不便だが、それで良い。リコーのオールドコンデジで再確認した最新カメラとは違う写真の楽しみ方

【趣味カメラの世界 #8】

RICOH(リコー)のコンデジといえば「GR Ⅲ」や「GR Ⅲx」が挙げられますが、とてつもない人気を誇っており、定価で購入するには抽選が必要なほど。全然手に入らないので、本連載を担当しているフォトグラファーの田中さんにグチっていたところ、「GR Ⅲじゃないですけど、GR DIGITAL IIなら持っていますよ」とのこと。これは思わぬ吉報! ということで、今回は「GR DIGITAL II」の魅力を深堀りしてもらいました。

田中利幸(たなかとしゆき)|ファッション誌などでブツ撮りやポートレートを中心に活動するフォトグラファー。カメラ・ガジェット好きで自身で運営するブログ「Tanaka Blog」において、カメラやガジェットに関するちょっとマニアックなことを書いている

 

*  *  *

■そもそもリコーの「GR DIGITAL II」ってどんなカメラ?

1996年に始まったGRシリーズの中で、デジタルカメラの2代目となるのが2007年11月に発売された「GR DIGITAL II」。搭載する1/1.75型1001万画素のCCDセンサーは、現在では小さく感じますが、当時は高画質でした。

今やスマホのほうが高解像度で、画質も圧倒的に優れていますが、この古さと粗い画質が逆に好まれることもあります。

バッテリー・メモリーカード込みで約194.6gと、iPhone Pro Maxシリーズよりも軽量。厚みは少しありますが、サイズはスマホほどで、ポケットに入れて気軽に携帯可能です。

最新のGR IIIは重さが250gを超えてやや重くなりましたが、サイズはほぼ変わらず、コンパクトさは健在です。

液晶の画質は粗く、スマホへの写真転送や顔認識AFといった今どきの便利機能は非搭載。カメラとして必要最低限の機能のみが備わっています。

起動の遅さを含むもっさりとした動作も、当時は気にならなかった部分ですが、今となっては古さを感じさせるポイントです。

■GRらしい色表現が、何気なく撮った風景写真に独特の立体感を生み出す

▲シャッタースピード1/1400秒、F4.0、ISO100、GR DIGITAL II

▲シャッタースピード1/850秒、F4.0、ISO100、GR DIGITAL II

作例はRAWで撮影し、Capture Oneで現像しています。色味も多少調整しましたが、「GR DIGITAL II」の“青”はやはり美しいですね。

レンズ性能が高く、画面の隅々までシャープな描写が特徴です。28mm(35mm換算)の広角レンズながら、歪みもほとんど見られません。

▲シャッタースピード1/1000秒、F3.5、ISO100、GR DIGITAL II

▲シャッタースピード1/540秒、F4.5、ISO100、GR DIGITAL II

コンパクトで軽量、ポケットにも収まるサイズ感なので、撮りたいと思った瞬間にサッと撮影できます。ただし、起動が遅かったり、RAW撮影では書き込みが遅く連続撮影が難しいなど、不便な点も少なくありません。

こうした使いにくさは、最新の「GR III」で大幅に改善されています。

▲シャッタースピード1/1400秒、F4.0、ISO100、GR DIGITAL II

▲シャッタースピード1/125秒、F3.5、ISO100、GR DIGITAL II

現代のレンズと比べると、描写にほどよいゆるさがあり、フィルム風の現像と相性抜群です。何気ない風景もどこかノスタルジックな雰囲気を纏い、良い味わいが出ます。

■“あの頃”の気持ちを思い出すようにポートレート撮影をしてみる

「GR DIGITAL II」を購入した当時、筆者は大学生でした。再びこのカメラを手にすると、あの頃の青春のような、懐かしい気持ちが蘇ってきます。そんな学生時代の感覚を思い出すようなイメージで、ポートレート撮影をしてみました。

▲シャッタースピード1/60秒、F2.4、ISO100、GR DIGITAL II

▲シャッタースピード1/125秒、F2.8、ISO100、GR DIGITAL II

▲シャッタースピード1/250秒、F4.0、ISO100、GR DIGITAL II

▲シャッタースピード1/60秒、F3.5、ISO100、GR DIGITAL II

▲シャッタースピード1/125秒、F2.4、ISO100、GR DIGITAL II

顔認識AFのようなハイテク機能はなく、基本的にマルチAFに任せ、絞り優先オートで撮影しています。片手でカメラを構え、ピントが多少ずれていても気にしないラフなスタイル。

「GR DIGITAL II」のオート設定はISO感度を低めに抑える傾向があるため、やや暗い室内ではシャッタースピードが遅くなりがちです。

▲シャッタースピード1/40秒、F2.4、ISO135、GR DIGITAL II

▲シャッタースピード1/60秒、F2.4、ISO100、GR DIGITAL II

▲シャッタースピード1/30秒、F2.4、ISO125、GR DIGITAL II

▲シャッタースピード1/20秒、F2.4、ISO154、GR DIGITAL II

▲シャッタースピード1/10秒、F2.4、ISO154、GR DIGITAL II

シャッタースピードが遅いため、ラフに撮影すると手ブレや被写体ブレが起こることもありますが、それもまた味わいのひとつ。「GR DIGITAL II」にはポップアップフラッシュが搭載されており、手軽にフラッシュ撮影を楽しめますし、どこか「写ルンです」のような雰囲気が漂います。

28mmの画角は狭い室内でも撮影しやすく、気軽に使える点が魅力です。

▲シャッタースピード1/1150秒、F4.5、ISO100、GR DIGITAL II

▲シャッタースピード1/540秒、F3.5、ISO100、GR DIGITAL II

▲ シャッタースピード1/1000秒、F3.5、ISO100、GR DIGITAL II

人物を撮影する際は、テンポよくパシャパシャと撮るスタイルなので、「GR DIGITAL II」でRAW撮影をしていると若干ストレスが溜まります。なぜなら、大体2枚撮影すると、書き込み待ちで撮影がストップしてしまうから。

人物撮影では撮りたい瞬間を逃すこともありますが、慣れてくるとフィルム撮影時のように、無駄に撮らない意識が芽生えてきます。仕事で使うなら、ストレスが最高潮に達するかもしれませんが、「趣味カメラ」としてはその不便さもまた楽しみのひとつです。

▲シャッタースピード1/1000秒、F3.5、ISO100、GR DIGITAL II

▲シャッタースピード1/1000秒、F3.5、ISO100、GR DIGITAL II

▲シャッタースピード1/220秒、F5.0、ISO100、GR DIGITAL II

▲シャッタースピード1/100秒、F5.0、ISO100、GR DIGITAL II

▲シャッタースピード1/125秒、F5.0、ISO100、GR DIGITAL II

街中でのスナップは、GRの真骨頂。28mmの広角は、人物と風景を一緒に収めるのに最適です。ロケーションを探しすぎず、適当に歩きながら目に入った場所で撮影するスタイルがおすすめ。

ラフな撮影がGRにぴったりで、被写体との距離感が自然に伝わってきます。

■オールドコンデジの魅力はスペックだけでは計り知れない奥深さがある

▲左:シャッタースピード1/160秒、F1.8、ISO1000、SONY α7RV
右:シャッタースピード1/6秒、F2.4、ISO154、GR DIGITAL II

同じシチュエーションで撮影し、同じ色味調整を施した二枚の写真です。

並べてみると特に感じる点がありますが、ソニーの「α7RV」(写真左)で撮影した写真は、雰囲気は出ているものの、やはり現代的なシャープさが目立ちます。

一方、「GR DIGITAL II」(写真右)で撮影した写真は、ピントの甘さなどから、より昔のフィルムライクな質感が表現できていると感じます。

起動の遅さやレスポンスの悪さなど、撮影中にストレスを感じる場面は多少なりともあります。それに、スマホのカメラに搭載されているような手ぶれ補正などの便利な機能は、もちろん「GR DIGITAL II」にはありません。それでも、久しぶりに持ち出して撮影してみると、撮影できる画には何ともいえない魅力があって、撮影が楽しくなるカメラだと再確認。

フィルムカメラのように、シャッターを切る一瞬に心を込めて、丁寧に写真を撮ることができる。「GR DIGITAL II」は、そんな“ゆっくりとした時間”と“レトロの奥深さ”を教えてくれるカメラです。言い換えるなら、スペックを超えたエモさを提供してくれるという、“不便を楽しむ”ためのカメラだと思いました。

本機は、フリマアプリや中古カメラ店などで、まだまだ状態の良い個体を見つけることも可能です。最新機種と比べると扱いにくいところも多いですが、不思議と、そんなところも愛せる魅力的なカメラでした。

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<取材・文/田中利幸 モデル/田淵瑚都(@tako_ism)>

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