やっと完成形になったファーウェイの折りたたみスマホ
今から1年前の2019年2月、サムスンが「Galaxy Fold」、ファーウェイが「Mate X」とそれぞれ折りたたみスマホを発表し、スマホ大手2社による「フォルダブルスマホ」の戦いが幕を開けた。それから1年後、2020年2月11日にサムスンは新しく縦折り式デザインのスマホ「Galaxy Z Flip」を発表、折りたたみスマホの世界に新たな風を吹き込んだ。
一方、2月24日にスペイン・バルセロナで新製品発表会を開催したファーウェイの目玉製品は同じ折りたたみデザインのスマホ「Mate Xs」だった。同社コンシューマービジネスグループCEOのリチャード・ユー氏は「最新のCPUと5Gに対応した究極の折りたたみスマホ」とこのMate Xsを大きくアピールしたが、実は昨年のモデル「Mate X」とデザインは同じ横折り式、しかも本体の大きさやカメラ性能などは同一のままだった。
折りたたみスマートフォンは2019年にブームになると思われたが、市場に出てくるまでは紆余曲折、メーカーの苦労が積み重なった。サムスンのGalaxy Fold4は月にサンプル出荷されたが、ディスプレイの不具合から発売は延期となり市場に出てきたのは9月だった。またファーウェイのMate Xも市場に出てきたのは発表から半年以上過ぎた10月、しかも中国市場のみだった。
その後、Galaxy Foldは日本を含む多くの国で発売となり、20万円を超える価格ながらも予定数を上回る受注を受け、市場からは一定の評価を受けることに成功した。これに対しMate Xは中国のみの販売に留まり、しかもディスプレイ破損トラブルが相次いだこともあり出荷台数はかなり少なかったようだ。初期不良を半年で改善し製品を送り出すことに成功したサムスンに対し、ファーウェイのMate Xは商用製品としての品質をクリアすることができなかったのである。
Mate Xは今から振り返ると試作品の域を抜け出ることができなかったと言えるのかもしれない。Mate XsはMate Xのヒンジ部分やディスプレイ表面を改良することでようやく完成品と言えるレベルに達したのだ。発表会の開催されたバルセロナでは、発表翌日からファーウェイのオフィシャルストアでガラスショーケースの中に入れた状態ではあったものの、Mate Xsの実機が展示されていた。Mate Xsはいよいよ全世界に向けて販売される予定だ。
タブレットは「常時高速ネット接続」があたりまえに
今回の新製品発表会は新型コロナウィルスの感染拡大の影響を受け、会場では直前に録画されたリチャード・ユーCEOの登壇スピーチを来場者全員で視聴するという珍しい形式で行われた。しかしスマートフォン以外にも次々と新製品が発表されたこともあり、約1時間の発表会は最後まで熱気が冷めることは無かった。
折りたたみスマートフォンの次に発表されたのが10インチタブレットの「MateBook Pro 5G」だ。その名の通り5Gに対応するタブレットで、SIMカードさえ入れておけば常にネットに接続した状態となる。もちろんすでに4Gに対応したタブレットも「常時ネット接続」させることはできる。しかし5Gは4Gより10倍以上も高速だ。動画を張り付けたパワポの巨大なファイルや、お気に入りの映画なども一瞬でクラウドへアップロードしたりダウンロードすることができる。つまりタブレット本体にファイルを保存しておかなくとも、クラウド上のデータがまるでタブレットの中に常に保存されているような感覚で使うことができるのだ。
MateBook Pro 5Gの特徴はそれだけではない。キーボードとペンを使うことでアップルのiPad Proのように、ノートPCライクに使うことができるのだ。専用のスタイラスペン「M-Pencil」は本体上部にマグネットで装着でき、その状態でワイヤレス充電される。ペンの書き味は実際のペンにかなり近く、手書きメモを書いたりPDFに赤字をいれるといった用途にも十分対応できる。
キーボードはiPad Proのような本体のケースを兼ねており、持ち運び時には傷から守ってくれる。ファーウェイは薄型でタブレットスタイルのノートPCでこのタイプのキーボードはすでに導入済で、それをAndroidタブレットにも応用した。オフィスアプリを使えばノートPCをわざわざ別途買う必要もない。そしてキーボードを取り外せば大画面タブレットとしてプレゼンに使ったり、あるいは映画を見るといったエンタメ用途にも使えるわけだ。ちなみにMatePad Pro 5GのCPUはファーウェイの最新スマホと同じ、自社製の「Kirin 990」を採用。本体操作やアプリの動きも軽快だ。
スマホの画面サイズが年々大型化するにつれ、タブレットは一般ユーザーよりも企業向け、ビジネスパーソン向けにターゲットをシフトしつつある。そのためタブレットであってもスマホレベルの高い性能が求められるようになってきているのだ。そしてそのタブレットに5Gが内蔵されていれば、通信キャリアもビジネス向けに回線と端末をセットで販売しやすくなる。これからのタブレットは「ハイスペック」「5G」「キーボードとペン」という3つを揃えた製品が増えていくだろう。
スマホを中心に展開する1+8+N戦略
ファーウェイの新製品はこの2つだけでは終わらない。さらに続けて発表されたのはノートPCの「MateBook」シリーズだ。ノートPCといえばアップルやレノボ、NECなどのメーカーがメジャーだろうが、実はファーウェイも製品を出しているのである。しかもスマホと同じように電源ボタンが指紋認証センサーを兼ねており、さらにはスマホとPCとの間で簡単にデータをコピーすることもできる。ファーウェイにとってノートPCとは生産性を高めるツールであるだけではなく、スマホではできないことを保管してくれるハイスペックなIT製品なのである。
今回発表されたのは第10世代Coreプロセッサを搭載するフラッグシップモデル「MateBook X Pro」と、ビジネス向けにパフォーマンスを重視した「MateBook D14」「MateBook D15」の3機種だ。
ファーウェイがノートPCを出す理由はスマホを補完するためでもある。すなわちファーウェイが出す製品にはそれぞれに明確な役割分担があるのだ。ファーウェイはそれを「1+8+N」戦略と名付けている。
「1」とはいうまでもなくスマホだ。いまやスマートフォンを持っていない人は皆無といえるくらい、スマホの普及は進んでいる。そして「8」はそのスマホを補完する8つの製品を指す。それらは「AR/VR」「タブレット」「PC」「ディスプレイ」「スマートウォッチ」「スマートスピーカー」「自動車」「ワイヤレスヘッドセット」だ。そしてスマートフォンとこれらは「Huawei Share」と呼ばれるアプリで「+」、すなわち結び付け、データのシームレスな連携を行う。ここまでで「1+8」が完成するわけだ。
では「N」とはなんだろうか?ファーウェイによるとこのNとはビデオやゲームなどのコンテンツ、地図サービスや自動車情報などの位置関連データ、スマート血圧計やヘルスメーターなどのスマートヘルス製品、WEBカメラなど。スマホや8つのIT製品から利用できるハードウェアやサービスなど様々なものの総称として「N」という表現を使っているのである。
これら「N」であらわされるサービスやハードウェアは、4G/5Gの携帯電話回線やWi-Fiなどで「1」のスマートフォンや「8」であらわされた8個のデバイスと接続される。そしてそれらを接続する、つまり「1+8+N」の二つ目の「+」の製品として、5Gを内蔵したルーターと、家屋内のWi-Fiルーターが今回発表された。
このようにファーウェイは市場の流行を追いかけたり他社に対抗する製品を開発しているのではなく、すべてが相互につながる「1+8+N」戦略に当てはまる製品を市場に送り出しているのである。すなわちファーウェイの製品同士が有機的に結びつき、そしてそれが消費者の生活を豊かにするというエコシステムを構築することで自社製品の魅力を広げていこうとしているのである。
ファーウェイはスマホ市場でサムスンを抜きシェア1位になることを狙っている。そのためにはスマホの性能を高めるだけではなく、スマホを中心としたエコシステムを強化し、ファーウェイブランドそのものの信頼性や愛着度を高める必要があると考えているのだ。2020年2月に行われた新製品発表会の内容の派手さ具合ではサムスンがファーウェイより上回っていたと筆者は感じた。しかし自社製品全体の魅力を高めるという点では、ファーウェイの動きに強さを感じた。ファーウェイはこれらの製品に加え、3月下旬に発表するフラッグシップスマートフォン「P40」を武器に、ライバルサムスンへの攻撃の手を強めようとしているのだ。
- Original:https://www.digimonostation.jp/0000122561/
- Source:デジモノステーション
- Author:山根康宏
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