美しいデザインや街乗りにもちょうどいいボディサイズ、そして、新世代のガソリンエンジン“スカイアクティブX”の搭載などで注目を集めるクロスオーバーSUV、マツダ「CX-30」。
今回、そんなCX-30でフォーカスするのは、SUVには珍しいMT(マニュアルトランスミッション)仕様だ。SUVは、CVTやデュアルクラッチ式を含めると、大半がAT(オートマチックトランスミッション)仕様という世の中にあって、この希少なSUVは、果たしてどんな魅力を備えているのだろうか?
■マツダ3には設定のない2リッターガソリン車+MT仕様
3列シートSUVの「CX-8」にこそ設定はないが、それ以外のマツダ車には、いずれも6速MT仕様が設定されている。おそらく、全ラインナップ中でMT仕様の占める比率は、日本で購入できる自動車ブランドの中でもトップだろう。
ライトウエイトスポーツカーの代名詞的存在である「ロードスター」は当然のこととして(ちなみにソフトトップ車では、MTとATの販売比率が半々だという)、ミドルサイズのクロスオーバーSUVである「CX-5」や、全長4.8m級のラージ4ドアセダン&ワゴンの「マツダ6」でも、一部のエンジンでMT仕様を選べるのだ。
マツダ車で最も新しいCX-30も例外ではない。CX-30には、排気量2リッターの“フツー”のガソリンエンジンと、同じく2リッターながら、世界初の圧縮着火燃焼を実現したスカイアクティブX搭載車、そして、1.8リッターのディーゼルターボという3種類のエンジンが設定されているが、このうち、2リッターのガソリンエンジンとスカイアクティブXに、6速MT仕様が設定されている。
CX-30は、「マツダ3」から始まったマツダの新世代商品群の第2弾であり、ベースモデルとなったのは、“ファストバック”と呼ばれるマツダ3の5ドアハッチバック(全長4460mm)だ。CX-30は、日本の都市部に多い機械式立体駐車場にも収まるよう、全高を1540mmに設定。加えて、街中における取り回しを重視し、全長を4400mm以下に収めるべく、ホイールベースをマツダ3の2725mmから70mm縮め、2655mmとしている。
これを見ると、リアシートの居住性が気になるところだが、CX-30は背の高さを生かし、乗員をアップライトに座らせることで十分なスペースを確保している。
マツダ3に対して全長は短いが、背が高くなったこともあり、CX-30はクルマとしてのボリュームがアップ。同じ2リッターのガソリンエンジン車(6速AT)どうしで比較すると、CX-30の方が40kg重い(FF仕様/4WD仕様の場合は50kg増)。マツダ3には、最高出力111馬力、最大トルク14.9kgf-mを発生する1.5リッターガソリン車が設定される(こちらにもMT仕様を設定)が、CX-30は「1.5リッターは向かない。2リッターの方が相性はいい」(開発責任者)と、1.5リッターガソリン車の設定を見送っている。
そうした“相性”の問題もあってか、CX-30には、マツダ3には設定のない“2リッターガソリン車+MT仕様”が設定されている。今回、テストに引っ張り出したのは、その貴重(?)な組み合わせ。最高出力と最大トルクはそれぞれ、156馬力、20.3kgf-mとなる。
■“いいモノ”感を醸し出すCX-30のシフトレバー回り
マツダの説明によると、CX-30の前席は、ドライバー回りには凝縮感を、助手席回りには空間の抜けを作り、それぞれを対比させているという。ステアリングホイールやメーターなどで構成されるコックピットを完全に左右対称としたのは、人とクルマとの一体感を高めるためであり、マツダ各車に共通する“人馬一体”の思想を、クロスオーバーSUVのCX-30にも持ち込んでいる。
また、新しいマツダ車が出るたびにその傾向が強くなるが、CX-30のインテリアも一段と上質だ。ホテルのラウンジに腰を下ろした時のような、落ち着きと気品を感じられる。
MTのシフトレバーは、上質で気品があり、落ち着いたインテリアの雰囲気にマッチしている。ちなみに、ロードスターのシフトノブは球体で、野球のボールのような革の縫い目が視覚的にも触感上でもアクセントになっているが、それに比べてCX-30のノブは、やはりクルマのキャラクターにマッチしていて、上品で気品があり、落ち着いているように見える。縫い目は隠れており、ノブの革はいかにもタッチが柔らかそうだ。
上面にシフトパターンを刻んだノブから、革製のシフトブーツへとつながるレバーは、ロードスターのそれと比べるといささか長く、いかにも硬質に見えるメタルが引き立って、革のバッグにあしらわれたメタルと同種の“いいモノ”感を醸し出す。クルマ好きのオーナーの中には、ブーツから上を切り出して「飾っておきたい」と思う人もいるのではないだろうか。
■クルマを操る充実感はロードスターにも負けてない
特段、重さを意識させないクラッチペダルを踏み込んで、見た目の印象どおり、触り心地の滑らかなシフトノブを左に倒しながら前方へと押し込み、CX-30を発進させる。すると予想に反して、1460kgと重量級である4WD仕様のCX-30は、スムーズに走り出した。拍子抜けするほど軽やかである。
高い回転域までエンジンを引っ張り2速へ、もう一度高い回転域へと引っ張って3速へ…といった具合に、クルマを加速させるための“懸命な作業”をドライバーに強いることはない。エンジンの息吹を感じさせながら、至って静かで平穏だ。
2リッターガソリン車のMT仕様は、非力なエンジンの実力を引っ張り出してやるための操作レバーではなく、純粋に、変速操作そのものを楽しむためのツールだといえる。ギヤを切り換えているという実感を湧かせるカチッとした節度を備えながら、変速操作を重荷に感じさせない絶妙な軽快感を併せ持っているのがニクイ。
コクピットの作りが、マツダ各車に共通する人馬一体の思想を受け継いでいると前述したが、MT自体の操作フィールや、MTでクルマを操った結果において生じるクルマの動きなども、他のマツダ車と同様、人馬一体の思想で統一されている。徹頭徹尾、しなやかなのだ。
そして、CX-30の2リッターガソリン車+MT仕様は、ロードスターのMT仕様と同じ血筋であることを、双方を乗り比べて改めて実感した。どちらも、エンジンを高回転域まで引っ張って上の段へとギヤをつないでも、猛烈な加速力を提供してはくれない。でも、いい音を響かせながら、MTでクルマを操っている充実感を味わわせてくれる。よりストイックなのがロードスターで、よりカジュアルなのがCX-30。辛さのランクを示す唐辛子の数が違うだけで、スパイシー(刺激的)であることに変わりはない。
2リッターのガソリンエンジンでも、動力性能や楽しさという面では必要にして十分。乗車定員やラゲッジスペースなどの問題で、ロードスターを選ぶことは現実的に難しいものの、MTでクルマを操る楽しさは味わいたい…。そう考える人にとって、CX-30の2リッターガソリン車+MT仕様は、極めて有力な選択肢といえるだろう。
<SPECIFICATIONS>
☆20S プロアクティブ ツーリングセレクション(4WD/6MT)
ボディサイズ:L4395×W1795×H1540mm
車重:1460kg
駆動方式:4WD
エンジン:1997cc 直列4気筒 DOHC
トランスミッション:6速MT
最高出力:156馬力/6000回転
最大トルク:20.3kgf-m/4000回転
価格:297万円
文/世良耕太
世良耕太|出版社で編集者・ライターとして活動後、独立。クルマやモータースポーツ、自動車テクノロジーの取材で世界を駆け回る。多くの取材を通して得た、テクノロジーへの高い理解度が売り。クルマ関連の話題にとどまらず、建築やウイスキーなど興味は多岐にわたる。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
- Original:https://www.goodspress.jp/reports/290764/
- Source:&GP
- Author:&GP
Amazonベストセラー
Now loading...