ベース車よりも大きなロードクリアランスを確保し、SUVのようなルックスをまとう「ノートAUTECH(オーテック)クロスオーバー」は、日産自動車の人気コンパクトカー「ノート」の派生モデルだ。
コンパクトカーとSUVのクロスオーバーにより、適度な悪路走破性アップと実用性の向上を実現。SUVがトレンドの今、おしゃれやファッション重視で気軽に乗れるモデルとして、その“ちょうど良さ”が人気を呼びそうだ。
■世はまさにクロスオーバー全盛時代
「互いの境界線を越えて交じり合う」とか「異なる分野の物事を組み合わせて新しいものを作り出す」といった意味を持つ“クロスオーバー”という言葉。そんなワードがクルマ用語として使われる時はだいたい意味が決まっている。クロスオーバーSUVとして“SUVと何かを掛け合わせたクルマ”を指すことがほとんどだ。
クロスオーバーSUVとはそもそも、乗用車とSUVを掛け合わせたモデルであり、乗用車感覚で乗れるSUVのことを指す。だから、優れた悪路走破性を誇るフレーム構造の本格オフローダーではなく、モノコックボディなど乗用車ベースのメカニズムに由来する多くのSUVはクロスオーバーSUVに当てはまるといっていい。
逆に、乗用車でありながらSUVっぽく仕立てられた車種もクロスオーバーSUVに含まれる。例えば、ステーションワゴンとのクロスオーバーSUVといえばスバル「アウトバック」が代表格。それ以外にも、ボルボの「クロスカントリー」シリーズやアウディの「オールロードクワトロ」、メルセデス・ベンツ「オールテレーン」といった欧州車を中心に、ステーションワゴンのクロスオーバーSUVは一定の人気がある。
また、「デリカD:5」のようにミニバンがベースのクロスオーバーSUVも存在する。車高をリフトアップするとともに大径タイヤを組み合わせ、一般的なミニバンとは一線を画す悪路走破性を実現した。ミニバンのクロスオーバーSUVは日本だけの存在と思いきや、ゼネラルモーターズが南米市場で発売しているシボレー「スピン・アクティブ」のように、海外でも存在が確認されている。クロスオーバーSUVとしてはライトな仕立てだが、ホンダの「フリードCROSSTAR(クロスター)」もその仲間といっていいだろう。
そんな中、今、世界的に見て最も勢いがあるのが、コンパクトカーをベースとしたクロスオーバーSUV。小さなところではトヨタの「ヤリス クロス」などが、もう少しボディサイズの大きいクラスでは「カローラ クロス」などがそれに当たる。ちなみにこの2台は、そもそも車名に“クロス”と付けるなど、ネーミングからもクロスオーバーSUVであることを主張している。
■なぜリフトアップ量は25mmだったのか?
今回紹介するノートAUTECH クロスオーバーも、そんなコンパクトカーをベースとするクロスオーバーSUVだ。人気コンパクトカーである日産のノートをベースに、オフロードを意識したルックスをまとう。
ただし、ヤリス クロスやカローラ クロスと異なるのは、専用ボディを採用していないところ。ボディそのものはノートと共通で、あくまでその派生モデルといった位置づけだ。作り方はホンダの「フィットCROSSTAR」やトヨタがかつて販売していた「アクア クロスオーバー」と同じ手法で、いずれもベースモデルと同じ車体ながらSUVらしく車高をアップさせている。
それらに共通するのは、クロスオーバーSUVとはいっても悪路をガンガン走ろうなんていう仕立てではさらさらなく、どちらかといえば遊び心とかファッションとしてSUVライクに仕立てていること。あくまで「ちょっと楽しそう」とか「ちょっと個性的」というのが狙いである。
スタイリングにおけるノートとの識別点は、後述するAUTECH仕様としての差別化を除けば、大径タイヤを組み合わせることで25mmアップした車高と、ホイールアーチガーニッシュ(タイヤ周辺の樹脂パーツ)、サイドシルプロテクター(ドア下の樹脂パーツ)、ルーフモール(ルーフの左右に付く黒い樹脂パーツ)など、案外少ない。
メカニズム面を見ると、車高アップのために専用サスペンション(スプリング&ショックアブソーバー)が採用され、それに合わせてパワーステアリングのチューニングも専用となっている。
ところで、ノートAUTECH クロスオーバーの25mmというリフトアップ量はいかにして決まったのだろう? 中には「もっと上げた方がいい」という人がいるかもしれないし、悪路での走行を考えればもう少し高い方がいいのも事実。しかし、この25mmという数値には大きな理由があった。それは機械式立体駐車場への対応だ。
ノートAUTECH クロスオーバーの全高は1545mmで、これはSUVやミニバンに対応していない一般的な機械式立体駐車場の制限である全高1555mmよりも低い数値。ノートAUTECH クロスオーバーは都市部のユーザーもターゲットにしているから、駐車場の選択肢を広げるパッケージングを採用しているのだ。
とはいえ、25mmの車高アップはそのままロードクリアランス(車体の底面と路面のすき間)の拡大につながるから、わずかの違いとはいえ雪道や悪路では普通のノートに比べて走破性が高まっているのは間違いない。路面の凹凸や雪道でのわだち、除雪して路肩に積み上げられた雪で車体前後やお腹を擦る恐れは明らかに減るだろう。
そしてもうひとつ、使い勝手の面においてもうれしいポイントがある。それは、普通のノートに比べて着座位置が高くなっていること。これにより乗り降りしやすくなったこともノートAUTECH クロスオーバーのメリットといえる。
■上質さもクロスオーバーさせた新感覚モデル
ノートAUTECH クロスオーバーは、普通のノートと同じ感覚でドライブできる点も魅力だ。パワートレーンは日産自動車が“e-POWER”と呼ぶシリーズハイブリッドで、エンジンは発電機に徹し、その電力で回したモーターで駆動力を生み出すタイプ。まるで電気自動車のような、モーター駆動車ならではの爽快な加速が心地いい。
ドライバーのアクセル操作に対して鋭く、そして濁りなく伸びやかに加速していくフィーリングは、一度味わうと普通のエンジン車には戻れない魅力を備えている。またサスペンションも、リフトアップによるネガを感じさせず、自然なロール感で曲がっていくなど、全体的に好印象。
ちなみに駆動方式は2WDと4WDから選べ、後者はリアタイヤもモーターで駆動する。
そんなノートAUTECH クロスオーバーでもうひとつ注目すべき点は、内外装の仕立てが普通のノートとは異なり、AUTECH仕様になっていること。AUTECHとは特装車などを手掛ける日産直系の関連会社・オーテックジャパンが手掛けるブランドで、標準車よりも上質な仕立てをウリとする。
エクステリアは、フロントグリルやバンパーに埋め込んだ青いLEDシグネチャーランプ、専用デザインのアルミホイール、シルバーのドアミラー、そして、ボディカラーのオーロラフレアブルーパールがAUTECH仕様専用となっている。
インテリアは、クロコダイルレザーのようなシボが入った本革調のシート表皮を始め、インパネに添えられたダークウッド調のデコレーションパネル、そしてシートやハンドルなどに入れられたブルーのステッチがAUTECH専用のコーディネートとなる。
コンパクトなクロスオーバーSUVといえば、アクティブやカジュアルな雰囲気に仕立てられるのが一般的。しかし、ノートAUTECH クロスオーバーは、ベース車よりもむしろ上質に仕立てられている。コンパクトとSUVのクロスオーバーにとどまらず、上質さもクロスオーバーさせた新感覚モデルといえそうだ。
<SPECIFICATIONS>
☆AUTECHクロスオーバー(2WD)
ボディサイズ:L4045×W1700×H1545mm
車重:1240kg
駆動方式:FWD
エンジン:1198cc 直列3気筒 DOHC
エンジン最高出力:82馬力/6000回転
エンジン最大トルク:10.5kgf-m/4800回転
モーター最高出力:116馬力/2900〜1万341回転
モーター最大トルク:28.6kgf-m/0〜2900回転
価格:253万7700円
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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- Original:https://www.goodspress.jp/reports/427475/
- Source:&GP
- Author:&GP
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