現金があるのにローンを組めない人向けサービスを提供するTomoCreditが約7.4億円調達

クレジット履歴がないと、クレジットカードを作るのは難しい。

この問題を解決しようとしているのが、スタートアップのTomoCreditだ。共同創業者兼CEOのKristy Kim(クリスティー・キム)氏が同社のコンセプトを考えついたのは、まだ20代の初め頃、立て続けに自動車ローンの審査に落ちたことがきっかけだった。

幼い頃、家族とともに韓国から米国へ移民したキム氏は、仕事に就いていて、しかも「キャッシュフローは黒字」だったにも関わらず、クレジット履歴がないことがこれほど大きな障害になると知り、落胆したのだ。

そこで、ロシア移民のDmitry Kashlev(ドミトリ・カシュレフ)氏と組んで2019年1月に、同じようにローンを組めない外国生まれの個人と若者向けのソリューションを立ち上げた。同年の秋、このスタートアップ(名前は「Tommorow’s Credit(明日のクレジット)」に由来する)は、Techstarsが支援するBarclays Acceleratorに選出された。

サンフランシスコを拠点とするこのフィンテックは、初めて借り入れをする人がFICOやクレジットレポートの評価ではなく、キャッシュフローに基づいてクレジット履歴を作りやすくなるよう、クレジットカードを提供している。

米国時間2月10日、TomoCreditは700万ドル(約7億3700万円)のシード資金調達ラウンドを行ったと発表した。これには韓国の消費者銀行Kookmin Bankの子会社であるKB Investment Inc.(KBIC)に加え、Barclays、Knollwood Investment Advisory、BAM Ventures、Passport Capital、Ulu Ventures、Strong Venturesが参加している。

エンジェル投資家と個人投資家たちもこのラウンドで資金提供をしている。Backstage Capitalの創業者Arlan Hamilton(アーラン・ハミルトン)氏、Venmoの元COOである Michael Vaughan(マイケル・ボウハン)氏、Tinderの前財務責任者James Kim(ジェームス・キム)氏などである。

消費者金融保護局(CFPB)によれば、3000万人もの「キャッシュリッチ」な若者が、限られたクレジット履歴しか持たないために、デビットカードしか使えないという。

TomoCreditはデビットカードモデルで運用しているクレジットカードで、発行元はFDICに加盟しているCommunity Federal Savings Bankだ。利用者は7日後に自動支払いを行うスケジュールならば手数料無料で、それを過ぎるとAPR(金利)が適用される条件で返済を行う。与信限度額は平均3000ドル(約31万5700円)だが、最高で1万ドル(約105万2500円)まで増額できる。借り手がクレジットカードに自分の投資口座を紐づけることで、与信限度額を増額できる仕組みだ。

「当社は、ただインクルーシブなだけでなく、既存のクレジットカードが提供するサービスとは根本的に違うものを創り出そうとスタートしました」とキム氏は語る。

このカードは移民だけではなく、誰であれ、クレジット履歴に関して「履歴がないか、わずかしかない」と判断される人を対象にしているのだと、同氏ははっきり述べている。

自動車ローンの審査に落ちたことで、キム氏は米国という国で「クレジットスコアなしでは何もかもが難しい」ことを実感した。

「収入、貯金の有無は無関係なのです」と同氏は言い、こう続ける。「クレジット履歴の代わりに別のデータソース、特にキャッシュフローデータを活用できたらいいのにと思っていました。今、私たちが生きているのは2021年で、オープンバンキングが普及しており、オープンバンキングのデータには簡単にアクセスできるのです。当社はみなさんのキャッシュフローデータを利用して支払い保証を行います」。

TomoCreditのモデルが持つもう1つのユニークな側面は、カードを使う消費者からではなく、加盟店手数料から収益を得ている点だ。

「現在クレジットカードを発行しているカード会社とは違って、当社は借り手の支払いが遅れた時の遅延賠償金を収益源としていません。カード保有者の支払額に応じて収益を得ています。お客様のご利用が増えると当社も成長する、ということです」とキム氏は付け加えた。

TomoCreditは2020年の夏の終わりころにカードの発行を開始した。

「正直、あまり期待していませんでした。当社にとって初のローンチで、マーケティングも何もしませんでしたから」と同氏は当時を振り返る。「ところが、30万人以上の申し込みがあり、そのうち半分は当社で事前承認できました。それ以来、積極的にカードを発行し続けています。」

同社が発行するカードの需要が急増したのは、2020年YouTubeとRedditで「バズった」からだとキム氏はいう。

「ローンチの直後、大量のアクセスがありました。大勢のYouTuberがTomoCreditについてコメントしたりレビューをしたりしていて、クレジットスコアを速く効率よく作るために当社のソリューションを求めている人たちのコメントもありました。」

現在、TomoCreditのアクティブユーザー数は1万人を超え、同社は2021年の夏までに残りの事前承認済みの申込者のカードを発行する計画だ。

筆者は、TomoCreditが負うリスクを懸念する投資家を説得するのに苦労したかに興味があった。

クレジット履歴を持たない人々にカードを発行するリスクという「感情的、心理的ハードル」を乗り越えられるよう、投資家たちを説得する必要があったとキム氏は感じている。

「環境が変化していることを理解してもらえるよう、説明する必要がありました」と同氏は語る。「新しい世代の消費者、特にZ世代やミレニアルを見れば、そうした人たちのほとんどがわずかな履歴しかないか、まったく履歴がないことがわかります。これは彼らのせいではありません。人々の個人的なお金に関する行動様式が、過去とは違っているのです。そのために、従来型の貸し手が彼らを査定することが難しくなっているのです。」

Backstage Capitalの創設者アーラン・ハミルトン氏は、TomoCreditが獲得した投資家の1人だ。

同氏からのメールによれば「最近、自分が子供だったころに家族やその他大勢の人たちが理不尽な思いをした不都合なやり方を正してくれる製品に投資したり世に出したりすることに、自分の時間をたっぷり使っています」とのことだ。「こうしたテーマの1つに、良好なクレジットスコアを確立し、法外な金利のローンを借りずに済む手段を持つことが挙げられます。Tomo Creditはこの課題に対し、非常にスケーラブルで、メインストリーム的なやり方で取り組んでいると感じます。」

Barclaysのグループ最高イノベーション責任者のMariquit Corcoran(マリキット・コルコラン)氏は「ローンへのアクセスと財務プロファイルの形成において伝統的に困難を抱えてきた多くの人々が、実際の生活で直面しているある1つの問題」を解決するのだというキム氏の最初のプレゼンテーションを聞いて、その「粘り強さとパッション」に非常に強い印象を持ったという。

「彼らの成長と、個人のローン適格性を判定する方法が変化することのインパクトを見届けるのを楽しみにしています」と、同氏はメールで述べた。

今後について、TomoCreditは新たに調達した資金を使って、現在15名の人員を3倍に増やすことを計画している。そのほとんどはフルスタックエンジニアとデータエンジニアの採用が目的だ。最近同社は、LendingClubの元役員であるChaomei Chen(チャオオメイ・チェン)氏を最高リスク責任者代行に迎えている。また、同社は今回の資金の一部を使用して、インタラクティブ機能のいっそうの充実など、製品開発も行う計画だ

TomoCreditが代替クレジットモデルを備える唯一のフィンテックというわけではない。X1 Cardクレジットスコアの代わりに現在と将来の収入に基づいて限度額を設定している。また、Grow Creditは2019年に創業したスタートアップで、SpotifyやNetflixなどのオンラインサブスクリプションを対象とした与信限度枠を提供することで、顧客がクレジットスコアを構築できるようにしている。

関連記事:クレジットスコアではなく収入に応じて限度額を決めるクレカX1 Card

カテゴリー:フィンテック
タグ:TomoCreditクレジットカード資金調達

画像クレジット:TomoCredit

原文へ

(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Dragonfly)


Amazonベストセラー

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA