本稿の著者Dominik Schiener(ドミニク・シーナー)氏はIOTA Foundationの共同創設者で会長。2011年からブロックチェーンの世界にいてスイス、英国、ドイツのスタートアップにも関わっている。彼の主な焦点は、DLTやAIなどのデジタルインフラで物理インフラを改善する方法だ。
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非代替性トークン(NFT)は今、非常に熱いトレンドであり、このテーマについて扱った記事はこの数週間で数千本に達した。本記事でも同じテーマを扱うのは何だか申し訳ないのだが、トークン経済の潜在性が持つ重要な意義が見過ごされていることを考えると、書かずにはいられないのだ。
NFTは、金融資本の世界で起きているずっと大きな発展のわずかな一部でしかない。人々が今、少し困惑しながら苦笑いして見ているNFTは、シリコンバレーの台頭以来機能してきた投資モデルを今後10年もしないうちに完全に変えてしまうだろう。
何が「非代替」なのか
NFTが注目を集めるようになった最初の段階は奇妙なもので、一群のごくわずかな人が富を手にし、ほとんどの人はただ困惑するばかりだった。単に一時的な流行だとNFTを見限る前に、それは決して従来の投資の枠組みで使いやすいよう設計されたものではなかった、という点を考えておくのは意義のあることだろう。
NFTが具体的にどのように発展していくのかを想像するのは難しいかもしれないが、この新しい経済が従来の経済モデルの乾ききった表面からどのように浸透していくのか、その概要はすでに見え始めている。
オークションで6900万ドル(約76億円)のJPEG画像を販売することは、馬車の持ち主が小型原子炉を馬車の上に縛り付け、実際のところは相変わらず馬が引っ張っているのに「これは原子力で動く馬車なんです」と言い張るのとあまり変わらない。周りの人からは注目されるだろうが、根本的な変化は何1つ起こっていない。
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ニュースの見出しをにぎわす最近のNFTの販売例は、どれもこの種の後ろ向きな考え方の実例だ。そして「原子炉は過大評価されている」と言って馬車の持ち主を批判している傍観者たちは、このことが長期的に見て持つ意義にまだ気づいていない。もしかすると、馬が嫌いなだけかもしれない。
クジラとイヌとユニコーン
大航海のための資金調達手段という投資の概念の芽生えから、今日見られるようなベンチャーキャピタルの勃興に至るまで、金融資本の世界はいつでも選ばれし者たちだけの楽しみであった。これは、現在の投資モデルが、大きな投資をした者が大きな勝利を得られるというコンセプトに基づいているからだ。
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全世界の金融資本のほとんどすべては巨大なクジラ(大金を賭けられる投資家)やユニコーン(大成功を遂げた新興企業)といった伝説の生き物によって成り立っており、凡人はその一端を垣間見られるだけでも幸運だと思っている。資本の世界における成功者(ビッグドッグ)を生み出す理論は、最上位の投資家たちの意向を汲んで動く、強力な仲介者たちを基礎として築かれているのである。
Bitcoin(ビットコイン)の発明は、金融の発達史において画期的な出来事だ。ビットコイン自体は、結局のところ有力者たちの新たな遊技場になってしまったとはいえ、テクノロジーの面でビットコインの誕生が投じた一石は、今や世界を大きく変える波になろうとしている。そもそも、ブロックチェーンは分散台帳技術(DLT)の応用例の1つであり、この技術は地球の裏側にいる人へ即座にメッセージを送れることと同じほど重要なブレイクスルーなのだ。
DLTの実用化は、金融資本にとってもはや強力な仲介者が不要になったこと、もしくはいかなる仲介者も不要になったことを意味する。現在は、双方の当事者間で送金、取引契約、投資のための信頼関係を確立する時にどうしても中間者が必要となる。そのような中間者が提供するサービスに対する支払いは、大企業や大富豪ならばビジネスに不可欠なコストとしてあきらめられるだろうが、多くの人にとっては参入の障壁となる支出のままである。
DLTでは信用関係がネットワークのアーキテクチャによって確立され、アーキテクチャそのものに組み込まれているので、そのような障壁を打破できる。DLTを利用すれば、インターネットに接続する人なら誰でも、自分の経済力の許す範囲で大富豪と同じスタイルのビジネスを展開でき、それを支えるのがトークンによる決済なのだ。
柔軟に変化していくトークン経済
投資の分散化のメリットは無視できないほど数多くあるため、大手投資家は今後数年の間にDLT経済を導入するようになるだろう。オートメーションによって取引はいっそうスムーズになり、取引の結果や市況の変化はすばやく(リアルタイムで)反映され、透明性によってセキュリティは向上し、金融商品やサービスのさらなるカスタマイズが可能になる。大型投資家が分散型金融を導入することは、すべての人にとって純粋に好ましい影響を及ぼすだろう。
この新しいシステムの肝となるのがトークンであり、NFTはその一種にすぎない。台頭しつつあるこの経済モデルでは、決済トークンがお金の役割を果たし、証券トークンが株式と同様の意味を持ち、ユーティリティトークンが容量や帯域幅のような機能を提供する。そして、ハイブリッドトークンではこれらのトークンがミックスされて新たな形態が生まれる。なんだかよくわからないがおもしろそうだ、と思われただろうか。実際そうなのだ。
ここで理解しておきたいのは、トークンによって置き換えられるのは株式やその他の投資商品にとどまらず、何かを購入する時の仲介者役(投資ブローカー、クレジットカード会社、プラットフォームプロバイダー、銀行など)も置き換えられる、ということだ。分散型経済は今よりもっとオープンで、直接的な市場になることだろう。
トークン経済の真価とは
上述のようなことすべてがどのようにして起こるのか、具体的には想像しにくいかもしれない。しかし、この新しい経済が従来の経済モデルの乾ききった表面からどのように浸透していくのか、その概要はすでに見え始めている。その突破口は、現実の経済が不合理なものになっている分野で最もはっきり認めることができる。
現在急速に伸びているギグエコノミーでは、もはや誰も安定した職に就くことはなく、まるで傭兵のようにギグからギグへと渡り歩く。私たちの首にくくりつけられた石臼のような大量のサブスクリプションについてはどうだろう。ミュージシャンにとって苛立ちの元になっているストリーミングプラットフォームとの関係や、アーティストと画廊との関係についても考えてみよう。この惑星に根深く残る貧困問題に圧迫されている人の数も考えて欲しい。
これらはすべて、生活と仕事のモデルがいよいよ従来の入れ物には収まらなくなってきていることを示すものだ。それらの側面は最適化されているとはとても言えないものだが、その原因を指摘することも、どのような解決策があるかを指し示すこともできていない。トークンを使用した分散型経済には、これらのマイナス面、矛盾、機能不全をすべて除去し、それよりもはるかにわかりやすくエレガントなもので置き換えるだけのポテンシャルが秘められている。
新しい現実がどのようなものになるのか、それがもたらす結果の一部については比較的想像しやすい。例えば、9種類のサブスクリプションに支払うのではなく、欲しいと思った時に欲しいコンテンツに直接支払うことが可能になる。アーティストがギャラリーに稼ぎの半分を持っていかれたり、ミュージシャンがすべての稼ぎをストリーミングプラットフォームに渡したりする代わりに、そのような種類のコンテンツ向けに構築された柔軟なネットワークを通じて自分の作品に対する支払いを直接受け取れるようになるだろう。また、不動産投資のようなこれまで手の届かなかったセクターを含め、投資するためにブローカーに手数料を払う代わりに、関心のあるエンタープライズに直接投資できるようになる。そして、貧困による圧迫や、守りの固められた階級間の境界線が排除され、障壁を打破して誰もが価値にアクセスできるようになる。
トークン経済の展望について、まだ想定されていない側面が数多くあることだろう。だからこそ今後が非常に楽しみだ。インターネットに接続できる人なら誰でも参加でき、意義深い仕方で貢献できるような経済がグローバルに広がっていけば、まだ利用されていない資産が持つ何兆ドルもの価値が活用されることになる。ためらう理由はあるだろうか。どうすれば最短距離でそこまで到達できるだろうか。
何をすべきかは明らか
この新しい経済を実現させる上で最も難しい問題は、すでにクリアされている。合意形成システムを分散型に変え、取引と投資のために資産をデジタル化するシステムと組み合わせる方法に関する技術的な理解はもう得られているのだ。
このシステムを軌道に乗せるために必要な残りの作業は、かなり明確だ。まず何より先に、この新たなシステムがその草創期に生態系に与える影響について考えなければならない。マイニングファームを完全に法律で禁止するか、ファームが電力ソースとして非再生可能エネルギーを使用できる割合についてできるだけ厳しい制限を加えることが必要だ。新しい経済のバックボーンがこの惑星を破壊してしまうものならば、大きくなる前にシャットダウンし、完全に停止させなければならない。システムは生態学的にサステナブルであることが必須だ。
次に懸念されるのは、さまざまな暗号資産やトークンがあるのに、現状ではまだそれらに共通する規格も共通のネットワークも存在しないことだ。多様な暗号資産が存在しながら、そのことが話題にも上らないのは驚くべきことであり、非常にもどかしい。
それはまるで、多数の企業が電球を発明するのに飽き足らず、独自のソケットや配線規格まで発明し、それぞれが自分たちのやり方こそ最善で最後には勝利すると主張しているようなものだ。電球はすばらしいが、お願いだからソケットは統一してもらいたい、と思うのは当然のことだ。このすばらしいトークン経済も、私たちが中立的で相互運用性のあるネットワークを作らなければ決して羽ばたけない。さらに、そのネットワークは無料かつスケーラブルなものでなければならない。
差し迫った懸案事項の最後のものは、規制と法的枠組みだ。暗号資産の世界には、干渉されることを極度に嫌う無政府主義的な考えを持つ人々がまだ非常に多い。これは、私たちのコミュニティが長期的に目指している目標の達成に寄与しない。
バリューチェーンに存在するあらゆる仲介者を排除することには大賛成だが、それは、いかなる規制機関からも自由なおとぎの国を作るという意味ではない。分散型経済向けの法的枠組みは、オープンソースによるコミュニティ主導で構築された透明性の高いオペレーションという私たちの精神と調和するものだ。私たちすべてが、まだ発生期にあるテクノロジーに関する全面的かつ緻密な規制づくりに協力しなければならない。
エコロジー、相互運用性、規制を合言葉にすれば、ユーザーがこの新しい経済の力を活用するための実用アプリやその他のインフラの構築に取りかかることができるだろう。余剰電力を地域のスマートパワーグリッドに販売することから、自分の労働の対価を受け取ることまで、その用途は無限にある。そしてもちろんNFTの購入もその用途の1つであり、新しい経済においては今よりはるかに有意義な存在になることだろう。
カテゴリー:ブロックチェーン
タグ:NFT、分散型経済、暗号資産、コラム
画像クレジット:imaginima / Getty Images
[原文へ]
(文:Dominik Schiener、翻訳:Dragonfly)
- Original:https://jp.techcrunch.com/2021/04/09/03-29-nfts-are-part-of-a-larger-economic-development-in-finance-capital/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:Dominik Schiener,Dragonfly
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