もう一度乗りたい!ホットハッチの元祖「ゴルフGTI 16V」が見せつけた日本車との違い

先進技術を搭載した新型車が続々と誕生する一方、ここへきて1980年代後半から’90年代にかけて発売された中古車の人気も高まっています。本企画では、そんな人気のヤングタイマーの中から、モータージャーナリストの岡崎五朗さんがもう一度乗りたい、記憶の残る旧車の魅力を解き明かしていきます。

今回採り上げるのは、1983年に日本への正規輸入がスタートしたVW(フォルクスワーゲン)の「ゴルフGTI」。2代目「ゴルフ」をベースとするこの高性能モデルは、ドイツ生まれというお国柄を強烈に感じさせる走りと高いステータス性を兼備した1台でした。

■フツーのゴルフとはひと味違う走りとステータス

−−初めてのマイカーとしてホンダ「CR-X」を選ばれた五朗さんでしたが、その後、ホンダの「シビック」を挟み、VWの2代目ゴルフGTIに乗り継がれます。これが初めての輸入車体験ですよね?

岡崎:手に入れたきっかけは、親父のアドバイス(苦笑)。ゴルフGTIは当時、370万円くらいしていたから、さすがに新車には手を出せなかった。そんな時に親父が「中古でいい物件があるけど、コレ乗ってみたらいいんじゃないか?」って探してきてくれたんだ。

−−五朗さんは以前、「初代ゴルフGTIは、メルセデス・ベンツやBMW、ポルシェに独占されていたアウトバーンの追い越し車線を民主化した初めての大衆車だ」と記事に書かれていました。そのカギを握るのは、やはりエンジンですか?

岡崎:そうだね。初代GTIは1.6リッターの4気筒OHCエンジンに機械式の燃料噴射装置を装着し、ベースモデルの82馬力から110馬力へとパワーアップされていた。

続いて登場する2代目のゴルフGTIは、当初、105馬力の1.8リッターOHC 8バルブエンジンを積んでいたんだけど、1987年から日本導入モデルにも、125馬力のDOHC 16バルブエンジンが搭載されるようになった。僕が手に入れたのはその「GTI 16V(バルブ)」だったんだけど、まさに特別エンジンという印象が強かった。2000回転ちょっと回すと十分なトルクを得られるから加速力は申し分ないし、高回転域は7000回転近くまで力強く吹け上がるんだ。

−−GTIは初代から、フツーのゴルフに対して見た目も差別化されていましたよね。

岡崎:そうそう。僕が乗っていたGTI 16Vも、エクステリアではフロントグリルやバンパー、サイドモールに赤いパイピングが入っていたし、タイヤを囲むように樹脂製のフェンダーアーチが付いていた。テールランプもスモークタイプが使われていたしね。対するインテリアも、ハンドルやシフトノブなど、各部に専用品がおごられていた。とにかくカッコ良かったし、ノーマルのゴルフとはひと味違うステータス性を備えていたよね。

■アクセルの踏み方次第で曲がっていける感覚

−−ゴルフGTI 16Vは、五朗さんにとって初の輸入車となったわけですが、日本車との違い、みたいなものは感じられましたか?

岡崎:何が違っていたかというと、一番は乗り味だね。GTI 16Vは高性能モデルといっても、馬力だけを見るとCR-Xやシビックと同等、もしくは劣っていたかもしれない。でも、実際にドライブしてみると「ああ、自動車評論家がいう“乗り味の違い”というものは、こういうものか!」と実感させられた。

例えばフットワークに関しては、ハンドルをちょっと切った時でも反応の遅れがないし、それでいてスピードを出している時でもハンドルの中立付近がものすごく安定している。おまけに、そこからハンドルをちょっと切るとスムーズに向きを変えてくれる。まさにドライバーが思った通りに動いてくれる感じだったね。

−−以前、思い出をうかがったCR-Xは、ものすごくピーキーなクルマで“タックインの権化”とも表されていました。それと比べてゴルフGTIはいかがでしたか?

岡崎:GTI 16Vでもサーキットを何度か走ったんだけど、とても走行安定性が高かったのを覚えている。CR-Xではしばしばスピンモードに入り、真横を向きそうになった筑波サーキットの最終コーナーも安心してクリアできたよ。GTI 16Vは前輪駆動車なのに、下手にアクセルペダルを抜いてもタックイン現象はジワリとしか出ないから、まさにペダルの踏み方次第で曲がっていける感覚だった。だからサーキットでも安心して飛ばせたね。

あと、エンジンにしても、エンジン単体のパワー感だけでなく、駆動系などパワートレーン全体を含めた“しなやかさ”みたいなものを感じさせてくれるクルマだった。そういう体験を通じて「クルマにも“味”というのがあるんだな」と考えさせられたね。

■さすがはアウトバーンの国で生まれたクルマ

−−日本車とはひと味違う、そういう走り味を生み出せていた最大の要因は、なんだったと思われますか? ボディが強固だったんですかね?

岡崎:もちろん、日本車に比べるとボディはしっかりしていたと思う。でも、それだけじゃないと思うよ。ボディを始めとするきちんとした基本の上に、ちゃんとしたテストドライバーがちゃんとしたチューニングを施していた。これが一番の要因だと思う。「こういうクルマに仕立てたい」という作り手の思いや思想が明確だったんだろうね。

あとは、VWが本拠を置くドイツのお国柄も大きいと思う。高速道路やサーキットでは、スピードを上げれば上げるほど走りの安定感が増していったからね。「さすがはアウトバーンの国で生まれたクルマだ!」と痛感させられたよ。

――ちなみに、GTI 16Vの最高速度は200km/hオーバーといわれていましたね。

岡崎:当時、200km/hに到達できる日本車なんて、ほぼ存在しない世の中だった。もし200km/h出せたとしても、それは一瞬の話。でもGTI 16Vは、アウトバーンやサーキットなど条件さえ許せば、200km/hで走り続けることができたんだ。そのために、エンジンを高回転域で回し続けてもバルブが熱でやられないような対策がきちんと施されていた。GTI 16Vは僕のドイツ車初体験でもあったわけだけど、まさにドイツ車の核心があのクルマには凝縮されていたと思う。

−−その後、五朗さんはオープン仕様の「ゴルフカブリオ」や、V6エンジンを搭載した「ゴルフVR6」も所有されました。それくらい、ドイツ車初体験となったGTI 16Vの影響は大きかったのでしょうか?

岡崎:そうだね。結果的に、3台ともノーマルではなく“役物”のゴルフを手に入れている。でも、それには理由があるんだ。かつてベーシックなゴルフは、正直いってパワートレーンの出来が好みじゃなかった。実用的ではあるけれど、艶っぽさとか吹け上がりの気持ち良さ、ダイレクト感が希薄で質実剛健。非常に良くできた大衆車という印象が強かったんだ。

その点、GTI 16Vやカブリオ、VR6は、良くできた大衆車をベースとしながら、ルックスや仕立て、エンジンの官能性などを差別化することで、特別な存在へと昇華していた。まさにプレミアムなモデルだったんだ。

その後、小排気量の直噴ターボエンジンやデュアルクラッチ式トランスミッション“DSG”を採り入れるようになってから、フツーのゴルフも十分魅力的になったと思う。日本ではまだ売られている7代目モデルなどは、ベーシック仕様でもプレミアムカーに匹敵する静粛性や乗り心地を備えているからね。

−−2021年には8代目ゴルフの日本発表が予定されていますし、そのGTIバージョンもそう遠くないうちに上陸することでしょう。その2台がどんな仕上がりになっているか、期待したいですね。

コメント/岡崎五朗 文責/上村浩紀

岡崎五朗|青山学院大学 理工学部に在学していた時から執筆活動を開始。鋭い分析力を活かし、多くの雑誌やWebサイトなどで活躍中。テレビ神奈川の自動車情報番組『クルマでいこう!』のMCとしてもお馴染みだ。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。


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