メルセデス・ベンツのハイエンドセダン「Sクラス」の新型がついに上陸。未来的なコックピットデザインや、音声操作機能を始めとする先進装備をウリにする最近のメルセデスだが、Sクラスはそのフラッグシップだけあって、まさに“全部のせ”状態だ。
しかも意外だったのは、その走りの良さ。峠道で見せた切れ味鋭い身のこなしは、まさにハイテクの賜物だった!
■ハイエンドセダンの進化には驚くばかり
今、ハイエンドセダンの世界がスゴいことになっている。ハイエンドセダンとは、メルセデス・ベンツ「Sクラス」、BMW「7シリーズ」、アウディ「A8」といった“ドイツ御三家”や、レクサス「LS」など、各ブランドをリードする1000万円オーバーのフラッグシップセダンのこと。各モデルが先進技術で競うと同時に、乗員へそれを感じさせるインターフェースづくりに切磋琢磨。まさに“ハイテクのデパート”状態となっているのだ。
例えばアウディのA8は、“LiDAR(ライダー)”と呼ばれる高度かつ高価なセンサーを複数組み込み、自動運転に対応できるほどのハードウェアを確立(技術的には対応可能ながら法律が追いつかず、自動運転までは実現できなかった)。また、自慢の“AIアクティブサスペンション”は、まるで魔法のじゅうたんのようなフラットな乗り心地に驚くばかりだし、側面衝突時にモーターを使って衝突する直前に車高を80mm上げ、サイドシル部で衝撃を受け止めて車体の変形を抑え、乗員へのダメージを軽減するといった先進的な機能も備わっている(同様の機能は新型Sクラスにも搭載されている)。
一方、日本を代表するレクサスブランドのLSは、先日、高度な運転補助支援機能を新設定し、高速道路ではほぼすべての領域でハンドルから手を放した状態で移動できる運転環境を実現。“ほぼ自動運転”と呼べる領域に踏み込んだ。方向性は異なるものの、車格的には上記ハイエンドセダンと並ぶホンダの「レジェンド」は、先頃ついに、世界で初めて自動運転機能を搭載したモデルを限定100台で販売し、世界を驚かせている。
そんなハイエンドセダンのクラスにおいて、今、最も新しいモデルがメルセデス・ベンツのSクラスだ。本国では2020年9月に発表され、2021年1月から日本でも販売が始まった。
Sクラスは、長らくメルセデスの最高峰ポジションを担ってきたモデル(現在の最高峰モデルは、Sクラスをベースとするメルセデス・マイバッハ「Sクラス」)で、そのルーツは、1951年デビューの「タイプ220」が起源といえる。その後、車名を変えつつ幾度かのフルモデルチェンジを経て、1972年に初代Sクラスが誕生。最新モデルはその7世代目となる。
ここ数世代、スポーティ仕様も用意されるなど、以前に比べてドライバーズカーとしての性格が強まっているSクラスだが、運転は専属の運転手に任せ、オーナーはリアシートに座る“ショーファードリブン”としての位置づけが、今なおクルマづくりの根底にある。
■所有欲をも満たす未来的なインターフェース
そんなSクラスの新型は、機能も見た目も、まさにハイテクのデパート状態だ。メルセデスは質実剛健にこだわり、シンプルかつベーシックに徹している…なんていうのは、かつての話で、液晶ディスプレイメーターや音声入力の積極採用など、随所に未来を感じさせてくれるのが昨今のメルセデス流。見た目と雰囲気の先進感でライバルの先を行き、オーナーには「さすがメルセデス!」といわせるクルマづくりを行っている。
特にインテリアの仕立ては、新型Sクラスより新たなステージに突入した。斬新なのは、センターコンソールへとつながる、ダッシュボードから浮かんだように見える12.8インチの大型ディスプレイ。もちろんタッチパネル式で、まるでインテリアの特等席にiPadを装着したかのような感覚だ。
メーターパネルもフル液晶となるのはいうまでもないが、オプションの“3Dコックピットディスプレイ”を装着すると表示が立体的になり、斬新すぎる表示に思わずあ然とさせられるほど。単に見た目の話ではあるが、ここまで驚かせてくれるのならば、オーナーの満足度も高いのではないだろうか。
加えて、同じくオプション装備となる“ARヘッドアップディスプレイ”は大型サイズのカラー表示で、さらにナビゲーションでのルート案内中、曲がる方向を実際の景色と連動させて、矢印で示してくれるのだから驚くばかり。走行中は、このヘッドアップディスプレイだけでほとんどの情報を得られるほどだ。
「ハイ、メルセデス!」と話しかけることで起動する音声操作機能も、さらに洗練されている。「運転席の窓を開けて」とか「ルームランプを点けて」といった操作も、スイッチに触れることなくクルマに話しかけるだけで行えるから、『ナイトライダー』の主人公にでもなった気分だ。こうしたインターフェースの新鮮さは、オーナーを満足させてくれるに違いない。
■オン・ザ・レール感覚のコーナリングは想定外
実は、そんな新型Sクラスで最も驚かされたのは、峠道での走りだった。それも、きつく回り込む低速コーナーを曲がる時。回り込んでいく時のライントレース性がハイレベルで、まるで道路に敷かれたレールの上を走っていくかのようにクルッと曲がり、その際の走行軌跡もビシッと安定している。このオン・ザ・レール感覚はスゴいと同時に新鮮で、大型セダンとしては常識外れなのはもちろん、小型・軽量のスポーツカーともひと味違う感覚だ。
峠道を走った際の試乗車は、標準ボディの「S400d 4マチック」だったが、全長5.2m、車重2.2トンに迫る車体をこれだけシャープに走らせるとは! ハイエンドセダンでここまで気持ちよく走れるなんて、全くの想定外だった。
この印象的なコーナリングの秘密は、後輪操舵機能の効果だろう。新型Sクラスには“リア・アクスルステアリング”と呼ばれる、後輪を左右に曲げる機能が組み込まれていて、約60km/h以下では前輪とは逆方向に最大4.5度傾けて回転半径を小さくする。これは、車庫入れや交差点を曲がる際、そしてUターンの時などにメリットを生むものだが、運転していて違和感は全くなく、「かなり小回りが効くけど4WSが付いているのかな?」くらいの感覚。そのため峠道のタイトコーナーでは、オン・ザ・レールの新感覚で気持ちよく走れるのだ。一方、約60〜120km/hの領域では、状況に応じて前輪と同じ、もしくは逆方向へと後輪を操舵し、ドライバビリティを向上させる。また、120km/hを超えると前輪と同じ方向へ操舵し、安定性を高めてくれる。
峠道以外では、全体的にオブラートに包まれたかのような走行フィールが印象的だ。路面からの衝撃や振動を巧みに包み込んで“いなし”、乗員へと伝えてこない。ハンドル操作なども同様で、すべてがクルマの管理下にあり、その中でドライバーが操作を行っているかのような感覚。手のひらの上で遊ばされている、ともいえるし、ハイテクにガッチリ守られている、とも解釈できるような乗り味だ。
ハイエンドセダンで気になる快適性は、走行モードを「コンフォート」にするとサスペンションが驚くほど柔らかくなり、街中では極上の乗り心地を提供してくれる。ただし、そのままの状態で速度を上げていくと、やや柔らかすぎる感があるため、「スポーツ」モードなどにするとちょうどいい塩梅となる。ちなみに、最もスポーティな「スポーツプラス」モードを選んでも、極端に快適性が損なわれることはないし、高速域では「さすが!」といえるほど抜群のスタビリティを提供してくれる。
かつてドイツ車は、高速域でのスタビリティこそ高いものの、低速域での乗り心地が悪いといわれていた。しかし新型Sクラスは、そうした既成概念を電子制御サスペンションで解決。抜群の快適性を備えながら、スイッチひとつで高速領域にも対応してくれるのだ。
新型Sクラスの日本市場向けエンジンラインナップは、現時点ではすべて3リッターの直列6気筒となる。「S400d」にはクリーンディーゼルターボを、「S500」には22馬力の小型モーターを組み合わせてマイルドハイブリッド化したガソリンターボを搭載する。いずれも素晴らしいパワートレーンだが、新型Sクラスとのマッチングの良さを感じたのはディーゼルの方だった。
「高級車なのにディーゼル?」と思われるかもしれないが、メルセデスの最新6気筒ディーゼルターボは、振動や騒音がガソリン車とほぼ同等レベルで、さらに吹け上がりといったフィーリングもガソリン車のようにナチュラルだから、ディーゼルエンジンのネガを一切感じさせない。それでいて71.4kgf-mと、ガソリンターボより強力なトルクを発生するから運転しやすいというメリットもある。つまり、あえてディーゼルを選びたくなるエンジンなのだ。
一方、S500に積まれるガソリンターボは、高回転域での官能的なフィーリングがとても魅力的だ。しかし、このクルマで頻繁に高回転域まで回す人は極めてまれだろうから、宝の持ち腐れになってしまう可能性が高いのではないだろうか。
■リアシートの居住性はファーストクラス級
さて、ハイエンドセダンとして肝心なリアシートの居住性はどうだろう? その真骨頂を味わえるのは、ロング仕様にオプションの“リアコンフォートパッケージ”を装着したモデルである。
助手席のシートを前方へ小さく畳めるほか、助手席側リアシートの背もたれは最大43.5度までリクライニング可能。加えて、オットマンも組み込まれているから、まさに旅客機のファーストクラス気分を味わえる。
結論からいえば、その快適性と居心地のスゴさはさすがハイエンドセダンといったところ。リクライニングした際、単に背もたれが倒れるだけでなく、乗員の腰の位置がビシッと定まり、姿勢がズレない辺りもさすがだと思う。
ただし、快適性と居心地はいいものの、ミニバンのような圧倒的な広さはない。この辺りは、ハイエンドとはいえセダンの限界といえるだろう。とはいえ、ミニバンでは味わえない極上のハンドリングや乗り心地、そして、高速域でのスタビリティの高さなどは、やはりセダンならでは。頻繁に高速移動するVIPは、やはりこうしたハイエンドセダンに落ち着くのだろう。
<SPECIFICATIONS>
☆S500 4マチック ロング
ボディサイズ:L5320×W1930×H1505mm
車重:2250kg
駆動方式:4WD
エンジン:2996cc 直列6気筒 DOHC ターボ+モーター
トランスミッション:9速AT
エンジン最高出力:435馬力/6100回転
エンジン最大トルク:53.0kgf-m/1800〜5800回転
モーター最高出力:22馬力
モーター最大トルク:25.5kgf-m
価格:1724万円
<SPECIFICATIONS>
☆S400d 4マチック
ボディサイズ:L5210×W1930×H1505mm
車重:2180kg
駆動方式:4WD
エンジン:2924cc 直列6気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:9速AT
最高出力:330馬力/3600〜4200回転
最大トルク:71.4kgf-m/1200〜3200回転
価格:1293万円
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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- Original:https://www.goodspress.jp/reports/373502/
- Source:&GP
- Author:&GP
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