「弾いた瞬間の出音が速い」と話題!東京中野のギターショップ「ダーサウンドプロ」が目指す“誰が聞いてもいい音”の秘密とは?

音楽を趣味にしている人は多いが、とりわけ 2019年の新型ウイルス以降、おうち時間増加に伴って愛好者を増やしてきたのが楽器演奏趣味。中でも「ひさしぶりに!」「いよいよ!」と人気なのがギターだが、最近「出音が速い!」と話題のギターショップが東京中野の「ダーサウンドプロ」だ。

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新型ウイルス以降のおうち時間増加で「学生の頃以来、久しぶりに弾き始めた」「憧れだったけどいよいよ始めた」と愛好者を増やしている楽器趣味。ピアノ、管楽器、ドラム、ギターが楽器ホビーの四天王だが、やはりバンドヒーロー世代にとって手にしたいのは、アコースティックであれエレクトリックであれ、まずはギターだ。

気持ちよく弾けるようになるため、独学でがんばるかスクールに通うかはひとそれぞれだが、ひとつ確かなのは、当然ながらギターを手に入れる必要があること。専門店で、あるいはネット通販で★を頼りにポチするのが一般的だとしても、こだわり派『&GP』読者の傾向としてありそうなのが、「あの時代のギター」「あの頃に憧れていたあのギター」、つまり往年のモデル=ユーズドギターを選びたいという(わがままな?)欲求だ。

■ユーズドギターという唯一無二

「そこを超えていかないと、わたしがやっている意味がないんですよ」。

と話すのは、東京随一のカルチャータウン、中野でギターのリペアショップ「ダーサウンドプロ」を営む吉田隆さん。ギターや楽器はユーザーが手にした瞬間から進化もすれば、劣化もする。そこで新品状態(=そこ)を超えてより良い方向へリペアすること、それが「ダーサウンドプロ」が目指すサウンドなのだ。

ちなみに「ダーサウンドプロ」の由来は吉田さんのあだ名「だーさん」から転じたものであると同時に、ロシア語で「OK」を示すものだ。

■「明日からギターリペアショップ始めるよ」

1955年、東京に生まれた吉田さんはずっと中野界隈で暮らしてきた。ハタチ前からバイクショップ、カーショップなどで修行し、自らの店を立ち上げて…と奔走してきたが、当然ながらバイクやクルマのパーツは大きく重く、力を要する。ふと考えがよぎる。

「この仕事、50才、60才になってもできるかな?」

そう考えた吉田さんは間もなくカーショップを畳み、友人知人に宣言した。「俺、明日からギターリペアショップ始めるよ」。

むろん根拠もなくギターと思ったわけではない。ギターは14才から弾いて、親しんできている。エレクトリックギターについては仕組みについてもある程度わかっていた。

とはいえ、だ。ある日からギターリペアを手に職とするものだろうか。

「看板を掲げるのは勝手ですがお客さんはいませんよね。でもギター仲間を含めプロの友人も多かったので、半年後くらいには仕事請け負って始めていましたよ」。これが1995年の事。だからギターリペア歴は今年でちょうど30年になる。

■ネットオークション時代の恩恵を受けて

1995年と言えばWindows95が発売され家庭へのパソコン普及が進んだタイミングだ。その後Windows98、2000とOSは進み、1999年にはヤフーオークションが日本でスタート。本格的な「CtoCマーケット」が動き出した。

吉田さんはこの新しい仕組みを活用してユーズドギターを入手し、リペアして販売した。その中で様々な時代の様々なメーカーの様々なモデルに直接触れる経験を積み、これまた様々なリペアのコツを体得していった。ショップ兼工房は中野区江古田の実家の一隅に構えて約25年を過ごし、家庭の事情により現在地へ移転したのが5年前のこと。ちなみに店舗のネオン看板には「Mr.Ben」とあるが、これは前に入店していた美容院の店名。かっこいいから、という理由でそのままにしている。おかげで店舗の誤認率は高いままだ(笑)

■ダーサウンドプロの考える“いい音”とは

「味」と「音」は伝えるのが難しい。何かに例えることが多いが、もともとその評価基準が個人の「好み」に由来するからだ。ゆえに吉田さんの目指すリペアギターの仕上がりが「誰が聞いてもいい音」だったとしても、それはドン・キホーテでいう幻との戦いだ。

しかし吉田さんの考える「誰が聞いてもいい音」は、思いのほかロジカル(失礼!)でもある。むろん自分の耳や感覚がファイナルアンサーだったとしても、過程には独学から得た工夫がある。

「それはね、教えられないなあ(笑)」

ほんのさわりだけでも、と尋ねると少々開陳いただけることに。ほらほら、ギター好きの皆さん、ここがキモですよ!

それはギター弦を弾いた時の動き、振動についてだ。

「弾いた時、ギター弦は時計回りに回転振動しています。だからこの振動をできるだけ減じさせないよう工夫することが良い響き、ひいては良い音につながります。そこでわたしが工夫したのが「ナット」です」。

ナットというと指板とヘッドの間にあって、弦を支える役割を果たす部品ですよね?

「そう。ナットは通常四角に近いかまぼこ型の断面をしていますがこれをできるだけ点で支えるような形状の断面にしています」。

そうすることで弦の振動を活かしきるわけですね。

「そして表面からは見えませんが、ナットの底側を三日月状にえぐって空洞を設けています。これによって音が豊かに広がるのです。この工夫はダーサウンドプロサウンドの特長としてリペア工程に組み込んでいるモデルもあります」。

「そうだったんだ!」と合いの手を打つのは常連客の林さん。今年正月明けにシャンパンゴールドのグレッチを購入したばかりだが、吉田さんとの話が面白いと、不定期に通っている。その林さんにダーサウンドプロのリペアギターの特長を伺った。

▲通りすがり、気まぐれでダーサウンドプロに入って以来のお馴染みである林さん。「とにかく弾いていて気持ちがいいサウンドなんです!」

「とにかく出音が速いんですよ。弦を弾いた瞬間に音が出る。出た音が伸びて広がる。だから弾いていて気持ちいいんです!」。隣では吉田さんがしてやったり顔。

「ギターに値札はつけていません。価格の先入観で選ぶより、まず好みに合いそうな一本を手にして弾いてみて、音や弾き心地が気に入ったら価格を考えるのがいいと思うからです」。

実際いくつか価格を尋ねてみたが、妙なプレミアム価格ではないことが判った。吉田さんの目利きで一本一本仕入れたギターであることや、ダーサウンド流に手を入れたギターもあることを考えれば「この音でこの価格なら、むしろ安いと思います」と林さん。

▲取材当日(4月15日現在)の在庫、フェンダーストラトキャスター。JAPAN初期1982年モデル。24万円。これだけ美しい状態で残っているのはレア。本体もそうだがケースも美品であることから、よほど保存状態が良好だったと推測できる。価格も申し分なく、是非店頭で試奏してみてほしい

▲こちらも在庫のストラトキャスター。リッチー・ブラックモア・モデル。ラージヘッドはツウには不人気とされるが「そういうモデルを『これいいね!』に変えるのもリペアの醍醐味」と吉田さん。アーティストモデルのためピックアップには手を入れていないそう。12万円

■モノとの理想の関係を愉しむ

ギターのみならず、新品から使い込んで最良の状態に仕上げる愉しみをもつモノは少なくない。クルマやバイクはもちろん、スピーカーやカメラ、ジーパン、そして紳士靴、ブーツ、サイフなど革モノだってそう。だから吉田さんがユーズドギターを「新品の状態に戻す」のではなく「そこを超える状態を目指す」のも無理筋ではない。

誰にとっても最高のギターリペアショップはないだろう。しかし吉田さんの考えに共感できるこだわり派は多いはず。なぜならそれは「使い込む程に良くなる、愛着がわく」という、モノとの理想の関係を目指すものだからだ。

ギターに関心をもつ皆さんにおいては、ぜひ吉田さんとギター談議に花を咲かてみてはいかがだろう。自分が好むいい音とは何か、そのヒントが見つかるはずだ。

【店舗情報】
ダーサウンドプロ

東京都中野区上高田2-40-2
JR、東京メトロ「中野駅」より徒歩12分
年中無休/12~20時OPEN

>> ダーサウンドプロ(Facebook)

<取材・文/前田賢紀>

前田賢紀|モノ情報誌『モノ・マガジン』元編集長の経験を活かし、知られざる傑作品を紹介すべく、フリー編集者として活動。好きな乗り物はオートバイ。好きなバンドはYMO。好きな飲み物はビール

 

 

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