マッキンゼーやBCGも注目、自律分散型の「アジャイル組織」とは

著者紹介:本稿は加藤章太朗氏(Twitternote)による寄稿記事。同氏は慶應義塾大学卒業後、2009年にRELATIONSを共同創業。また、2021年にはコードシティを創業し、建設にかかるコストの劇的な削減を目指し、建設3Dプリンターの開発を行う。

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本稿では、自律分散型の組織の1つの形態である「アジャイル組織」について説明する。アジャイル組織は、SpotifyなどのIT企業やINGグループの巨大金融企業も取り入れていると言われ、マッキンゼー・アンド・カンパニーやボストン・コンサルティング・グループなども研究を進めている組織構造だ。

アジャイル組織とは

アジャイル組織とは、ソフトウェア開発で取り入られているアジャイル開発の概念を、開発組織だけではなく組織全体に適応する考え方である。従来、ソフトウェア開発の世界では「ウォーターフォール開発」という考え方が主流だった。これは、最初にすべての機能を設計・計画し、計画に従って実装をし、テストをするという開発手法だ。

しかし、ウォーターフォール開発では完璧な設計や計画が求められ、リリースまでに長い期間がかかる。例えば、1ヶ月間で要件定義し、3ヶ月間で設計をし、6ヶ月間実装し、2ヶ月間テストをし、12ヶ月後にリリースするというようなイメージだ。

確実性の高い開発手法ではあるものの、変化が激しい世の中では、1年前に考えていたことが陳腐化しており「リリースしてはみたものの全く顧客に受け入れられない」という可能性もある。

これに対し、アジャイル開発とは、小さな単位で設計・実装・テスト・リリースを繰り返す開発手法である。これは例えば、ある特定のコア機能に絞って、2週間単位でリリースをしていくというような開発手法だ。アジャイル開発では単純計算で年間に26回のリリースが行われることになる。

アジャイルとは「素早い」、「機敏な」という意味だが、小さくても良いので素早く顧客に価値を届け、そこから顧客のニーズを学習することを重視する。アジャイル組織は、このアジャイル開発の考え方や働き方を開発チームだけでなく組織全体にスケールさせたものだこれを「Agile at scale(アジャイル・アット・スケール」と呼ぶ。

この組織構造を取り入れることで、組織のすべての領域で顧客に対し素早く価値を届け、学習を繰り返すようになる。

なぜアジャイル組織が求められているか

マッキンゼー・アンド・カンパニーが行っている「McKinsey Global Survey(ビジネスリーダー2500人へのアンケート)」によると、回答者の75%が「組織のアジャイル化」を優先事項のトップ3に挙げている。アジャイル組織への移行が求められるようになったのは、変化が激しい競争環境になったことが最も大きな理由だ。

1900年代初頭から広がった中央集権型の組織は、Frederick Taylor(フレデリック・テイラー)氏が提唱した「科学的管理法」が起源と言われているが、これは現代より100年以上前の「変化が少ない世の中」を前提に設計されたものだ。

テイラー氏が提唱した組織管理の手法は、中央集権型の素晴らしい組織形態ではあるが、当時から100年が経ったいま、企業を取り巻く競争環境が大きく変わっている。破壊的テクノロジーの出現により、ある業界の競争のルールが一気に変わるといったことも起きている。Uberが自動車業界に現れ、モビリティの概念が変わるというのもその一例だ。

実際、世界の時価総額の上位は短い期間で大きく入れ替わるようになった。2008年と2018年の世界の時価総額トップ10の比較が以下だ。

このような世の中では、変化に適応できない企業は生き残ることが難しく、組織の柔軟性や変化への適応力が求められるようになっているのだ。

中央集権型組織とはまったく異なる、スクアッド単位の組織形態

アジャイル組織は中央集権型組織のピラミッド構造とは全く異なる組織形態を取る。下の図で表しているのが、アジャイル組織の例としてよく取り上げられるSpotifyやINGグループの組織形態だ(参照URL時点)。ちなみに、INGグループはオランダ発祥の金融機関で、従業員5万人を抱える大規模組織だ。

この組織では、スクアッド(分隊)というチームを基本単位として運営が行われます。スクアッドの特徴として挙げられるのは以下の通りだ。

  • 9人以下のスタートアップのような雰囲気のチーム
  • 後述のトライブの優先順位を鑑みて、目的、権限、責務が設定される
  • 単独で顧客に価値を提供できる「End-to-Endの単位」で区切る
  • プロダクトオーナーが設置され、仕事の優先順位付け、プロジェクトマネジメントを行う

スクアッドは、自分たちだけでアイデアを考え顧客に価値を届けるため、エンジニア、デザイナー、マーケター、営業、など様々な能力を持ったメンバーがアサインされる。機能別の縦割りのチームではないというのがポイントだ。下の例では、スクアッドごとにスマートフォンとPCに領域を分けていいる。自分達で単独で意思決定できる範囲で分割することがポイントだ。

そして、そのスクアッドがいくつも集まり、トライブ(部隊)となる。トライブの特徴は以下の通りだ。

  • スクアッドの集合がトライブ(部隊)となる
  • 最大で150人の規模
  • チャプター、トライブリード、アジャイルコーチという役割を設置し、アジャイル型のワークスタイルが成り立つよう支援する

トライブの規模の目安は150人だ。これは「ダンバー数」という人間が安定的な関係を維持できる数を元に決められている。トライブリードは、トライブ内の優先順位を決めたり、予算をスクアッドに分配する役割がある。また、他のトライブとの情報共有も行う。

トライブリードのほかにも、アジャイルコーチという、スクアッドが高いパフォーマンスを上げることを手助けする役割も存在する。

また、トライブやスクアッドの他に、チャプターというスクアッドを横断した職種ごとのグループがあり、ナレッジの共有を行う。チャプターリードは、各メンバーのコーチングやパフォーマンス・マネジメントを行う。

アジャイル組織に移行するための5つのポイント

アジャイル組織に移行する上で重要なポイントは様々だが、特に重要なポイントは以下の通りだ。

  1. 変化に強い組織への移行の意思決定
  2. 素早い学習サイクル
  3. End to Endの単位での組織設計
  4. パーパス(目的)ドリブン
  5. ピープルマネジメント

1.組織形態の変更の意思決定

アジャイル組織は、変化への適応を前提として設計される組織であり、中央集権型の組織と組織形態や運営哲学が異なる。中央集権型の組織形態のまま、権限を分散したり、アジャイル型の仕事の進め方を一部取り入れてもうまくいかないことが多い。中央集権型の組織から、組織形態を変更するトップの意思決定が必要だ。

2.素早い学習サイクル

アジャイル組織では、変化に適応するために学習を重視する。そのため、壮大で完璧な計画をするのではなく、コアの価値を素早く顧客に届け学習する「俊敏性の高いアジャイル型の仕事」が求められる。開発の領域だけでなく、バックオフィスなど組織のすべてに、学習を重視するアジャイル型の仕事を浸透させる努力が必要だ。

なお、バックオフィスなど従業員にサービスを提供するチームの場合は、「顧客=従業員」と捉える考え方が有効だ。

3.End-to-Endの単位での組織設計

「End-to-End」とは「アイデアを考え顧客に価値を届けるまでの最初から最後まで」という意味を持つ言葉だ。組織として、素早い学習サイクルを担保するためには、アイデアから価値提供までを自律的に判断し、許可を取らずに迅速に実行できることが重要だ。そのため、スクアッドなど組織構造を設計する際にはEnd-to-Endを意識しなければならない。そして、各スクアッドには目的、権限、責務が設定される。

End-to-Endでチームを分割するので、そこにはエンジニア、デザイナー、マーケター、営業、など価値を届けるために必要なさまざまなメンバーがアサインされる。

4.パーパス(目的)ドリブン

End-to-Endで分割されたチームが自律的に動くためには、パーパス(目的)を明確にし、パーパスドリブンで動くことが非常に重要だ。組織全体の目的から、各トライブの目的が設定され、それを元にスクアッドの目的が設定される。目的が曖昧だと、各スクアッドが自律的に動けなくなってしまいます。

そのため、ミッションやビジョンが神棚に置かれている状態を脱却し、会社のメンバーが熱意を持って前進できるような魂のこもったミッションやビジョンが策定・運用されることが求められる。

5.ピープルマネジメント

アジャイル組織は、従来の中央集権型の組織のように上司がマネジメントをするという組織ではない。その代わりに、チャプターリードがコーチングやパフォーマンス・マネジメントを行う。これはメンバーの成功にコミットし、立て直しをする「ピープルマネジメント」と言えるだろう。人が自律的に動くためには、必ず立て直しをする役割が必要なのだ。

アジャイル組織への移行プロセス

アジャイル組織に移行する上では、パイロットチームでの施行後に組織にスケールさせることを繰り返していくことが一般的だ。

私が共同創業したRELATIONS株式会社が自律分散型の組織に移行する際も、上記プロセスを意識し、少しずつ組織に広げていった。

参考ソース:
Spotify Rhythm – Agila Sverige.pptx
ING’s agile transformation

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カテゴリー:寄稿
タグ:コラム


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