目指すは星空版の世界遺産! 星を輝かせる街灯を見に行く

明るければ明るいほど見えなくなるもの、な〜んだ?

タイトルでバレているでしょうが、答えは「星」。昨今、世界規模で注目されている環境問題のひとつが「光害(ひかりがい)」です。パナソニックは、「星空に優しい照明」の認証を国内で初めて取得した光害対策型LED防犯灯・道路灯を開発、日本で初めて光害防止条例を制定した岡山県美星町への設置を開始しました。いったい星空に優しい照明はどんなものなのか、現地に見に行ってきましたよ。

地球は邪悪な光で満ちている?

IDA認証 光害対策型防犯灯。今回美星町に設置されるのはこちら。
IDA認証 光害対策型道路灯。

「国際ダークスカイ協会」という組織をご存じでしょうか? ワタシなんぞは最初聞いたときに、映画「スター・ウォーズ」の帝国軍的なものを思い浮かべたのですが、そんなワケありません。国際ダークスカイ協会(以下IDA)は、美しい星空を保護するため、光害問題に取り組む世界的な団体であります。

どうも我々には、「明るい=善、暗い=悪」という思い込みがありますが、星は空が暗いからこそ明るく輝けるのです。街が明るすぎると、星空は見えにくくなる。じゃあ、街の明かりを消せばいいかといえば、そう簡単ではありませんし、道路などに設置される照明は安全上も欠かせません。そこでパナソニックは、光害対策型の防犯灯と道路灯を開発し、日本のメーカーでは初めて、IDAにより「星空に優しい照明」の認証を取得しました。どんな仕組みかと言うと、道路や周辺環境を照らしつつ、空へ向けては光を発しない照明です。

美星町が天体観測にサイコーな理由

美星町から見る天の川。天気が良ければこんな写真が撮れたかもしれないのに……。(写真提供:美星天文台)

さて、光害対策型の防犯灯を設置する岡山県美星町は、今から30年以上前の1989年に日本で初めて光害防止条例を制定しています。もともと岡山県は「晴れの国」と呼ばれるほど天候に恵まれた地域で、大気が安定していることも天体観測に向いています(星がまたたいているのは大気の揺れによるもので、観測には害だそう)。さらに市街地から離れた美星町は、光害の影響が少なく、日本でも有数の天体観測に適した地だとか。今では天文台やスペースデブリや小惑星の観測を行う美星スペースガードセンターなど、いくつもの観測施設が設置されています。

記者会見が開かれた日は7月13日。街灯とともに美しい星空を撮影しようと美星町に向かったのですが、ご存じの通り今年は梅雨が長引いていまして、天気が悪い。むーん、残念すぎ。

伊達卓生さん「私は雨男でありまして」。参加していた記者たちは失笑。でも日本初の光害防止条例ができたのは、伊達さんが雨男だったからかもしれない。
「30年前の光害防止条例を作った際も当時のナショナルの照明器を採用させていただいた。そんな縁もあり、今回もお話をさせていただき製品となった」(大舌勲・井原市長) 井原市はデニムの産地としても知られ、市長や職員はジーパンで仕事をしている。

光害防止条例ができたいきさつについて、井原市美星支所・伊達卓生支所長は、次のように話します。

「私は雨男でありまして、30年前も今日のように雨でした。そこで、部屋に集まって天文グループの人達と話をしていたところ、『アメリカでは光害防止条例がある。美星町もそのうち天文台を作るだろうからこの環境を守ってほしい』という要望をいただいた。それを受け、アメリカの条例などを研究し1年間かけて条例を作成しました」

当時は、町おこしのためのゲテモノ条例という扱いもされたそうですが、多くの天文イベントも開催され、美星町は“星の郷”として有名になっていきます。

国際ダークスカイ協会 東京支部 代表の越智信彰さん(東洋大学准教授)もオンラインで記者会見に参加。「光害は天体観測への影響だけでなく、エネルギーの浪費、人体や動植物への悪影響といった問題も大きい」
宇宙に向けてどの程度光が漏れているかを表す「光害マップ」。左上は首都圏周辺、右下は岡山県。岡山市や水島、福山といったエリアは明るいが、美星町は都市部の影響を受けつつも十分天の川が見えるレベル。

パナソニックの製品は「星空に優しい照明」の認証をすでに取得していますが、美星町としては、今後IDAの「星空保護区 ダークスカイ・コミュニティ」の認定を目指すとのこと。実は順番は逆で、光害対策型街灯は、美星町が星空保護区になるために要望され開発されたものなのでした。

「星空保護区 ダークスカイ・コミュニティ」取得のために照明に課せられた条件は、「上方光束ゼロ、色温度3000ケルビン以下」。上方光束ゼロとは、照明器具より上に発する光をなくすこと、色温度3000ケルビン以下とはLEDの街灯によく見られる白色ではなく電球色のことです。今回の製品は上記の条件を満たしているわけです。

実際に、町内に試験的に設置された製品を見に行きました。同じ道沿いには従来タイプのLED照明もあり、その色や光り方の違いが確認できました。電球色の街灯は、趣があっていい感じです。(しつこいようですが)雨のために星空は見えませんでしたが、今度訪れるときの楽しみとしましょうか。早くコロナが落ち着いて、東京からもGo Toキャンペーンが適応されるといいんですけどね。

本格的な交換作業は、今年10月から12月にかけて実施され、町内にある防犯灯411台がすべて置き換わるそうです。さらに、星空保護区の申請は2021年3月末までに完了し、順調なら同年の6月〜9月に認定されます。現在、星空保護区はアジア地域に3か所のみ(日本の沖縄、台湾、韓国)。美星町は、星空保護区でも、自治体単位で光害対策や啓発活動などの取り組みが評価される「ダークスカイ・コミュニティ」カテゴリーであり、これはアジア初となる予定です。コロナが世界規模で収束すれば、海外から天文ファンや観光客を呼び込む起爆剤ともなるでしょう。コロナコロナで世知辛い世の中で、気持ちも暗くなりがちですが、はるかに規模の大きな天体、星空を眺めることで気持ちをLEDのように明るく安定させたいものです。

上が従来のLED防犯灯、下が光害対策型の製品。取り付け角度が地面に対して平行になり、照明内に光を上面の漏らさないようルーバーが装着されている。
真下から見ると、光害対策型は黒いルーバーが取り付けられているのがよくわかる。「明るいナショナル♪」ってCMソングがありましたが、今や、明るいだけじゃないパナソニック♪なのですよ。
IDA認証ではないが、こちらは光害対策を施した『アウルビームLED投光器』。グラウンドなどのナイター設備として設置される製品です。
光軸から上方15°方向への光の強さを抑え、グラウンド周辺の民家や農地への光漏れを低減する。
公開されている天文台では中国地方で最大級を誇る美星天文台の口径101cm反射望遠鏡。
天文台の中に吊り下げられた巨大てるてる坊主。やはり天候は神頼みなのか? それとも今年梅雨がやたら長いのは温暖化の影響だったりするんでしょうか。
2670万光年の距離にある銀河「M63」。SF映画でしか見たことのないような写真だが、星を見る環境が良ければ、双眼鏡でもその光は恒星と見分けられるとか。(写真提供:美星天文台)
IDA認証の光害対策型LED街灯。蛍光灯の街灯に比べてコンパクトだが、地面を照らす光量は十分。
左側が従来タイプのLED街灯、右側が今回開発された光害対策型LED街灯。電球色かつ上方への光の漏れがないことが確認できる。

 

 

 

 

 


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