営業やマーケティングをする上で、潜在顧客の印象に残るアプローチは至上命題である。文字だけのメールだとスルーされてしまいがち…という実体験も少なくないだろう。
表情や口調がわからない文字と違って、“動画”なら、視覚と聴覚の両方に訴えることができる。相手の関心を引く手法として動画の活用を提案するのが、カナダのスタートアップVidyardだ。
そうはいっても、誰もがすぐにカメラに向かって流暢に語れるわけではない。1分程度の短尺であっても、かまずに澱みなく話を続けるというのは慣れない人にはハードルが高い。セリフを覚え、笑顔を絶やさず、相手にポジティブな印象を与えて…などと考えると、つい及び腰になってしまっても不思議はない。そこでVidyardが新たに考案したのがAIアバターを活用した動画制作だ。ユーザー本人のアバターが動画に登場してセールストークを展開するというものだ。
本人に代わってアバターがセールストーク
2024年4月、同社の同名プラットフォームにAIアバター機能が新たに追加された。16万社もの企業が導入、何百万人ものセールスやマーケティング担当者が活用してきたVidyardでのビデオメッセージ制作工程が、AIアバターによってさらにパーソナライズされる。
「アバター」と聞くと、二次元のイラストやデフォルメ似顔絵を想像するかもしれないが、Vidyardのアバターはかなりリアル。というのも、実際にユーザー本人を撮影した映像を元に作成されるからだ。営業担当者自らが登場する動画を簡単に制作し、メールなどで送信できる。
2分の訓練動画でAIアバター作成、原稿もAI生成可能
まず、AIに学習させるため尺が2分の訓練用動画をウェブカメラなどで撮影する。カメラに向かって普段どおりに話すだけでよい。撮影した動画を元にNeRFs (Neural Radiance Field)を用いて、超リアルなアバターが生成される。見た目だけでなく声や話し方もそっくりで、自然な顔の動きや表情が再現される。
このとき、「えーっと…」や「その~」といったフィラーワードを発するとAIアバターもそれを再現することになる。生身の人間らしさは強くなるが、不要な人は撮影中に発しないようにしよう。ちなみに、訓練動画撮影時の使用言語は今のところ英語のみ。撮影が終わったら、次はトーク内容の入力だ。飛び込みセールス動画から営業後のフォローアップ、定期的なあいさつなど、さまざまな内容の動画を制作できる。
伝えたいことを自分で入力してもよいが、VidyardのAI原稿ジェネレーターで生成すれば一瞬だ。原稿は日本語を含め25言語に対応しているので、海外の潜在顧客にも英語や現地の言語でリーチできる。
動画の視聴状況まで把握可能
完成した動画は、メールやメッセージなどに添付して送付する。制作済みの動画をプラットフォーム上で一括管理することもできる。
ユーザー本人のアバターである必要がない場合や本人が顔出ししたくない場合は、無料ライブラリに高解像度AI アバターのストックが用意されている。実在の俳優を元に作成された商用利用OKのストックアバターはVidyardの全プランで利用できる。お試しの無料サービスでは動画を25本まで作成してライブラリに保存可能。有料サービスでは無制限で動画を作成できるほか、視聴に関するインサイトをリアルタイムで得られる機能も。クリック回数や視聴回数などのエンゲージメントを専用ダッシュボードで確認できる。
SalesforceやHubSpotといった主要なツールに統合されているので、作った動画をシームレスに活用できる。YouTubeやX (旧Twitter)、Facebook、LinkedInなどのSNS、Gmail、Outlook、slackといった毎日使うツール、WordPressやGoogle Analyticsなどを含め統合先は現在50近い。
2人から社員300人に急成長、資金調達も発表
Vidyardは、大学で出会ったMichael Litt氏とDevon Galloway氏によって2010年に設立された。当初は2人だった社員数は現在では300人にまで成長している。
AIアバター機能の追加と同時に、Vidyardは1500万米ドル(約23億円)の資金調達も発表。カナダ輸出開発公社が主導し、BMOキャピタルパートナーズやバッテリー・ベンチャーズなどが出資したもの。これまでの調達額は計9070万米ドル(約142億円)となった。Statistaの調査によると、デジタル動画広告市場は2023年の全世界で1760億米ドルの収益を上げたとのこと。2028年には2410億米ドルに成長するという予測だ。日本国内に限っても、2023年の動画広告市場は前年比112%となる6253億円、2027年には1兆228億円に達するという(2024年2月発表のサイバーエージェント調査)。
Vidyardはすでに日本企業ともパートナー提携を結んでいる(2017年に株式会社24-7が同社を含め動画プラットフォーム3社とのパートナー契約を発表)。Vidyardで制作されたAIアバター動画をそれとは気づかず目にしているのかもしれない。
引用元:Vidyard
(文・Mizoguchi)
- Original:https://techable.jp/archives/234914
- Source:Techable(テッカブル) -海外テックニュースメディア
- Author:溝口慈子
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