Alphabet X(Googleのいわゆる「ムーンショットファクトリー」)が、Project Amber(プロジェクト・アンバー)に関する新しいブログ記事(Alphabet Xブログ)を、米国時間11月2日投稿した。同プロジェクトは過去3年間にわたって取り組みが行われていたが、その成果が今回オープンソースとして世界のメンタルヘルスの研究コミュニティに公開された。この先その上でさらなる開発が進むことが期待されている。Xプロジェクトは、うつ病のための特定のバイオマーカーを特定しようとしたが、その目的を達成することはできなかった(現在研究者たちは、うつ病や不安症を特定できる単一のバイオマーカーは存在しない可能性が高いと考えている)、それでもXは、脳波(EEG)と機械学習を組み合わせたその研究成果が、他の研究者たちの役の立つことを期待している。
Xの研究者たちは、うつ病が他の病気や障害と同様に、医療従事者がいm以上に簡単かつ客観的にうつ病を診断するのに役立つ、明瞭なバイオマーカーを持っているのではと期待していた。それは、目的のために特別にデザインされたゲームを使用して、実験室で行われた研究の中で脳波を見た際に、いくつかの前例となるケースが発見されたからだ。そこでは、うつ病の人びとには、実質的にゲームの「勝利」に対応する脳波活動の低下が一貫して観察された。
これらの研究は、バイオマーカーの可能性への道筋を示しているように見えた。それを(クリニックや公衆衛生ラボのような)実際の診断環境で有用なものにするために、Xのチームは脳波収集やその解釈プロセスを改善して、ユーザーや技術者たちにとって使いやすいものにしようとした。
この探求についておそらく最も注目すべき点は、Alphabetがその過程を詳細に発表した米国時間11月2日の投稿は、基本的にうまくいくことがなかった長年の調査についてのストーリーであり、大規模テック企業から一般的に聞こえてくる典型的なムーンショットストーリーとは異なっている。
実際、これはおそらく、大規模テック企業の多くのアプローチを、批評家が理解し損なう例を示す最良のものの1つだ。ソフトウェアやエンジニアリングの世界でよく見られるソリューションに類似したアプローチでは解決できない問題もあるのだ。
Xのチームは、長年にわたったユーザー研究プロジェクトからの学びを、3つの要点としてまとめている。そしてそれぞれの要点が、純粋なバイオマーカー検出手段の(たとえ機能していたとしても)不十分さに何らかのかたちで触れている。それは特にメンタルの病に対する場合に顕著なものとして示されている。
1.メンタルヘルスの測定はまだ未解決の問題です。多くのメンタルヘルスの調査や評価基準が利用可能であるにもかかわらず、それらは特にプライマリケアやカウンセリングの現場では、広く使用されていません。その理由は、作業負荷(「私はこれを行うための時間がありません」)から、懐疑主義(「評価基準を使用しても、私の臨床判断よりも優れていることはない」)、信頼の欠如(「私は患者がこれに正直に答えているとは思わない」「私はカウンセラーにこれほどまでに多くを明らかにしたくない」)まで、多岐にわたっています。これらの知見は、測定に基づくメンタルヘルスケアに関する文献の中に現れているものです。いかなる新しい測定ツールであっても、生きた経験を持つ人と臨床医の両方に対して明確な価値を創出することで、こうした障壁を克服する必要があります。
2.主観的データと客観的データを組み合わせることには価値があります。生きた経験を持つ人と臨床医は、どちらも客観的な指標の導入を歓迎しましたが、主観的な評価や、相手に経験や感情について質問する行為を置き換えるものではありませんでした。主観的指標と客観的指標の組み合わせは、特に強力であると見なされていました。客観的な指標は、主観的な体験を裏付ける場合もあれば、両者の相違そのものが、会話を始めるきっかけを与えてくれる、興味深い洞察となったりする場合もあります。
3.新しい測定技法には、複数のユースケースがあります。私たちの最初の仮説は、臨床医が診断補助として「脳波検査」を使用できるかもしれないということでした。しかし、このコンセプトは熱心に歓迎はされませんでした。精神科医や臨床心理学者などのメンタルヘルスの専門家は、臨床面談を介しての診断能力に自信を感じています。プライマリケアの医師は、脳波検査が有用だろうと考えましたが、それは血圧検査などと同様に、患者との面談前に医療スタップによって実施された場合に限るのです。一方カウンセラーやソーシャルワーカーは実践の場で診断を下さないため、脳波診断とは無関係でした。生きた経験を持つ人の中には、機械によって「うつ」だとラベル付けされるというアイデアを好まない人もいました。
対照的に、テクノロジーを継続的に観察するためのツールとして使用することには、特に強い関心が示されました。面談と面談の間に何が起きたかを知るために、メンタルヘルスの状態の変化を経時的に捉えるのです。多くの臨床医が、患者や顧客が自分で検査を繰り返せるように、脳波システムを自宅に送っても良いかと尋ねてきました。また彼らは、脳波が持つ予測能力への可能性にも強い関心を示しました。例えば将来より「うつ」が深刻になるのは誰かを予測するといったことです。脳波などのツールが、臨床およびカウンセリング環境においてどのように導入されることが最適なのかを決めるためには、さらなる研究が必要です。例えば、デジタル表現型(digital phenotype、個人のデバイスから収集される行動データ)などの他の測定技術と組み合わせる方法も含まれます。
XはProject AmberのハードウェアとソフトウェアをGitHub上でオープンソース化する。そして同時に、オープンソース素材を通して使われる、Amberに関わる脳波特許の利用者に対して、いかなる法的措置も講じないことを宣言する「特許誓約」も発行する。
Amberが「うつ病」のための単一バイオマーカーを発見できたのかどうかははっきりしないが(おそらく発見できていないだろう)、専門的な試験施設以外でも脳波をより使いやすくするためにチームが行った作業の成果は、より広いコミュニティの手に渡ることで、おそらく他の興味深い発見につながることだろう。
カテゴリー:バイオテック
タグ:Alphabet、うつ病、GitHub
画像クレジット:X, the moonshot factory
[原文へ]
(翻訳:sako)
- Original:https://jp.techcrunch.com/2020/11/04/2020-11-02-alphabets-x-details-project-amber-a-quest-for-a-single-biomarker-for-depression-that-fell-short-of-its-goal/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:Darrell Etherington
Amazonベストセラー
Now loading...