「レンジローバースポーツ」も搭載!今、直列6気筒エンジンが見直されている理由

高級なオフロード4WDを専門に手掛けるイギリスの自動車ブランド・ランドローバーには、「レンジローバー」という確固たるフラッグシップモデルが存在する。そんなブランドの大黒柱から距離を置いたところに存在するのが、ここに紹介する「レンジローバースポーツ」だ。

そんな“レンスポ(レンジローバースポーツ)”に2020年モデルから搭載されているのが直列6気筒エンジン。走りに一家言持つBMWが長年使用し続けているのは有名だが、近年ではメルセデス・ベンツが復活させ、日本のマツダも開発に取り組んでいる注目のエンジン形式だ。今回はその魅力について深掘りする。

■スピード感あるスタイリングで“スポーツ”を演出

イギリスの優雅な生活や情景が持つイメージをひっくるめて凝縮した、オーセンティックなレンジローバーに対し、“レンスポ”はその名のとおり、スポーツ性を強調したモデルである。

“レンスポ”は、ひと目でレンジローバーと分かるプロポーション、すなわち、一直線のウエストラインやわずかに傾斜したルーフ、切れ目のない広いグラスエリア、そして、切れ上がったリアバンパーといった特徴は、本家から受け継ぐ。そうしてレンジローバーの一員であることを瞬時に認識させておきながら、スピード感を加味したスタイリングとすることで“スポーツ”を演出。リアに向かって跳ね上がったウエストラインで、スピード感を強調しているのが最大のポイントだ。

また、レンジローバーのリアコンビネーションランプは伝統の縦長だが、“レンスポ”はコンパクトにまとめたタイプとして差別化。さらにフロントフェンダーにエアアウトレット風の処理を加え、走りのイメージをアピールする。

水平基調の線と面で構成されたインテリアはレンジローバーと共通だが、本家が本革や木目をあしらったオーセンティックな仕立てなのに対し、“レンスポ”はピアノブラックとシルバーのコントラストを際立たせたモダンな味つけとしている。

そんな中、レンジローバーと“レンスポ”の両モデルで変わらないのがシートポジション。クッションの厚みを実感するシートに腰を下ろした途端、見晴らしの良さに息を飲む。バルコニーから下界を見下ろす城主にでもなった気分だ。スケールの大きさに飲み込まれ、せかせかした気分など吹き飛んでしまう。

■直6のユーザーメリットは振動の低減が第一

そんな“レンスポ”には、2020年モデルから3リッターの直列6気筒ガソリンターボエンジンが設定されている。従来の3リッターV6スーパーチャージャー付きガソリンエンジンと置き換わった格好だ。ジャガー・ランドローバーは“インジニウム”と呼ぶ新世代のエンジンシリーズを順次投入しているが、先に2リッター4気筒ターボが開発・商品化され、続いて、3リッター直6ターボが商品化された。

燃焼技術や補機類、排気システムなどの仕様は、基本的に4気筒、6気筒ともに共通だが、“レンスポ”に搭載される3リッターの直6ターボは、単にインジニウムの2リッター直4に2気筒を加えただけではなく、パフォーマンスを向上させるためのデバイスが多数付加されている。

その詳細を説明する前に、昨今、なぜ直6エンジンが復権しているのかについて整理しておこう。

6気筒エンジンといえば、その昔は直列タイプが一般的だった。しかし、横置きFF(フロントエンジン/フロントドライブ)車でマルチシリンダー化の要求に応えようとすると、直6ではボンネット内にエンジンを収めるのが難しく、全長を短くできるV6タイプが重宝されるようになった。それに加えて、縦置きFR(フロントエンジン/リアドライブ)車とエンジンを共用する際の合理性や、厳しさを増す衝突安全性への対応などから、直6タイプは徐々に淘汰され、V6タイプへと収れんしていったのだ。

しかし直6に対してV6は、シリンダーヘッドがふたつ必要となる上、カムシャフトも倍の4本必要。さらに、現代のエンジンに必須の可変バルブタイミング機構も倍の数が必要になり、高価な排ガス後処理装置も1系統では済まず2系統必要となる。つまりV6は、直6よりも高コストとなるのだ。

こうした悩みを抱えているうちに技術が進化し、V6から直6への回帰を後押しするように。厳しくなる一方の規制に応えるべく燃費を追求していくと、燃焼室の表面積を減らしたくなり(損失を防ぐため)、必然的にロングストローク型のエンジンとなるが、そうなるとエンジンのボア径が小さくなり、必然的にエンジンの全長は短くなる。その結果、最新の直6エンジンは、かつてのそれより全長がかなり短くなり、衝突安全基準との整合性もとれるようになってきたのである。

これらの要素を見ただけでは、メーカーに都合のいい話ばかりが並び、ユーザーには恩恵がないように見えるが、直6エンジンの採用による最大のユーザーメリットは、振動の低減だ。V6は燃焼に伴って生じる“不釣り合い振動”が残るが、直6(と、バンク角が60度のV型12気筒エンジン)は完全にバランスがとれているため、慣性力の不釣り合いによる振動が発生しない。これが、出来のいい直6エンジンが“シルキースムーズ」と評される所以である。

■ターボ+“スーチャー”+マイルドハイブリッドをてんこ盛り

そうした背景を踏まえた上で(いや、知らないで乗ったとしても)、3リッター直6ターボを積む“レンスポ”をドライブすると、密で軽やかな音質を伴うエンジンのスムーズな回転上昇に、感動を覚えるはず。ザラついた印象は音質の面でも体感の上でも一切ない。

その理由は、単にエンジンが直列6気筒だから、というわけだけではない。このエンジンはターボチャージャーによって過給されているが、実はさらに電動スーパーチャージャーも追加され、ターボと併用されている。ターボチャージャーには原理的に、応答遅れが存在する。いわゆる“ターボラグ”と呼ばれるやつで、アクセルペダルを踏み増しても反応のない期間が生じ、一拍置いた後に力が出てくる。欲しいと思った瞬間に力を出してくれないことから、このターボラグがドライバーにとってのストレスとなる。そのストレスにつながる応答遅れを解消するのが電動スーパーチャージャーなのだ。電気の反応の良さを生かし、ターボが機能する前にシリンダーに空気を送り込む役割を果たす。

電動スーパーチャージャーの効果を生かすには大きな出力が欠かせないが、3リッター直6ターボを積む“レンスポ”は車載電源に48Vシステムが採用されているため、電動スーパーチャージャーの能力を存分に引き出せる。通常の12Vシステムに対して電圧が4倍となり、その分、高出力化を図れるからだ。

さらに、3リッター直6ターボ搭載の“レンスポ”には48Vのマイルドハイブリッドシステムも搭載されており、最高出力25馬力のモーターがエンジンをサポートする。アイドリングストップからエンジン始動(極めてスムーズだ)、そして発進までのゾーンはモーターがアシスト。そこから先のゾーンは、レスポンスに優れ、スムーズに回って力強いエンジン(最高出力400馬力/最大トルク56.1kgf-m)にバトンタッチする。

その結果、2000回転程度の低い回転域でも十分に力強く、2340kgの車両重量を感じさせることなく、急な勾配の上り坂でもグイグイと駆け上がっていく。さらにそこから、ムチをくれるようにしてアクセルペダルを深く踏み込むと、間髪入れずに大きな駆動力を発揮、頼もしい加速を披露してくれる。

“レンスポ”に搭載される3リッター直6ターボは、まさにスポーツという名にふさわしいパワフルな心臓部だ。それでいて、スピードと力強さをいかんなく見せつけながら紳士的な態度を崩さないのは、シルキースムーズだからこその成せるワザ。直列6気筒エンジンの存在感とその魅力を大いに味わわせてくれる。

<SPECIFICATIONS>
☆オートバイオグラフィー ダイナミック P400(2020年モデル)
ボディサイズ:L4855×W1985×H1800mm
車重:2340kg
駆動方式:4WD
エンジン:2993cc 直列6気筒 DOHC ターボ+電動スーパーチャージャー+モーター
トランスミッション:8速AT
エンジン最高出力:400馬力/5500〜6500回転
エンジン最大トルク:56.1kgf-m/2000~5000回転
モーター最高出力:25馬力/1000回転
モーター最大トルク:5.6kgf-m/1500回転
価格:1272万円
※2021年モデルは「HST」(1264万円)に直列6気筒ターボを搭載

文/世良耕太

世良耕太|出版社で編集者・ライターとして活動後、独立。クルマやモータースポーツ、自動車テクノロジーの取材で世界を駆け回る。多くの取材を通して得た、テクノロジーへの高い理解度が売り。クルマ関連の話題にとどまらず、建築やウイスキーなど興味は多岐にわたる。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。


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