.4kgf-m/2500~4500回転
価格:1229万円

>>BMWアルピナ「B3」

文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

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