メーカー自ら“クラス最強”を自負するスポーツ・ハッチバック、メルセデスAMG「A45S 4マチック+」が上陸した。
そのエンジンパワーは、先代モデルであるメルセデス・ベンツ「A45 AMG 4マチック」の360馬力に対し、61馬力アップの421馬力を発生。これは、量産車に積まれる2リッター4気筒エンジンとしては、世界最強のスペックだ。
果たして、常識破りともいうべき400馬力オーバーを達成したA45S 4マチック+は、どんな走りを味わわせてくれるのだろうか?
■AMG謹製のエンジンはもちろんパワートレーンも最高峰
クルマ好きの間で使い古された言葉“ホットハッチ”は、ノーマル仕様よりもハイパワーなエンジンを積んだハッチバックのことを指す。実用性とスポーティな走りを兼ね備えた、いわば“普段使いできるスポーツカー”といってもいいだろう。
古今東西、ホットハッチは高い人気を誇り、ここ日本でも、手が届きやすいモデルとしては、スズキの「スイフトスポーツ」が、より過激な走りを楽しめるモデルとしては、トヨタが2020年夏に発売を予定している「GRヤリス」などが注目を集める。
今回紹介するメルセデスAMGのA45S 4マチック+(以下、A45S)は、そんなホットハッチ・カテゴリーに属すモデルだ。しかし、従来のホットハッチとは、かなり立ち位置が異なる。エンジンがとにかくパワフルで、走りのレベルが恐ろしいほど高いのだ。
A45Sで注目すべきは、なんといってもエンジン。完全新設計の2リッター4気筒ターボエンジン“M139型”を搭載していて、最高出力は421馬力。何を隠そう、このスペックは、2リッターエンジンとして、そして、乗用車用4気筒エンジンとして、世界最高の数値となる。
ボディサイズが近い他のホットハッチと比べると、例えば“スポーツカー開発の聖地”と呼ばれるドイツのサーキット・ニュルブルクリンクにおいて、市販FF車最速を誇るルノー「メガーヌ ルノー・スポール」の場合、高出力バージョンの「トロフィー」でも300馬力しかない。メガーヌと覇を競うホンダの「シビックタイプR」でも320馬力だ。この2台もとんでもなく速いホットハッチなのだから、421馬力をマークするA45Sのエンジンは、いかに常識外れの強心臓であるかがうかがえる。
メルセデス・ベンツといえば、昔は質実剛健なクルマ、昨今はプレミアムな乗用車を手掛けるメーカーというイメージが強いけれど、やる時はとことんやる会社。このA45Sは、まさしくその象徴といえるだろう。それにしても、少し前まで2リッターターボエンジンは「280馬力でもすごい」といわれていたのに、それが今では400馬力オーバーなのだから、最新のエンジン技術の進化にはあきれるしかない。
そんなハイパワーを余すところなく路面へと伝えるべく、A45Sは4WDシステムを採用している。それは“AMG 4マチック+(プラス)”と呼ばれるスポーツモデル向けに開発されたシステムで、電子制御クラッチを介し、走行状況に応じて前後輪への駆動配分を100:0から50:50まで変化させる。また後輪のデフには、“トルクベクタリングシステム”を導入。電子制御式の多板クラッチをふたつ搭載した同機構により、左右輪に伝わるトルクを自在に振り分け、旋回性能を高めている。
またトランスミッションは、デュアルクラッチ式の8速ATを採用。弟分ともいえるメルセデスAMG「A35 4マチック」のそれが7速なのに対し、A45Sはギヤを1速追加した専用品を組み合わせているのだから恐れ入る。エンジンだけでなくパワートレーンも“最高峰”の組み合わせといえる。
■タダモノではない雰囲気を演出するエアロパーツ類
そんなA45Sのスタイリングは、見るからに迫力に満ちあふれている。ベースとなった「Aクラス」よりフェンダーの膨らみが大きく、全幅が50mmワイドになっているから、見る人が見れば直感的に、特別なモデルであることを理解できるはずだ。
特に今回の試乗車は、専用装備をプラスした、日本上陸を記念しての「エディション1」と呼ばれる特別仕様だったこともあり、フロントバンパー側面には“カナード”と呼ばれる整流版を、そして、ルーフ後端には無骨なデザインのリアウイングを装着していた。
それらのパーツは、レーシングカーと同様、空気の力を利用して車体を路面へと押しつけ、コーナリング性能を高める実利的な効果もあるが、それ以上に“タダモノではない雰囲気”を演出するアクセントとしての効果も高い。さらに、エキゾーストパイプが極太の4本出し仕様となるなど、A45Sは見るからに、ヤバいクルマと想起させるオーラが漂う。
インテリアも普通じゃない。シートはレーシングカーテイスト満点のバケットタイプだし、バックスキン風の合成レザーを組み合わせたステリングホイールは、頂点にイエローのセンターマーキング(ハンドルの中立状態を瞬時に見分けられる目印)が入り、まるでレーシングカーのような雰囲気。
メルセデスならではの上質で優雅なインテリアから離れ、ホットハッチらしいバリバリの体育会系に仕上がっている。
■日常のアシとして使える実用性と快適性も兼備
気になる走りは、加速力が抜群なのはいうまでもない。しかしA45Sで注目すべきは、それだけにとどまらない。何より注目したいのは刺激の強さ。刺激が強すぎて、まるで魂が揺さぶられるかのようだ。
具体的にいえば、エンジンの音とレスポンス、そして、高回転域での回転の伸びとパンチ力がすごい。最大トルクの発生回転域は5000〜5250回転で、昨今のターボエンジンとは思えないほどの高回転型。さらにレブリミットは7200回転と、しっかり高回転域を楽しめる設計になっている。そして、回せば回すほどパワーが炸裂する回転フィールは、まるで麻薬のようにドライバーを高揚させる。あまりに刺激が強すぎて、アクセルペダルを踏みたくなる衝動を抑えるのが大変だ。
その上コーナリング時は、車体が路面に吸いつくかのような、抜群の安定感を見せる。ドライバーの思い通りに曲がりつつ、挙動を乱さないしっかりとした落ち着きぶりは見事だ。あまりに安定しているので、高速道路でも速度感がないのには驚いた。
ただしそうした特性は、このクルマにおいては当然のことかもしれない。なぜなら開発を担当したのは、F1活動を始めとするメルセデス・ベンツのモータースポーツ活動を担い、高性能車開発においても豊富な経験を有す百戦錬磨のAMGなのだから。むしろA45Sで特筆すべきは、そうしたスポーツ走行時の乗り味よりも、日常領域におけるカジュアルな振る舞いといっていい。
高出力を狙ったエンジンには、巨大なタービンを備えたターボチャージャーが組み合わされているが、そうした大径ターボ装着車は、一般的には乗りにくいとされている。しかしA45Sは、ドライバーのアクセル操作に対してリニアに反応してくれるため、街乗りでも扱いやすく、渋滞時も滑らかに走る。乗りにくさは微塵もないのだ。
おまけに、“AMGダイナミックセレクト”に設定される「スリッピー」、「コンフォート」、「スポーツ」、「スポーツ+」、「レース」、「インディビジュアル」という6種類の走行モードの中からコンフォートを選択すれば、電子制御可変ダンパーが柔らかくなり、乗り心地も同乗者に文句をいわれないレベルに。日常のアシとして、無理なく使える実用性と快適性をも兼備する。
超高性能なスポーツカーでありながら、日常使いも難なくこなすファミリーカー…。そんな全方位性能こそが、A45S最大の魅力といえる。このクルマは本当に、とんでもないホットハッチだ!
<SPECIFICATIONS>
☆A45S 4マチック+ エディション1
ボディサイズ:L4445×W1850×H1412mm
駆動方式:4WD
エンジン:1991cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:8速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:421馬力/6750回転
最大トルク:51.0kgf-m/5000~5250回転
価格:919万円
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
- Original:https://www.goodspress.jp/reports/293103/
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