SUVブームの追い風を受けて、次々と日本市場へSUVを投入している輸入車ブランド。中でも積極的なのがドイツのVW(フォルクスワーゲン)だ。昨2020年には、「Tクロス」、「Tロック」といったニューモデルを日本市場に投入。以降も各モデルに新グレードや新エンジン搭載モデルを追加している。
そんなVWが展開するSUVの“正統派”がミッドサイズの「ティグアン」。先のマイナーチェンジで新エンジンの搭載などが行われた最新型の魅力をご紹介する。
■1台でスバルの年間生産台数に迫るヒットを記録
世界中でとどまるところを知らないSUVブーム。“ブーム”というよりはもはや定番化していて、ヨーロッパ市場では乗用車販売の約半分がSUVに、北米市場でも乗用車販売の大部分がSUVとなった。そのあおりを受け、アメ車ブランドからはセダンのラインナップが絶滅しつつあるほどだ。
日本市場においても、SUVの販売台数は右肩上がりで増加中だ。そうした状況もあって、日本車ブランドはもちろんのこと輸入車ブランドも続々とSUVを日本市場へ投入。SUV専門ブランドのランドローバーを始め、メルセデス・ベンツ、BMW、アウディといった多くのブランドが、大小さまざまなSUVを日本市場でラインナップしている。
ドイツの国民車構想をブランドのルーツとし、「ビートル」や「ゴルフ」などでお馴染みのVWも日本市場向けに複数のSUVをラインナップしている。最もコンパクトなTクロスは、2020年、日本市場において“輸入車で最も売れたSUV”に輝くほどの人気モデルに。ひと回り大きなTロックも、スタイリッシュなルックスが高評価を得ている。
そんなVWが日本で展開するSUVの中で、最も大きなモデルがティグアンだ。ボディサイズは全長4515mm、全幅1840mmでマツダ「CX-5」とほぼ同じ。日本の都市部でも扱いやすいサイズのインポートSUVとして好評を博している。
そんなティグアン、実はなかなかの成功モデルだ。SUVブームの波に乗ったことで年間生産台数は右肩上がりに増え続け、2019年にはなんと91万1000台を生産。この年のヨーロッパ市場でSUVセールスのトップの座に輝いた。ちなみに、同年のスバル車の生産台数が全モデル合わせて103万912台だったことを思えば、1モデルでそれに迫る数字を記録したティグアンがいかに人気を得ているかがイメージできるだろう。
ちなみに現行ティグアンは2世代目のモデルで、初代がデビューしたのは2008年のこと。日本市場向けは2017年にフルモデルチェンジされ、現行モデルへと進化した。そして先頃、大規模なマイナーチェンジを受け、最新型へとアップデートされている。
■新鮮になったエクステリアと進化した安全性
最新型ティグアンのポイントは多岐にわたる。まず注目はエクステリアデザインだ。
フロントはグリル、ヘッドライト、バンパー、一方のリアはコンビネーションランプのデザインを変更。加えて、灯火類がいずれもLEDとなったことで、先行車や対向車などがまぶしいと感じる部分だけを減光し、それ以外はハイブームで照らし続ける“グレアフリー”タイプのヘッドライトや、光が内側から外側へと流れるように点滅するリアウインカーなどが採用され、機能面も見栄えも良化している。
また最新型は、パワートレーンも刷新された。従来の1.4リッターターボに替わり、最新モデルは1.5リッターターボを採用。このエンジンには“気筒休止”機能が組み込まれていて、走行状況によっては2気筒のみを稼働させることで燃料消費を抑えてくれる。
さらに先進安全機能の進化も見逃せない。中でもハイライトは、同一車線内の全車速運転支援システムがバージョンアップされたこと。この機能は、ドライバーがアクセルやブレーキを操作しなくても前走車に合わせて速度を自動調整し、さらに車線内を維持するようハンドル操作をアシストするものだ。
システムの正確性が高まったことで作動時の制御がなめらかになったほか、ハンドルにあるボタンを1回押すだけで機能が開始されるように。さらに作動速度範囲も0km/h(停止)から上限210km/hまで拡大されている。
このほかインテリアも、ハンドルやエアコンの操作パネルが新デザインに変わり、インフォテインメントシステムも新しいオンラインサービス“ウィーコネクト”対応のものに刷新されるなど、改良の手は多岐に及んでいる。
中でも、マイナーチェンジモデルの導入を記念した特別仕様車「TSI ファーストエディション」には、ブラウン×ブラックのカラーリングとなるレザーシートや専用のウッドパネル、ブラックのルーフライニングを採用。
より上質な空間に仕立てられている。
■新型ゴルフで得たノウハウをマイナーチェンジに反映か
車両重量が1.5トンを超えるティグアン。いくらターボチャージャー付きとはいえ、1.5リッターエンジンではつらいのでは? そんな心配を胸にけわしい上り坂をドライブしてみると、ほんのわずか走ったところでその心配は杞憂だったことに気づいた。
新しい1.5リッターターボは、最高出力150馬力、最大トルク25.5kgf-mを発生。中でも最大トルクは自然吸気ガソリンエンジンに例えると2.5リッターに相当するもので、それをわずか1500回転から3500回転という幅広いゾーンで発生するから、ゆとりある加速を見せてくれる。
その一方、気筒休止機能に関しては、確かに稼働してはいたものの、4気筒から2気筒、2気筒から4気筒に切り替わる瞬間を実感することはなかった。それだけ精緻に稼働していることの証拠といえるだろう。
そんな最新型ティグアンをドライブして一番驚いたのは、走りが全体的になめらかなことだ。サスペンションはしなやかに動いて乗り心地も良好だし、ステアリング系は引っ掛かりや操作力の変動なく作動。さらにコーナリング時は、自然なロールを伴いながらスムーズに曲がる。新たに6速から7速となったデュアルクラッチ式トランスミッション“DSG”の変速もスムーズだ。こうしたクルマの反応や挙動が実に洗練されていて、運転しているドライバーはもちろん、同乗者も心地よく移動できるのだ。
「この感覚、どこかで味わったことがあるな」と思っていたら、それは最新のゴルフに通じる乗り味だった。ゴルフとティグアンはプラットフォームを始めとするメカニズムに共用部分が多いから、新型ゴルフの開発で得たノウハウがティグアンのマイナーチェンジにも反映されているのだろう。
ちなみに最新型ティグアンには、もうひとつトピックがある。それはVWのSUVとして初めて、高性能スポーツグレード「R」が追加されることだ。ゴルフの最強モデル「ゴルフR」のティグアン版でといえるだろう。
Rに搭載されるエンジンは2リッターのガソリンターボで、最高出力はなんと320馬力。VW車としては初めて、左右輪の回転数に差をつけることで旋回性能を高める“トルクベクタリング”機構を組み合わせた4WDシステムを搭載するほか、走行モード切り替え機能には、エンジン特性やサスペンションを飛びきりハードにする「レースモード」まで備えている。ティグアンRは2021年秋頃の上陸予定というから、今からドライブするのが楽しみだ。
<SPECIFICATIONS>
☆TSI ファーストエディション
ボディサイズ:L4515×W1840×H1675mm
車両重量:1550kg
駆動方式:FWD
エンジン:1497cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:150馬力/5000~6000回転
最大トルク:25.5kg-m/1500~3500回転
価格:524万9000円
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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- Original:https://www.goodspress.jp/reports/383645/
- Source:&GP
- Author:&GP
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