スマホ事業立て直しを図るLG高級家電ブランドスマホを投入か

スマホメーカーとして老舗のLGはここ数年販売不振に悩んでいる。5G時代到来を見据え2画面になるスマホを日本でも発売するが、他に目立った製品が無いのが心配なところだ。中国メーカーが台頭する中で、LGは新たに高級スマホで勝負をかけようとしている。

デザインに優れたケータイも展開
スマホ時代は不振が続く

韓国を代表するスマホメーカーの1社であるLGは、2000年代初頭からサムスンと携帯電話で常にシェア争いを行ってきた。高画質カメラの搭載、本体の薄型化、デザインに優れた端末の投入など、この2社は相手を意識したかのように類似の製品を出して競争を繰り広げていった。筆者の記憶では性能は常にサムスンがリードしていたが、デザインに関してはLGのほうにヒット商品が多かったように記憶している。スタイリッシュな携帯電話や、プラダとコラボした「プラダフォン」など高級端末も積極的な展開を行っていたのだ。

スマホ時代を迎えると、サムスンの「Galaxy」に対してLGは「G」シリーズで対抗。世界初の機能を搭載した製品も出すなど2社で世界中のスマホ市場を盛り上げていった。画面がカーブした「G Flex」や、ペン内蔵の「Vu」など特徴的な端末を出す一方、革張り仕上げの「G4」など高級路線も忘れなかった。だが、2015年に出した合体式スマホ「G5」が不調に終わり、サムスンとの差は一気に広がっていってしまう。前年世界シェア5位だったLGのスマホ出荷台数は、2015年に中国メーカーに抜かれ6位以下に落ちてしまう。それ以降はヒット製品を生み出せず苦しい時期が続いている。

合体モジュール式スマホ「G5」は実験的な製品に終わってしまった。

シェア上位にいるメーカーは、顔となるフラッグシップモデルを2つ以上展開している。サムスンの「Galaxy S」「Galaxy Note」、ファーウェイの「P」「Mate」、シャオミの「Mi」「Mi MiX」、OPPOの「Find」「Reno」などが代表的な例だ。LGも「G」シリーズに加え「V」シリーズを追加して巻き返しを図ったが、両者の差別化がうまくいかずに「どっちつかず」の製品展開となってしまった。2019年の2月には「V50 ThinQ」「G8 ThinQ」と、本来なら春と秋に別々に展開する予定だった2つのラインを同時に発表。V50 ThinQはデュアルディスプレイカバーで2画面化できることで話題になったが、ハンドジェスチャーで操作できるG8 ThinQは他社のフラッグシップモデルの対抗になることはできなかった。

スマホ事業復権をかけて投入した2画面化できる「V50 ThinQ」。

家電事業は絶好調
高級ブランドが世界をリード

LGのスマホ事業(MC事業本部)はここ数年赤字が続いており、2019年第4四半期の決算報告によると営業利益は赤字で、その額はマイナス3223億ウォン(約286億円)だった。LG全体の利益は黒字で2兆4329億ウォン(約2165億円)と好調だったが、スマホ事業の赤字により利益は前年比10%減少してしまったほどだ。MC事業本部の赤字は4年以上続いており、暗闇から抜け出せない状況が続いている。

その一方で、LGの家電部門は好調な成績を収めている。LGはスマート家電にも積極的で、自社開発したAIシステム「ThinQ」だけではなくグーグルやアマゾンのAIシステムとの互換性も持たせている。また衣類を入れておくだけで乾かしたり殺菌・消臭できる衣装ケース「LG Styler」など他社にはない製品も積極的に開発を続けている。そして欧米などではプレミアムモデルの高級家電「SIGNATURE」シリーズがヒット。LGの家電の利益率を大きく高めている。LGはスマート化という未来を向いた製品だけではなく、高級品というカテゴリの製品を増やすことで、中国メーカーの台頭が著しい家電業界でも大きな存在感を示しているのだ。

高級家電のSIGNATURE。他社の追従もあるがLGが市場をリードしている。

携帯電話時代には優れたデザインの製品を次々と出し、ブランドコラボも成功させたLGであるが、今の同社のスマホにその面影は一切感じられなくなっている。2006年以降「デザインケータイ」として世界中でヒットした「チョコレートフォン」シリーズ、2008年にオードリーヘップバーンの過去映像をCMに採用して話題となった「シークレット」、またパステルカラーで10代の若者を狙った「クッキー」など、製品ネームも工夫を凝らしたモデルが多数存在した。携帯電話時代のLGのデザイン部門は「次はどんな外観の製品を出そうか」と、毎日のようにデザイナーたちがアイデアを出し合っていたのだろう。

スタイリッシュかつプレミアム感あるデザインのシークレット。

なお、世界中でデザインが認められたこれらLGの携帯電話だが、日本で販売されたモデルはわずかだった。ちょうどそのころ日本はiモード全盛時代であり、海外製の携帯電話は性能が低いためキャリアが採用しなかったのだ。どんなにデザインが良くとも「画面が狭い」「カメラ画素数が低い」そして「防水が使えない」「おサイフが使えない」など、日本人のニーズに合わなければ受け入れられなかった。チョコレートフォンやシークレットの日本向けモデルが出るには出たが、当時の日本人の多くは日本製のガラケーばかりに注目していただろう。

チョコレートフォンは世界中で人気に。日本投入モデルもあった。

大ヒットした携帯電話のブランドや愛称をスマホに復活すれば売れそうなものだが、LGはそれをやってこなかった。それはモトローラが2004年にヒットさせた携帯電話「RAZR」(レイザー)を8年後にスマホで復活させたものの、売れ行きにはつながらなかった前例を見ているからかもしれない。なおRAZRはその後2019年末に曲がるディスプレイを搭載した折りたたみスマホ「razr」として再び世の中に出てきている。

機能の差別化は限界に
高級スマホで勝負に出る

2019年に5Gが始まり、LGは前述した「V50 ThinQ」を出すなど積極的に新製品を投入した。だが1年後の2020年4月時点で他の大手メーカーは5機種以上の5Gスマホを投入している。各社同じスタートラインに並んだ5Gスマホ市場で、LGは早くもスタートダッシュに出遅れた状況だ。日本の5G開始ではドコモとソフトバンクに「V60 ThinQ」を納入したものの、OPPOやシャオミなど中国メーカーが新たに日本のキャリアにスマホを投入。新興勢力は今後豊富な5Gスマホを日本にガンガン投入してくるだろう。この状況はLGが比較的強いアメリカでもOnePlusが5Gスマホを出すなど中国メーカーの動きが活発化しており、5G端末での優位性も危うい状況になりそうなのだ。

大画面化した「V60 ThinQ」。だが中国メーカーの5Gスマホも次々と登場している。

そこでLGはスマホ事業を大幅に見直し、いよいよ別ブランドの製品を出すことを考えているという。いつの間にかVシリーズより下の存在になってしまったGシリーズは廃止され、それに代わり高級ブランドのスマートフォンを展開する予定なのだ。この方針展開は家電のSIGNATUREシリーズの成功があるだけに、スマホでも同じブランドを付ける可能性は十分考えられる。

高級家電のSIGNATUREは本体の質感を高めているだけではなく、細かい部分の造形やロゴの入れ方などあらゆる部分に気遣いのある製品だからこそ、高い価格でも売れているのだ。その世界観をスマホの世界に持ち込めば、今のスマホの仕上げに満足のいかない層を取り込むことは十分可能だ。

革張り仕上げだった「G4」。こんなデザインのスマホが復活するのだろう。

LGの高級スマホがSIGNATUREブランドになるかどうかはまだわからない。あえて別のブランドとして、LGの全製品の中に複数のプレミアムラインがあると消費者にアピールする戦略も十分考えられる。もちろんスマホだけではなく最近流行りの左右独立式のヘッドフォンやスマートウォッチでもそのブランドを展開するだろうから、iPhoneを使っているけど腕時計はLGを使いたい、なんて人も現れるだろう。

もしもLGの高級ブランドスマホが成功すれば、他のメーカーも新しいブランドを立ち上げて追従してくる可能性は十分考えられる。そうなれば30万円、40万円といったプレミアム価格の製品が出てくるかもしれない。機能合戦に明け暮れる今のスマホ市場に、LGの高級スマホは一石を投じる存在になるかもしれないのだ。

2020年は各社がLGの動きに注目しそうだ。


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