メルセデス・ベンツのコンパクトクロスオーバーSUV「GLA」のラインナップに、ハイパワーエンジンを搭載した特別なモデル、メルセデスAMG「GLA35」が加わった。
メルセデス・ベンツのモータースポーツ活動や超高性能車両の開発を担うAMGの手が入ったこのエボリューションモデルは、どんな走りを見せてくれるのだろうか?
■AMGの技術とノウハウが光る特別仕立てのGLA
現在、世界的に人気を集めているカーカテゴリーがコンパクトクロスオーバーSUVだ。ここ日本でも、トヨタ「ヤリスクロス」や日産「キックス」などが好評を博し、ホンダ「ヴェゼル」も新型の登場が間近に迫る。そんなブームが欧州ではさらに熱を帯びていて、今ではコンパクトカーの売り上げのうち50%弱をクロスオーバーSUVが占めるほどとなっている。
そのため欧州の自動車メーカー、特にドイツブランドはSUVの開発に力を注いでいる。中でもアクセルを踏んでいるのがメルセデス・ベンツで、従来からあるGLAに加え、3列シートを備えた「GLB」もラインナップに加えている。
GLAはそんなメルセデス・ベンツにあって、最もコンパクトなクロスオーバーSUV。ボディサイズはコンパクトハッチバックの「Aクラス」に準じた“Cセグメント”のモデルで、基本のメカニズムもAクラスのそれをベースとする。
GLAのルックスはことさら背の高さを強調しないハッチバック的なもので、サイズ感も含め、その位置づけは日本のスバル「XV」やマツダ「CX-30」に近い。しかしGLAには、XVやCX-30、そしてヤリスクロスやキックスといった日本勢にはない“ある仕様”が用意されている。それは何を隠そう高性能バージョンだ。ハイパワーエンジンを搭載し、サスペンションもそれに見合うスポーティな仕立てにチューニング。いざとなればサーキット走行までこなす特別なGLAが存在するのである。
実は欧州プレミアムブランドのコンパクトクロスオーバーSUVでは、こうした品ぞろえがスタンダードとなりつつある。GLAのライバルに相当するのはBMW「X2」やアウディ「Q3」だが、前者には306馬力を発生する「X2 M35i」が、後者には400馬力をたたき出す「RS Q3」というエボリューションモデルがラインナップされている。
メルセデスAMG「GLA35 4マチック」を正式名称とするGLA35は、GLAの車体に306馬力の2リッターターボエンジンを搭載。トランスミッションには素早いシフトチェンジが可能な8速デュアルクラッチ式ATを組み合わせる。
また、高次元の走行性能を実現すべく、AMGの技術とノウハウを活用。ボディ補強やスポーティなサスペンションセッティングを施すなど、まさに特別仕立てのGLAとなっている。
■ドライバーのやる気を駆り立てるエンジンサウンド
そんなGLA35と初めて対面した時の正直な感想は「あまり特別感がないな」というもの。1950年代にメキシコで開催されたレースの優勝マシンをモチーフにした、“パナメリカーナグリル”と呼ばれる垂直ルーバーを刻んだフロントグリルが控えめなオーラを放ってはいるが、それ以外の部分ではフツーのGLAとの差異が少なく、いかにもAMGといった雰囲気が希薄なのだ。
控えめなルックスに肩透かしを食ったものの、いざ走り出すとそんなことなどどうでもよくなった。GLA35はクルマを操る楽しさに満ちあふれているからだ。
ドライブモードでクルマのキャラクターが大きく変わるのはイマドキのスポーツモデルの常識で、GLA35にも5つのモードが用意されている。普段乗りに適した「コンフォート」、滑りやすい路面用の「スリッパリー」、個々の設定を任意に調整できる「インディビジュアル」、スポーティな走りを楽しめる「スポーツ」、そして走行性能が際立つ「スポーツプラス」だ。ちなみに、GLA35のサスペンションは電子制御式のため、ドライブモードの変更によりパワートレーンの味つけだけでなく乗り味も変わってくる。
まずは、走りの良さをアピールするモデルだから…と「スポーツプラス」に入れて走り出してみたら、車内に響きわたる音に胸がときめいた。大ボリュームで響く低いエンジンサウンドは、高性能であることを声高にアピールし、ドライバーのやる気を駆り立てる。
その上エンジンは、アクセルペダルを踏めば踏むほどパワーが湧き出てくるかのよう。中でもスゴいのがパワーの出方で、308馬力という最高出力自体も立派だが、それを5800〜6100回転というイマドキのエンジンとは思えないほど高回転域で発生する。またGLA35のエンジンは低回転域でのトルクが太く、普段乗りでもかなり扱いやすいが、ピークのトルクバンドが3000〜4000回転といった高回転ゾーンに設定されていることもあり、回せば回すほど元気になる印象だ。こうしたエンジン特性は、手練のワザを誇るAMGが「どんなフィーリングにすればドライバーが気持ち良くなれるか」をしっかり心得ている証といえるだろう。
もちろんGLA35は、速さに関しても申し分ない。しかしそれ以上にお見事なのが、ガンガン追い込んで走らなくても、しっかりと高揚感を味わえるところ。ジワリとアクセルペダルを踏み込んで少しエンジン回転を上げてやるだけで、気持ちのいいスポーティな走りを楽しめる。
AMGはドライバーの気分を高めるサウンドの演出やフィーリングの作り込みがライバルより巧みだと認識していたが、もしかすると、普通に走っていても満喫できる情緒的な雰囲気づくりこそが、AMGの醍醐味なのかもしれない。
■GLA35よりもっと速いスペシャルなGLAが存在!
さてGLA35は、どんな人を幸せにするクルマだろうか? まさにピタリとハマるのは、クルマ好きのパパやママといったところだろうか。
GLA35は抜群の走行性能を備えていて、感覚的な部分でもドライバーを満足させるだけの刺激に満ちている。それでいてピュアなスポーツカーとは異なり、優れた実用性も併せ持つ万能なキャラクターの持ち主だ。前後シートとラゲッジスペースは十分なスペースが確保されているし、先進的なコックピットはオーナーの所有欲をも満たしてくれる。
またドライブモードを「コンフォート」にすればエンジン音は控えめとなり、乗り心地だって優しくなる。いうなれば、勉強ができるのにスポーツもこなすオールマイティな性格で、トータルバランスも実に高い。
そんなGLA35をドライブしていて思ったのは、今の日本車に足りないのは、こういったワクワク感の演出ではないか、ということ。出来のいいクルマは多いものの、心の底から運転が楽しいと思える日本車は、実のところそう多くないのが実情だ。
今、電動化や燃費の向上など、クルマを取り巻く環境は大きく変化しつつある。一方で欧州には、まだまだ高性能車を好むクルマ好きが多く存在していて、高性能モデルの出来不出来が彼らの抱くブランドイメージを左右する。そのことをメーカー自体も十分理解しているからこそ、欧州のプレミアムブランドは高性能モデルのラインナップを欠かさない。メルセデス・ベンツも同様で、実はGLAにも今回採り上げたGLA35に加えて“さらに上のモデル”もラインナップしている。421馬力を発生するその特別なGLA、メルセデスAMG「GLA45S 4マチックプラス」が醸し出す特別な世界感は、近日中に『&GP』でレポートする予定だ。
<SPECIFICATIONS>
☆GLA35 4マチック
ボディサイズ:L4440×W1850×H1585mm
車重:1720kg
駆動方式:4WD
エンジン:1991cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:8速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:306馬力/5800回転
最大トルク:40.8kgf-m/3000~4000回転
価格:707万円
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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- Original:https://www.goodspress.jp/reports/354855/
- Source:&GP
- Author:&GP
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