2020年の現在、完全に非社交的なビデオアプリを構築しようと試みるには、大胆な自信、または無謀とも言える傲慢さが必要だ。17億5000万ドル(約1900億円)ものハリウッド資金をかけた、モバイル専用の6〜10分間の短いテレビ番組配信サービスを提供するQuibi(クイビィ)の目論みがどちらの部類に入るのかは不明だ。Quibiはアプリを人気にするためのトレンドや戦略を全て見事に無視している。同社は(平均レベルである)コンテンツ力と(必要額に足りていない)マーケティング費用だけで成功を収めることができると信じているようだ。
Quibiが大多数のスタートアップとは極端に違うことをしている事実は認める。製品と市場の適合性を考慮して似たようなものばかりを生み出す代わりに、大金をかけて洗練されたアプリを開発し、豪華なコンテンツをひそかに購入して堂々たる市場参入を目指したわけだ。
しかし、インターネットがすべてのエンターテイメントメディアに浸透する以前の、テレビが黄金時代だったころのコンセプトを引きずってしまったために、Quibiの大胆なビジネス戦略はその効力を失ってしまった。同社の製品は共有できない上に自由度が限定的で、軽快さに欠け、扱いにくく、不親切なのである。ソーシャルネットワークの要素を微塵も取り入れないQuibiのアプリは、まるでリアリティショーを宇宙から眺めているように冷たく孤独なものになっている。
そう言った意味で、QuibiはダイナミックなTikTokの真逆と言える。TikTokは大勢に人気のコンテンツでユーザーを引きつけ、さらにそれを友人にシェアさせるという仕組みになっている。それが功を奏しTikTokはこれまでに約20億件のダウンロードを達成している。一方Quibiは、記念すべき市場参入の当日、わずか30万件しか達成できなかったのである。
Quibiが犯した過ちの概要と、TikTokの成功要因、この新ストリーミングアプリの今後の行方を下記に紹介する。
ハリウッドとユーザーのずれ
Quibiは出来損ないのケーブルテレビ番組のような感じなのだ。わけのわからないリアリティショーや脚本ドラマ、ニュースの要約などが混在している。2000年代半ばの昼時のMTVを想像してほしい。必見の番組など存在せず、「ゲーム・オブ・スローンズ」や「マンダロリアン」がやっているわけでもない。作り込み感はYouTube上のものよりは優れているものの、番組のコンセプトは実にずさんであり、目新しさはすぐに薄れてしまうだろう。
少額訴訟の裁判官になりきるクリッシー・テイゲン。メイクオーバー番組で必ずある「すごい! 信じられない!」といったセリフの飛び出す喜びの瞬間をさらに各エピソードに付き4倍ほど大袈裟に仕上げたお涙ちょうだいものの「Thanks A Million」。極め付けは、目隠しをしたシェフの前で食べ物を爆破させ、シェフがその食べ物が何だったのかを推測すると言う料理番組だ……。
放送作家が思いつきで考えたような作品ばかりなのだ。同社の番組は、VRゲームのデモ動画程度のものや、見込みユーザーのニーズを考慮することなく趣味で作ったアプリを彷彿とさせる。共同創業者のジェフリー・カッツェンバーグ氏は「ライオン・キング」や「シュレック」を手掛けた経験を持つが、同アプリのコンテンツは、ヒューレット・パッカード・エンタープライズの元CEOでQuibiの現CEOであるメグ・ホイットマンがゴーサインを出したんだなと感じさせるようなものばかりなのである。
タッチスクリーンのインターフェース用に構築されているにもかかわらず、今のところ型破りでインタラクティブなコンテンツはほとんどなく、6〜10分の枠内でクリエイター達が何か特別なものを生み出しているようにも見えない。各番組はやたらと詰め込まれたテレビ番組のような感じで、かつコマーシャル休憩で途切れたかのような終わり方をする。アプリを最初に使い始める段階で、好きな番組やジャンルをたずねるプロセスも搭載していない。作品数が増えるにつれて、見たい番組をすぐにを見つけることが困難になるだろう。
TikTokは真逆のアプローチを取り入れている。ハリウッドが一方的に考えるユーザーの好みを配信するのではなく、TikTokのコンテンツはユーザーから直接広がっていくのだ。ユーザー自身が面白いと感じ、友人も同じく興味を示してくれるだろうと思うものを録画する。その結果、制作費ゼロか低予算で、一般のティーネイジャーもインフルエンサーも何百万ものいいねを獲得できるような動画を作成するのである。その上ミレニアル世代やX世代以上の人々も夢中になり、彼らも同様に仲間同士で動画を作りあっている。ユーザーが閲覧しているものをアルゴリズムが常にモニターしているため、ユーザーの好みを即座に把握しておすすめの動画を推奨できる仕組みだ。
TikTokはインタラクティブなのだ。各クリップのオーディオを借りて、さまざまな層やサブカルチャー向けにミームをパーソナライズし、リミックスを作成できる。また、同アプリのスター達はデジタルネイティブであるため、ファン層と常にコミュニケーションを取り、好みに合わせてコンテンツを調整する能力を持ち合わせている。ここでは誰もがお気に入りを見つけることができ、どんなニッチなものでも存在価値があるのだ。
ソリューション:QuibiはDisney ChannelのYouTube世代向けネットワーク、Brat TVを参考にすべきである。若いソーシャルメディアスター達が、独自のプレミアム番組の中で小学校での生活を演じるというもので、既存のファン層のために制作されたコンテンツだ。
【情報開示】Bratの共同創設者であるダレン・ラックスマンは筆者の従兄弟である。
クリッシー・テイゲンの裁判番組にしても、20歳程若いスターを活用して、例えばTikTokの天才的スターチャーリー・ダメリオやチェイス・ハドソンにQuibiのコンテンツのコンセプト化を任せれば、彼らが大勢のファンを連れてきてくれることだろう。スマートフォンの対話性を活用したファン投票のゲーム番組や「Choose Your Own Adventure」(きみならどうする?)のコンセプトを強化したようなものにするべきだ。昼時間帯のテレビ番組のような作品を作らないクリエイターを見つけてQuibiを差別化するとともに、ユーザーがアプリをダウンロードする際に何を見たいかを尋ねたらいいのだ。
スクリーンショットが獲れない
これは率直に言ってふざけている。Quibiのスクリーンショットを撮ると真っ黒の画面として写し出されるのだ。これではミームが作れない。Quibi作品のシーンをジョークのネタにできなければ、どこにもシェアされずNetflixのタイガーキングのようにその時代の文化を反映する象徴的存在になることもできない。NetflixやDisney+などのモバイルストリーミングアプリもスクリーンショットをブロックしているのだが、ウェブ版を使用すればスナップしてシェアすることが可能だ。プロデューサーからコンテンツのライセンスを取得するという協定を構築し、コンテンツが出回ることを阻止したのはQuibiの犯した大きな過失である。
一方TikTokでは、アプリの透かしは付くもののデフォルトで動画をダウンロードして好きな場所で共有できるようになっている。これこそがTikTokの傑出した成長の起爆剤だ。TwitterやInstagramで共有され、閲覧者は同アプリへと誘導されるのである。その結果、TikTok動画を集めたものがYouTubeに誕生し、流行のジョークやダンスの人気を拡大し長引かせるリミックス文化が生まれているのだ。
解決策は、Quibiがスクリーンショットを許容すること。ネタバレや著作権侵害のリスクはほとんどない。協定で禁止されているのであれば、ダウンロードして共有できる事前承認済みの各エピソードのスクリーンショットやビデオクリップや予告編を提供するべきだ。アプリ内のプレスキットのようなものと考えたら良い。ミームを作成するための完璧なスクリーンショットをとる事が許可されなくても、こうすれば少なくとも他のソーシャルネットワークで番組のネタを話題にすることができる。
のろのろしたペース
モバイル上で人々は、より面白いものを求めて、常にスワイプをし続ける。指先をチャンネルの変換ボタンに置いたままテレビを見ているようなものだ。最近の映画の予告編が、最も重要なシーンが早送りされたようなコラージュ映像から始まるパターンが多いという事実に気付いたことはあるだろうか。ところがQuibiは、「猟奇島」や「サヴァイヴ」のようなゆったりとした構成のドラマで宣伝するのが好みのようで筆者は退屈して早送りする羽目になった。自宅のソファでさえその状況だ。忙しい外出先で空いた1〜2分を埋めるのにスローペースのコンテンツは必要なく、ユーザーは代わりにInstagramやTikTokを開くことになるだろう。
ホーム画面をスクロール中に番組を通過した際、トレーラーや最初のエピソードが自動再生されることもない。Quibiでは番組の抜粋を再生する前に、静止したインタータイトルが2秒間表示されるのだ。これでは新しい番組を探すのが余計に煩わしくなる。
TikTokは即時性に優れている。クリエイターたちは、動画がつまらなければユーザーが一瞬にして次へとスワイプしてしまうことを心得ている。笑顔や衣装、大胆なキャプションやクレイジーな状況を用いて、最初の1秒でユーザーの心をつかむのだ。これによりユーザーの側でも自分の興味のないものをすぐに判断して簡単に却下できる上、TikTokのアルゴリズムにはユーザーの好みに関するデータが蓄積される。たった30秒のコンテンツでも、この上ない喜びを得る事ができる。TikTokと比べるとQuibiのうたう「Quick Bites」は人手の足りないレストランのように感じるのである。
ソリューション:番組のプレビューでユーザーを引きつけられるよう、クリエイターを教育すべきである。Quibiのホームページで番組カードをタップするとすぐに番組そのものが再生される仕組みのため、ティーザーを最初のエピソードに組み込む必要がある。または、埋め込みの専用のショーページや、多くの人がホーム画面で操作するプレビューカードなど、トレーラーを表示するためのボタンが必要だ。そうしなければ、いつまでたってもユーザーはどのQuibiの番組が自分の好みかを知る事ができない上、今後何を表示して欲しいかを伝える事ができない。
アンチソーシャルなビデオ
Quibiはセカンドスクリーンの可能性を全て無視している。スクリーンショットを禁止しているため話題性を呼ぶことが難しく、その上アプリ内で話し合ったり広めたりできるような組み込みのコメントやメッセージ機能も存在しない。Twitterにエピソードのリンクを貼っても、プレビューボックスに番組名が表示されることもない。また、番組独自のソーシャルアカウントもないため、ユーザーに視聴を促すような機会もない。
自分が見ているものを友達にフォローしてもらったり、自分のおすすめを表示したりするような機能はどこにもない。人気番組のランキングも、タイムスタンプ付きのライブストリーム式のアノテーションも存在しない。スマートフォンの周りに群がらない限り友人と一緒に視聴することができないTVアプリの欠点を補うための、共同視聴の同期機能さえもない。
Quibiは宣伝広告だけで充分だと思っているようだ。何らかのコンテストで勝者がカメオ出演的なメッセージを受け取ったり、お気に入りのスターとチャットできたりするようなことも可能だろう。Snapchatの「Cameos」機能のようなディープフェイクスタイルで、ユーザーの顔を俳優の頭に入れ替えてシーンを共有するようなことも可能なはずだ。ユーザーが出演者に質問を投げかけられる、アプリ内の円卓会議のようなものも主催できたはずだろう。まるで「Web 2.0」が起きなかったかのようだ。
一方でTikTokは考えられる限り全てのソーシャル機能を駆使している。すべての動画をフォロー、いいね、コメント、メッセージ、ライブ、デュエット、リミックス、ダウンロード、共有できる。人気の課題に参加するようユーザーを促し、またユーザーがTikTokに戻ろうと思っていない場合でも、前述のソーシャル機能からの通知が届いたり、透かし入りのクリップが他のネットワークに現れたりする。同アプリのすべては、コンテンツが大衆文化の中心に置かれるよう設計されているのだ。
解決策としては、Quibiは我々がモバイルで視聴しているからといって動画が単独の体験であるわけではないことを理解する必要がある。最初に、ソーシャルコンテンツの検出オプションを追加してどの友達が視聴しているのかをわかるようにしたり、人気番組のランキングを表示したりするべきだ。新エピソードがどんどん配信されるような番組は特に、その番組について誰かと話せる方が楽しいに決まっている。
最終的には、アプリ内のセカンドスクリーン機能を搭載するべきだ。コメントをシェアできる場を作り、各エピソードの最後のクレジットが流れている間に人々がそのコメントを読めるようにして、皆がユーザー同士のコミュニティーにいるような感覚をもたらすのだ。
Quibiの今後の可能性
Quibiが残念である最も大きな理由は、従来通りの方法で制作されたプレミアムコンテンツとスマートフォンにおける我々の新たな使用方法を上手く融合させることにより、同アプリが斬新なものになり得る可能性が大いにあるという点だ。しかし今のところ、全ての番組が2つの幅で撮影されているためいつでも横長モードと縦長モードに切り替えることができるという点以外は、ケーブルTVのチャンネルが雑然と詰め込まれ縮小されたものにすぎない。
Quibiの数少ない長所を伸ばすとすれば、Ryan Vinnicombe(ライアン・ビニコム、別名InternetRyan)が言うとおり、毎日リリースされる新エピソードによるコンテンツの連載化を用いて待ち遠しさを高めるという点だ。従来のストリーミングサービスを介したビンジウォッチでは、緊張感やファンの推測が構築される前に見終えてしまうし、後から見始めたとしても番組がまだ人気のうちに追いついてしまう。次のエピソードを1週間ではなく1日しか待たなくていいという特徴は、Quibiにとって目玉機能になる可能性があるだろう。
TikTokの課題は、連載によって待ち遠しさを生み出すことができていない点だ。1つのビデオの中でギャグや辻褄の合わない発言が展開され、視聴者はそれを理解できることを期待して待つ。しかしクリエイターは数分間の動画を作成し、それをいくつかのパーツに分割することでフォロワーを巻き込み、フォロワーは次の展開を視聴するためにサブスクライブすることになる。ところがTikTokは常にタイムスタンプを表示したり、以前の動画をホーム画面に表示したりするわけではないため、パート2を見つけるのは非常に面倒な場合が多い。またクリエイターがそれをリンクする良い方法もない。TikTokは、Quibiのマルチエピソードコンテンツから学ぶ点があるだろう。
しかし現在のQuibiは、すでにウェブ上に存在する無料のものや、Netflixにて有料で提供されているサービスをミニチュア化して機能を低下させたバージョンとしか感じられない。広告付きは月額4.99ドル(約540円)、広告なしは7.99ドル(約860円)のQuibi。必見の番組や、斬新でインタラクティブな体験、思い出を作るようなソーシャル体験を提供せずにこの価格をチャージするのは法外と言えるだろう。
Quibi が成功したと言えるのは、どれだけ人々が90日間の無料トライアルをキャンセルし忘れるかを検証した点かもしれない(実際にキャンセルをし忘れる人は非常に多い)。うっかりしたサブスクライバーと熱狂的なセレブファンがもたらした初日の30万回というダウンロード数が、Quibiが今後より多くの現金を調達するのに十分な牽引力をもたらし、生き残りのために製品を社会に適合させ、フォーマットを活用するようクリエイターを教育するのに十分な期間を与えた、と楽観的にとらえる事もできる。
しかし、App Storeでのランキングは急速に下落しており、Sensor Towerによると開始当日の月曜日の総合4位から昨日には21位へ落ち込み、合計ダウンロード数はわずか83万件とのことだ。魅力的なコンテンツがなくバイラル性がなければ、今後話題になる可能性は低い。人気番組のプロデューサーらはひっそりと立ち去るか適当な仕事をし、その結果人々はよそでショートビデオを楽しむと言うことになりそうだ。
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(翻訳: Dragonfly)
- Original:https://jp.techcrunch.com/2020/04/17/2020-04-09-quibi-vs-tiktok/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:Josh Constine
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