安くて簡単に使える「らくらくスマホ」が、なぜ今中国から続々登場しているのか?

スマホのスペックといえばカメラを気にする人が大半だ。ほとんどのスマホは買って電源を入れるだけで、そこそこ使える性能を持っている。しかしスマホを動かすにはCPUや各種コントローラーを統合した「チップセット」が必要だ。そのチップセットの世界で名も知られていないメーカーの製品を搭載したスマホが次々出てきた。もちろんその場所は中国だ。

知らぬ間にこっそり登場
「天翼」という名のスマホの正体は?

スマホ市場で中国メーカーの力は今や無視できない。ファーウェイ、シャオミ、OPPO、ZTEそしてTVメーカーでもあるTCLなど、中国メーカーのスマホは日本でも様々な製品が販売されている。他にもVivo、OnePlusなどは日本未上陸ながら海外で人気だ。特にOnePlusのスマホはアメリカのテック系YouTuberたちがこぞって使っている。

しかし、海外でも知られていないスマホが、中国ではひっそりと続々発売されているのだ。11月に市場に出てきた「天翼一号」は、まるで冗談のようなネーミングだが、列記としたスマホだ。中国のキャリア、チャイナテレコム(中国電信)は自社のサービスに「天翼」の名前を付けている。その自社サービス名を冠して、キャリアモデルとして出てきたのがこの天翼一号だ。チャイナテレコムは過去にも自社ブランドスマホを何機種か出している。今回のモデルに「一号」という初号機の名前が付けられたのは、これが5G対応の自社ブランドスマホ最初の製品だからだ。

「天翼」という名の謎のスマホが中国で登場

この天翼一号、5Gに対応した最新スマホでありながらも価格は999元、約1万6000円だ。2万円以下の価格で「ギガビット」、超高速通信対応のスマホを買うことができるなんて中国はやはり進んでいる。もちろんすでに市販されているので中国へ行けば誰でも買うことができる。なおスペックはディスプレイが6.5インチHD+、メモリ構成がRAM4GB+ROM64GB、カメラは1300万画素+200万画素(マクロ)+200万画素(深度)、フロントが800万画素。バッテリーは5000mAhだ。スペックだけ見ると確かに安いスマホ相応と言える。

スペックは価格相応。特に目新しいところはない

しかし、この価格を実現できたのはスマホの心臓部に中国国産品を使っているからだ。チップセットといえばクアルコムが有名で、12月には最新ハイエンドチップセット「Snapdragon 888」を発表した。クアルコムは、他にもミドルハイレンジ向けにSnapdragon 700シリーズ、低価格スマホ向けにSnapdragon 400シリーズを展開している。一方、天翼一号が採用しているのは中国UNISOCのチップセット「T7510」だ。クアルコムの名前はアップルとの係争で聞いたことのある人もいるかもしれない。しかし、UNISOCとなるとグローバルでもその名はまだあまり知られていない。

中国UNISOCは低価格な5Gチップセットを開発

ハイセンス、Coolpadも採用する
中国国産UNISOCの5Gチップセット

UNISOCはその前身がSpreadtrumという企業で、中華タブレットなど格安タブレット向けのチップセットなどを手掛けていた。現在は企業合併によりUNISOCに改名。いつのまにかクアルコムと並ぶ5G対応のチップセットを手がける技術力を持つ企業に成長した。一時はあのインテルと5Gモデム開発で提携をしていたほど。またUNISOCは中国や新興国で販売されている格安4Gスマホにもチップセットを提供している。UNISOCの4Gチップセットは激安なのだ。

UNISOCの4Gチップセットを搭載するシャオミ系の「Qin2」

2020年には5G対応チップセットを完成させ、中国の複数のメーカーがその採用を始めている。最初にUNISOC搭載を決めたのはハイセンス。家電メーカーとして有名で、日本でもテレビや冷蔵庫などを販売しているためその名を知っている人も多いだろう。ハイセンスは実は中国でスマホを展開しており、片面が電子ペーパーという両面スマホなど謎スマホを出すメーカーとして日本の一部マニア層に知られている。

ハイセンスの両面スマホ。片面はモノクロ電子ペーパーだ

そのハイセンスが2020年になってから5Gスマホを相次いで発表している。4月には「F50」、11月に「F50+」そして12月には「T50」を投入。ちなみに「50」の型番は5G対応モデルということを表しているのだろう。最新モデルのT50は年配者向けにSOS機能をつけながらも価格は1599元(約2万5000円)と安い。そしていずれのモデルもチップセットにUNISOCのT7510を採用しているのだ。いわば中国版の『らくらく5Gスマホ』の実現に、UNISOCが貢献しているのである。

中国で出てきたらくらくスマホ、ハイセンスT50

ハイセンス以外ではCoolpadが「X10」を発表。1388元(約2万2000円)とこちらも5Gスマホとしては安い。Coolpadは今から10年以上前は中国スマホの顔とも呼べる有名メーカーだったが、製品展開戦略をミスして今では細々とスマホを出している。国産チップセットを搭載した格安5Gスマホを出すことで、市場での復活を虎視眈々と狙っているのだ。

5G時代に復活を目指すCoolpad

すべてのスマホが5Gになる
らくらくスマホが世界に拡散

4Gスマホではシャオミの格安モデルが日本でも人気だ。海外ではRealmeがさらに安いスマホを出して着々とシェアを上げている。新興国はまだまだ4Gスマホ需要が高く、これからも激安4Gスマホが次々と出てくるだろう。一方先進国はこれから5Gスマホだけが販売されるようになる。現にKDDIは9月の発表会で、今後は5Gスマホだけを出すと発表している。

では5Gスマホばかりになると、スマホの値段は高くなってしまうのだろうか?確かに5Gが始まったころは、海外では10万円以上のハイエンドモデルしか買うことができなかった。ところが今は、今回紹介したUNISOCのチップセットを搭載したスマホのように、2万円を切る5Gスマホが次々と出てきている。アップルですら、iPhone 12 miniは7万4800円(税抜き)と10万円以下のモデルを出している。5Gの普及が日本全土に広がっているころには、5Gスマホは現在売られている4Gの格安スマホと同程度の価格のものがたくさん出ていることだろう。

UNISOCは格安5Gスマホ向けのチップセットで業界最大手のクアルコムに対抗しようとしているのだ。またハイセンスやCoolpadのようにメジャーメーカーに対抗できないメーカーにとっても、低価格で購入できるUNISOCの5Gチップセットは自社製品に価格競争力をつけることができる。Coolpadは中国以外ではアメリカのMVNOキャリア向けに低価格4Gスマホを出しているが、格安5Gスマホを今後出すことでアメリカでの存在感をより強めることができる。

UNISOCのチップセットが世界の5Gスマホの価格を引き下げる

UNISOC以外ではメディアテックが低価格5Gチップセット「Dimensity」を展開している。Dimensity搭載スマホはすでに中国で1万円台のスマホが出てきており、5Gスマホの低価格化をいち早く実現させている。両者のチップセットを採用するメーカーは、早々に4Gスマホの製造をやめ、すべてのモデルを5Gに切り替えようとしているほどだ。

Dimensity 720チップを採用したRealme V3は天翼一号と同じ999元で買える

スマホの中身なんて気にしない人が大半だろうが、実はチップセットメーカーの競争がスマホの高コスパ化を推進しているのである。安くて手軽に使える5Gスマホは2021年のトレンドになるかもしれない。


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