現場の基準でありつづけるソニー「MDR-CD900ST」。あえて“変わらない”ことの価値とは

【ようこそ、オーディオの“沼”へ】

音楽制作の現場における”定番”とは何か。それを語るうえで、Sony(ソニー)のモニターヘッドホン「MDR-CD900ST」(実勢価格:2万4860円)を外すことはできません。

1989年の発売から35年以上が経った今も、同モデルは数多くのスタジオで使われ続けています。時代が変わってもなお「音の基準」であり続ける理由を、現在ソニーで数々のヘッドホン製作に携わっている松尾伴大(まつおともひろ)さんに聞きました。

▲ソニー パーソナルエンタテインメント事業部 プロフェッショナルソリューション事業室 シニアヘッドホンプロデューサー、5代目耳型職人

■現場の声から生まれた、唯一無二の“スタジオ用”ヘッドホン

「MDR-CD900ST」は、CBSソニー信濃町スタジオ(現・ソニー・ミュージックスタジオ)で使うために開発された“現場発”のモデル。発売は1989年。以後30年以上、レコーディングスタジオで信頼を得てきた事実が、その設計思想の確かさを物語っています。

ここに至る系譜を少々補足すると、スタジオ用の「ST」発売に先立ち、1985年にはハイファイ志向のリスニング機「MDR-CD900」が登場しています。

▲「MDR-CD900ST」の前身にあたる「MDR-CD900」

折りたたみ機構やカールコードなど当時の民生機としての使い勝手を備えつつ、CD時代の広帯域再生に挑んだフラッグシップ機でした。そこから現場ニーズを受けて音の定位や分離、耐久・運用面を詰め、プロ仕様の「MDR-CD900ST」が生まれた…というのが大枠の流れです。

「当時のスタジオでは、ボーカル録りで“声をもっと掴みやすくしたい”という要望が多かった。低域を過度に膨らませず、中高域の見通しを良くする。現場で判断しやすい音に徹した、と聞いています」

▲初代ウォークマン(1979年発売)に付属していたヘッドホン「MDR-3L2」。ソニーの“音を届ける”技術は、のちに“音を作る”現場へと発展し、「MDR-CD900ST」誕生の礎となりました

■“変えない努力”が信頼を支える

「MDR-CD900ST」は登場から今日まで、基本設計とチューニングを守り続けてきました。とはいえ、供給部材や生産工程が変わる局面は必ず訪れます。そんな時も“音を変えない”ことを最優先に運用・部材の最適化を積み重ねてきたと、松尾さんは話します。

「モニターヘッドホンは確認の道具。どの時代でも同じ鳴り方であってほしい、というのが現場の本音です。もし音が変われば、エンジニアやアーティストの判断基準そのものが揺らいでしまう。だから、私たちにとって“変えないこと”は最も大事な品質なんです」

変わらないことが信頼を生み、結果として“変えられないほど完成したもの”になっていく。スタジオで長年選ばれ続ける理由は、この一点に尽きるのかもしれません。

■モニターとリスニング、その設計思想の違い

近年のソニーといえば、「1000Xシリーズ」に代表されるコンシューマー向けヘッドホンがあります。同じヘッドホンでも、モニターである「MDR-CD900ST」とは目的が異なるものの、松尾さんはこう切り分けます。

「コンシューマー機は、いわば“気持ちよく聴く”ための音作り。ノイズキャンセリングや装着感まで含め、音楽体験としての心地よさを設計します。一方の「MDR-CD900ST」は“音源そのものを正確に聴く”ための道具。余計な演出を避け、素材をそのまま出す。疲れると感じる人もいるかもしれませんが、それが判断に適した音です」

リスニングモデルが“リラックスして味わう音”だとすれば、モニターモデルは“制作で見極める音”。この役割分担こそ、ソニーのプロ機と民生機が共存する理由です。

■「MDR-CD900ST」がリアルで使われる『THE FIRST TAKE』

登録者1000万人を超えるYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」。その撮影現場で、アーティストが着けているヘッドホンの多くが「MDR-CD900ST」です。

いまや同チャンネルは、このヘッドホンがリアルに使われている現場を象徴する存在でもあります。松尾さんはこの状況をこう説明します。

「THE FIRST TAKEで使っていただいているのは、私たちがお願いしたわけではないんです。純粋に多くのアーティストさんやスタジオに選んでくださっている。あれを見ていると、この長い年月の中でこのモデルがどれほど信頼されてきたかを実感しますし、メーカーとしてとてもうれしいですね」

ライブ収録や一発録りの現場に欠かせない“基準の音”。THE FIRST TAKEは、その象徴的な舞台のひとつだと言えるでしょう。

■業界の“基準”でありつづけるということ

35年以上の時間が流れても、「MDR-CD900ST」は音楽制作の基準として揺るぎません。プロにとっては“確認のための音”。同時に一般のリスナーが手にしても、作品の“素の姿”を体験できるヘッドホンでもあります。

「私たちにとってMDR-CD900STは、製品であると同時に文化でもあります。これからも“変えないこと”を通じて、音楽づくりの現場に寄り添い続けたいですね」と松尾さんは締めくくりました。

>> ソニー「MDR-CD900ST」

>> ようこそ、オーディオの“沼”へ

<取材・文/若澤 創(GoodsPress Web) 写真/高橋絵里奈>

 

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