2014年3月のジュネーブモーターショーで初お披露目された、アウディの現行型「TTクーペ」。デビューから間もなく丸6年を迎えるロングセラーだが、その内外装デザインはいまだ色あせていない。
そんなTTクーペが、2019年にマイナーチェンジを受けた。今回はそんな個性派の高性能バージョン、「TTSクーペ」の魅力を検証する。
■アウディのSは性能と装備内容が絶妙
ドイツの3大プレミアムブランドといえば、メルセデス・ベンツ、BMW、アウディだが、各社の商品展開は実に分かりやすい。
スタンダードモデルと並行して、飛びきりの走行性能と豪華な仕立てのインテリアを組み合わせた超高性能モデルを展開し、イメージリーダーに位置づけるのだ。それが、メルセデス・ベンツにとってのAMGであり、BMWのMである。
メルセデス・ベンツを例にとると、コンパクトハッチバックのスタンダードモデルとして「Aクラス」があり、それをベースに、排気量2リッターながら421馬力という驚異的な高性能エンジンを搭載した、メルセデスAMG「A45」をラインナップしている。BMWも例に漏れず、ミドルセダンの「3シリーズ」に、スポーツセダンの代表格ともいえる高性能バージョン「M3」を設定している。
そうした超高性能モデルは、世界市場で大人気を獲得している。しかし、強いてウィークポイントを挙げるなら、性能を突き詰める余り、普通の人ではその真価をフルに味わえなくなってしまったこと、そして、価格が高いことが挙げられる。
そこで昨今、注目されているのが、スタンダードと超高性能仕様との間を埋める、絶妙な位置づけのモデル。Aクラスでは、306馬力のメルセデスAMG「A35」が該当し、3シリーズでは、387馬力の「M340i xDrive」が相当する。それらはハイエンドモデルほど過激ではないが、ドライバーに刺激を与えるには十分な性能を備え、価格もほどほど。人気が高まってきているのも納得できる。
少々前置きが長くなったが、もうひとつのドイツ御三家であるアウディも、そうした絶妙な位置づけのモデルをかねてより展開してきた。基本的に、AやQといった英字を車名に掲げるのがスタンダードモデルであり、超高性能バージョンにはRSが、そして、両車の中間を埋めるモデルには、Sの文字が車名に使われる。
ここに紹介するTTSクーペは、コンパクトスポーツカーのTTクーペをベースにしたSシリーズ。超高性能バージョンの「TTRSクーペ」(販売終了)が最高出力400馬力/989万円(消費税8%)だったのに対し、TTSは286馬力/814万円と、絶妙な位置づけとなっている。
■TTSのエンジンは五感でドライバーを刺激
TTSのスタイリングは、スタンダードのTTとかなり異なる。TTSは、アルミをアクセントとしたマットブラック仕上げの専用のハニカムグリルや、同じくTTS専用の前後バンパーを装着し、TTとの違いをアピール。それでいて、ドアミラーはボディ同色ではなく、あえてシルバーでコーディネートし、TTRSほど武骨ではないものの、適度にスマートに仕立てられている。
TTSの駆動方式は、“クワトロ”と呼ばれるアウディ自慢のフルタイム4WD。エンジンは排気量や基本設計こそスタンダードなTTと共通ながら、専用のターボチャージャーを組み合わせることで、56馬力のパフォーマンスアップを果たしている。
実際ドライブしてみると、この56馬力の差が結構大きい。特に違いを感じるのが、高回転域での盛り上がり方だ。高性能モデルをドライブすることの喜びのひとつとして、エンジン回転数が高まっていく際のフィーリングとパンチ力が挙げられるが、TTSのエンジンも、そこをしっかりチューニングしているのがうかがえる。TTと比べると、明らかに回転の上昇が鋭くて刺激的。その上、高性能モデルらしい太い排気音が、ドライバーの気分を高めてくれる。
アウディのエンジンといえば、昨今はスポーティなフィーリングよりも、道具としての絶対的な性能を重視していたように思う。例えばそれは、低回転域でのトルクを重視した、優等生的なフィーリングなどに見てとれる。クルマが置かれる昨今の状況を考慮すれば、それは確かに正解なのだが、ドライバビリティという観点で捉えると、刺激が少なく物足りないのも事実である。
しかし、スポーティなフィーリングを大切にしているTTSのエンジンは、音も含めた五感でしっかりと高性能を味わえる。しかも、286馬力と超高出力ではないため、高速道路の合流時など多くのシーンで、“おいしい領域”を堪能できるのも魅力的だ。
■オーナーの所有欲を満たす特別な仕立て
高性能仕様のTTSクーペには、もうひとつ見逃せない魅力がある。それは、スタンダードなTTクーペよりも、あらゆる部分の仕立てが上質ということだ。
まずシートには、カラダを適度に包み込む、スポーツカーならではのホールド性に優れたタイプを採用。シート生地には、アルカンターラとレザーという上級なマテリアルをおごるなど、インテリアはTTよりスポーティかつラグジュアリーな仕立てとなる。
またヘッドライトは、TTではオプションとなる“マトリクスLEDライト”を標準装備。これは、状況に応じて照射範囲を細かく切り替えることで、周囲のクルマなどに迷惑をかけることなく、可能な限りハイビームを照射する機能で、照射範囲の切り替えパターンは約10億通りという、なかなか凝った装備だ。
さらにショックアブソーバーにも、磁気の混ざった流体を封入し、磁力を活用して減衰力をアクティブに制御する“アウディマグネティックライド”を標準装備するなど、同ブランドの最新技術が投入されている。
その結果、TTSの走行フィールは、TTと比べて明らかにスポーティなものとなっている。しかも、上質なインテリアと先進装備によりTTより快適性が高く、所有欲をより満たしてくれるのだ。「開発陣が本当に作りたかったTTとは、実はTTSなのではないか」と思えるほど、コンパクトスポーツカーとしては理想的な仕上がりだ。
普通のクルマでは刺激が足りないけれど、超高性能モデルは不要と考える人にとって、TTSクーペは最適な選択肢といえるだろう。
<SPECIFICATIONS>
☆TTSクーペ
ボディサイズ:L4200×W1830×H1370mm
車重:1460kg
駆動方式:4WD
エンジン:1984cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:6速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:286馬力/5300〜6200回転
最大トルク:38.8kgf-m/1800〜5200回転
価格:814万円
(文/工藤貴宏 写真/&GP編集部)
- Original:https://www.goodspress.jp/reports/280942/
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- Author:&GP
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