暗号通貨によるマーケットプレイスZoraが、クリエーターのための持続可能なエコノミーを構築するため200万ドルを調達

Dee Goens(ディー・ゴエンズ)氏とJacob Horne(ジェイコブ・ホーン)氏は、クリエイターのために、フォロワーが参加できる持続可能なエコノミーを作る手段を開発しているが、2人の経歴は、Coinbase(コインベース)、大学での暗号ハッキングプロジェクト、KPMG、Merrill Lynch(メリルリンチ)と、現在彼らの行っていることからまったく真逆のものである。2人はアートとどういった関わりがあるのだろうか?

「信じてもらえるかどうかわかりませんが、私の夢はラッパーになることだったんです」とゴエンズ氏は笑う。「私の作品はいまでもSoundCloud(サウンドクラウド)のどこかにありますよ。音楽への情熱があったので、音楽業界内の仕組みを探りました。私は興奮気味に業界の友人達に良い360ディール(アーティストとレコード会社間のビジネス契約)モデルがないかと尋ねましたが、ひどいモデルしかありませんでした」。

多くのディールモデルは悪意のあるものではないものの、芸術性を搾取する構造になっていることがしばしばある。多くの場合、アーティストの作品所有権のほとんどはレコード会社側に渡ってしまう。「アーティストはなぜ影響力のある方法で彼らのコミュニティから資金を調達することができず、代わりに搾取される危険のある関係を求めざるを得ないのだろうと興味を持ちました。これはひどいと、私は思いました」。

ホーン氏は、ずっとファッションブランドを立ち上げたかったのだと述べた。

「暗号通貨に携わった後は、ファッションブランドを立ち上げたいと常に思っていました。暗号通貨も好きですが、あまりに金融に偏り過ぎているので、いつもなにか足りないような気がしていました。そこで、この2つに対する情熱を組み合わせたらどうだろうと考えるようになり、Saint Fame(セイントフェイム)を立ち上げたのです」。

Coinbaseにいる間、ホーン氏はZora(ゾラ)でのディスプレイに関するアイデアの一部を活用したサイドプロジェクト、Saint Fameのコンピュータープログラムを作成していた。それは、暗号通貨でものを売買し、将来の商品と交換可能な中間媒介変数値のトークンを購入できるマーケットプレイスであった。

「文化自体が、アーティストやそのコミュニティに不利な形に歪んだ古い金融システムをベースに形作られていることがわかりました」とホーン氏は言う。「所有権の運用システムはオランダの東インド会社と初期の国民国家により1600年代に作られたものです。どうしようもないと思いませんか」。

今はインターネットがあり、なにかを作ったらそれを文字通り何十億もの人と一度に共有できる時代であるにもかかわらず、所有権システムは手紙を1通送るのに船で6ヶ月もかかった時代と同じシステムのままです。このシステムを変更すべき時が来ています。インターネット上のコミュニティが資本を持ち寄って集まり、同じビジョンに向かって取り組むことができようにすべきです。それはクリエーターやアーティストが自らが生み出している文化を所有できるようにすることから始まります。長期的には、これは社会的取り組みを行うインターネットコミュニティに移行します」。

この問題を解決しようと彼らが取り組んでいるのが、Zoraと呼ばれるシステムである。これは2つの要素から成り立っているが、背景にある哲学は1つ、クリエーターのための持続可能なエコノミーを作り出すことである。

クリエーターはほとんどの場合、自分の作品に対する報酬を一度しか得られない。しかし、彼らの手の届かないところで第2の経済が引き続き価値を生み出している。例として作品を制作して市場価格で売却したアーティストについて考えてみよう。これはこれで素晴らしいが、その後そのアーティストが将来の作品に注ぎ込み、名前とブランドとフォロワーを築くのに投入される作業のすべては、その作品に付加価値を与えることになる。だがアーティストはそこから一銭も得ることはなく、代わりにその作品が利益を生むように、将来の作品の価値に依存するという形になっている。

画像クレジット: Zora

これが基本的な従来の仕組みだ。著者は展覧会を開いていたことやギャラリー経営に携わっていたことがあり、父は画家なので、この世界に多少の関わりがある。彼が今日油絵を300ドル(約3万1000円)で売り、時間の経過とともに腕を上げ、人気が出て、絵に価値が出ると、その油絵の所有者はその油絵を数百ドル、または数千ドルで再販する可能性がある。私の父はそこから僅かな儲けも得ることはない。父のようなアーティストが、壁の正方形のスペースやキュレーターの名声、あるいは店構えのために作品の価値の多くの部分を削り取っていくギャラリーのシステムにはまってしまうことは決して起きてはならないことだ。

同じことが音楽業界、ファッション、スポーツ、ソーシャルメディアにも当てはまる。多くの仲介者にたくさんの手数料を払わなければならないのだ。そして予想できることながら、文化推進の立役者であるクリエーターが最大の敗者なのは明白である。

Zoraの製品は主に、クリエーターまたはアーティストが作品を売り出し、そして流通市場にも引き続き参加することのできるマーケットである。

以下がZoraからの説明である。

Zoraでは、クリエーターは2つの値段を設定することができます。開始価格と最大価格です。コミュニティメンバーがトークンの売買を行うと、その価格が上下します。市場により適性価格の模索が行われるため、価格は動的なものになります。人々がトークンを買うと、価格は最大価格へ近づき、売れば最小価格へ近づきます。

Jeff Staple(ジェフ・ステイプル)氏のような盛り上がりを見せているコミュニティでは、この新しい動的価格システムのため、彼のスニーカーの価値は急速に上がります、クリエーターとして市場価格で作品を売ることから利益を得るだけではなく、所有する市場から手数料を得ることができます。StockX(ストックエックス)で取引されていたものが、クリエーターが所有する市場で取引されようとしているのです。

さっそく成功をおさめた取引もある。デザイナーでありマーケターでもあるステイプル氏は、Reverseland(リバースランド)によるCoca-Cola(コカ・コーラ)とStaple(ステイプル)のコラボ作品であるスニーカーSB Dunk(SBダンク)を30足限定で売り出しており、価値は発売以来234%上昇している。Benji Taylor(ベンジ・テイラー)氏とKevin Doan(ケビン・ドーン)氏のコラボによるソフビフィギュアは210%の上昇を見せている

今までも趣旨の似通った試みを見たことはある。StockXに創設者のJosh Luber(ジョッシュ・ルーバー)氏がまだいた頃、ブラインドダッチオークションと呼ばれる最初の製品オファーを行った。これは、市場が商品の価格を設定することを可能にするシステムで、その商品の製造者やブランドに、市場価格からの上昇分の一部が還元される仕組みだ。ここでの焦点はブランド対個々のクリエーターだった(彼らはBen Baller(ベン・ボーラー)のサンダルから開始したわけだが)。ブランドが限定商品の流通市場価格から利益を得られるようにするこのシステムは革命的なものとは言えないかもしれないが、趣旨は似ている。当時筆者はこれはよいアイデアだと思ったし、収益を最大化するというよりは民主化するのに使われている点が更に良い。

補足:このチームが、自分たちのTestFlight(テストフライト)グループにおける価値を通して、市場を自分たちでテストするといったおもしろいアイデアをいじり回しているのを好ましく思う。そんな事してもよいのかとも思うが、同時にそれは素晴らしいアイデアであるし、そんな試みを今まで見たことがない。

Zoraは2020年5月(この不確実な時期の真っ最中)に発足した。チームは、ゴエン氏(クリエイター兼コミュニティ)、ホーン氏(製品)、Slava Kim(スラヴァ・キム)氏(デザイン)、Dai Hovey(ダイ・ハヴィー)氏(エンジニアリング)、Ethan Daya(イーサン・デイヤ)氏(エンジニアリング)、Tyson Battistella(タイソン・バティステラ)氏(エンジニアリング)という構成である。

Zoraは、Kindred Ventures(キンドレッド・ベンチャーズ)が主導し、Brud(ブラッド)のTrevor McFedries(トレイバー・マクデュリー)氏、Alice Lloyd George(アリス・ロイド・ジョージ)氏、ジェフ・ステイプル氏、Coinbase Ventures(コインベース・ベンチャーズ)などが参加したシードラウンドで200万ドル(約2億1000万円)を調達した。

トークン化されたコミュニティ

しかし、手に取れる商品だけでなくデジタル作品も価値を蓄えておける有形物であるべきだ、という考えは既存の考えではない。ゴエン氏とホーン氏はZoraの最初の大型新製品である「コミュニティトークン」を用いてこれに挑戦しようとしている。Ethereum(イーサリアム)上で発行された$RACは、Zoraにとって初めてのコミュニティトークンとなる。André Allen Anjos(アンドレ・アレン・アンホス)氏は、芸名RACで活動するポルトガル系アメリカ人のミュージシャン兼プロデューサーで、ウェブ上でストリーミングするリミックス、オリジナル音楽、そして大手ブランドの広告で使用される商業作品を制作している。

RACは人気があり、数万人のフォロワーがいるが、ソーシャルメディア上で絶大な力を持つわけではない。取引やセールスにおけるトークンの分配とそれに続く活動は、純粋に彼のファンの賛同により進められる。この新しいエコノミーに関与している人々が主に学んだのは、生の数字は、ソーシャルメディアにおいて、人々が運転中に見る看板と同等の役割を果たすということである。それに目を奪われることもあるかもしれないが、必ずしもそれが購買行動につながるとは限らない。現代のクリエーターはファンと共に一軒の家に住んでいるようなもので、ファンにDiscord(ディスコード)、Snap(スナップ)、コメントを介してアクセスを提供し、やり取りしている。

画像クレジット: Zora

しかし、そうした家はすべて他人の家であり、これこそがZoraがトークンを立ち上げた理由である。

トークンドロップは次の複数の役割を果たす:

  1. 複数箇所に分立したファンをまとめることができる。ファンはIntsa、TikTok(ティックトック)、Spotify(スポティファイ)、Snapchat(スナップチャット)にかかわらず、トークンを獲得できる。このトークンはファン全員が理解し、中心に据える価値の統一されたコミュニティ単位として機能する。これがアーティストのデジタルな存在を有形な価値をたたえるものとして所有する方法だ。
  2. アーティストが自らを所有し分配できる価値のプールを作り出す。現在、$RACを直接買うことはできない。取得することができるだけである。その一部は忠実な支持者には遡及効果がある。例えば、2009年当時Bandcamp(バンドキャンプ)でRACをフォローしていたとすると、2万5000ものRACのプールの一部を取得できる。RACのファングッズを少し購入したことがある場合はどうか。その場合もトークンでいくらかのクレジットを獲得できる。将来行われるRACの分配は、サポーターやグッズ購入者などへあてられるのだ。
  3. 価値は通貨に散逸するのではなく、アーティストの世界に留まる。トークンはアーティストがフォロワーにインセンティブ、報酬を与え、活気付かせる役割を果たす。RACのミックステープを購入したファンはトークンを取得し、そのトークンはさらに別のグッズを購入する際に引き換えることができる。
  4. トークンは、パフォーマンスアートや、アクティビズム、ごく短いエンターテイメントなど都合よくパッケージ化できないカテゴリーに分類される作品を制作しているクリエーターの柔軟性を高めることができる。これらの作品の場合、お金のかわりとしてトークンを「ドロップ」するのは簡単ではない。しかし、オーディエンスが増え、価値の高まったトークンが出回れば、間違いなくメリットがある。

Zoraがまもなく行おうとしているのは、クリエーターや起業家が直接的なパートナーシップや事前の手続きなしで、自分の製品を発売できるマーケットプレイスのセルフサービスバージョンを立ち上げることだ。たくさんの不確実要素があり、サービスの牽引方法やメッセージの送信方法など、チームは行く手に数多くの課題を抱えている。しかし、前述のような成功事例もあり、背景にある哲学もすばらしく、非常に必要とされているシステムである。クリエーターの世界/情熱のエコノミー(などなど呼び方はなんであれ)は、年齢やファンコミュニティの波がどう上昇するかに左右されるが、彼らによる貢献の価値がどう分配され、コミュニティを構築するための長期に渡る努力が長期的な価値にどのように変換されるべきかを再考する必要があるのは間違いない。

ちなみにRACのテープ「BOY(ボーイ)」の最後の取引価格は3713ドル(約39万円)で、上昇率はなんと1万8465%であった。

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カテゴリー:ブロックチェーン
タグ:仮想通貨 資金調達

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(翻訳:Dragonfly)


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