6月に発売した新型「ハリアー」が大ヒットを記録するなど、勢いに陰りが見えないトヨタのSUV戦略。その結果、同社は、ミッドサイズSUVにハリアーと「RAV4」というふたつの人気モデルを抱えることになりました。
そこで今回は、モータージャーナリストの岡崎五朗さんに、2台の特徴・ポイント・美点などをチェックしてもらいながら、それぞれどんな志向の人に向くのか検証してもらいました。
■RAV4は名車「T型フォード」に次ぐ大ヒットモデル
7月17日にトヨタが出した「新型ハリアーの受注状況について」というニュースリリースに業界はざわめきたった。その数、約1カ月で実に4万5000台!
月に3000台も売れれば立派なヒットモデルというのが国内マーケットの相場であり、実際、新型ハリアーの月販目標台数も3100台というものだった。この数字はモデルライフを通しての平均目標値とはいえ、想定の14カ月分をわずか1カ月ほどでクリアしてしまった勢いはすごいとしかいいようがない。新型コロナウイルスが収束する気配すらない時期であったことを考えればなおさらだ。
そんな大ヒットモデルのハリアーには、2019年4月に発売されたRAV4という兄弟車が存在する。両車はトヨタが“GA-K”と呼ぶプラットフォーム(車体の基本骨格)を共有。2リッターのガソリンエンジン&2.5リッターのハイブリッドというパワートレーンも同じだ。
ちなみに、RAV4の発売後1カ月の受注台数は2万4000台(月販目標3000台)。国内だけで見ればハリアーの勝ちということになるが、RAV4の主戦場は海外であり、グローバルでは年間約100万台もの売り上げを記録するオバケ車種。車名別で見ると、さまざまなバリエーションを抱える「カローラ」には及ばないものの、単一ボディではトヨタの中で文句なしのベストセラーカーだ。この数字を上回るのは年産205万台という記録を持つ「T型フォード」だけといえば、そのすごさが分かるだろう。
■ハリアーとRAV4は根本的な部分まで別物
そんな2台のどちらを選ぶべきか? 選びのカギとなるのは「どちらがいいクルマか?」ではなく、「貴方はクルマに何を求めるのか?」という観点になる。というのも、プラットフォームとパワートレーンを共有する兄弟車とはいえ、ハリアーとRAV4はテイストが明らかに違うからだ。
トヨタはかつて、「マークII」、「クレスタ」、「チェイサー」という兄弟車を販売していた。現在でも「ノア」と「ヴォクシー」と「エスクァイア」、「アルファード」と「ヴェルファイア」といった兄弟車を販売している。基本メカニズムを共有するという点では同じだが、それらとハリアー&RAV4が決定的に異なるのは、乗り味やクルマが持つ世界観といった根本的な部分まで別物になっている点だ。
これまでの兄弟車は、グリルやヘッドライト、リアのコンビネーションランプのデザイン、シート生地といった“枝葉の部分”だけを変え、別車種に仕立て上げていた。実際、乗ってみると同じクルマである。その点、ハリアーとRAV4は内外装のデザインが全く違うし、乗り味も完全に違う。タフで軽快なRAV4に対し、都会的で洗練されたたたずまいに仕上げられたハリアーは、乗ってみても静かでしっとりとしたテイストを伝えてくるのだ。
もう少し詳しく解説しよう。乗用車系プラットフォームをベースにしたSUVでありながら、RAV4が指向しているのはアクティブな世界観。外観、特に「アドベンチャー」グレードには、トヨタが北米で販売しているピックアップトラックである「タコマ」や「タンドラ」のイメージを採り入れるとともに、メカニズム面でも3種類の4WD機構を用意するなど、タフネスぶりをアピールする。ドライブフィールにしても、決して荒っぽいわけではないが、軽快感やダイレクト感を重視した味つけで楽しい。乗用車テイストの強いSUVが人気を博す中、かなり思い切った方向に舵を切ってきたなと、デビュー当時は思ったものだ。
しかし、ハリアーの登場によって納得した。乗用車ライクであることを追求したハリアーが後に控えていたからこそ、RAV4は思い切ってアクティブな方向に行けたのだと。実際、ハリアーにはRAV4より多くの遮音材、吸音材がおごられているため、より静かだし、専用のショックアブソーバーは滑らかでしっとりした乗り味を生み出す。加えて、電動パワーステアリングの特性を専用チューニングすることで、高級サルーンのような落ち着き感やしなやかさも実現している。
ワインディングロードを走れば一目瞭然だが、ステアリング操作に対しダイレクトに反応するRAV4に対し、ハリアーはゆったりとロールしながら穏やかに、自然にノーズが動いていくといったイメージ。静粛性に関しても、エンジン音を積極的に聴かせるRAV4の方が運転していて感じられるスポーティ感は強い。つまり、どちらがいいとか悪いという話ではなく、両車にはそういう違いがあるということだ。分かりやすくいえば、RAV4は週末に遠出する時のウキウキした気分にピタリとマッチするクルマで、ハリアーはジャズを聴きながら夜の都会を流すのがお似合いというイメージだ。
■開発責任者が同じだからこそ2台の違いが明確に
この2台に関する面白いデータがある。RAV4は4WD車の販売比率が圧倒的に高いが、逆にハリアーはFF車の比率が圧倒的に高い。これが何を示しているかといえば、自分がクルマに何を求め、どう使い、どう楽しみたいかをきちんと理解して選んでいる人が多いということ。まさにそこが開発者の狙いだ。
実はハリアーとRAV4の開発責任者は同一人物で、だからこそ2台の違いを明確にできたそうだ。また、見た目だけでなく乗り味にも異なる個性を与えられた背景には、TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)という新しいクルマ作りの方法論と、そこから生み出された基本性能の高いプラットフォーム、さらにいえば「もっといいクルマをつくろう」という豊田章男社長の大号令があったという。
基本性能が低いと、最低限の性能を出すために四苦八苦することになり、“味”というさらに上位にある概念まで手が回らない。そして、それがこれまでのトヨタの実情だった。しかし、GA-Kという優れたプラットフォームが開発された結果、味つけをする余地が生まれたという。いうなればGA-Kプラットフォームは美味しいスープであり、ベースとなるスープが美味しいからこそ、塩、醤油、味噌といったアクセントを足すだけで個性豊かな美味しいラーメンが出来上がったというわけだ。
メカニズムの共用というと、似たようなクルマばかり増えてつまらなくなる、と考える人も多いだろう。確かにかつての共用化はそうだった。しかし最新の技術は、同じメカニズムを使いつつ全く個性の異なるクルマを作ることを可能とした。それどころか、共用化でコスト削減を図りつつ、それによって浮いたコストを個性の部分に投入することで、より個性の際立つ魅力的なクルマを作り出すことさえできる。まさにそれが最新のプラットフォーム戦略であり、ハリアーとRAV4はその好例といえる。
自分がどんなシーンでクルマを使いたいのか、どんな気分になりたいのか、あるいはそのクルマに乗ることでどんな自分を演出したいのか…。そこを考えて選べば、ハリアーにするかRAV4にするかの回答は、自ずと導き出されるに違いない。
<SPECIFICATIONS>
☆ハリアー ハイブリッド Z“レザーパッケージ”(E-Four)
ボディサイズ:L4740×W1855×H1660mm
車重:1750kg
駆動方式:E-Four(電気式4WDシステム)
エンジン:2487cc 直列4気筒 DOHC+モーター
トランスミッション:電気式無段変速機
エンジン最高出力:178馬力/5700回転
エンジン最大トルク:22.5kgf-m/3600〜5200回転
フロントモーター最高出力:120馬力
フロントモーター最大トルク:20.6kgf-m
リアモーター最高出力:54馬力
リアモーター最大トルク:12.3kgf-m
価格:504万円
<SPECIFICATIONS>
☆RAV4 アドベンチャー
ボディサイズ:L4610×W18565×H1690mm
車重:1630kg
駆動方式:4WD
エンジン:1986cc 直列4気筒 DOHC
トランスミッション:CVT
最高出力:171馬力/6600回転
最大トルク:21.1kgf-m/4800回転
価格:331万円
文/岡崎五朗 写真/ダン・アオキ、上村浩紀
岡崎五朗|青山学院大学 理工学部に在学していた時から執筆活動を開始。鋭い分析力を活かし、多くの雑誌やWebサイトなどで活躍中。テレビ神奈川の自動車情報番組『クルマでいこう!』のMCとしてもお馴染みだ。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
- Original:https://www.goodspress.jp/reports/317951/
- Source:&GP
- Author:&GP
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