新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がパンデミックとなって数カ月が経つ。規模を問わず企業はオフィスを再開するのか、そうだとしたらそれはいつになるのか、再開に向けどのような措置が必要になるのか、など多くの疑問がある。今後の見通しはかなり不透明で、不動産業界の人間でもすべてには答えられない。しかし彼らは、次に何が起こるか知識や経験に基づいて推測し始めている。
商業用不動産サービス大手のCBREが5月15日に発表した新たなデータでは、従業員が直面すると思われる決断しにくい状況が示されている。これまで通りオフィスで業務を行うと答えた世界の200社を対象としたCBREの調査によると、59%が従業員にフェイスカバーを用意すると答え、28%がフェイスカバーの常時使用を必須とする計画だ。そして21%がオフィス再開初期にオフィスへの訪問者を許可するとし、13%が全施設で従業員のスクリーニング検査を行うと答えた。
だが、ソーシャルディスタンス(社会的距離)策をいかに正しく導入するかというのは、全体の一部にすぎない。新型コロナウイルスを根絶させることができるワクチンが開発されるまで、従業員の安全と平常維持のバランスをとらなければならない企業にとって、オフィスでの業務再開は難しいものとなる。実際、管理部門にとって唯一確かなことは、変更を加える必要があるということだ。調査でCBREが尋ねた多くの質問の中で「はい」の答えが最も多かったのが、ソーシャルディスタンスを反映させたスペース使用ポリシーを設ける計画か(80%)と、オフィスのレイアウトを再設計する計画か(60%)というものだった。
おそらく多くが、休憩室やカフェテリアすらも廃止する。従業員同士が少なくとも6フィート(約1.8メートル)離れて座るようにし、シフト制で出社させる企業も出てくるだろう。しかし他にも多くの変更が予想される、と不動産と建設テックを専門とし、今後数カ月あるいは数年にわたって最も需要が見込まれるテックを現在見出そうとしているベンチャー投資家2人は指摘する。
2人ともプロの投資家で、彼ら自身もまだリモートワークをしている。まずBrick and Mortar Ventures(ブリック・アンド・モーター・ベンチャーズ)の創業者Darren Bechtel(ダレン・ベクテル)氏から。同社は主に建設テックにフォーカスしており、最初のファンドは9750万ドル(約104億円)で9カ月前にクローズしたばかりだ。ベクテル氏は、自身と妻、幼い子供が住んでいる賃貸物件のドライブウェイに停めたAirstream社製トレーラーで働いている。自身も妻も、仕事の電話が1日中あるからだ。トレーラーに入ったり出たりするのは理想的ではない。しかし、カリフォルニア州が徐々に経済を再開させているものの、ベクテル氏はベイエリアにあるオフィスをすぐに再開させる準備はしていない。「我々は急いでいない。私はかなり保守的だ」。
不動産技術にフォーカスしているロサンゼルス拠点のFifth Wall(フィフス・ウォール)の共同創業者Brendan Wallace(ブレンダン・ワラス)氏もまた、従業員をすぐにオフィスに戻すことを躊躇している。「チームがリモートワークの環境でかなり生産的であることはうれしくも驚かされている」とも付け加えた。
もちろん2社とも従業員に負担をかけたくない。しかし他の多くの企業と同様、彼らもオフィスのデザインを再設計すべきかを現在考えており、異なるテクノロジーの活用も真剣に検討している。
例えば、ワラス氏もベクテル氏もそれぞれの電話で、暖房や換気、空調の一環で空気をきれいにして循環させるのに使用される高度な空気清浄機やエアハンドリングユニットに言及した。ビルオーナーやデベロッパーが関心を寄せるものになるだろう、と2人は口をそろえる。
ワラス氏はまた、他のスマートテクノロジーを積極的に採用する動きが出てくるとみる。部屋の最適人数や回転式扉で何人通すかを決めることができるセンサーや、身体接触を最小限に抑えるのに役立つ顔認証技術などを挙げる。そしてこれまでより多くの企業が建物内のパトロールに、そしておそらく清掃にもロボットを活用するかもしれない、と想像している。
事業者は現在、「これまでになかった責任をテナントに対して持たなければならない」とワラス氏は話す。事業者は(スペースを)より大胆に改変しようとしていて、「我々はそうした動きに先駆けたい」という。
一方のベクテル氏は、業界に個々のプライベートオフィスの需要が出てくるかもしれないとみている。同氏はまた、例えば抗菌のテキスタイルを生産する材料の企業に光が当たるかもしれないと考える。「このところ環境に優しい材料を開発する動きがあったが、需要はなかった」とベクテル氏は指摘する。
Brick and Mortar Venturesは主に建設テクノロジーに注力しているため、建設会社が建設現場の安全を向上させ、生産性を改善する方法を熱心に模索している。これは、接触追跡から、写真やレーザースキャンをもとに3Dモデルを作り出す「現実キャプチャソフトウェア」と呼ばれるものまですべてを意味する。
オフサイトのプレハブ建設需要の高まりがあるかもしれない、ともベクテル氏は話す。「エリアの中で働ける人数に制限があり、働いている人同士が重ならないようにあなたが管理しなければならないとする。すると、次世代HVACシステムが空気を清浄し、フロアにマーキングされるなど、よりコントロールされた環境にどうやったらできるかという疑問がわいてくる」。
ベクテル氏は「人々はいまこう口にしている。我々はどれくらいオフサイトを準備できるだろう」という。
こうしたテックの出現やその浸透は、効果的なワクチンが出てくるまでにどれくらいの時間を要するかにもよる。予想しているよりも早くワクチンが実用化すれば、事業者は物理的スペースへの大きな変更はさほど優先することではないと考えるかもしれない。すぐに忘れるのは人間の性だ。
それでも、経済再開に伴い、事業者や大学、さまざまな機関はウイルス拡散を阻止するための計画を立てるより他はなく、これはおそらく永久的な変更につながる。
投資家らはそう願っている。現在では「建物は役立たずだ。ほとんどは暖房と冷房を保つためだけに存在している」とワラス氏は話す。
いまこの現状から何かいいものが生み出されるとしたら、それは長期的によりスマートで安全に作られた、そして今回のような健康リスクに対応できる建物かもしれない、と同氏は期待している。
画像クレジット:Hero Images
[原文へ]
(翻訳:Mizoguchi)
- Original:https://jp.techcrunch.com/2020/05/16/2020-05-15-how-companies-get-back-to-the-officeon/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:Connie Loizos
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