このところ自動車業界では、EV(電気自動車)にまつわる話題にあふれている。
特に2018年から2019年にかけては、フォルクスワーゲンやアウディ、そしてジャガーといった欧州メーカーが、専用ボディを持つ量産EVを積極投入。選択肢が一気に拡大した。
メルセデス・ベンツ初の量産EVとして注目を集める「EQC」も、そのひとつ。今回は、そんなEQCの魅力と実力をチェックする。
■EVはクルマやブランドの個性を打ち出しにくい!?
身近な存在となりつつあるEVだが、バッテリー搭載量が大きくハイコストなため、車両価格が同クラスのエンジン車より割高だとか、航続距離に不安が残るといった実用性などの面から、今後しばらくは、その市場が急激に拡大していくとは考えにくい。しかし長いスパンで見ると、徐々にEVが普及していくことは確実だろう。
EVは大いなる可能性を秘める一方、これまでエンジン車でブランドを確立してきたメーカーにとっては、新たな課題も生まれている。それは、いかにしてクルマやブランドの個性を打ち出していくか、というもの。
なぜなら、EVの動力源であるモーターは、エンジンと比べてフィーリングの違いを生み出しにくいからである。モーターは制御次第でフィーリングを自由に変えられる一方、それらを比較的安易に生み出せるため、ほかとは異なる独自のフィーリングを確立しにくいのだ。逆にいえば、ブランド独自のフィーリングをいかに作り込むかが、各ブランドの腕の見せどころといっていいだろう。
では、これまで確固たるブランドイメージを確立してきたメルセデス・ベンツは、どのような手でほかとの差別化を図ろうとしているのか? 新しいEQCの最大の注目は、そこに尽きる。
■圧倒的な上質感でEVでもメルセデスらしさをアピール
ところでEQCとは、どんなクルマなのか?
まずスタイリングは、これまでのメルセデスとの違いを強く感じさせるもの。これまでメルセデスは、威厳や格調を重視していたが、EQCのルックスには未来感や先進性が盛り込まれていて、従来との違いを明確に打ち出している。
インテリアも先進性あふれる仕立てだ。クルマに向かって話しかけることで、ナビゲーションの目的地を設定したり、エアコンの温度を調整したりできる“MBUX(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)”を標準装備。また、まるで2台のタブレットを配置したかのような大型液晶パネルを中心とするインパネ回りのデザインは、未来感を強調する。近年、メルセデスが積極的に導入を進める斬新なインテリアデザインは、まるでEQCのためにあったかのような印象さえ受ける。
SUVスタイルを採用したEQCのボディサイズは、全長4770mm(AMGライン装着車は4775mm)、全幅1925mm、全高1625mmで、メルセデスの既存モデルでいえば、同じSUVの「GLC」に近い。それもそのはず、実はEQCは、プラットフォームを含めてGLCのボディ構造を活用している。しかし、ボンネット下に強固なパイプで作られたサブフレームを組み込むなど、EV向けに各部が変更されている。
EVのキモというべきモーターは、前後に1基ずつ、計2基搭載されていて、最高出力は408馬力、最大トルクは78.0kgf-mとかなりパワフル。フロントとリアのモーターは構造こそ同じだが、それぞれセッティングは異なっていて、常に駆動するフロントモーターは効率を重視、必要に応じて駆動力を与えるリアモーターは、パワーをプラスする役割を担うことから、動力性能重視の味つけとなっている。
この2基のモーターによって、EQCは停止状態から100km/hまで、わずか5.1秒で加速する。これは、390馬力を発生する3リッターV6ターボエンジンを搭載するメルセデスAMG「GLC43 4マチック」の加速タイム(欧州仕様値で4.9秒)とほぼ同等。十分に“過激”な俊足ぶりだ。
床下に積まれるバッテリーの容量は80kWhで、EVで気になる航続距離は、カタログ記載の“WLTCモード”で400kmと、ロングドライブをこなすのでなければ特に問題のないレベルを確保している。また充電時間は、住宅などに設置可能な充電ウォールユニット(6kW/30A)を使っての普通充電で、バッテリーがほぼ空の状態から満充電まで約13時間。
50kWの急速充電器を使えば、約80分となっている(ただし、バッテリーの残量次第で充電速度が異なり、また、ほとんどの急速充電器は1回当たり最長30分までしか充電できないが…)。ちなみに急速充電は、日本の規格であるCHAdeMO(チャデモ)に対応している。
そんなEQCをドライブして何より印象的だったのは、圧倒的な上質感だ。
中でもまず驚かされたのは、走行時の静かさ。モーターで駆動するEVのため、エンジン音がしないのは当然のことだが、タイヤを通して伝わってくるロードノイズなどがきっちりシャットアウトされており、プレミアムブランドのEVにふさわしい静粛性を実現している。
そして乗り心地も、感動的なレベルにある。タイヤが路面の段差などを踏んでも、サスペンションや車体が衝撃をしっかりいなしてくれるため、乗員には不快な衝撃が伝わってこない。その上、車体の上下動が少ない“フラットライド”をハイレベルで実現しているため、ドライブしていて実に快適なのだ。
加速フィールは、鋭い立ち上がりと、リニアかつ繊細な伸びを味わえるモーター駆動車ならではのもの。しかしそれらは、他ブランドのEVにも共通する美点に過ぎない。その上でEQCは、先述した優れた快適性をプラスすることにより、メルセデスのEVにふさわしい上質感をカタチにしている。
これこそが、他ブランドのEVとは異なる、EQC独自の魅力といっていいだろう。EQCに乗ると「EVだから新しいのではなく、これまでのメルセデスと同じ感覚であることが大切」という、メルセデス・ベンツ日本の説明も素直にうなずける。
■手厚いサポートでEV購入のハードルを下げる工夫も
今後、普及が期待されるEVだが、それに伴い、初めてEVを購入するという人も増えてくるはず。そこでメルセデス・ベンツ日本は、初めてEVを購入するユーザーの不安を解消する策を、しっかりと打ち出している。
例えば、機関部品などを対象とした特別保証に加え、電装系などの一般保証であっても、通常の3年ではなく5年間と長く設定。しかも、走行距離の上限は10万kmまでフォローしている。また、劣化が気になるバッテリーも、8年間/16万kmまでの特別保証が用意されているため心強い。
さらにEQCでは、手放す際の価値をあらかじめ購入時に保証する“クローズエンドリース”と呼ばれるプランも用意。EVはエンジン車と比べ、手放す際の価値の落ち幅が大きいのが一般的だが、EQCでは下取り価格に対する不安も軽減している。
EQCのこうした手厚い購入サポートも、他ブランドのEVとの違いを明確にする、メルセデスならではの安心感といえるだろう。
<SPECIFICATIONS>
☆400 4マチック(AMGライン装着車)
ボディサイズ:L4775×W1925×H1625mm
車重:2520kg
駆動方式:4WD
最高出力:408馬力/4160回転
最大トルク:78.0kgf-m/0〜3560回転
価格:1117万円
(文/工藤貴宏 写真/&GP編集部)
- Original:https://www.goodspress.jp/reports/274036/
- Source:&GP
- Author:&GP
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