●What’s ビザールウォッチ?
<今月の時計>
Vol.21
ACCUTRON
アキュトロン スペースビュー 2020
時計動力に革命を起こす
時計の駆動源は多種多様。機械式ムーブメントならゼンマイで動き、クオーツ式ムーブメントなら電池が必要。光発電で動く時計もある。しかしこの時計は、ほぼ何もいらない。なぜなら時計が発電するからだ。
己の肉体が、発電機となる。
先日、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズを見ていて、ふと考えた。この映画は、タイムスリップした先であれこれあるが、結局のところ「フラックス・キャパシター」と呼ばれる次元転移装置を作動させるための88マイルというスピードと、1.21ジゴワットの電力をどうやって確保するのかというところが見どころ。
自動車の走行速度とプルトニウムを使った小型の原子炉で発電するのが基本だが、もちろんそこには故障やトラブルが起きるのが必須。時には避雷針に落ちた雷の電力を利用したこともあったし、速度を出すために蒸気機関車に押してもらったこともあった。時代背景に合わせて“動力”を確保するためのドタバタが、ストーリーの核なのだ。
この“いかにして動力を確保するか”という悩みは、時計の世界にも存在している。教会の塔時計から始まった機械式時計は、大きな錘が下に行こうとする力を利用して時計を動かした。その後ゼンマイが開発されたことで時計は格段に小型化された。1960年にボタン型の電池がアメリカで開発されると、そのボタン電池を使って腕時計を駆動させる方式が開発される。
その後、ソーラーパネルを使って発電する光発電技術や回転ローターを使って発電する「キネティック」などが開発されだが、これらは全て、時計の実用性を高めるための創意工夫の歴史でもある。精度を安定させ、電池交換を不要にするために、時計会社は常に優れた動力源を探しているのだ。
アメリカ発祥の「ブローバ」も、そういったテクノロジーには強い。なにせ1931年に電気仕掛けのクロックを開発し、アメリカ海軍の衛星計画にも協力。NASAのアポロ計画では計器を製作し、アポロ11号の月面着陸船にも使用されていた。伝統を重んじるスイス時計業界とは異なり、ハイテク技術に対してもどん欲に取り組む姿勢をもつ稀有な時計ブランドなのだ。
この「アキュトロン スペースビュー 2020」は、ブローバのDNAを受け継ぐ新ブランド「アキュトロン」から誕生した新作。ブランド&モデル名は、1960年に誕生した世界初の音叉式腕時計「アキュトロン」から受け継いだもので、メカニズムが見えるダイヤルは、まさに伝説の時計を髣髴とさせるデザインである。
しかしこの時計の凄いところは、その動力源にある。ポイントとなるのは、5時位置と7時位置のタービン。時計を腕につけると色々と向きを変えるが、その動きでタービンが回転し、二つの電極の間で電力を生み出すのだ。これは静電誘導という技術であり、生み出された電気を蓄電池に貯めて時計を駆動させる仕組み。さらに10時位置には静電誘導モーターがあり、このモーターを使って秒針が動かしている。ちなみに時分針は、節電効果を高めるために別回路で動かすという何とも不思議な設計になっている。
ちなみにこの時計は、一日に6000歩ほど歩いた際の発電量が、時計が一日で使用する電力とほぼ拮抗するとのこと。ということは、とにかく動いてタービンを回転させ、どんどん生み出していけば、いつまでも時計は動き続けるということだ。
タービンが猛スピードで回転する様子は、まさに今、この瞬間に自分が発電しているんだ! という喜びがある。いうなれば自分自身が「人間発電所」になるということ。なんとも不思議な動力源を持った時計である。
ACCUTRON
アキュトロン スペースビュー 2020
クオーツ、SSケース、ケース径43.5㎜。360,000円。
問ブローバ相談室 ☎0570-03-1390
https://bulova.jp/
篠田哲生が断言するビザール度!
視認性★★★3
メカニズム★★★★4
コンセプト★★★★★5
プライス★★★★★5
- Original:https://www.digimonostation.jp/0000130129/
- Source:デジモノステーション
- Author:篠田哲生