世界中で、火災や違法伐採により森林の消滅が進行している。干ばつなどの気候変動の兆候に表れているような徐々に進む環境悪化の影響もある。
温室効果ガスが大気中に蓄積するにつれ、こうした負の連鎖が気候変動を加速させているようだ。だが、あるスタートアップが、世界の森林に焦点を当てたカーボンオフセットを推進し、植林を促そうとしている。
Pachama(パチャマ)は、企業がカーボンオフセットプロジェクトに資金拠出できる市場を構築するために、410万ドル(約4億5000万円)を調達した。同社には、テクノロジー投資のビッグネームが投資している。自身の投資会社であるSaltwaterを通じて投資するUberの元幹部であるRyan Graves(ライアン・グレイブス)氏、Lowercase Capitalを通じて投資するUberの初期インベスターとして著名なChris Sacca(クリス・サッカ)氏などだ。
PachamaはシリアルアントレプレナーのDiego Saez-Gil(ディエゴ・サエズギル)氏が創業した。同氏がその前に創業した会社は「スマートスーツケース」を販売するスタートアップだった。Pachamaは植林プロジェクトを炭素市場に持ち込み、植林による排出量のオフセット(相殺)を独立の立場から同社のモニタリングソフトウェアで検証する。
「今はもう禁止されてしまったスマートコネクテッドスーツケースを作っていた」とサエズギル氏は語った。「その後、少し休みをとることに決めた。かなり燃え尽きていた。自分探しがしたくて、どんな事だったら頑張れるか見極めようとしていた」。
同氏は南米に行き、ペルーのアマゾンの熱帯雨林を旅行した。この惑星に多大なカーボンオフセットをもたらしている地域で、サエズギル氏は森林破壊の影響を目の当たりにした。「地球上には約10億ヘクタールの植林可能な土地がある」とサエズギル氏は言う。
世界中で炭素市場を独立検証し、その永続化に貢献するというアイデアが投資家を納得させた。Paul Graham(ポール・グラハム)氏、Justin Kan(ジャスティン・カン)氏、Daniel Kan(ダニエル・カン)氏、Gustaf Alströmer(グスタフ・アルストマー)氏、Peter Reinhardt(ピーター・ラインハルト)氏、Jason Jacobs(ジェイソン・ジェイコブス)氏、Lowercase Capitalである前述のクリス・サッカ氏などの個人投資家や、Social+Capital、Global Founders Capital、Atomicoなどのファンドが、410万ドル(約4億5000万円)の資金調達に貢献した。
これらの投資家が自由に使えるファンドの資金規模を考えると、少額の資金調達に対しコンソーシアムメンバーの数が非常に多いが、投資家には少し警戒する権利がある。
炭素市場は政策的に推進されている。政策立案者たちは、炭素市場が機能するために必要な高い価格を、排出された二酸化炭素に課すための法案作成に消極的だ。
「Pachamaのカーボンクレジット(二酸化炭素排出枠)市場は、極めて重要な局面で立ち上げられようとしている。気候危機への意識はかつてないほど高くなり、企業はよりカーボンニュートラルになろうとしている」とPachamaのリードインベスターであり、新任ディレクターでもあるグレイブス氏は声明で述べた。「Pachamaに引かれたのは、業界に切実に必要とされている信頼をテクノロジーの力でもたらし、カーボンクレジットの購入者に検証可能な結果を提供できることだ」。
だが、意識することと政治的な見地から行動を起こすことは同じではない。Pachamaには、実行可能な炭素取引市場の創造に向けて物事を進めるために、政府と消費者の両方の政治的意志が必要だ。
Pachamaのビジネスは、二酸化炭素等の価格がオフセット1トンあたり15ドル(約1600円)を超えて初めて利益が出る。サエズギル氏によると、現在世界でそのハードルに達しているのは、カリフォルニアとヨーロッパの2つの市場しかない。
Pachamaの創業者にとって、森林の保全と植林のプロジェクトには大きなメリットがある。「認定された森林プロジェクトは現在わずか500件。数万件は必要だ」とサエズギル氏は述べる。「農業と競合することなく植林が可能な土地が地球上には10億ヘクタールある」
「原生林の回復は地球規模の生物多様性の構築に貢献し、産業用の森林育成よりも多くの炭素を回収できる。いずれにせよ、作物栽培や畜産のために森林を破壊するよりはいい」と同氏。
Pachamaは、既存の認証機関が承認したプロジェクトを引っ張ってくる。顧客には、森林再生地の排出量と炭素回収が把握できる衛星画像やセンサーでもってモニタリングと管理サービスを提供する。
ブラジルなど、森林破壊の問題を抱える国々で解決策になる可能性がある。「ブラジル政府は、国のために収入を生み出したいと考えている」とサエズギル氏は言う。 炭素市場が牧場経営と同じくらい儲かるなら、ブラジル、インドネシア、ペルーのような国々で畜産やプランテーション農業の必要性は減るはずだ」。
サエズギル氏によると、現在植林プロジェクトへの投資がほとんど仲介業者を通じてすすめられていることが、不透明性を増しているだけでなく、プロジェクトが二重にカウントされたり再度販売されたりする原因にもなっている。Pachamaには森林プロジェクトの開発者に連絡する担当者がいるため、独立の立場でプロジェクトをリストアップできる。その上で、同社は衛星画像システムでオフセットを検証する。
同社には現在、森林関する23件のプロジェクトがあり、そのうち3つはブラジルとペルーのアマゾンの熱帯雨林だ。米国では、カリフォルニア州、バーモント州、ニュージャージー州、コネチカット州およびメイン州にプロジェクトがある。
サエズギル氏は、新しい需要が見込まれるとして炭素市場の将来に大きな期待を寄せている。例えば航空業界に課されるような新しい規制から生まれる需要などだ。
「航空会社はCORSIA(国際民間航空のためのカーボンオフセットおよび削減スキーム)に従い排出量をオフセットする必要がある」とサエズギル氏は言う。そのオフセット量は年間1億6000万トンだ。「さまざまな市場におけるオフセットへの需要が価格を押し上げる」。
画像クレジット:Dmytro Gilitukha / Shutterstock
[原文へ]
(翻訳:Mizoguchi)
- Original:https://jp.techcrunch.com/2020/01/07/2020-01-03-pachama-launches-to-support-global-reforestation-through-carbon-markets/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:Jonathan Shieber
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