小さいことを忘れちゃう!VW「Tクロス」は使える荷室と走りの良さが自慢です

VW(フォルクスワーゲン)のニューモデル「Tクロス」は、専用設計のボディを備えた同社製SUVとしては、最もコンパクトなクルマ。日本では2019年11月末に正式発表され、2020年1月以降に納車がスタートする最新車種だ。

そんなTクロスに対する第一印象は、「VWもやっぱりこう来たか」というものだった。

■使い勝手を重視して後席にスライド機構を採用

昨今、SUVは世界中で注目を集めているジャンルだが、特にヨーロッパや日本では、コンパクトなSUVが大人気。そんな市場に、巨大メーカーであるVWがニューモデルを投入するのは、当然の成り行きだ。だから筆者はTクロスを見て、真っ先に「VWもやっぱりこう来たか」という印象を抱いたのである。

Tクロスは、VWのコンパクトカー「ポロ」をベースに作られたモデルだが、外観のデザインは完全なるオリジナルで、そこにポロの面影は微塵もない。日本車でいえば、コンパクトカーのホンダ「フィット」をベースとした小型SUV「ヴェゼル」のポジショニングとカブる。

Tクロスの全長は4115mmで、同タイミングでの登場、かつ同じ1リッターターボエンジンを積む人気モデル、トヨタ「ライズ」(3995mm)と比べるとやや大きい。全幅も1760mmとライズ(1695mm)に比べてワイドで、5ナンバーサイズからははみ出してしまうが、自宅の駐車場が極端に狭いという人でなければ、普段使いで特に困るほどの大きさではないだろう。

とはいえ、単に人気のコンパクトSUVというだけで、大ヒットが約束されるほど世の中は甘くない。強力なライバルがひしめく人気ジャンルゆえ、後発モデルになればなるほど、デザインや機能、そして実用性などの面で大きな特徴を備えていなければ、数あるライバルの中で埋もれてしまう。では、新しいTクロスの見どころはどこにあるのか? それはユーティリティ、特にラゲッジスペースだ。

通常の状態でも385Lと、ボディサイズを考えれば広めの荷室容量が確保されているTクロスだが、最大のトピックは、積む荷物のサイズや量に合わせ、荷室容量をアレンジできる点にある。

Tクロスのリアシートには、同クラスとしては極めて珍しいシートスライド機能が組み込まれている。他のモデルに採用例が少ない理由は、構成部品が増えて車両重量がかさみ燃費が悪くなることと、コストアップにつながるためプライスに反映せざるを得ないため。しかしTクロスは、そうした課題に屈せず、後席にスライド機構を盛り込んできた。

その結果、リアシートを最も前方までスライドさせると、Tクロスの荷室容量は455Lへと広がる。ちなみに、ラゲッジスペースの広さに定評のあるヴェゼルでも、その容量は393Lしかない。

しかもTクロスは、後席を一番前までスライドさせた状態でも、リアに人を乗せられる(足元は多少狭くなるが)上に、リアシートの背もたれを倒すと、荷室容量を最大1281Lまで拡大できる。そう考えると、Tクロスのラゲッジスペースがいかに広くて実用的な仕立てであるかが想像できるはずだ。

キャンプやウインタースポーツなどでクルマをアクティブに使うユーザーにとって、荷室の広さや使い勝手はクルマ選びにおける外せないポイント。コンパクトなボディに広くて使える荷室を備えている点は、ライバルに対するTクロス最大のアドバンテージであり、まさに時流に乗ったクルマといえるだろう。

■コンパクトであることを意識させない安定感ある走り

そんなTクロスは、ベースモデルとなったポロのノーマルモデルとは異なるエンジンを搭載する。1リッターの3気筒ターボという形式こそ同じだが、最高出力95馬力、最大トルク17.9kgf-mのポロに対し、116馬力、20.4kgf-mと、Tクロスのそれは高出力版へとアップグレードされている。この変更は、ポロよりも重くなった車体への対応と、多くの荷物を積み込んで出掛けるシーンでも歯がゆさを感じないようにとの配慮からだ。こうした作り分けも、ポロとのキャラクターの違いを感じさせる。

試乗してみると、昨今のターボ車としては珍しく、発進時やアクセルを踏み込んだ直後に反応の遅れ、いわゆる“ターボラグ”を感じる。とはいえ、高回転域まで回すと、なかなかのパンチ力を発揮してくれて力強いから、クルマ好きなどに好まれるセッティングといえるかもしれない。

それと同時に、ドライブして感心したのは、ボディの剛性感の高さと、しっかりとしたハンドリングフィール、そして、ハイスピード領域における安定感だ。ワインディングでも高速道路でも、ドライバーは安心してドライブすることができ、ボディサイズの小さいクルマであることをほとんど意識させない。

■内外装を彩るデザインパッケージは上級仕様のみの特権

現時点におけるTクロスのラインナップは、日本への導入記念モデルとして設定された「TSIファースト」と「TSIファースト・プラス」の2グレード。前者は299万9000円、後者は335万9000円のプライスタグを掲げている。それぞれの価格差は36万円と大きいが、お勧めは断然、TSIファースト・プラスだ。なぜなら、装備が充実しているだけではなく、カラーコーディネートも楽しめるから。

TSIファースト・プラスには、“デザインパッケージ”と呼ばれるコーディネートが導入されていて、ドアミラーやホイール、ダッシュボード、そしてシート表皮のカラーリングに、アクセントカラーがプラスされる。アクセントカラーは、ボディカラーによって異なるが、ブラック、グリーン、オレンジの全3色を用意。中でも、ホワイト、オレンジ、グレー、ブラックのボディカラーに設定されるオレンジのアクセントカラーは、Tクロスの内外装をアクティブで楽しい雰囲気にコーディネートしてくれる。

また、TSIファースト・プラスは装備面でも充実していて、TSIファーストに対して2インチアップとなる18インチのタイヤ&アルミホイールや、パドルシフト、インテリアアンビエントライト、レーンキープアシストシステム、ハイビームアシストなどが追加される。

一方、TSIファーストはベーシックグレードでありながら、衝突被害軽減ブレーキや、先行車を完全停止状態まで追従して走行するアダプティブクルーズコントロール、カーナビゲーション、そして、非接触式のスマホ用充電ポートと、計4個のUSBポートなどを標準装備。299万円というプライスタグは一見、高価に感じるかもしれないが、同クラスの日本車ではオプション扱いとなるカーナビまで標準装備されることを考えると、コストパフォーマンスはそれなりに高いと思う。

ボディサイズは小さいけれど、ラゲッジスペースは広くて実用的。ドライブフィールはドイツ車らしくしっかりしていて、ロングドライブでも疲れにくい。その上、上級グレードなら、個性的なカラーコーディネートも楽しめる。そんなTクロスは、ありきたりなコンパクトSUVでは満足できない人に、ぜひ注目して欲しいモデルだ。

<SPECIFICATIONS>
☆TSIファースト・プラス
ボディサイズ:L4115×W1760×H1580mm
車重:1270kg
駆動方式:FF
エンジン:999cc 直列3気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:7AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:116馬力/5000〜5500回転
最大トルク:20.4kgf-m/2000〜3500回転
価格:335万9000円

(文/工藤貴宏 写真/&GP編集部、フォルクスワーゲン グループ ジャパン)

 


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