2019年10月、メルセデス・ベンツ「Eクラス」セダンに、新グレードが追加されました。
Eクラスといえば、古くからパーソナルな用途はもちろんのこと、法人車両としても人気の高いアッパーミドルセダンであり、メルセデスの中核を担う重要なモデル。そんなEクラスは、小排気量の直4から大排気量のV8まで多彩なエンジンラインナップを擁していますが、先頃新たに加わったのは、乗用車としては日本初となる“ディーゼルエンジン+電気モーター”のPHEV(プラグインハイブリッドカー)です。
凝ったメカニズムを採用した最新のEクラスは、果たしてどんな実力の持ち主なのでしょうか?
■ハイテクメカを意識させない控えめなルックス
現行型Eクラスが日本に上陸したのは、2016年のことでした。以来、数ある輸入車の中で、新車登録台数は常にトップ10圏内をキープ。メルセデスの日本向けラインナップにおいては、ひと回りコンパクトな「Cクラス」と拮抗するセールスを記録する人気モデルゆえ、その成り立ちについての説明など不要かもしれませんね。
そんなEクラスの最新ラインナップは、1.5リッター直4ガソリンターボエンジンを搭載する「E200アバンギャルド」、2リッター直4ディーゼルターボを搭載する「E220dアバンギャルド」、2リッター直4ガソリンターボを積む「E300アバンギャルドスポーツ」、3リッターV6ガソリンツインターボの「E450 4マチック」、さらには、直6やV8エンジンを積むAMGシリーズなど、エンジンだけでも多彩なバリエーションが用意されています。さらに、4WD仕様やステーションワゴン、クーペやカブリオレなども設定されており、すべて合わせると全29モデルにも達するワイドバリエーションを誇ります。
そんな多彩な、いや多彩過ぎるEクラスにおける最新モデルが、ディーゼルターボエンジンに電気モーターを組み合わせたPHEV、「E350deアバンギャルドスポーツ」です。ハイブリッドカーといえば、日本車に一日の長がありますが、実はディーゼル+モーターの組み合わせとなると、乗用車では日本初の設定となります。
エンジンには、“sDPF(選択触媒還元法コーティング付粒子状物質除去フィルター)”を始めとする最新の排気浄化システムを備えた、最高出力194馬力の2リッター直4ディーゼルターボを採用。そこに組み合わせられる電気モーターの最高出力は122馬力で、システムトータルの最高出力は306馬力、同最大トルクは71.3kgf-mをうたいます。加えて、リアシートの背後に13.5kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載。これにより、電気モーターだけで最長50kmの走行を可能にしています。
E350deは外部からの充電が可能なPHEVとあって、リアバンパーに設けられたリッド内に充電用ポートを装備しています。
メルセデスはすでに、EV(電気自動車)の「EQC」を日本で販売していますが、そちらが未来的なルックスをまとうのに対し、E350deはフロントフェンダーに小さく「EQ POWER」のエンブレムが与えられる程度。遠目に一瞥しただけでは、PHEVであることすら分からないほど控え目なたたずまいです。
もちろん、Eクラスの主たるユーザー層を考えれば、この方がむしろ好ましく映ることでしょう。
■メルセデスらしく初物であっても完成度は上々
E350deのドライバースシートに腰を下ろし、運転席周りを眺めます。キャビン内も基本的に、ノーマルのEクラスと変わるところはありません。
内外装のトリムは、「アバンギャルドスポーツ」を名乗るだけあってスポーティな仕立て。エクステリアでは、フロントスポイラーやサイド&リアスカートからなる「AMGスタイリングパッケージ」が、インテリアでは、ナッパレザーの本革シートが標準となっています。
それらは、2リッター直4ガソリンターボエンジンを積むE300アバンギャルドスポーツに準じた設えですが、12.3インチの液晶ディスプレイを2枚用いたメーターパネルの表示に目をやると、このクルマが“電気で走る”ことを認識させられます。
メーター表示のデザインは、動力が“エンジンのみ”のモデルと基本的に共通ですが、表示項目の中に、バッテリーの充電状態やモーター走行に対応した表示、そして控え目な“EQ”ロゴが添えられているのです。もちろん、この辺りの違いは「いわれてみれば…」といったレベルですが、従来モデルから乗り換えても無用な混乱を招かないためには、必要な配慮といえるでしょう。
さて気になる走りは、結論からいってしまうと、想像以上に滑らかで活発、といったところ。プラグインハイブリッドモードとして「ハイブリッド」、「Eモード」、「Eセーブ」、「チャージ」の4種類が設定されており、「エコ」、「コンフォート」、「スポーツ」、「スポーツ+」、「インディビジュアル」という5つの走行モードと組み合わせることが可能です。
恐らく、最も一般的な使い方となるハイブリッドモードでは、バッテリー残量が十分な状態であれば、EVさながらにモーターだけで走り始めます。モーター走行時の優れた静粛性は、いうまでもなくEV級。車外からかすかにタイヤのノイズが聞こえる程度です。
そこからアクセルペダルを大きく踏み込んでエンジンが始動すると、その力強い加速感にちょっとした驚きこそありますが、その際、音質や音圧のギャップを感じることはありません。もちろん、ディーゼルならではの軽いビートを伴ったエンジン音が明確に室内へと伝わってきますが、ドライバーや同乗者を刺激するような雑音は見事に抑えられています。また、モーターとエンジンとが切り替わる際も洗練されていて、日本車と同様、滑らかでショックや振動の類を感じることはありませんでした。
とはいえ、ディーゼルエンジンが発する音質そのものが苦手、という人もいるかもしれません。実は、E350deアバンギャルドスポーツと時を同じくして、2リッター直4ガソリンターボエンジンに同様のハイブリッドシステムを組み合わせた「E350eアバンギャルドスポーツ」も導入されていますから、「あの音が苦手だけどハイブリッド車が欲しい」という人は、そちらを検討されるといいでしょう。
さて、ディーゼルエンジン+プラグインハイブリッドという凝ったメカニズムや、Eクラスというモデルの車格を考えると、E350deはまさに、普段使いからロングドライブまで完璧にこなす優等生、といった印象ですが、サルーンとしてはちょっと気がかりな部分もあります。
実は、リチウムイオンバッテリーをリアシート背後に搭載した結果、ラゲッジスペースの容量が540Lから370Lへと減少しているのです。ビジネスエクスプレスとして使う分には、さほど気になることはないでしょうが、4名乗車かつ泊りがけでのゴルフやレジャーのアシとして使うには、荷物の積載などに工夫を必要とするかもしれません。
とはいえ、通常のガソリン車やディーゼル車から乗り換えても、走りや設えに違和感を覚えない完成度の高さは、さすがはメルセデスといったところ。「EVに興味はあるけれど充電設備の問題が…」という人や、「まずはPHEVから電動車を試してみたい」という人にとって、E350deは要注目の1台といえそうです。
<SPECIFICATIONS>
☆E350deアバンギャルドスポーツ(欧州参考値)
ボディサイズ:L4923×W1852×H1475mm
駆動方式:FR
エンジン:1950cc 直列4気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:9速AT
エンジン最高出力:194馬力/3800回転
エンジン最大トルク:40.8kgf-m/1600~2800回転
モーター最高出力:122馬力
モーター最大トルク:44.9kgf-m
システム最高出力:306馬力
システム最大トルク:71.4kgf-m
価格:875万円
(文&写真/村田尚之)
- Original:https://www.goodspress.jp/reports/279637/
- Source:&GP
- Author:&GP
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