スペースプレーン(有翼式宇宙船)を開発するSPACE WALKERは9月27日、第4期定時株主総会・事業報告会を開催、その一部を報道向けに公開した。これは本来、株主・投資家向けに開催しているもので、通常公開はしないが、事業の社会的なインパクトを考慮し、経営の透明性を強化するため、公開することを決めたという。
事業報告会では、同社の様々な取り組みが紹介されたのだが、ここではスペースプレーンの開発状況を中心に、その内容をまとめたい。
有翼式宇宙船というと、米国のスペースシャトルが代表的だが、同社の機体が大きく異なるのは、サブオービタル飛行であることだ。地球周回より打ち上げに必要なエネルギーが格段に少なく、固体ロケットブースタや外部燃料タンクなど、スペースシャトルのような複雑なシステムは必要ない。単体で上がり、単体で帰還する。
宇宙空間にタッチしてすぐ地球に戻るようなものだが、微小重力環境を利用した実験、高高度での科学観測、広告やエンターテインメント、有人宇宙旅行など、様々な用途が考えられる。再使用可能な機体として開発が進められており、有翼式のため、飛行機のように滑走路に帰還することができる。
同社の現在の計画では、2025年に科学実験を行う「FuJin」(風神)、2027年に小型衛星の軌道投入を行う「RaiJin」(雷神)、2030年に有人宇宙旅行を行う「NagaTomo」(長友)と、機体を大型化していく予定。当面は同一地点からの離着陸となるが、将来的には、地上の2つの地点間を結ぶP2P輸送も視野に入れる。
同社のスペースプレーンの特徴の1つは、LNGを燃料とするエンジンを搭載することだ。LNGは現在、ロケットの新しい燃料として注目されており、SpaceXの「StarShip」、Blue Originの「New Glenn」などでも採用が決まっている。性能はケロシンと同等だが、ススが出ないので、再使用エンジンには最適とされる。
SPACE WALKERには、様々な企業が協力している。このLNGのエンジンは、IHIが担当。ベースとなるのは、「GX」ロケットの第2段エンジンとして開発された「LE-8」の技術だ。GXロケットは開発中止となり、LE-8は1回も打ち上げられることはなかったものの、IHIはその後も研究開発を続けてきた。
GXロケットは使い捨て型だったため、エンジンの燃焼室はアブレータ冷却方式を採用していたものの、SPACE WALKERのスペースプレーンは再使用が前提のため、再生冷却方式に変更している。ただ、日本にはまだ、実用化された再使用エンジンはなく、ノウハウが十分あるとは言い難い。
ゲストとして登壇したIHIの志佐陽氏(航空・宇宙・防衛事業領域 宇宙開発事業推進部 事業企画グループ長)は、「どういう状態なら再使用できるのか、飛ぶ前の安全性の評価が難しい」と指摘。「十分な安全率を持つだけでなく、故障予知などにも取り組んでいくことが必要ではないか」という考え方を示した。
エンジンの開発は、ロケットにおいて、最も難易度が高い技術の1つだ。ロケット開発の遅れや失敗に直結しやすく、それだけ注目する必要がある。同社が開発中のLNGエンジンは、まだ数分間の燃焼試験しかやっておらず、「再使用といえるほどの繰り返しはできていないので、これから確認していきたい」とした。
なお、燃料となるLNGの調達は、エア・ウォーターが担当する。面白いのは、家畜の糞尿より取り出したバイオガスから液化バイオメタン(LBM)を製造し、それをロケットで使おうとしていることだ。同社はLBMの地産地消型サプライチェーンを構築しようとしており、北海道・十勝地方で実証事業を行ってきた。
SPACE WALKERは、大樹町の北海道スペースポート(HOSPO)を射場として利用する計画だ。大樹町のある十勝地方は、人間よりも牛の方が多いほど。北海道には、年間30万トンのLBMを製造できるポテンシャルがあるそうで、これは、道内の工業用LNGの消費量の半分程度に相当するという。
HOSPOでは、インターステラテクノロジズの超小型衛星用ロケット「ZERO」もLNGエンジンを搭載することになっている。エア・ウォーターの高橋宏史氏(北海道地域連携室リーダー)は、「LBMのロケットが日常的に上がって、それを温泉に入りながら眺められる日が訪れることを願っている」と、期待を述べた。
スペースプレーンの最初の実用機となるFuJinは現在、基本設計のフェーズ。2022年にも完了し、次は詳細設計へ移行する予定だ。100kgのペイロードを搭載し、垂直に離陸。高度120kmまで到達してから、滑走路に水平着陸する。機体は、年間50回の打ち上げを想定し、設計寿命は20年。エンジンは100回以上の使用が目標だ。
このFuJinであるが、基本設計の段階で、形状と規模が大きく変わった。2年前の「モデルB」は、全長10.0m、重量8.7トン、エンジンは推力20kNが6基という構成だったのに対し、最新の「モデルX-5」では、全長13.4m、重量18.6トン、エンジンは77kNが3基と、かなり大きくなった。
FuJinに先立ち、2024年には、サブスケールの実証機である「WIRES」15号機を打ち上げる予定だ。同機は、全長4.6m、重量1トンで、初めてLNGエンジンを搭載、飛行時の性能を確認する。機体構造は複合材製。アビオニクスも通信系も、FuJinを想定したものが搭載されるという。
15号機は当初、13号機とともに米国での打ち上げ試験を計画していたが、13号機にエンジンを提供する予定だった南カリフォルニア大学が地上燃焼試験に失敗。これで13号機の打ち上げは中止となり、15号機を打ち上げるためには新たな提携先を探す必要があったが、結局米国内では見つからず、米国外で探すことになった。
そして、ドイツ航空宇宙センター(DLR)との協力により、スウェーデンのエスレンジ実験場で飛行実証できることが決まった。米国から欧州への変更により、設計の一部も変更する必要が生じたほか、このコロナ禍の影響などもあり、打ち上げが大幅に遅れたそうだ。2023年には、北海道でヘリコプターを使った予備実験も行う予定とのこと。
SPACE WALKERは、再使用型でクリーン燃料のロケットを「エコロケット」と定義する。この2つの要件を満たすロケットは世界でも限られ、同社のスペースプレーンはその1つだ。再使用型なので、海洋には何も投棄しない。特に同社はLBMまで活用するなど、カーボンニュートラルへの取り組みは先進的といえる。
有翼式なので、広い範囲を飛行する能力があり、帰還時の燃料も節約できる。また自律航行システムを搭載するため、パイロットの育成コストが不要という特徴もある。同社代表取締役CEOの眞鍋顕秀氏は、「エコといえばエコロジーのイメージだが、エコノミーも重要。環境にも経済にも優しいロケットと考えている」とアピールする。
眞鍋氏は最後に、大航海時代→産業革命→ゴールドラッシュという過去の流れを振り返り、「歴史に学ぶべきところは多い」と指摘。「いま思えば、産業革命での蒸気機関の発達が、化石燃料が中心となった最初のきっかけだった。今の宇宙開発が大航海時代の入口に相当すると考えると、今後、同じように産業革命とゴールドラッシュが来る」と見る。
「脱炭素化の問題を、この二の舞にしてはいけない。宇宙の大航海時代をスタートするにあたっては、今後の持続可能性を考えながら、モビリティ革命を起こしていく必要がある。世界全体のロケットの状況を見ても、これは急務であると考えている」と述べ、SPACE WALKERへの支援を改めて訴えた。
- Original:https://jp.techcrunch.com/2021/10/04/space-walker-space-plane-2024/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:Minoru Otsuka
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