スズキ新型「ハスラー」はココがスゴい!常識破りのボディ&新エンジンで走りに変革

約6年ぶりにフルモデルチェンジし、2代目へと進化したスズキのクロスオーバーSUV「ハスラー」。

前回は内外装デザインやパッケージング、そして、室内の使い勝手について紹介したが、後編となる今回は、メカニズムの特徴や走りのフィーリングについて解説する。

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■スズキ車で初めてボディ補強に構造用接着剤を導入

新型ハスラーの走りを理解する上で、まず押さえておきたいのは、操縦安定性や乗り心地の方向性だ。

開発責任者は、新型は初代モデルに対し、「雰囲気はよりオフローダーに、走りはよりオンロード寄りに」という方向を目指したと語る。初代は見た目だけでなく、走りの特性においてもオフロードシーンを重視したクルマだったが、購入したユーザーの使い方を調査したところ、「実際に悪路を走る人は少なく、それよりも舗装路での走行感覚や快適性を求める声が多かった」という。

そこで新型は、走りの方向性をシフト。「初代のオフロード性能を100とするならば、その60%をオンロード志向へと振り分け、日常シーンでの操縦安定性や安心感を向上させた」結果、車体の上下方向の動きを、初代モデル比で6割も抑えてきた。

そうした走りの要となるプラットフォームは、スズキの最新技術である“HEARTECT(ハーテクト)”を採用。車体の骨格に、昨今、トレンドとなっている“環状構造”を取り入れた同技術により、ボディ強度を高めてきた。

 

さらに注目したいのは、その先。なんと新型ハスラーのボディには、スズキ車として初めて、構造用接着剤が用いられているのだ。

構造用接着剤によるボディ補強は、部品どうしのわずかなすき間を接着剤で埋めることで、接合部やクルマ全体のしっかり感や一体感が高まり、操縦安定性や乗り心地が向上する手法。しかし、コストアップにつながるため、これまでスズキ車では採用例がなかった。そうした手法が、軽自動車のハスラーにおいて初めて採用されたことは、注目に値する。

ちなみに、新型ハスラーに関する説明を聞いていて驚いたのは、操縦性や走りといったキーワードが、従来のスズキの軽自動車と比べて多数登場したこと。正直なところ、従来のスズキの軽自動車は、「アルトワークス」などのスポーツモデルを除き、走りへのこだわりがあまり感じられなかった。そこには、燃費向上のための徹底した軽量化や、低価格実現のためのコストカットを重視するスズキにとって、車重増やコストアップにつながる手法は、導入したくても敬遠せざるを得なかったという背景もある。

そんなスズキが、車重増やコストアップをいとわずにボディ補強を重視し、走りの性能を高めてきたというのは、大きなトピック。結果として新型ハスラーは、初代モデルに対し、車体変形における粘り強さの目安となる“ねじり剛性”で約30%、曲げ剛性で約20%の向上を果たしている。

■自然吸気エンジン搭載のFF仕様は軽自動車随一の乗り心地

もうひとつ、新型ハスラーのメカニズムで大きなトピックといえるのが、新しいエンジンの採用だ。

新型ハスラーには、NA(自然吸気=ナチュラルアスピレーションまたはノーマルアスピレーション)仕様と、高出力のターボ仕様という2タイプのエンジンが用意されるが、前者に新開発のエンジンを導入してきた。新しいNAエンジンは、効率を高めるべく、通常はひとつのシリンダーに対して1個しかないインジェクターを、シリンダーごとに2個搭載した“デュアルインジェクションシステム”を採用したほか、ロングストローク化によって低回転域でのトルクも強化。スズキの次世代を担うNAエンジンが、新型ハスラーから投入されたのである。

新開発のNAエンジン車をドライブしていて魅力的だったのは、動力性能が十分確保されている点。特に、停止状態からの加速において、力強さを実感できた。「NAエンジンの軽自動車だから、加速はこの程度かな」と甘く見ながらアクセルペダルを踏み込むと、その予想はあっさりと裏切られることに。低速域から十分なトルクが湧き出て、思ったよりもしっかり加速。スピードのノリもいいから、郊外のバイパスなど速度域の高い道路への合流も、悩まされることはなかった。NAエンジン搭載の軽自動車でこの加速は、大したものだ。

そうした加速の力強さには、全グレードに搭載される“ISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)”も効いている。これは、低速での加速時にモーターがアシストしてくれる機構で、エンジンとモーターとの相乗効果により、力強い加速を実現している。ちなみに新型ハスラーのISGは、モーターの出力向上と充放電効率を向上させたリチウムイオンバッテリーの採用などで、モーターアシストの時間が初代モデル比で1割アップしている。

さらに新開発のCVTも、軽快な走りをバックアップしている。CVTといえば、一般的には加速フィールが不自然という印象があるが、新型ハスラーに採用されるCVTは、車速の伸びに対するエンジン回転の上昇がとても自然。爽快な加速フィールを実現している。

そして、FFのNAエンジン車をドライブして驚いたのは、乗り心地の良さだ。初代モデルは、ボディの上下動が大きく、走っていてバタバタする印象があったが、新型ではそれが一変。路面からの衝撃を足回りやボディがしっかり吸収し、緩和してくれるため、車体はフラットに保たれ、ドライブしていて不快感がない。

FFのNAエンジン車は、全軽自動車の中でトップクラスの乗り心地の持ち主だ。

■ストレスフリーの走りを求めるならターボ車がベター

新しいNAエンジンの完成度は上々だが、交通の流れをリードするような加速や、高速道路などスピードレンジが高い領域でもストレスフリーの走りを求めるなら、やはりターボ仕様がお勧め。

ターボ仕様は、NAエンジンと比べて約1.7倍の最大トルクを発生するため、走りの差は歴然。しかも新型ハスラーは、全グレードでターボエンジン仕様を選べるほか、NA仕様との価格差も10万円ほどなので、個人的には積極的にターボ車を選びたいところだ。

燃費の悪化を心配する人もいるかもしれないが、実は走行状況によっては、アクセル開度が小さくて済むターボ車の方が、NAエンジン車より燃費が優れることもある。そうした背景もあってか、アウトドアシーンなど、アクティブに使われることの多かった初代ハスラーは、他の軽自動車よりもターボ車比率が高かった。その比率は、一般なモデルでは約1割だが、初代ハスラーは約3割がターボエンジン搭載車だったという。

そんなターボ仕様をドライブしてみると、エンジン自体の実力もさることながら、軽快なハンドリングが印象的だった。「操縦性を引き上げた」と開発陣が豪語するだけあって、ドライバーのハンドル操作に対する車体の動きが、とても素直。ムダな動きがなく素直な操縦性には驚かされる。

一方、ターボエンジンの試乗車は4WDとの組み合わせだったせいか、FFのNAエンジン車に比べると車体の上下動が大きく、乗り心地は明らかに見劣りした。どうやらこれは、4WD化によるサスペンションの変更が大きく影響しているらしく、バネ下重量(可動部の自重)が増えた結果、乗り心地の悪化につながっているようだ(とはいえ、それでも初代よりは大幅に改善されているが…)。

確かに4WD仕様には、雪道やアイスバーンでのスムーズな発進をサポートする“スノーモード”や、ぬかるみや雪道などの滑りやすい路面での発進をサポートする“グリップコントロール”、急な下り坂での車速を制御する“ヒルディセントコントロール”などが装備され、路面状況を選ばずゆとりある走りを実現してくれる。

しかし、乗り心地重視で新型ハスラーを選ぶなら、現時点でのお勧めは間違いなくFF仕様だ。

<SPECIFICATIONS>
☆ハイブリッドX(2WD)
ボディサイズ:L3395×W1475×H1680mm
車重:820kg
駆動方式:FF
エンジン:657cc 直列3気筒 DOHC
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:49馬力/6500回転
エンジン最大トルク:5.9kgf-m/5000回転
モーター最高出力:2.6馬力/1500回転
モーター最大トルク:4.1kg-m/100回転
価格:156万2000円(ツートーンカラー仕様)

<SPECIFICATIONS>
☆ハイブリッドXターボ(4WD)
ボディサイズ:L3395×W1475×H1680mm
車重:880kg
駆動方式:4WD
エンジン:658cc 直列3気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:64馬力/6000回転
エンジン最大トルク:10.0kgf-m/3000回転
モーター最高出力:3.1馬力/1000回転
モーター最大トルク:5.1kg-m/100回転
価格:179万800円(ツートーンカラー仕様)

(文/工藤貴宏 写真/&GP編集部)


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