2019年5月、17年ぶりの復活が話題となったトヨタ「スープラ」。それからわずか1年、早くも改良が加えられた。
最大の注目は、スープラのDNAともいうべき直列6気筒ターボエンジンの進化。大幅なパワーアップを果たした直6ターボの印象を軸に、最新モデルの乗り味をレポートする。
■エンジンだけでなくボディや足回りも改良
デビューからまだ1年しか経っていないのに、ここまでやったか! スープラ改良のニュースを聞いて、そう感じた人は少なくないだろう。もちろん筆者も、そのひとりである。
トヨタ自動車でスープラの開発責任者を務める多田哲哉さんは、自身が開発をまとめた「86」のデビュー当時から、「スポーツカーは進化が重要。だから毎年、なんらかの手を加えていく」と語っている。86と同様、スープラにもその考えが貫かれ、デビューからわずか1年で、早くも改良が加えられたのだ。
今回の改良ポイントで注目すべきはエンジンである。トップグレードである「RZ」に搭載される3リッター直列6気筒ターボエンジンは、最高出力が従来の340馬力から387馬力へとパワーアップ。デビューからわずか1年で、実に47馬力、パーセンテージにして14%もの出力アップを実現したのだから驚かずにはいられない。
結果、北米仕様の0-60mph加速タイム(停止状態からの全開加速で約99km/hに到達までの所要時間)は、従来モデルの4.1秒に対し、新型は3.9秒へとタイムアップ。わずかではあるものの速さに磨きを掛けてきた。
スペック面での進化が著しい直列6気筒ターボにフォーカスしがちだが、実は今回の改良における見どころはそれだけではない。トヨタによると「フロント部にブレース(補強材)を追加することでボディ剛性を強化。それに合わせてサスペンションを再チューニングすることで、コーナリング中の安定性を高めた」という。
それにしても、デビューからわずか1年で、ここまで手を加えられるクルマは珍しい。その背景にはどんなストーリーがあったのか? 多田さんは今回の改良の経緯を、「発売後も、クルマをより深く熟成させるため、各地のサーキットや公道で積極的にテストを実施している。それらを通じて“まだ伸び代がある”と感じた部分を改良した」と振り返る。
と同時に、マーケットからの声も反映したという。購入したユーザーからは「とても乗り心地が良くて乗りやすいし、運転しやすいクルマだ。だからもっと限界性能を引き上げられるのでは? サーキットでの走行性能をさらに高めてくれ!」といった声が多く届いたようで「従来よりも少しサーキット寄りの味つけにした」(多田さん)という。
ボディ補強に関しては、パワーアップしたエンジンへの対応というのが大きな理由だ。視覚的に分かりやすい進化ポイントはエンジンルーム内にあり、サスペンション上部の取り付け部と車体をつなぐ“つっかえ棒”のような補強部材が加わっている。加えて、パワーアップとボディ補強に合わせてサスペンションをチューニングし直すことで、路面とタイヤの接する感触をドライバーがより敏感に感じられるようにしている。
「パッと見て分かる変化はブレーキキャリパーに車名ロゴを入れたくらいだが、実は走りを司る部分に関しては、変わっていない箇所がないくらい進化させている」と多田さんは胸を張る。
■高回転化で爽快感が増した直6ターボ
さっそく新しいスープラで走り出そう。走り出してまず感じたのは、ステアフィールのスッキリ感が増したこと。タイヤがどのように路面と接しているかが分かりやすくなった。
さらにハンドルを切ると、重い直列6気筒エンジンが車体前部に搭載されているとは思えないほど、新型は機敏に曲がり始める。しかも、この時の挙動がお見事で、ドライバーのハンドル操作に対して反応の遅れがなく、また、ハンドルを切った量に対して減衰も増幅もせず、ハンドルを切っただけ正確に向きを変えていく。まるでドライバーの神経がタイヤにまで伸びているかのように、ドライバーとクルマとの一体感が強いのだ。
こうしたフィーリングは、従来モデルでも好印象だったし、正直なところ、試乗前は「そんなに違いはないだろう」と予想していた。しかし走り出してすぐに、新型は格段にブラッシュアップされていることを実感し、驚かされた。
一方、エンジンのパワーアップに関しては、公道を日常的に走る限り、それほどの違いは感じられない。従来モデルでもトルクが極太で、乗りやすく速いからだ。しかし、アクセルペダルを深く踏み込むと、明確な違いを感じられる。高回転域でのパワーの盛り上がりがひときわ鮮明で、この領域では従来型よりも明らかに力強い。いい換えれば、エンジン回転数に対するパワーの出方がリニアになった印象で、エンジンの回転数を上げれば上げるほど、それに比例してパワーが増していく自然なフィーリングに仕上がっている。
高回転域での爽快感を高めるべく、昨今、スポーツカー用の高性能ターボエンジンは、フィーリングを、高回転になればなるほどイキイキとした反応を示す自然吸気エンジンのそれに近づけるのがトレンドとなっている。スープラの今回の改良も、まさにそれを踏まえたものといっていいだろう。
事実、新型の6気筒ターボエンジンは、従来、5000回転だった最高出力の発生回転数が5800回転へと高まり、最大トルクの発生領域も1600〜4500回転から1800〜5000回転へとさらに高回転型へシフトしている。単にパワーアップしただけでなく、より高回転化を図っているのだ。
■待望のMTは次回の改良時に登場!?
デビューからわずか1年で、大がかりな改良が加えられたスープラだが、一方で「いつまでじらすつもりなのか?」と感じた点もあった。それは、筆者も熱望するMTの追加である。スープラのトランスミッションは、新型もATのみなのだ。
そうした思いを多田さんにぶつけてみたところ「あちこちから要望が届いている」と笑いながら「導入については検討している。MTを望む声が大きいのも知っているし、新型ユーザーの中には『MTが出たらもう1台買う』といってくださる人もいるくらいだ」と明かしてくれた。同じ質問をぶつけたデビュー直後に比べると、少し前向きな回答に聞こえたのは気のせいではないと思う。
スープラはリアルスポーツカーとしてこの世に甦ったとはいえ、誕生からわずか1年でこれほどの進化を遂げるとは思ってもいなかった。しかしそれは、トヨタがしっかりとこのクルマを育て、絶え間なく進化させ続けている証ともいえる。初期型を手にしたオーナーはショックを受けるかもしれないが、遠慮することなく改良の手を止めないトヨタの本気が感じられた。
ちなみに今回の改良は、3リッター直列6気筒ターボエンジンを搭載するRZグレードがメインで、2リッター4気筒ターボエンジンを搭載する「SZ」、「SZ-R」の改良は、ペダル踏み間違い急発進抑制機能が追加されたのみ。こちらの進化は、次回の年次改良の際のメインテーマとなりそうだが、その際、待望のMT仕様が追加されるのではないかと、筆者は密かに期待している。
<SPECIFICATIONS>
☆RZ
ボディサイズ:L4380×W1865×H1290mm
車両重量:1530kg
駆動方式:FR
エンジン:2997cc 直列6気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:387馬力/5800回転
最大トルク:51.0kgf-m/1800〜5000回転
価格:731万3000円
※写真の特別仕様車「RZ“ホライズンブルーエディション”」は完売
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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