Wishはサンフランシスコを本拠とする社員750人のeコマース企業だ。売っているものが恐ろしく安い。あまりに安いのでモルモットの散歩用ハーネス、Appleウォッチのコピー腕時計、ミニ監視カメラなどいらないものでもつい買ってしまう。このWishが証券取引委員会に企業上場の準備書面を非公開で提出したと発表した。
非公開であるためまだ財務関連の数字を正確に把握できていないが、これまでに総額16億ドル(約1700億円)を出資してきた投資家が、2019年夏に直近のラウンドである3億ドル(約319億円)のシリーズHを完了した際に会社評価額を112億ドル(約1兆1892億円)としていることはわかっている。一方、Wish自身は40言語100カ国に7000万人のアクティブユーザーがいると発表している。
最大の疑問はもちろん、創立10年になるこの通販会社が現在の勢いを維持できるのかさらに成長できるのかという点だろう。
この疑問に答えるのは、そう簡単ではない。一方では、Wishが取り扱う商品のほとんどは中国から来ているため、次第に激しさを増す米中対立の影響を受けることになる。しかしWishは変化する世界情勢に合わせてマーケットや仕入先を多様化させる努力を続けている。
例えば2019年のRecodeのインタビュー記事によれば、同社はメキシコ、アルゼンチン、チリなどラテンアメリカ市場へのシフトを強めている。同社は既に南アフリカ、ガーナ、ナイジェリアなどをカバーしているが、今後アフリカでの活動をさらに強化する計画だ。
Wishのビジネスは常に変化し続けてきた。ファウンダーでCEOのPeter Szulscewski(ピーター・セルチェスキー氏)はWishの前身であるContextLogicのファウンダーでもあるが、それ以前はGoogle(グーグル)に6年勤務したコンピューター科学者だ。当初狙ったのはグーグルのAdSense的な次世代広告ネットワークをモバイルアプリをベースとして構築することだった。しかし以前、セルチェスキー氏が私が主催したイベントで語ったところによると、セルチェスキー氏と共同ファウンダーのDanny Zhang(ダニー・ザン)氏は「2人とも事業開発にはまったくセンスがないことがわかった」のだという。そこで2人はピボットしてWishを創立した。
Wishというブランド名は、当初ユーザーに欲しいものを挙げるウィッシュリストを作らせたからだった。会社はその後、ウィッシュリストを元に供給できるマーチャントを探した。こうすればマーチャントにアプローチしたときすでに商品、例えば特定のデザインのテーブルに対して一定の需要があることがわかっていた。商品をプロモートする際に適切な推薦があることは決定的に重要だったが、どのようなマーチャントが目的の商品を供給できるのか事前に予測することはできなかった。ほとんどのマーチャントは中国やインドネシアなど東アジアないし東南アジアに所在し、ひたすら低価格を狙う会社だったからだ。Wishがすぐに気付いたのは、これらの企業は地域外の消費者にアプローチする手段をまったく持っておらずWishに対し15%の手数料をを進んで支払おうとすることだった。
Wishは、中国からは主として軽量の商品を仕入れることによって送料の節約をはかってきた。米国と香港の郵政当局との間で9年前に結ばれたeパケットという取り決めを利用するとスピードは多少遅いが、極めて送料が極めて安くなる。eパケットはその後、40カ国をカバーするようになった。このサービスを利用すると一定の範囲の外形寸法で2kgまでの荷物が安く配送できる(損害賠償は6000円まで)。
これらの手法を利用できたことがWishにとって極めて有利だった。もちろん中国にもWishに対抗して低価格で世界中に通販するAliExpressのようなサービスが現れたし、Amazonやウォルマートとも競争しなければならなかった。
Wishが主として扱うのは必需品というより雑多な商品の「福袋」的な「あまりに安いので買っておく」というアイテムが多かった。 The Informationの以前の記事によれば、顧客はもの珍しさから一度は使うもののしばらくすると離れていくという傾向があった。
しかしそれより大きな問題は2カ月前に米郵政公社の国際郵便サービスに新しい価格体系が導入されたことだろう。これによればeバケット参加国は料金の値上げを承認しなければならず、また米国を受取地とする対象国も40カ国から12カ国に減らされた。この郵送料金の値上げにより、Wishはベンダーに対してより高い手数料を請求するか、郵政公社以外の商業国際配送サービスを利用するかを選ばなければならなくなった。
ただしWishの地位を将来さらに強化するような第三の道もある。米国やヨーロッパ、その他の成長中にある国や隣接する国のロジスティクスにさらに投資することだ。同社はRecodeのインタビューでも、そうした努力を払っていると述べている。また注文者の居住地に近い地域でベンダーを探す努力も払っているという。
eコマースの進展により米国各地でショッピングモールのような小売店舗地域を産業地域に転換するプロジェクトが進んでいる現状を考えると、Wishはこのトレンドを利用するのが賢明だろう。ただしこれによって安定的な成長がもたらされるかどうかは将来の課題だ。
上場準備のために証券取引委員会に提出された書類に目を通すことができれば、はるかに多くの確実な情報を得ることができる。S-1様式は大いに興味深い読みものとなるだろう。
Wishに対する投資家にはGeneral Atlantic、GGV Capital、Founders Fund、Formation 8、Temasek Holdings、DST Globalなどのベンチャーが含まれる。
カテゴリー:ネットサービス
タグ:Wish eコマース 新規上場 / IPO
画像クレジット:Wish
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(翻訳:滑川海彦@Facebook)
- Original:https://jp.techcrunch.com/2020/09/02/2020-09-01-what-will-a-wish-ipo-look-like-seems-well-find-out-sooner-than-later/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:Connie Loizos
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