ズーム領域は100倍に、100メガカメラで何を撮る?
サムスンの新製品は「Galaxy S20」「Galaxy S20+」「Galaxy S20 Ultra」の3機種。サムスンはこれまで春先の大型新製品は本体サイズを変えたモデルを投入してきた。たとえば昨年は「Galaxy S10e」「Galaxy S10」「Galaxy S10+」の3モデルで、カメラスペックを若干変えつつ画面サイズも変えて3つが投入された。なお同時に5Gに対応した「Galaxy S10 5G」も発売されている。
この2019年春モデルに対し、2020年の春モデルは最上位モデルに究極のカメラを搭載した「Galaxy S20 Ultra」が投入された。ウルトラという名前を付けるだけあって、このGalaxy S20 Ultraのカメラは業界最高のスペックを持つと言っても過言ではない。なおサムスンは2020年モデルから本体背面のカメラ配置を、左上に長方形の台座を配置してその中に複数のカメラを埋め込むデザインとした。
さてGalaxy S20 Ultraが搭載するカメラは贅沢すぎてどう使い分けていいか悩ましいほどかもしれない。まずは広角カメラ。業界初は逃したが、108メガピクセル=1億800万画素のカメラ搭載スマホはGalaxy S20 Ultraが2機種目となる。そして普段はこのカメラだけを使って撮影してもいいかもしれない。というのも108メガのカメラで写真さえとっておけば、あとは写真の一部を拡大して切り抜いて、その部分をSNSでシェアできる。高画質で撮影された写真なので、一部を切り取って拡大しても十分「見られる」写真になるのだ。
もう一つの高画質カメラは4800万画素のズームカメラ。こちらはレンズを横に配置するペリスコープ方式で、潜望鏡を小さくした構造のもの。潜望鏡は縦に伸びるが、このカメラはスマホ背面内で横に伸びるため小さいボディーの中でも高倍率なズーム性能を出すことができるのだ。Galaxy S20 Ultraのズームカメラは光学4倍。これにデジタルズームを組み合わせたハイブリッドズームで10倍を実現する。
さらにデジタルズームでは100倍と、もはやスマホカメラとは思えない超望遠撮影を可能にする。ちなみにこれまでの最高ズーム倍率はファーウェイの「P30 Pro」が50倍、OPPOの「Reno 10倍ズーム」が60倍だった。勢いの乗る中国メーカーはカメラ性能でも大手メーカーを圧倒、存在感を高めてきた。しかしここに来てサムスンがようやく反撃に出てきたのだ。1億画素カメラのモジュールも実はサムスン製で、ソニー製カメラモジュールに頼る他社を出し抜くことに成功もしたというわけだ。
8Kビデオが当たり前になる5Gの世界
「100倍」「108メガ」という、2つの「100」カメラを搭載しているのはGalaxy S20 Ultraだけだが、他の2機種、「Galaxy S20+」と「Galaxy S20を加えた3機種に共通しているのが8Kビデオの録画機能だ。今や家庭のTVでも4Kが当たり前になってきたが、8Kはその倍の解像度、縦横で言えば4倍高度な画質を提供する。8K TVは日本でもまだシャープやLGから数機種しか販売されておらず、ソニーも同社初の8K TV「BRAVIA Z9H」シリーズを発売したばかり。まだまだ8Kは一般消費者には遠い存在だ。ところがGalaxy S20シリーズはだれもが買えるスマホにもかかわらず、8K TVでそのまま見ることのできる超高画質な8Kなビデオを撮影できるのだ。
しかしスマホで8Kビデオを撮影しても、そもそもスマホの画面解像度は8K以下のために、そのままでは8Kビデオの美しさをフルに表示することはできない。またTVを中心とした映像伝送ケーブルとして使われるHDMIケーブルも、現行規格では4Kにしか対応しておらず、8K対応は今年の夏になる。つまりせっかくGalaxy S20シリーズで8Kビデオを撮影しても、現時点ではあまり活用できないのだ。もちろん1年もたてば8K環境は大きく進化しているだろうから、その先行投資としてGalaxy S20シリーズを買うのも悪くはない。
だが8Kビデオ撮影はそのまま動画を楽しむだけではなく、動画から静止画を切り出して楽しむ使い方もある。すでに自分のスマホで普段から動画を撮っている人たちは、友人にその1シーンを送るときに画面をキャプチャして写真として送信する人もいるだろう。このキャプチャ画像も元の動画が8Kであれば、細かい部分もはっきりと見えるより美しいキャプチャ写真を撮れるわけだ。Galaxy S20シリーズには動画撮影中にワンタップで写真に書きだしできるボタンを動画生成アプリ上に配置している。
これからはもう外出中に何か気になるものを見たら、とりあえず8Kビデオで数秒でもいいから録画し、あとでSNSでシェアしたいときはその一部をキャプチャして高画質な写真として送る、という使い方も十分実用的になるのだ。もうこれからはスマホのカメラをカメラとしてではなく、ビデオレコーダー、あるいはハンディカムとして使うようになっていくかもしれない。
このようにGalaxy S20シリーズのカメラは、S20 Ultraの2つの「100」、あるいは全モデルが8K録画できることで、他社のスマートフォンカメラとは全く違う使い方をすることができるようになるだろう。しかも3モデル共に高速な5Gに対応。つまり1億画素カメラで撮影した高精細な大容量の写真ファイルや、8K録画した長時間ビデオクリップも5Gを使って高速・低時間でアップロードすることができるのだ。日本では3月から5Gが始まるが、もし日本でGalaxy S20シリーズが出てくるなら5Gを使うための選択肢として候補にいれるべきだろう。
ライバルはアップルではなくファーウェイ
サムスンがここまでカメラに気合を入れたスマホを出したのはこれが初めてのことだろう。すでに長年スマホで世界シェア1位のサムスンは、最新技術をいち早く搭載したフラッグシップモデルや、低価格で買いやすいスマホの数を増やすことで1位の座を守ってきた。しかしここ1-2年の間にサムスンの存在を脅かすメーカーが現れている。もちろんそれはアップルではない。アップルのiPhoneは確かに世界中で人気だが、スマホ全体の販売数では3位に過ぎないのだ。そのアップルを抜きサムスンの1位の座を数年内に狙っているのがファーウェイだ。
ファーウェイが毎年春に出すフラッグシップモデル「P」シリーズは、ライカカメラの搭載で世界中でファンを増やし続けている。iPhoneを使いながらファーウェイのP30 Proをカメラとして使うという人もいるほどだ。ファーウェイの躍進は何といっても「業界一の高性能・高画質カメラ」を搭載したスマホメーカーという認知が広がったからである。それに対してサムスンもカメラ性能を高めてきたが、サムスンの春のフラッグシップモデルはあくまでも「ハイエンドスマホ」であり、カメラ強化スマホという印象は薄い。
ファーウェイは今、逆風を強く浴びている状況だ。製品の基本性能は年々大幅に高まっており、5Gの対応やAI機能でも他社を大きく引き離している。しかしスマホを遣うにはアプリが必要だ。そのアプリの提供でファーウェイはアメリカから経済制裁を受けたことにより、グーグルサービス(GMS)の搭載ができず、メジャーなアプリを使うことができない。ファーウェイは独自のサービスとしてファーウェイモバイルサービス(HMS)を提供しているが、アプリストアに賛同する企業の数はまだ少なく、スマホの地図サービスといった基本的な部分でもグーグルには追いついていない。「最強のハードウェア」を搭載しながら、「最新ソフトウェア(アプリ)を利用できない」のがファーウェイの2019年夏以降発売されたスマホの実情なのだ。
サムスンはそのファーウェイのカメラスマホにようやく真っ向から対抗でき、しかも性能も優れたGalaxy S20シリーズを投入することで、世間の目を自社に向かせようとしている。「いいカメラが欲しければファーウェイのスマホ、だけどグーグルが使えないよね」という状況が長引けば、「そういえばサムスンのカメラはすごいらしいぞ」とサムスンに再び目を向ける消費者の数も増えてくるだろう。
2020年の春商戦は、新型コロナウィルスの影響で各社ともサプライチェーンに大きなダメージを受け、新製品の投入スケジュールも大場に遅延するだろう。。一方サムスンはスマホの生産を中国からベトナムに移行しており、中国からの部材供給の影響は受けているものの、製造そのものは中国国内に工場を持つメーカーよりも影響を最小限に抑えることができそうだ。Galaxy S20シリーズのどの機種が日本で出てくるかはわからないが、サムスンの「打倒ファーウェイ」の思いがこもった最新モデル、発売されたときにはぜひそのカメラ機能を試してほしい。
- Original:https://www.digimonostation.jp/0000122265/
- Source:デジモノステーション
- Author:山根康宏
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