デビューから5年以上が経過した2019年夏、大規模なマイナーチェンジを受けた日産自動車の「スカイライン」。
高速道路でのハンズオフドライブ=手放し運転を可能とした“プロパイロット2.0”採用のハイブリッド仕様や、2リッター直4ターボに代わり搭載された3リッターV6ターボモデルの登場などが話題となりました。
しかし、スポーツドライビング派にとって最も気になる存在といえば、最高出力405馬力のV6ツインターボエンジンを搭載する新グレード「400R」ではないでしょうか。スカイライン史上最強の心臓を得た400Rとは、果たしてどんな魅力を備えたモデルなのでしょう?
■400Rは世界でも希有な400馬力級スポーツセダン
結論からいってしまえば、400Rは“ツウ好みのスカイライン”というひと言に尽きます。
クルマはスペックだけで語れるものではありませんが、405馬力という最高出力は少なくとも、400Rにおける重要な個性となっているのは事実。もちろん世界的に見れば、一部のスーパースポーツカーは500馬力、600馬力というパワーウォーズの真っただ中にありますし、同じ日産自動車の「GT-Rニスモ」もまた、最高出力600馬力を標榜します。
しかし、ことセダンというジャンルに限ると、400馬力級のスポーツモデルといえば、日本車ではレクサス「GS F」くらいしか存在せず、海外勢に目を向けてみても、いわゆる特別仕立てのモデルがいくつか思い浮かぶ程度。そういう視点で見ると、400Rはまさに、ひと世代前のキャッチフレーズ「やっちゃえ日産」を想起させるモデルであり、メカニズム的にもかつての名コピー「技術の日産」を象徴する1台といえるでしょう。
400Rに搭載される405馬力の3リッターV6ツインターボエンジンは、304馬力の通常版と基本的には同じもの。一般的に、高出力を狙うなら大径タービンを用いるのが定石ですが、400Rでは通常版と同様、レスポンスに優れる小径タービンを採用しながら、専用のターボ回転センサーの採用で、そのポテンシャルを余すところなく使い切る手を選んでいます。
その上で、水冷式インタークーラーの冷却性能をさらに向上させるべく、強化ウォーターポンプを採用するなど、細部に至るまで調律を行うことで、通常版プラス100馬力のエクストラパワーを積み上げること成功しています。
また、ハイパワーを受け止めるべく、400Rの足回りには、スポーティなセッティングの“IDS(インテリジェントダイナミックサスペンション)”を採用。これは、クルマの挙動に対して1/100秒の素早さで4輪それぞれの減衰力を緻密に制御するシステムで、シーンに応じて最適なセッティングを実現しています。さらにIDSは、エンジンやトランスミッション、ステアリングと協調制御されており、ドライブモードセレクターで「SPORT+」、「SPORT」、「スタンダード」などのセッティング切り換えや、任意の調整も可能となっています。
そしてもうひとつ、400Rでは、現行スカイラインが世界で初めて採用した“DAS(電子制御ステアリング機構)”にも専用のチューニングが施されています。こちらもドライブモードセレクターでレスポンスの調整が可能で、「SPORT+」や「SPORT」モードではクイックなハンドリングとなるなど、メカニズムのポテンシャルをしっかりと引き出せるセッティングが用意されています。
こうした400Rのメカニズムをチェックしていて気づくのは、エンジンも足回りも電子制御の塊ゆえ、かつてのメカチューンとはアプローチこそ異なるものの、既存のシステムをベースにしながら各部を細部までチューニングしている、ということ。排気量アップや4輪駆動化といった“別モノ”仕立てではなく、こうした地道なチューニングもまた、ツウ好みだと感じさせる部分といえるでしょう。
■「SPORT+」モードで秘められたパフォーマンスが解放
400R専用のチューニングリストを見てしまうと、エクステリアはいささか控えめに映ります。通常モデルとの見た目の違いは、トランクリッド部に400Rのバッジが備わること、ドラミラーがブラックに塗られていること、そして19インチホイールがガンメタ塗装になること、といった程度に過ぎません。
インテリアには、専用のキルティングとレッドステッチが施された本革スポーツシートや、クロームメッキ+ダーククリア塗装のパドルシフトなどが備わりますが、こちらも、派手さより仕立てや質感を重視した設え、といったところ。こうしたオトナ向きの演出もまた、ツウ好みだと思わせる要素なのです。
そんな400Rの運転席に収まってエンジンをスタートさせ、ゆるゆると都会の雑踏へと踏み出します。
ハイブリッドカーや電気自動車が急速に普及している昨今、スタートボタンを押してもどこからかかすかにインバータ音が聞こえる程度のクルマに馴らされてしまっている耳には、「シュン」と目覚める400Rのエンジンサウンドが、いい意味でクルマらしさを実感させますし、その澄んだ音は秘めたパフォーマンスをも感じさせます。とはいえ、ドライブモードセレクターが「スタンダード」モードにある限り、その本性を乗員に感じさせることはありません。都市部の渋滞をゆっくり進むといった普段使いにおいても、十分応えてくれるセダンらしい洗練されたしつけが施されています。
しかし、舞台を高速道路やワインディングに移し、ドライブモードセレクターを「SPORT+」に切り換えると、400Rが秘めた本来のパフォーマンスが開放されます。
右足にじわりと力を込めれば、エンジンはアクセルペダルのミリ単位の操作に素早く反応してシャープに吹け上がり、ドライバーのステアリング操作にもリニアに反応。腰を中心にクルマが旋回していく感覚は、並みのセダンとは一線を画しています。
また、アクセルペダルを床まで一気に踏み込んだ時の加速は、思わず息をのみ、まばたきを忘れるほど強烈。さらに、コーナーからの脱出時、右足にグッと力を込めると、リアタイヤが地面をかき、ちょっとした緊張感を伴うような感覚も、FRスポーツカーならではといえるでしょう。
もちろん実際は、洗練された電子制御デバイスが陰に日向にとサポートしてくれますから、よほどのミスでも犯さない限り、破綻してスピンするといったことなどありません。しかし、こうした演出もまた、400Rならではの個性といえるでしょう。
■伝統とDNAを継承するV37型のイメージリーダー
スカイラインのヒストリーを振り返れば、成功したとされるC10型、C110型、R30型、R32型の各モデルも、販売上の主流だったのは、いわゆる普通のGT系グレードでした。しかし一方で、それぞれの世代には、「GT-R」や「RS」といったツウ好みのピリ辛グレードが用意され、熱心なクルマ好きを魅了するイメージリーダーとして君臨していたのです。
一方、GT-Rの独立として前後して登場したV35型、V36型のスカイラインでは、そうしたモデルが消滅したこともあり、「スカイラインは変わった…」と嘆くファンがいたのも事実。現行のV37型も、その流れを汲んでいるかのように見えました。
そういう点で、新たに加わった400Rは、スカイラインの伝統とDNAを受け継ぐ、ピリ辛グレードの現代流の解釈だと思うのです。俊足なスポーツセダンをお探しの人はもちろん、熱心なスカイラインファンを自認する方にこそ触れていただきたいのが、この400Rというツウ好みのグレードなのです。
<SPECIFICATIONS>
☆400R
ボディサイズ:L4810×W1820×H1440mm
車重:1760kg
駆動方式:FR
エンジン:2997cc V型6気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:7速AT
最高出力:405馬力/6400回転
最大トルク:48.4kgf-m/1600~5200回転
価格:562万5400円
(文&写真/村田尚之)
- Original:https://www.goodspress.jp/reports/274188/
- Source:&GP
- Author:&GP
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