パーツを選んで自分だけのオリジナル機械式腕時計を組み立てる【組み立て編①】

<&GP自作部>

クォーツ腕時計の電池交換に挑戦してから、ずいぶん腕時計熱が上がった私。時計専門誌を眺めてみると、掲載されている一流ブランドの機械式腕時計はやはりカッコいい。自分の腕にもはめてみたいと思うのですが、値段を見たらとても手を出せずため息をつくばかり。そんな時、機械式腕時計をDIYする人がいるとの記事を目にしました。

これは面白そうだとネット検索をかけるのですが、国内の情報は非常に少ない状態。一方海外ではかなりの数のマニアがいることもわかってきました。ネット翻訳を頼りに調べると、彼らマニアの中には、ムーブメントの改造やパーツの自作まで行う猛者もいるようです。

DIY実践者が一定数いるということは、それに向けたサービスもあるのではと考え、アメリカのネットショッピングサイトをのぞいてみたら、多くの「機械式腕時計DIY」のためのパーツが販売されているのを発見しました。

ここまでくれば、もう挑戦するしかないでしょう! 早速、辞書を片手にショッピングサイトの会員登録を行い、ワクワクしながら「お買い物」を始めたのでした。

とはいっても、ムーブメントの改造や、オリジナルデザインのパーツを自作するとなると本格的な工作機械や専門知識が必要となってきます。まずは「機械式腕時計DIY」入門として、既成のパーツを好みに合わせてセレクトし組み立てる「Assemble it yourself=AIY」に挑戦したいと思います。ちなみに「AIY」は今、作った言葉です!

■機械式腕時計に必要なパーツは?

機械式腕時計を作るために必要なパーツは大きく分けて4つ。

1.ムーブメント(movement)
2.ケース(case)
3.ダイアル(dial)
4.ハンズ(hands)

1のムーブメントは腕時計の心臓部で、内部にある駆動装置のこと。2のケースはそのままで時計の外側部分です。3のダイアルは文字盤、4のハンズは時計の針のことです。英語も併記したのは、海外のネットショッピングサイトで購入検索をするときに知っている必要があるため。私は最初、針がわからずニードルと検索してました。

2~4のパーツでデザインが決まりますが、重要なのは1のムーブメント。まずこれを選ばないと各パーツも購入できません。選び方は好みもあると思いますが、いきなり複雑なクロノグラフは難易度が高いので、シンプルな3針日付表示のタイプを選びました。3針日付表示とは時計の中心に時、分、秒の針が付いて回転し、窓で1~31の日付が分かる最もベーシックなタイプのことです。

さて腕時計DIYerの世界で、一番人気のムーブメントはETA社の「2824-2」です。

ETA社はスウォッチグループ傘下で、スイスの名だたる高級腕時計ブランドにムーブメントを供給している名門企業。そのETA製ムーブメントの最もスタンダートなモデルが2824-2で、ロンジンやハミルトン、チューダーといった有名メーカーの10万円を大きく超えるクラスの腕時計でも使用されています。ただしスイスメイドのETA2824-2はムーブメント1個が約2万円前後と高価。初めての作業で壊す可能性のある私にはとても手が出せません。

そんな初心者にも優しい価格で販売されているムーブメントが2つありました。1つはセイコーのNH35A。そしてもう1つがシチズン系列のムーブメントメーカーMIYOTAが作る8215です。どちらもETA2824-2と同じ3針日付表示付きながら、4~5000円程度とETAに比べ非常に安価で、これなら失敗しても諦めもつくというもの。

▲セイコー「NH35A」

セイコーもMIYOTAも社外品ムーブメントの世界では非常に人気のメーカーで、多くの有名メーカーが両社の製品をベースに腕時計を生産しています。その中でNH35Aと8215は、最もベーシックなモデル。価格帯が1万円から5万円あたりの腕時計に採用されることが多いのだとか。

▲MIYOTA「8215」

ということで、この2つのムーブメントをカートに入れ、それぞれのサイズに合ったケースとダイアル、ハンズを選び購入手続きを行いました。海外からの個人輸入となるので、届くまでしばらく時間がかかります。その間に色々と夢想をしてはニヤニヤしていたのでした。

■時計の組み立てに必要な道具は?

もちろんただ笑っていただけではありません。DIYには工具が重要です。ただし前回の腕時計電池交換で準備した工具があるので、そこまで新しいものは必要ありませんでした。今回の工作で主に使用する工具はこちら。

精密ピンセットと普通のピンセット、精密ドライバー。

この精密ピンセットは前回腕時計の電池交換をした際にセットで購入した中のものですが、実際にはもう少し高額でより精密なものがあるとより楽だったと思います。

次に新しく購入したムーブメント台。本当はあった方が良いのでしょうが、素人作業では、この狭いスペースでは作業が難しくあまり有用ではありませんでした。

そしてこちらも新しく導入した針おさえセット。腕時計の針を正確に固定するための道具です。こちらはないと話になりません。絶対に必要です。

そして100均で購入したゴムボール。何に使うかはお楽しみに!

他に定規やニッパーなども使いましたが、一番重宝したのは作業ベースに使った100均の書類ケースと白いコピー用紙かもしれません。書類ケースは閉じればそのまま細かい部品ごと片付けられますし、小さなネジなどを落としてもなくす心配がなく、とてもオススメです。

さて注文ボタンをポチッとしてから3週間あまり、世界各国からポツポツと荷物が届き出しました。封を解くと想像以上に細かいパーツが厳重に梱包されています。当初は海外の個人や小さなショップに注文するということで心配していたのですが、どの商品もしっかりとした梱包と発送で安心しました。腕時計パーツのネット通販なんてマニアや専門家同士のやりとりが主流なので、変な業者が入ったりはしないのでしょう。

■パーツが揃ったらいよいよ組み立て開始!

すべてが揃ったところで、まずは全パーツを整理します。

こちらがセイコーのNH35Aと各パーツ。ドイツ製のパイロットウォッチをイメージしてパーツをセレクトしました。

そしてこちらがMIYOTAの8215と各パーツ。某有名ブランドのダイバーズウォッチをイメージして揃えています。

パーツも揃ったことですし、いよいよ工作開始ですが、どちらから作るか? なんとなく直感でセイコーから始めたのですが、これが大正解でした。両方作り終わった今だから分かりますが、セイコーのNH35Aの方がはるかに初心者向きでした。このあと、MIYOTA8215の組み立てではかなり苦戦することになりますが、それはまだ先のお話。まずはセイコーNH35Aから。

■まずはムーブメントにダイアルを付ける

腕時計の組み立ての第1段階はムーブメントにダイアルを取り付けることから始まります。

ダイアルの裏側を見ると干支足と呼ばれるピンが2本取り付けられています。このピンをムーブメントの所定の位置に固定することで、ダイアルはムーブメントと一体となるのです。

NH35Aの固定位置はこの2箇所。

少しきつめの穴にぐっと押し込むと、ダイアルはしっかりと固定されました。

■0時0分にムーブメントを合わせる

次に針(ハンズ)の取り付けなのですが、カレンダー付きムーブメントの場合は一手間かかります。それがムーブメントを0時0分に合わせること。当たり前ですが、カレンダーの日付は夜中の0時0分に切り換わらなければ意味をなしません。しかし針がない状態では、そのムーブメントの今が何時何分かわからないのです。この状態で適当な位置に針を付けると、全然関係のない時間に日付が動いてしまいます。

ではどうやって0時0分を見つけるのか。

まず仮で分針を中央のピンに取り付けます。ピンセットでは傷つくのでセロハンテープに軽く引っ付けて持つとやりやすかったです。

分針がついたらリューズを時間合わせの位置に引き出し、進む方向に回します。もし最初から時間合わせの位置と進む方向がわかっていれば、いちいち分針を仮付けする必要はありません。

どんどん針を回していけば、やがてカレンダーが少しずつ動き始めます。そうすれば0時0分が近い合図。慎重に進めカレンダーが変わったところが0時0分です。

■針(ハンズ)を取り付ける

ここから改めて針(ハンズ)の取り付けです。使うのは「針おさえ」と呼ばれる道具。ピンセットだけでもムーブメントのピンに穴を合わせ針を押し込むことは可能なのですが、針おさえを使った方が正確に作業ができます。

針がダイアルに対して正確に平行にならないと、途中で針がダイアルや他の針に接触して動かなくなってしまいます。また針同士の間隔なども微妙なので専門工具を使った方がいいでしょう。

使い方は難しくなく、針を中央のピンに軽く乗せたら、上から針おさえで圧着するだけです。

ただ時針と分針は問題なかったのですが、秒針が難しかった…。

正直、秒針に開いているはずの穴は肉眼では確認できません。

0時0分0秒の位置は諦め、とにかくグリグリと押し込み続け、少し引っかかったところで無理やり針おさえで押し込みました。

■100均一のボールを使ってケースを開ける

続いてケースが登場します。今回購入したケースはステンレス製で裏蓋はねじ込み式のタイプ。リューズもねじ込み式でパッキンが入っており、おそらくですが防水性能があると思われます。ねじ込み式の裏蓋は、前回の電池交換でも使った3点式オープナーで開け閉めするのが普通ですが、新品ピカピカのケースに傷をつけたくありません。

そこで登場するのが100均のゴムボール! これを使って裏蓋の開閉ができるという裏技情報を仕入れていたのです。少し弾力と粘っこさがあるゴムボールを使用し、裏蓋に押し付けながら回転させることで、ピンタイプのオープナーを使うことなく裏蓋を開閉できるすごい技。

実際にやってみたところ、工場でしっかりと密閉された市販の防水時計では難しそうですが、今回の場合は非常に有効に使える技でした。

さてここまで順調に進んできた機械式腕時計の組み立てDIY。所要時間はわずか3時間程度。初めての経験で、調べ物をしながらこの時間は、なかなかの出来ではないでしょうか。これは完成まで余裕だなと思っていたのですが、この考えは甘々だったのです。

※  ※  ※

さあ次回、いよいよパイロットウォッチが完成し、ダイバーズウォッチの組み立てに挑戦していきます! 果たしてカッコいい腕時計を作ることができるのか、お楽しみにお待ちください!!

NH35Aムーブメント:約4000円
ケース:約4000円
ダイアル:約1500円
ハンズ:約800円

※以上、輸入のため為替レートで値段は異なります

工具セット:3800円
針押さえセット:1200円
ムーブメント台;1430円
<写真・文/阪口 克>

阪口克|旅と自然の中の暮らしをテーマに国内外を取材するフリーカメラマン。秩父郡長瀞町の自宅は6年かけて家族でセルフビルド。家を経験ゼロからDIYで建てる。家族でセルフビルドした日々を描いた『家をセルフでビルドしたい』が文藝春秋から発売中。ほか近著に『笑って!小屋作り』(山と渓谷社)、『世界中からいただきます』(偕成社)など。

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