【趣味カメラの世界 #21】
これまで2回にわたって、富士フイルムの最新カメラ「GFX100RF」(83万5000円)を取り上げてきましたが、いよいよ今回が最終回。
ラストとなる第3回は、フォトグラファー・田中利幸さんが“ポートレート撮影”をテーマに、その実力をさらに深掘りします。
監修・執筆:田中利幸(たなかとしゆき)|ファッション誌などでブツ撮りやポートレートを中心に活動するフォトグラファー。カメラ・ガジェット好きで自身で運営するブログ「Tanaka Blog」において、カメラやガジェットに関するちょっとマニアックなことを書いている。
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第1回では、街のスナップを撮りながら「GFX100RF」ってこんな写りをするんだな〜」と、その描写力と表現の幅の広さに感心しました。小さくて軽いから、つい毎日でも持ち歩きたくなるカメラだなと感じたのも印象的でした。
第2回では、アスペクト比を変えたり、デジタルテレコンを使ったり、フィルムシミュレーションで雰囲気をガラッと変えてみたりと、このカメラならではの1億200万画素の楽しみ方をいろいろ試してみました。
そして、今回の第3回はポートレート撮影がテーマです。「35mm F4」というレンズで人を撮ると、いったいどんな感じになるのか? 作例も交えながら、使い心地やこのレンズとの相性についてゆるっと探っていこうと思います。
■ピントが迷わずスッと合う。ポートレート撮影にも頼れる「GFX100RF」のAF性能
第1回でも少し触れましたが、私は普段「GFX50S」を使っています。発売直後に手に入れてから、仕事でもずっと愛用しているカメラです。ただ、正直なところ、オートフォーカスの性能に関しては、最近のカメラと比べるとちょっと物足りなさを感じています。ラージフォーマットだし、まぁそんなものかな…と割り切ってはいますが、撮影時にはそれなりに気をつかう場面もあります。
そんなこともあって、「GFX100RF」のAF性能はどうなんだろう? ポートレート撮影でちゃんと使えるのかな?と、少し心配していたのですが、むしろ良い意味で裏切られました。
今回は、少し暗めの室内でも撮影してみたのですが、ピントが迷うことなく、しっかりと瞳にピタッと合ってくれるんです。全部で400カットほど撮ったのですが、ほとんどすべての写真で、ピントがばっちり合っていました。
■ボカすだけじゃない。「35mm F4」で描く“空気感のある”写真
「GFX100RF」のレンズはF4と、ちょっと暗めのレンズです。だから、背景を思いっきりぼかした“いわゆるポートレート”的な写真を撮ろうとすると、「あれ? 思ったよりボケてないかも…」ってなるかもしれません。
▲ シャッタースピード1/200秒、F4、ISO3200、フィルムシミュレーション:クラシックネガ
絞り開放で撮ってはいますが、そこまで大きく背景がボケるわけではありません。でも逆に、「ただボケさせるだけ」じゃなくて、まわりの雰囲気ごと写し込んで、シチュエーションを活かすような撮り方が向いてるのかなと思いました。
ボケ感は控えめなんですが、そのぶん解像感や質感描写はさすがで、人物の存在感がちゃんと出てくれるんです。
▲ シャッタースピード1/200秒、F4、ISO2500、フィルムシミュレーション:クラシックネガ
この作例も、広角レンズらしく部屋の雰囲気を活かすことを意識して撮ってみました。ちょっと狭めの室内でも、思った以上に広く写せるのは、このカメラならではの強みだな〜とあらためて実感。少し引き気味で撮っても、髪の毛やニットの質感までちゃんと写っていて、人物の存在感はしっかり感じられます。
開放で撮ると、ほんのり周辺減光が出ることもありますが、個人的にはそれも写真の味だと思っているので、これはこれでアリです。もちろん、大口径の中望遠レンズで背景をふんわりぼかしたポートレートも素敵なんですが、こうしてシチュエーションを活かした撮り方も、なんだか新鮮で楽しいな〜と思いました。
ポートレート撮影がちょっとマンネリしてきたな…というときに、こんな撮り方も試してみると、新しい発見があるかもしれませんよ。
■やわらかく、くっきり。「F4」で表現する“ちょうどいい”ポートレート
▲ シャッタースピード1/200秒、F4、ISO3200、フィルムシミュレーション:ASTIA
被写体にちょっと寄って、背景との距離をしっかり取ってあげれば、F4のちょっと暗めなレンズでも、ちゃんとボケてくれます。ただ、ここまで近づいて撮ると、顔の丸みがちょっと強調されてしまうこともあるので…そのへんは少し気になるかもしれません。
そんなときは、デジタルテレコンで“少しだけズーム”してあげるのもおすすめ。画質はしっかり残っているし、構図もまとめやすくなって、撮りやすさもアップします。
髪の毛の一本一本までくっきり写る描写力は、さすがラージフォーマット。「おぉ〜」と思わず声が出ちゃうくらい、見ごたえがあります。
▲ シャッタースピード1/200秒、F5.6、ISO3200、フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ
このカットは、デジタルテレコンで80mmの画角にして撮っています。望遠寄りになることで被写体との距離がしっかり取れるので、顔のゆがみも少なくなって自然な仕上がりに。
第2回の記事でも触れましたが、ここまでクロップしても約2000万画素あるので、画質的にはまったく問題なし。たとえば、トーストの焦げ目の質感なんかも、しっかり描写されていて「やっぱり高画素ってすごいな〜」と感じました。
▲ シャッタースピード1/200秒、F4、ISO3200、フィルムシミュレーション:リアラエース
手前にカラフルなグラスを置いて、前ボケをつくってみました。色が多めの小物だったのでちょっと心配だったんですが、うるさくなりすぎず、ボケの質感もなめらかで、いい感じにまとまってくれました。
ちなみに、ちょっとした余談なんですが、このモデルには手ブレ補正が付いていません。なので、念のためシャッタースピードは気持ち速めに設定して撮影しています。
そのぶん室内では感度を上げることが多くて、ISO3200で撮ったカットもけっこうあったのですが、ノイズはほぼ気にならないレベル。高感度への強さにも「おおっ」と思わず声が出てしまいました。
■ストロボ撮影のハードルがぐっと下がる。「日中シンクロ」を気軽に楽しめるカメラ
ちょっと応用編になりますが、「GFX100RF」の小型&軽量化にひと役買っている「レンズシャッター」は、実はストロボ撮影でも大活躍なんです。
たとえば「日中シンクロ」と呼ばれる、自然光を活かしつつストロボを使う撮影方法。ふつうは明るい時間にストロボを使うのって、シャッタースピードの制限があったりして、なかなか難しいものなんですが、このカメラならそのあたりもスムーズ。
すべてのストロボで動作が保証されているわけではありませんが、手持ちのストロボでも気軽に試せるのがうれしいポイントです。
▲ シャッタースピード1/1600秒、F5.6、ISO200、フィルムシミュレーション:リアラエース
ストロボなしだと、ここまで背景を暗く落とそうとすると、どうしても人物まで暗くなってしまいがち。でも、ストロボを顔に当ててあげれば、背景は落としつつ、人物の顔を明るく写すことができます。なので、ちょっとドラマチックな雰囲気を出したいときにぴったりです。
本来なら、機材の準備や設定などでハードルが高めな日中シンクロですが、本機ならそれも気軽に試せるのがうれしいところです。
■背景も主役に。「GFX100RF」で広がるポートレート写真の選択肢
街でスナップを撮っていたときにも感じたのですが、このカメラは本当にいろんな場面で活躍してくれるカメラだと思います。
1億200万画素のラージフォーマットセンサーに、キレのある描写をしてくれる広角レンズ。そこにデジタルテレコンも組み合わせれば、被写体やシチュエーションに合わせて柔軟に対応できる、懐の深さを感じました。
▲ シャッタースピード1/200秒、F5.6、ISO2500、フィルムシミュレーション:ASTIA
▲ シャッタースピード1/200秒、F4、ISO1600、フィルムシミュレーション:リアラエース
▲ シャッタースピード1/500秒、F4、ISO400、フィルムシミュレーション:クラシックネガ
▲ シャッタースピード1/400秒、F5.6、ISO640、フィルムシミュレーション:クラシッククローム
▲ シャッタースピード1/500秒、F4、ISO320、フィルムシミュレーション:リアラエース
▲ シャッタースピード1/400秒、F4、ISO160、フィルムシミュレーション:クラシックネガ
今回ポートレートを撮ってみて感じたのは、「ちょっと引き気味で、広い画角で撮るのがすごくしっくりくるなぁ」ということでした。
スナップのときにも思ったのですが、キレのある広角レンズとラージフォーマットセンサーの精細さや立体感があるからか、つい引きの画を撮りたくなっちゃうんですよね。
もともと私は、背景やシチュエーションも写し込んだポートレートが好きなこともあって、このカメラはそのスタイルにぴったり。気持ちよく撮影できました。
■ポートレートの固定観念を変える。「GFX100RF」で見つけた“らしさ”の切り取り方
「GFX100RF」でポートレート撮影を試してみて、改めて感じたのは、「ただ背景をぼかすだけじゃない」楽しさでした。
F4というスペックだけを見ると、「あまりボケないんじゃ?」と思うかもしれませんが、ラージフォーマットのセンサーが生み出す豊かな階調と解像感が、被写体の存在感をしっかりと引き立ててくれます。
デジタルテレコンを活用すれば、歪みを抑えながらモデルに寄った撮影も可能で、背景を自然にぼかした“王道ポートレート”もしっかりこなせます。
スナップも、ポートレートも、シーンを選ばず頼れる本機。ラージフォーマットならではの描写力を活かして、自分なりのポートレート表現を楽しんでみたくなる、そんな一台でした。
>> 趣味カメラの世界
<取材・文・写真/田中利幸 モデル/田淵瑚都(@tako_ism) 取材協力/富士フイルムイメージングシステムズ>
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- Original:https://www.goodspress.jp/columns/669892/
- Source:&GP
- Author:&GP
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