【PRODUCT HISTORY #003】
日本のPCメーカーと言ったときに、真っ先に「VAIO(バイオ)」を思い浮かべる方も、少なくないのではないでしょうか。
VAIOは元々、1996年にソニーのグローバルPCブランドとして誕生し、2014年にVAIO株式会社として独立したのちもブランドを維持。2023年には誕生から26年目を迎え、今なお先進的なPC製品を展開しています。
今回は、そんなVAIOシリーズの歴史を詳しく振り返るべく、VAIO株式会社に取材。開発本部にてシリーズを統括する黒崎氏と巢山氏に、シリーズの歴史について伺いました。歴代製品のなかから特徴的な機種をピックアップしつつ、同ブランドの変遷を追っていきましょう。
▲VAIO株式会社 開発本部 プロダクトセンター センター長 黒崎大輔(くろさきだいすけ)氏。ソニー時代には十数年ほど、ソフトウェアエンジニアとして従事。現在はPCの全商品について、企画関連の仕事を統括する立場にある
▲VAIO株式会社 開発本部 テクノロジーセンター 副センター長 兼 プロジェクトマネジメント部部長 巢山剛志(すやまつよし)氏。ソニー時代からハードウェアの設計一筋で、初めて製品設計に携わったのがコンポの「Pixy Liberty」シリーズから。VAIOシリーズの設計については、ノートPCの初号機である「PCG707/705」のドッキングステーションから携わってきた。現在は、VAIOのハードウェア部門を統括する
【1997年】銀パソブームを生んだ国内向けPC「VAIO NOTE 505」
市場にノートPCが登場しだしたのは、1980年代半ばのこと。それを思えば、1990年代後半に発売されたVAIOは比較的後発のブランド。当時のソニーとしては、PC市場に数年ぶりの再参入するための勝負所でした。
まず1996年に「PCV-90」という機種がアメリカで先行発売され、翌1997年には日本市場向けにノートPC「VAIO NOTE(PCG-707/PCG-505)」を発売。少し遅れてタワー型デスクトップPC「バイオ ミニタワー(PCV-T700MR)」も発売されました。
なかでも、この時に登場したB5サイズの「VAIO NOTE(PCG-505)」は大ヒットに。ノートPCのボディ全体にマグネシウム合金を世界で初めて採用した機種でもあり、日本における後の「銀パソ」ブームを生むきっかけとなりました。
▲1997年に発売された「VAIO NOTE 505(PCG-505)」。天板には大きく「VAIO」のロゴが刻まれているが、PCを開いた時に他の人に見せるような配置も、当時としてはユニークだった
▲「VAIO NOTE 505(PCG-505)」
▲「VAIO NOTE 505(PCG-505)」では、丸型セルのスペアバッテリーパックが、チルトアップヒンジを兼ねていた。また、赤外線通信を使って、カメラからのコードレスデータ転送なども行えた
そもそも「VAIO」というブランド名は、「Video Audio Integrated Operation」の頭文字を取って命名されたもの。当時としては珍しい、“個人のクリエイティブな用途”を狙った機材というコンセプトも特徴的でした。
「ブランド立ち上げの当時は、私たちもまだ若く、企画の部分に深く絡んでいたわけではないので正確にはわかりませんが、当時の時代背景としては、ちょうどOSがWindows 3.xから95になるというタイミングでした。これを踏まえて、個人がPCを使って動画編集をしたり、オーディオを楽しんだりするような需要を、方向性として見込んでいたのだと思います。実際、当時のPCは、WordやPowerPointなどのOfficeソフトをプリインストールして販売されることが主流でしたが、VAIOは発売してからしばらくの間、Officeを搭載しておらず、エンターテインメント関連機能を充実させていました」(巢山氏)
▲同じく1997年に発売されたVAIOシリーズの国内向け最初のタワー型デスクトップPC「バイオ ミニタワー(PCV-T700MR)」。トリニトロンブラウン管のモニターとセットだった。ステレオスピーカーやウーファーが備えられていたり、動画編集ソフト「Slipclip」がバンドルされていたり、とエンターテインメント用途に注力した一台だった(画像出典:VAIO「VAIO日本発売25周年特設サイト」)
なお、初期のVAIOシリーズでは、淡い紫色のカラーが象徴的です。例えば「バイオ ミニタワー(PCV-T700MR)」を見てみると、本体もモニターも同系色で整えられているのがわかります。こうしたデザイン面の要素は、シリーズのアイデンティティとして、いまなお受け継がれているとのこと。
「ソニー時代から、やはり製品のデザインには、ずっとこだわってきています。例えば、『VAIO』のロゴって、実は当初からずっと変わっていないんですよ。このロゴは、PlayStation®のデザインなども手がけたスターデザイナー後藤禎祐(ごとうていゆう)さんがデザインしたものなんです」(黒崎氏)
【1998年】CCDカメラが付いた「VAIO C1」
翌年の1998年に発売されたミニノート「VAIO C1(PCG-C1)」も、VAIOの歴史を語るうえで外せない一台でしょう。同機は、(1)コンパクトな筐体、と(2)内蔵したCCDカメラの2点でユニークでした。
「キーボードのサイズは、人間の手のサイズに左右されるわけですので、自動的に使いやすい限界というのは決まります。“じゃあキーボードが入るギリギリのサイズで、PCを創ってみようよ”というのが、設計思想としてありました」(黒崎氏)
「前年に発売された『VAIO NOTE 505(PCG-505)』でも、マグネシウム合金を取り入れていたように、先駆的に素材にこだわってきたこともVAIOの伝統だと思います。マグネシウム合金というのは、今でこそ多くの機種で採用されていますが、当時はPC筐体のような複雑な形状に成型できる素材ではありませんでしたからね。デザインに関しては、このマグネシウム合金の筐体を、さらに2色で仕上げるというのが、『VAIO C1』でのチャレンジでした。これがスプレーで塗るとか簡単な工程ではなくて、焼き付けが必要で難しかったのです」(巢山氏)
▲1998年に発売された「VAIO C1(PCG-C1)」
▲「VAIO C1(PCG-C1)」のキーボードは、約17mmピッチで、2mmストロークのキーボードを採用。スクロール機能にも対応したスティック型ポインティング・デバイスも備えた
▲「VAIO C1(PCG-C1)」の厚みは140mm、質量は約1.1kg
また、「VAIO C1」では、「MOTION EYE(モーション・アイ)」というCCDカメラが搭載されたことが大きなトピックでした。CCDカメラとは、イメージセンサーに「Charge Coupled Device(電荷結合素子)」を使ったカメラのことです。
時代背景を考えてみると、カメラを搭載した携帯電話(PHS)が登場したのが1年後の1999年だったので、ノートPCに搭載される方が早かったわけです。
「今でこそノートPCにWebカメラが付いているのは当たり前ですが、当時はカメラがついているPCはほとんどありませんでした」(黒崎氏)
「この2〜3年前に、やっと一般向けに“デジタルカメラ”が登場してきたくらいのタイミングでしたが、CCDの実績のあるソニーのハンディカム部隊の協力も得ることができました」(巢山氏)
▲「VAIO C1(PCG-C1)」が備えたCCDカメラの解像度は27万画素。180°回転する機構を備えていて、背面撮りも自撮りもできた
【2003年】カーボン素材を使った「VAIO NOTE 505 EXTREME」
2000年代に入ると、パソコンの主流はノートPCへと変わっていきました。市場全体の傾向をみると、この頃から、軽さや、堅牢性、起動の速さ、処理性能の高さ、バッテリー持ちの長さなどが改良されていく時期に入ります。
VAIOとしては、2003年に発売された「VAIO NOTE 505 EXTREME(PCG-X505)」に注目。こちらは先述の「VAIO NOTE 505(PCG-505)」を順当に進化させていった製品でありつつ、筐体素材には新たにカーボン素材が使われました。最薄部9.7mm、重量約825gという、スリムかつ軽量なことが特徴でした。
「PCの筐体にカーボンファイバーを使う、なんて誰も考えてなかった時代のチャレンジでしたね。もちろん、レーシングカーなどの素材としては使われていたのですが、当時のカーボンというのは一品一品手作りという状況でした。つまり、PCとして量産体制を整えるのが難しかったのです。結果的に数量限定という形で展開することになりました」(巢山氏)
▲2003年に発売された「VAIO NOTE 505 EXTREME(PCG-X505)」
▲「VAIO NOTE 505 EXTREME(PCG-X505)」は全体的にスリムであり、1kgを下回る軽さも兼ね備えた
VAIOのノートPCといえば、最近でも、開いたときにキーボードの奥側がせり上がり、タイピングしやすいような角度に調整される「無限パームレスト」と呼ばれる構造があります。このデザイン名称も、この「VAIO NOTE 505 EXTREME」から始まったものでした。
【2009年】ポケットに入るサイズの「VAIO type P」
一方、「VAIO C1(PCG-C1)」のようなミニノートの系統を継いだ機種としては、2009年に発売された「VAIO type P」という機種が象徴的です。コンパクトかつ軽量なノートPCというは、それまでにも複数機種が存在していましたが、「VAIO type P」は、まさに「VAIO C1(PCG-C1)」の直系という印象。ジーンズの後ポケットにパソコンを収めているスタイリッシュな広告のビジュアルも、話題になりました。
▲「VAIO type P」。どことなく1998年の「VAIO C1(PCG-C1)」の面影を感じる。当時、キーボードサイズを犠牲にしたコンパクトPCが多かったなかで、「VAIO type P」はキーボードを優先させた機種としてユニークだった
また同機には、当時登場したばかりの低消費電力プロセッサーが使われていました。
「ちなみに、当時の設計担当者からは、グラフィックスの性能が1600×758というドット数をサポートしていなかったと聞いています。そこで、熱意を持ってかなりのハードネゴシエーションをして、チップの開発チームを動かしたことで、なんとかこのサイズを実現したらしいです」(巢山氏)
▲「VAIO type P」では、豊富なカラーバリエーションが展開された
▲カメラの「MOTION EYE」という名称も残っていた
【2010年】ソニー時代の「VAIO Z」
現在のVAIOのラインナップに続くフラッグシップモデルを語るうえで外せないのが、2010年モデルの「VAIO Z」です。
「VAIO Z」シリーズとしては、2003年の「VAIO Z(PCG Z1/P)」、2008年の「VAIO Z(type Z)」なども既にあったため、こちらは第3世代モデルという立ち位置でした。
▲2010年に発売された第3世代「VAIO Z」
▲2010年モデル「VAIO Z」の天面
当時は、デスクトップPCに対するサブとしてのノートPCではなく、ノートPC自体が主役として求められるようになってきた時代。こうした視点で、時代の変化を反映した一台だったとも言えます。
2010年のVAIO Zでは、プロセッサに内蔵されたGPU(iGPU)と、外部のGPU(dGPU)を再起動なしで切り替えられる「ダイナミック・ハイブリッドグラフィックス」機能が新たに採用されたことがポイントでした。
「パフォーマンスを追求したいし、モビリティも追求したい。絶対的なふたつの欲求は、どうしてもぶつかります。これらの両立という課題に真っ向から立ち向かっているのが『VAIO Z』シリーズです。当時のVAIO Zでは、デスクトップPCで使うような大きな電力を必要とするCPUをモバイルPCで使おうとしていましたし、外付けのグラフィックスも搭載していました。さらに、クアッドSSDの4連RAIDという今でもあまりしない構成を採用したくらい、パフォーマンスに振り切っていたモデルだったのです」(黒崎氏)
「当時、iGPUとdGPUの切り替えは、“物理スイッチ”の操作で行う仕組みでした。dGPUを使うと、パフォーマンスが上がるものの、チップがひとつ多く動く分だけ、どうしても電力消費が増えてしまいます。もちろんオートのモードも用意していましたが、ユーザー自身が、作業を早く終わらせたいような場面でパフォーマンス重視で使うか、バッテリーを長持ちさせるかを選べるようにしていました」(巢山氏)
▲「VAIO Z」では、「SPEED」「STAMINA」「AUTO」のスイッチ操作で、パフォーマンスを切り替られた
「一応、iGPU/dGPUの切り替え自体は、2008年モデルの『VAIO Z(type Z)』で既に採用していたものでしたが、2010年モデルでは再起動なしで行えるようになったのです。半導体のベンダーがこうした機能を標準化するより先に、こうした仕組みを取り入れたかったという背景もあって、本当に試行錯誤が繰り返されたモデルでした」(黒崎氏)
【2015年】VAIO株式会社になって最初の「VAIO Z」
それまでに先進的なモデルをいくつもリリースしてきた反面、当時のソニーのPC部門としては赤字が続いていました。こうした背景もあり、2014年には、ソニーからPC部門を切り離すような形でVAIO株式会社が設立されることに——。株式の過半数は、日本産業パートナーズ(JIP)が保有する形となりました。
こうした経営体制の変化に伴って、ソニー時代には1000人を超える規模だった社員は、新会社では240人ほどの規模へと縮小します。設立当初のVAIOは、ハイパフォーマンスなモバイルノートPCを中心としたノートPCの開発に注力するよう、舵を切っていくことになりました。
「当時、『VAIO』は既にグローバルで知られるブランドになっていました。そのブランドの行く末を、小さなチームで決めていくとなったことで、ワクワクもしましたし、より一人ひとりに責任が課された気がしましたね。それに伴ってチームの連帯感も高まっていたと思います」(黒崎氏)
「ソニーの頃は、VAIOに関わる人数もリリースされる商品数もとても多かったので、言ってしまえば社員なのに“知らないうちに世に出ていく商品”というのもありました。しかし、VAIO株式会社として独立してからは、そういう商品はありません。また、日本市場に出す製品については、長野県の安曇野にある工場で最終チェックを行う“安曇野FINISH”と呼ぶ検査工程も確立しまして、もう一度信頼を立て直そうとしていました」(巢山氏)
そんな新生VAIO最初の製品となったのが、2015年に発売された「VAIO Z」でした。
▲2015年に発売された「VAIO Z」
▲2015年モデルの「VAIO Z」は「フリップ機構」が搭載された
▲フラグシップモデルでありながら2 in 1型でペンを使えるため、クリエイティブな作業をカバーしやすかった
「このとき『VAIO Z』をイチから作り直しました。“PCは生産的な作業に使うものであり、使う人をエンハンスするようなものにしていきたい”と定めたのです。これには、スマートフォンやタブレットが市場に出てきたことで、メディアを消費するデバイスがPCではなくなったという時代背景が大きく影響していました。PCの価値としては、何かを生み出すところにフォーカスしようと考えていました。ちなみに、2 in 1タブレットのスタイルでペンを使えるという“フリップ機構”自体は、ソニー時代の最後に、別のモデルで研究していたものでした」(黒崎氏)
【2015年】法人向けでヒットした「VAIO Pro 13|mk2」
現在のVAIOのラインナップに至る道筋を知るうえでは、2015年に、法人向けとして「VAIO Pro 13|mk2(マーク2)」というノートPCが発売されていたことも、見逃せないトピックです。
ノートPCでの生産性を追求するうえで、コンシューマー市場だけではなく、法人ビジネスも視野に入ってきた——と黒崎氏は説明します。
▲2015年に法人向けに発売された「VAIO Pro 13|mk2」
▲「VAIO Pro 13|mk2」では、普及価格帯でありながら、フラグシップに採用されているキーボードと同じキーボードが搭載された
「法人市場というのは、やはり独特なものです。ただ単に使いやすいだけではだめで、組織のなかで大量に配布してもらい、いろいろなニーズをカバーしつつ、管理もしやすいという必要性があります。もちろん、法人ビジネス自体はソニー時代にもやってきていましたが、VAIO株式会社になってからこういった部分にもう一度真剣に向き合って作ったのが『VAIO Pro 13|mk2』でした。実際、当時売れたノートPCの台数の7〜8割が本機種だったくらいよく売れました」(黒崎氏)
2014年7月のVAIO設立時には、ソニー時代から引き継いだ「VAIO Pro 13」が販売されていました。一方で、その後継となる「VAIO Pro 13|mk2」は、法人向けを強く意識して新体制で開発したノートPC第一号でした。
「『VAIO Pro 13|mk2』に関しては、初期検討用のモックを法人営業との懇親会に持ち込んで、仕様について議論しました。通常ではあり得ないくらいのフライングなタイミングです。そのくらいの意気込みで、一気に法人向けへと舵を切っていきました。設計については、法人向けということで、5年使っていただいてもへこたれない信頼性が必要でしたが、一方で、もっと軽くしたいという葛藤もありました。価格もフラッグシップより下げて普及価格帯に納めなくてはなりません。開発チームとして、こうした部分をかなり議論して、なんとか乗り越えてきたことで、現在のラインナップにも通じる信頼性を確保できた。そういう契機になった機種でしたね」(巢山氏)
▲充実させたインターフェースも特徴。右側面には、VGA端子に加え、有線LANや、HDMI、USB、3.5mmイヤホンジャックなど
▲左側面には、電源ポートとUSB x 2基など
【2017年】コンパクトにブラッシュアップした「VAIO S11」
法人向けモデルで培ったノウハウは、その後、メインストリームである「S」シリーズとして、コンシューマー向けにブラッシュアップされていきます。「VAIO S11」や「VAIO S13」などが該当するモデルです。ここでは、象徴的な変化があった機種として、2017年に発売された第2世代モデルの「VAIO S11」にフォーカスしてみます。
▲2017年モデルの「VAIO S11」
▲「VAIO S11」は、11型でありながら、VGA端子などを備えた。チューニングや熱対策などにより、CPUのパフォーマンスを持続的に維持する「VAIO True Performance」という独自技術が採用されたのもこの機種からだった
▲キーボード面には「フラットアルミパームレスト」と呼ばれる一枚板構造のパームレストが採用された
「キーボード面を一枚板にするには、バリエーションの数だけ部材を作らなければいけないので、コストがかかります。だからこそ、今でも多くのPCでは、キーボードの周りはパーツを組み合わせていますよね。一方で、ここを一枚板のアルミでこだわれば、見た目は洗練されますし、剛性を強くできるのです。この部分の剛性が高まることで、キーボードの“たわみ”が低減されて、打鍵感も良くなります。表面がアルマイトによる色付けで、塗装被膜があるわけではないため、使い込んでも色が剥げないというメリットもあります」(黒崎氏)
「プロダクトデザイン的な視点では、無駄な線がなく、一つひとつの線に意味を持たせることが大切です。余計な線というのは、デザイナーからすると“ノイズ”として嫌われる要素ですから。また、剛性が高まることで、液晶や基板にかかるストレスも低減されるので、製品の長期信頼性を上げることに繋がります。だからこそ開発としては一枚板のアルミにこだわりたかったのです」(巢山氏)
【2021年】全面カーボンになった「VAIO Z」
ここ数年でエポックメイキングだった機種としては、“立体成型のフルカーボンボディ”を世界で初めて実現した2021年のフラグシップモデル「VAIO Z」が外せません。
▲2021年に発売された「VAIO Z」は、立体成型のフルカーボンボディが特徴だ
▲2021年モデルの「VAIO Z」
「このモデルでは、カーボンを鋭角に曲げるという大変難しい技術を多用しました。カーボン素材は板材としても強いですが、それを立体成型することで、さらに強度を高められるのです。しかも薄くて軽くできるということで、モビリティも妥協せずに済みます。単に製品としてユーザーに使ってもらいたいだけではなく、我々にとっての技術的なチャレンジという意味も込められた一台でした。例えば、2015年の『VAIO Z』で作った良いキーボードを、その後の『S』でも活用してきたように、2021年の『VAIO Z』を作ったことで得られた技術は、現在展開している『VAIO SX』シリーズでも活用しています」
「このフルカーボンボディのノートPCを量産化できる体制を整えるというのは、とても難易度が高いことでした。正直、VAIOじゃなきゃやらないこと、できないことだったと思います。あと、同じように見えますが、実はキーボードも2021年モデルで作り直しました。こちらも『VAIO SX』シリーズに受け継がれていますよ」(巢山氏)
▲2021年モデルの「VAIO Z」は、キーボードもより使い心地の良いものに改良された
▲同モデルは、ヒンジが180°開いてフラットな状態にできることもポイントだ
「実は、当時はチルトアップする構造と、180°開く構造は相反する状態でした。従って、開発チームの課題として取り組んでもらっていて、何回かギブアップが上がってきたくらいでした。それでも根気よくこだわり続けた結果として実現した機構なのです」(巢山氏)
さて、CPUを安定動作させるために必要な電力を表す指標として「TDP(Thermal Design Power)」という数値があり、その単位はW(ワット)で表します。そして、このTDPの値は、間接的にではありますが、CPUのパワーを表しているという側面もあります。
この2021年モデルのVAIO Zでは、第11世代インテルCoreプロセッサーの「H」ラインを搭載していました。TDPが標準時にも35Wあり、余裕があるタイミングでは64Wまでパワーを上げられたことも特徴でした。
「TDPが高くなるということは、冷却も大変になるということです。そのため、2021年モデルのVAIO Zでは、冷却機構にもかなり手がかかりました。もちろん、VAIO S11のときに実装された『VAIO True Performance』も使われています」(巢山氏)
【2021年】カーボンを曲げる技術を取り入れた「VAIO SX12/SX14」が登場
2021年モデルの「VAIO Z」で培った立体成型カーボンのノウハウは、ハイエンドモデルである「VAIO SX」シリーズへと継承されていきます。また、急激に浸透したテレワークに対応するために「AIノイズキャンセリング」機能が搭載されたことも、同世代のトピックだったと言えるでしょう。
「それまでの『VAIO SX』シリーズとしても、板状のカーボン素材は使われていました。一方で、2021年の『VAIO Z』が出たあとの『VAIO SX』シリーズでは、習得したカーボンを曲げる技術や、180°開くヒンジなどが活用されました」(巢山氏)
▲2021年モデルの「VAIO SX12」(左)と「VAIO SX14」(右)
▲これらのモデルでは、VAIO Zの開発で培ったカーボンを曲げる技術が活用された。従来モデルでは、樹脂製だった部分もカーボン素材が使われるようになり、剛性が高まるとともに、外観も良くなった。また、ディスプレイについては、タッチパネルが復活したほか、色域が広くなっていた
なお、人感センサーによる「VAIO User Sensing」機能なども、上位モデルから継承した要素でした。また、インターフェースについては、USB Type-CポートがThunderbolt対応になり、幅広い用途にも対応しやすくなるなど、ノートPCとして、細部がより洗練されていった印象があります。
【2023年】Windowsの定番ノートPCを目指した「VAIO F14/F16」
そして、2023年には、新たにスタンダードモデルとしての「VAIO F14」や「VAIO F16」がリリースされました。独立後、フラグシップやハイエンドに注力してきたVAIOとして、ここにきての普及価格帯への注力は、新しい舵取りを感じさせる製品です。
▲2023年3月に発表された「VAIO F14」(左)と「VAIO F16」(右)
▲「VAIO F14」。キーボードの機構は、2021年モデルの「VAIO Z」から継承した新しいものが採用されている
▲「VAIO F16」
「もちろん、『VAIO F』シリーズでも、エッセンスとしては、フラグシップで培われたアルミパームレストやチルトアップなどを取り入れています。しかし、いまの普通にPCを使う人たちが求めているのは、すごいスペックなどではなくなってきています。ひと昔前の“PC”とは意味合いが違うのです。PCはもはや日常的に使う家具や雑貨のような身近な存在なっていて、シンプルで、使いやすくて、心地よいデザインで——といった判断基準が重要です。『VAIO F』シリーズは、こうしたところをしっかり押さえることで、本質的な顧客に届くような価値を持ったPCを作りたいというコンセプトからスタートしました。そのうえで、テレワーク用途もカバーできるよう、ノイズキャンセリング機能などは上位機種と同等のものをサポートさせています」(黒崎氏)
▲キートップとベゼルのカラーが合わせてあるなど、デザイン面のこだわりも多い
* * *
直近のニュースとしては、2023年8月には、アスペクト比が16:10になった「VAIO S13(個人向け)」および「VAIO Pro PG(法人向け)」が発表されていることも必見。作業領域を縦に広く確保できるようになったほか、eSIMと物理SIMのデュアルSIMに対応するなど、よりモバイルワークの快適さを意識した製品になっています。
▲2023年8月に発表された「VAIO S13」(画像出典:VAIOプレスリリース「ビジネスモバイルPCの最適解を目指す「VAIO S13」「VAIO Pro PG」を発表」
VAIO株式会社としては、2024年で10周年を迎えます。本稿で紹介したようなVAIOのこれまでの歴史を踏まえると、今後の新モデルをチェックするうえでの理解も深まるのでは。
>> VAIO
<取材・文/井上 晃>
井上 晃|スマートフォンやタブレットを軸に、最新ガジェットやITサービスについて取材。Webメディアや雑誌に、速報、レビュー、コラムなどを寄稿する。X(Twitter)
【関連記事】
◆トラックボールにシェルドライブ…「Let's note」25年超の歴史を振り返る
◆「ThinkPad」30年の歴史を振り返る
◆VAIO関連記事
- Original:https://www.goodspress.jp/columns/569519/
- Source:&GP
- Author:&GP
Amazonベストセラー
Now loading...