コロナ禍で押し進められたDXの中、AIに期待される今後の役割とは

コロナ禍で押し進められたDXの中、AIに期待される今後の役割とは

アフロ

編集部注:この原稿は、MIN SUN(ミン・スン)氏による寄稿である。同氏は、AppierのチーフAIサイエンティストを務めている。Appierは、AI(人工知能)テクノロジー企業として、企業や組織の事業課題を解決するためのAIプラットフォームを提供している。

2020年、新型コロナウイルスの存在が確認されて以来、その猛威は世界中に広がり、2021年になった今でも終息のめどが立っていない。

新型コロナウイルス感染症の流行により、人々の健康に対する意識はもちろんのこと、社会のあり方そのものに対しても大きな影響を与え、ミクロレベルからマクロレベルにいたるまであらゆるものごとが変革を余儀なくされたことに疑いの余地はない。

特に、営利企業において新型コロナウイルスの影響は甚大で、これまで遅々として進まなかったデジタルトランスフォーメーション(DX)が事業規模の大小を問わず急速に押し進められている。

この状況下、にわかに注目を集めているのが業務の自動化や省力化を得意とするAI技術の活用だ。

これまで、AIという技術に対する疑心や懸念をもっていたために活用に消極的だった企業においても、AIソフトウェアパッケージの導入やシステム開発が加速している。

新型コロナウイルスの流行が5年分のDXを1年で押し進めた

新型コロナウイルスの流行拡大により、企業内で最も大きく変わったことといえば、従業員の働き方だろう。新型コロナウイルスの流行以前は「仕事をする」ことは「オフィスにおもむく」ということに直結していた。しかし、コロナ禍で避けるべき3つの密と呼ばれる密閉、密集、密接の全条件に当てはまってしまうケースがあり、多くの企業が従業員を健康維持のため、出社制限を設けざるを得なかった。

このことにより、在宅勤務が急激に増加したわけだが、すべての業務をいきなりリモートで実施するのは当然難しい。そのため、自粛期間の合計が1年を超えてくる中でオフィスへの出社を要する業務においてもDXに取り組む企業が増加している。

バックオフィス業務における契約対応業務を例にあげると、これまでは紙媒体に押印し、それを送付するという流れが一般的だったのに対し、コロナ禍でDXが進められたことにより、契約書類がデータで渡されるようになり、押印もデジタル環境で実施した上で、契約書類の返送もオンライン上で完結させるケースが増加している。

ただ、このような業務のデジタル化に必要な技術やサービスの多くは、コロナ禍で生まれたものではなく、以前から存在していたが導入が先送りされていたものだ。つまり、企業における大規模なDXを推進したのはCEOでもCTOでもなく、新型コロナウイルスということになる。

コロナ禍で価値を発揮するAI

現在社会で起こっているDXは一過性のものではなく、さらなる推進に向け多くの企業が取り組んでいる。その中でもAIは、どのような価値を発揮しているのだろうか。

AIは様々な分野で活躍しており、その中でも特に医療分野では大きな価値をもたらしている。

医療分野におけるAI活用に関するひとつ目の事例は創薬の迅速化だ。従来、新薬が臨床試験に至るまでには4~5年以上の研究期間が必要だといわれてきた。だが、イギリスのオックスフォードを拠点とするAIスタートアップのExscientiaはAIを用いて新薬に用いる化合物を設計し、12カ月という短い期間で新薬の臨床試験にこぎつけた。また、通常の創薬では莫大な投資コストが発生することが多々あるが、AIの活用がその圧縮にもつながっている。

また、このような創薬ノウハウは新型コロナウイルスに効果的な薬品の特定にも用いられているという。したがって、過去に開発された薬品から新型コロナウイルスの予防や治療に効果的なものを特定する作業にはAIが少なからず貢献しているということになる。

AIを医療分野に活用する事例はもちろんこれだけではない。中国や台湾、韓国などでは、新型コロナウイルスへの感染予防に向け、AIを用いた陽性者のマッピングなども行われているという。

AIに期待される今後の役割とは

コロナ禍においても、AIが一定の価値を生んでいるが、AIがより大きな価値をもたらすのはこれからだろう。というのも、AIには学習のためのトレーニングデータが必要なため、中長期的な問題解決に適しているからだ。新型コロナウイルスの感染拡大が終息したとしても、いずれ人類は新たな感染症の流行に見舞われる。その際には、AIはより大きな価値をもたらすことは間違いない。

たとえば、感染症の予防においては電子医療記録をデータとして用いることで感染時の重症化リスクを予測できるようになる。また、新型コロナウイルスの感染経路を記録しておくことで、どのような場所で、誰を、どのように検査すれば感染症拡大の防止に役立つかを分析することも可能だ。

なお、上記の電子医療記録と地理空間に関するデータを組み合わせることで、検査、隔離、その他リソースの割当に関する優先順位の策定を支援するという構想は将来的な期待が高まっている。

さらに、ウイルスの遺伝子配列を分析し、変異をモニタリングすることにより、製薬会社による医薬品開発のターゲット明確化やウイルスの拡散速度予測、変異体の有害性の特定など、これまでは専門家が時間をかけて実施していた一連の取り組みの迅速化も期待されている。検査においても、現状ではPCR検査による感染の判断が主流だが、早期にウイルスの特性を明らかにできれば、CTスキャンデータなどを基に感染判断ができるようになる可能性はある。

今回の新型コロナウイルスの感染拡大は突発的だったため、AIが価値を発揮することが間に合わなかったケースも見受けられるが、私達が今直面している問題が、将来的なAI活用の礎として生かされるはずだ。

もちろん、技術を活かすも殺すも結局は人によるところが大きいため、将来的に期待されているAI活用が机上の空論で終わる可能性もある。

だが、政府や企業が主体となり、将来的な感染症に備えた仕組みを整え、人々がコロナ禍で得た教訓をしっかりと学習しパンデミックに備えることができれば、感染症拡大による社会的なリスクは大きく減少することだろう。

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カテゴリー:人工知能・AI
タグ:医療(用語)AI / 人工知能(用語)新型コロナウイルス(用語)創薬(用語)


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