2020年、ヨーロッパ市場で販売されたすべてのSUVの中で、ナンバーワンの販売実績をマークしたルノー「キャプチャー」。その人気モデルの新型が、先頃日本に上陸した。
今回で2代目となったベストセラーモデルは、果たしてどんな進化を遂げたのか? 気になるその魅力を深掘りする。
■かつては小ワゴン、現在はコンパクトSUVが人気
今、ヨーロッパのコンパクトカー市場が大きく変化している。少し前までコンパクトカーの主力商品といえば、各社ともハッチバックというのが定番だった。しかし昨今、“Bセグメント”と呼ばれる中間サイズのコンパクトカーでは、SUVが全販売台数の半分近くを占めるようになってきた。
このBセグメントに属すSUVとしては、フォルクスワーゲン「Tクロス」やプジョー「SUV 2008」、アウディ「Q2」にジープ「レネゲード」、そして今回取り上げるルノー「キャプチャー」などが挙げられるほか、日本勢のトヨタ「ヤリスクロス」や日産「ジューク」(現行モデルは海外展開のみ)なども同クラスにカウントされる。SUVと乗用車の“いいとこ取り”をしたこれらのモデルは“クロスオーバーSUV”といわれるが、特にコンパクトサイズのクロスオーバーSUVは、まさに百花繚乱の様相となっている。
我々日本人にとって意外なのは、欧州のコンパクトクロスオーバーSUVにはFWD(前輪駆動)だけの車種が多いこと。SUVには4WDがラインナップされるもの、というのは日本人にとって自然な考えだが、欧州にはそういった常識がないのである。
欧州のコンパクトクロスオーバーSUVに4WDの設定が少ないのは、ふたつの理由から。まずひとつ目は、道路環境の違いにより、4WDに対するニーズが少ないこと。日本でクロスオーバーSUVに4WDが求められるのは、雪道への備えというのが一般的だ。雪道でスタックしたり、坂道発進時にタイヤが空転したりしないように、4WDが必要とされる。
しかし欧州の多くの地域では、雪が降っても雪質の違いや除雪環境などから日本のように滑りやすい路面とはならず、思いのほか4WDを必要とするケースは少ない。そもそも、タイヤですらスタッドレスを履くのはドイツやスイスを始めとする一部地域のみというほど、極端に滑りやすい路面を走る機会が少ないのだ(極寒の北欧地方もスパイクタイヤを使用するため4WDを必要としない)。こうしたことから、クロスオーバーSUVであっても4WDへのニーズは少ないのである。
4WDの設定が少ないもうひとつの理由は、SUVに対するイメージの違いだ。日本でSUVといえば、街乗りメインのクロスオーバーSUVであっても「4WDがなくてどうする? 悪路を走れなくてなんのためのSUVだ?」と考える保守的な層が少なくない。しかし欧州では、そうした意識は通用しない。彼の地では、クロスオーバーSUVに対して“オフローダー”というイメージはなく、逆に、乗り降りしやすくて荷物をたくさん積める実用的なクルマ、と認識されているのである。
それは、かつて流行ったBセグメントのステーションワゴンに対する捉え方と同じだ。かつて欧州では、Bセグメントのハッチバックをベースとしたステーションワゴンがひとつのジャンルと形成していて、ルノーの「クリオ エステート」や日本にも導入されたプジョー「208SW」などが人気を博した。しかし、コンパクトクロスオーバーSUVのヒットによって存在感が希薄になり、今や小さなワゴンはすっかり姿を消してしまったのである。
■ユーザーが求めるジャストなサイズへと拡大
先頃、2代目となる新型が日本に上陸したルノーのキャプチャーは、2013年の初代登場以来、2019年末までに世界で170万台以上のセールスを記録。その勢いを昨2020年もキープし、年間で18万3228台を売り上げた。これは、欧州の新車販売ランキングで6位のポジションに相当する数値で、BセグメントのコンパクトクロスオーバーSUVに限ってみれば、ナンバーワンのマーケットリーダーとなっている。
新型キャプチャーへのフルモデルチェンジは、基本メカニズムを共用するハッチバックの新型「ルーテシア」と同様、プラットフォームまで刷新する全面変更となっている。しかしそのデザインは、初代の魅力を継承したキープコンセプトであり、ひと目でキャプチャーと分かるルックスに仕上がっている。とはいえ、ボンネット部の厚みが増すなど、ルーテシアのお兄さん的な存在としてスマートさを主張していた初代に比べ、より力強くSUV的なデザインとなっている。
一方、新型キャプチャーで興味深いのはそのサイズ設定だ。ひと足早く日本市場に導入された新型ルーテシアが、フルモデルチェンジに際してボディサイズを小型化したのとは対照的に、新型キャプチャーは全長が95mm、ホイールベースも35mm伸びるなど大型化している。
その理由は、もちろん実用性の向上だ。例えば、新型の後席ヒザ回りスペースは初代モデルに比べて17mm拡大されているし、ラゲッジスペース容量も後席を一番前までスライドさせた状態で、初代モデルの455Lから536Lへと81Lも増えている。ちなみに荷室容量は、欧州コンパクトクロスオーバーSUVの中でもクラストップを誇る。
それらはユーザーニースを受けてのものだけに、インポーターであるルノー・ジャポンは「ユーザーが求めるジャストサイズ」だと説明する。同じBセグメントに属すモデルであっても、ルーテシアを始めとするハッチバックが絶対的なボディサイズの“小ささ”を重視しているのに対し、ステーションワゴンの立ち位置も兼ねた新型キャプチャーのようなコンパクトクロスオーバーSUVは、実用性とゆとりが重要だと捉えられている。その結果、今ではボディサイズの大型化が著しい、ひとクラス上のCセグメントハッチバックに乗っていた“ダウンサイザー”の受け皿にもなっている。
■新しい土台と4気筒エンジンによる上質な走り
新型キャプチャーに乗って驚いたのは、インテリアのクオリティの高さだ。キャプチャーは初代も質感の高さに定評があったが、新型はそれをさらに超えてきた。ダッシュボードの表面処理やスイッチ類の仕上げなどは、同価格帯のライバルを凌駕し、ひとクラス上のCセグメントカーといっても十分通用するほど。こうした部分も、欧州で人気を得ている理由なのだろう。
メカニズムにおける最大の注目は、アライアンスを結ぶルノー、日産自動車、三菱自動車工業が共同開発した“CMF-B”と呼ばれるプラットフォームだ。これは、先行上陸したルーテシアや日産の新型ジューク、そしてコンパクトハッチバックの日産「ノート」などと同じもので、フットワークや乗り心地といった走行性能の高さに定評がある。
新型キャプチャーではそこに、1.3リッターの4気筒ターボエンジンを搭載する。基本的に、ベースとなった新型ルーテシアと同じものだが、キャプチャーはルーテシアより110kg重くなっていることもあり、最高出力がプラス23馬力の154馬力、最大トルクはプラス3kgf-mの27.5kgf-mへと強化されている。
その上、この4気筒ターボエンジンは、最高出力においてクラスの水準を上回っており(キャプチャーより高出力なのはレネゲードのハイパワー仕様のみ)、最大トルクではクラストップを誇るなど、動力性能においてもハイレベルに仕上がっている。
イマドキのBセグメント車は、3気筒エンジンというのが一種の常識となっているが、新型キャプチャーは4気筒ならではの振動の少なさを武器に、滑らかな回転フィールにおいてライバルをリードする(3気筒エンジンは細かい振動が発生しやすい)。
一方、ライバルが積む3気筒エンジンには、省燃費とローコストというメリットがあるが、新型キャプチャーはその点においても抜かりない。
例えばカタログに記載される“WLTCモード燃費”を見ると、3気筒エンジン勢は、2020年に日本で最も売れた輸入ブランドSUVであるフォルクスワーゲンのTクロスが16.9km/L、プジョーのSUV 2008が17.1km/Lを記録するのに対し、新型キャプチャーは17.0km/Lと、ほぼ互角のデータをマークする。
価格においても、新型キャプチャーの健闘が光る。ボトムグレードどうしで比べると、Tクロスが301万9000円、SUV 2008の299万円であるのに対し、キャプチャーは299万円とほぼ横並び。それでいて、360度カメラや“Boseサウンドシステム”を標準装備するなど、新型キャプチャーの装備はライバル以上に充実しているのだから、見事としかいいようがない。
新型キャプチャーの魅力をひと言で表すならば、優れたトータルバランス。これに尽きる。といっても、平均点が高いのではない。“すべてがライバルより上”なのだから驚くばかり。新型キャプチャーを知れば知るほど、ライバルに対するアドバンテージばかりで死角が見当たらないのだ。
運転しやすいボディサイズをキープしながら、リアシートやラゲッジスペースには実用的なスペースが確保され、室内の仕立てもエンジンの質感も上質で、動力性能も高い。その上、快適装備や先進安全装備も充実していて、コスパも高い。ここまで好条件がそろったクルマというのも、とても珍しい。
そんな欲張りな新型キャプチャーとマッチングがいいのは、ファミリーユーザーだろう。正直に告白すると、同じような環境にある筆者も新型キャプチャーには強い魅力を感じている。
<SPECIFICATIONS>
☆インテンス テックパック
ボディサイズ:L4230×W1795×H1590mm
車重:1310kg
駆動方式:FWD
エンジン:1333cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:154馬力/5500回転
最大トルク:27.5kgf-m/1800回転
価格:319万円
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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- Original:https://www.goodspress.jp/reports/353285/
- Source:&GP
- Author:&GP
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