知名度のあるインフルエンサーを介して企業・ブランドの商品やサービスについての情報を発信する「インフルエンサーマーケティング」が定着して、かなりの年月が経過しました。
しかし、ここにきてインフルエンサーマーケティングは「ただ単純にインフルエンサーに商品・サービスを紹介してもらう」だけでは結果が得られなくなってきているといいます。
そこで今回は、マーケティング支援を行う広告代理店である株式会社デジタリフトのコンサルティングチームリーダー青木駿汰氏に、インフルエンサーマーケティング業界の課題と打開策についてご寄稿いただきました。
これまで「オフライン広告的な運用」が多かったインフルエンサーマーケ
インフルエンサーマーケティング。この手法が出てきてからかなりの年月が経っている。最初に出てきたのはAbemaブログであろうか。現在ではSNSが多様化していることで、さまざまな媒体やジャンルで多くの種類のインフルエンサーが登場している。
新しい手法というのは往々にして成果が出しやすいものだ。競合相手が少なく、ユーザーが慣れていないため影響されやすいためである。その導入期ではある程度簡単に成果を出すことができる。
これまでのインフルエンサーマーケティングも、きちんと商材とマッチしたインフルエンサーをキャスティングして、まともな企画さえできればある程度結果を残すことができた。
ただインフルエンサーマーケティングはもはや、結果を残すのが簡単な手法ではなくなっている。
「相性の良いインフルエンサーに自分の商品を紹介してもらう」という考え方では、いわば看板広告と変わらない。「富裕層に訴求したいから広尾の駅に看板を出しましょう」という話とあまり変わらないのだ。
インフルエンサーマーケティングはデジタルの領域でありながら、いわばオフライン広告的な運用で動いていたといえる。
そこで今回は、Web広告代理店として広告運用に携わってきた目線から、インフルエンサーマーケティングにおける課題とその打開策についてお話しできればと思う。
インフルエンサーマーケの3つの大きな変化
インフルエンサーマーケティングは看板広告型から運用型にシフトしようとしている。そのシフトを巻き起こした3つの大きな変化についてまず整理する。
インフルエンサーマーケティングをより難しくしていると考えられるのは、下記3つの変化である。
①メディア行動の変化
現状の主流の4代SNSというと、YouTube・TikTok・Instagram・Twitterがあげられる。それぞれのSNSの特徴について「拡散性」「訴求力の強さ」「ターゲット層」の3つの観点で考えていきたい。
【YouTube】
拡散性は弱いが訴求力は圧倒的に強いSNS。長尺横型動画が中心になるので、商品の魅力をしっかり伝えることができる。またターゲット層の幅広さはほかのSNSを圧倒しており、若年層からビジネス層まで幅広い年代を捉えることが可能だ。
ただYouTubeの表示のアルゴリズムの変更により、これまではチャンネル登録者に対しては必ずタイムラインに動画があがっていたものの、最近では初速の動画のエンゲージメントが低いとタイムラインに表示されないようになった。
そのため、広告色の強い動画だと視聴すらされなくなっている。つまり、企画力やインフルエンサーとの連携力が重要となるのだ。
【TikTok】
拡散性が強く、訴求力はYouTubeには劣るが購買させるだけの十分な訴求力はあると考えている。企画力のあるインフルエンサーが多く、まだ相場の金額があがっていないため、今のところ、きちんとプランニングすれば費用対効果を高めやすいSNSだといえるだろう。
またアメリカではすでに「YouTubeよりもTikTokのほうが視聴時間が長い」というデータがあり、今後まだまだ伸びるメディアだと考えることもできる(参考リンク)。
ただ、課題はターゲット層である。ショート動画のプラットフォームはどうしても文字で情報を受け取ることが難しく、なおかつ長尺動画を見るだけの集中力がないユーザーが多いため、LTV(Life Time Value:顧客が企業にもたらす利益の総額)が低くなってしまうことが多い。
それを加味して安い単価でCV(conversion:商品の購入・ダウンロードなど、企業の利益に繋がるユーザーの行動)を獲得する必要がある。ユーザーの質が重要となるクレジットカードといった案件では非常に相性が悪いといえる。
【Instagram】
拡散力も弱ければ訴求力も弱いというのが正直なところだ。その一方で、ターゲット層は魅力的だ。インフルエンサーのファンに対して訴求したいという場合であれば、有効な施策になりうる。
ただ、フィード面全体でInstagramのエンゲージメントが下がっているという課題もある。
フィードのエンゲージメント(イイネやコメント数 / 表示回数)は平均5.2%ほどから2.3%ほどにまで下がっている(参考リンク)。現状、フィード面よりもストーリーズ面やReel面のほうが多く見られるSNSになってきている。
このようにフィード面の訴求力はかなり弱くなっているため、そのフィード1投稿のために何十万も払っているようでは費用対効果を高めるのは難しい。
ここで重要となるのが「Instagramはあくまで友達に紹介するメディアである」という点を理解することだ。
お金を払ってフィードに投稿してもらうのではなく、広告主が直接Instagram上で発信し、それを見たユーザーが、その友達へ共有するという動きこそが、費用対効果を高める上ではもっとも良い動きかもしれない。
【Twitter】
拡散力は強いものの、訴求力が弱いメディアである。ターゲット層は高年齢層が多いほか、文字が中心のメディアであるため、ビジネス層といったハイキャリア層にもある程度リーチが見込める点が強みだ。
ただ1投稿の訴求力が弱すぎるため、1投稿だけに何十万を費やすのでは明らかに効率が悪い。広告施策と組み合わせるといった工夫が必要なメディアになってくるだろう。今のところ、優先順位としては低い施策となっている。
②インフルエンサー多重下請け構造
インフルエンサーの数そのものが爆発的に増えたことによって、インフルエンサーキャスティング会社も増えてきている。これにより、インフルエンサー業界の多重下請け構造問題が浮上している。
多重下請け構造で引き起こされる問題は、主に以下の2つだ。
何重ものフィーが乗せられている問題
もし広告主(もしくは代理店から)から依頼があった場合、キャスティング会社は基本的に自社で囲っている原価が安いインフルエンサーからキャスティングを提案する傾向にある。
ただもし、自社のインフルエンサーのリストに広告主とマッチする人材がいない場合は、ほかの会社にキャスティングを再依頼して、自社のフィーを乗せることが多い。
このような商習慣により、1人のインフルエンサーをキャスティングするのに何社も間に入ってしまっていることがほとんどだ。
そのため、インフルエンサーには例えばフォロワー単価0.8円で依頼しているのに対して、キャスティング会社からはフォロワー単価2.5円で提示されるようなことも珍しくない。
誰が本当に良いインフルエンサーなのかわからない問題
インフルエンサーの良し悪しはSNSの表面上の数字をみるだけでは判断できない。フォロワーの数やエンゲージメントの数と広告効果が出るかどうがは別問題だからだ。
例えば、化粧品をプロモーションしたいのに男性ファンが多い女性インフルエンサーを起用しても効果が薄い。ただ、男性ファンのエンゲージメントがあるので表面上の数字は良いようにみえるパターンは多い。
また知名度と好感度は違う。「この人がおすすめするなら私も買ってみようかな?」と思ってくれる人、すなわちユーザーから信頼されている人が誰なのかを見極める必要がある。
信頼できないインフルエンサーに依頼してしまうと、最悪の場合、ブランド毀損や薬事法違反になる恐れがあるため、インフルエンサーの選別は慎重に行う必要がある。
③薬事法・景品表示法の複雑さ
広告に関する法律は毎年アップデートされている。それを理解しているプロとともに施策実行しないと、炎上するリスクや法律違反で業務停止命令が下されるような可能性も十分ありうる。
「インフルエンサーが勝手にやったから私たちは知りません」という論理では、広告主も責任を免れることができない判例も現れてきている。単なるキャスティング会社だけではなく“広告のプロ”とともに仕事することが必要になってくる。
インフルエンサーマーケで結果を出すために不可欠な2つのこと
インフルエンサーマーケティングで結果を残すために不可欠なことは、「マーケティング施策全体の理解」「直列ではなく、並列で強固なコネクション」だと考えている。それぞれについて、詳しく解説していこう。
①マーケティング施策全体の理解
インフルエンサーマーケティング1つとっても、非常に広範囲かつ、各領域の理解の深さも求められる手法となってきている。
インフルエンサーをただキャスティングする「駅の看板的アプローチ」で結果を出せていた時代はおわり、運用型広告のように「戦略設計」「素早い実行」「細やかな分析」「改善のサイクル」を着実に回せるようなパートナーと共に実施することが求められている。
いわば運用型インフルエンサーマーケティングの時代がきているといえるのだ。
インフルエンサーマーケティングは計測面で課題があるといわれることが多いが、そんなことはない。専用リンクやGA(Google Analytics)を活用することで十分改善に向けてのデータを収集することは可能である。
またインフルエンサーと広告施策を組み合わせる取り組みも有効的である場合が多い。TikTokのSparkAds(TikTokに投稿したコンテンツを広告素材として投稿できる広告フォーマット)のように、インフルエンサーの投稿を広告として拡散するという施策の実績はかなり増えてきている。
そのほか、Instagramの縦型面(ストーリーズやReel)に広告を配信する際に、インフルエンサーコンテンツを活用するのも有効だ。
②直列ではなく、並列で強固なコネクション
インフルエンサーおよびキャスティング会社と直接繋がっている数そのものも重要である。弊社も絶大な信頼をよせているキャスティング会社との繋がりはもちろんあるが、それでも常に複数社から話を聞くようにしている。
複数社から話を聞くことで「弊社として価値のある提案」ができるようになり、それによって弊社のインフルエンサー提案の機会が増え、パートナーのキャスティング会社にも還元できると考えているからだ。
多くの代理店であると、同時に何社も声をかけるのは煩雑であるので 避けるところも多い。
直接連絡が取れる会社が何社あるか、もっというと“関係値のある会社が何社あるのか”ということがインフルエンサーマーケティングで効果を得る上でかなり大きな変数となっている。
これからは「運用型のアプローチ」が重要
インフルエンサーマーケティングでは従来のような看板型のアプローチではなく、運用型のアプローチをしなくてはならない時代になってきている。
戦略設計から効果検証まで合本的に取り組んでいかないとインフルエンサーマーケティングで結果を残すことは難しい。
本記事で解説した「マーケティング施策全体の理解」「直列ではなく、並列で強固なコネクション」などの対策を参考に、インフルエンサーマーケティングにおける課題を打開してほしい。
<著者プロフィール>
青木駿汰
株式会社デジタリフト・コンサルティングチームリーダー1995年生まれ。株式会社デジタリフトで営業と経営企画を兼任。マーケターとして最前線に立ちながら、経営企画として会社拡大に向けあらゆる業務を行う。主に広告運用分野とLP・クリエイティブ作成に専門分野をもちながら、マーケティングコミュニケーション設計の全体から設計している。
経歴としては、京都大学法学部卒業後、ソニーグループのWebメディア会社に新卒入社。子会社の立ち上げメンバーに抜擢され、6ヶ月で単月黒字化を達成。その後外資系マーケティングコンサル会社Media.Monksに転職し営業を担う。Media.Monksでは日本支社6人から20人まで会社を拡大。2022年6月から現職。横浜市出身。学生時代はアメフト漬けの日々。
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- Source:Techable(テッカブル) -海外・国内のネットベンチャー系ニュースサイト
- Author:はるか礒部
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