間もなく誕生70周年を迎えるトヨタのロングセラーSUV「ランドクルーザー」。その最上級モデルがこの夏、フルモデルチェンジを果たします。
“ランクル”の愛称で親しまれるランドクルーザーの各モデルは、日本市場はもちろんのこと、中東やアフリカ、南米を始めとする海外マーケットにおいても、圧倒的な信頼性を武器に高評価を獲得。好調なセールスを記録しています。
今回は、先日、公開された新型のスペックとプロトタイプの写真から、2021年夏以降に世界各地で発売が予定されるトヨタ製フラッグシップSUVの魅力と実力を予想します。
■信頼性・耐久性・悪路走破性を第一とする“ランクルの掟”
1951年8月、パワフルなエンジンを搭載する4輪駆動車、トヨタ「BJ」型が誕生。この前身モデルの誕生を機に、2021年に70周年を迎えるランドクルーザーの歴史が幕を開けます。
ランクルはトヨタが世界に誇るSUVの雄であり、現在は4輪駆動車としての本質を追求した「70系」、販売の中核を担う「プラド」、シリーズの頂点に君臨する「200シリーズ」をラインナップ。また、トヨタのラグジュアリーブランドであるレクサスからも、派生モデルである「LX」や「GX」が登場しています。
ランクルの先祖であるBJ型は、元々、警察予備隊(後の自衛隊)への納入を目的に開発されました。結局、当時はライバルに敗れて制式採用とはなりませんでしたが、その優れた悪路走破性を武器に、クルマで初めて富士山6合目までの踏破に成功。こうした実力が認められ、全国各地でパトロールカーに採用されたほか、林野庁や電力会社にも納入され、プロユースにおいて高い評価を獲得します。
トヨタ BJ型
一方、1950年代後半に北米市場へ打って出たものの、予想以上に苦戦を強いられたトヨタにあって、ランクルは高い信頼性と走破力が認められて安定したセールスを記録。トヨタ海外進出の黎明期を支える立役者にもなりました。
このように、本物志向の卓越した実力で70年余りの間に世界170の国と地域の人々に愛され、約1040万台という累計販売台数をマークするに至ったランクル。その人気の源は、屈強なラダーフレームシャーシや本格的な4WDシステムに起因する、並みのSUVとは一線を画すヘビーデューティさと優れた悪路走破力に尽きるでしょう。
そんな名車は代々、脈々と受け継がれる“ランクルの掟”に基づき開発されてきました。かつてランクルの開発責任者を務められた小鑓貞嘉(こやり・さだよし)さんは『&GP』のインタビューに「ランクルの開発に対し、大先輩の技術者たちから受け継がれている言葉があります。それは『“信頼性”、“耐久性”、“悪路走破性”の3つをおろそかにするな』というものです」と答えています。
また小鑓さんによると、実際に世界各地のユーザーの元を訪ね、ランクルの使用状況をチェックするのも開発者にとっては重要な任務なのだとか。辺境の地では、先輩技術者から受け継がれる“信頼性”、“耐久性”、“悪路走破性”という3つのキーワードの意味を再確認するとともに、ランクルの存在意義や使命を改めて自覚するのだといいます。
「例えば、次のガソリンスタンドまで900kmも走らなければならない、なんていう辺境の地が、地球上にはまだまだたくさんあります。どこかへ出掛けると帰れないーーそんな命を守れないクルマでは、仮に荷物を運べても意味がありません。そういう場所においては、クルマは移動手段というよりもライフラインなのです。ですから“信頼性”、“耐久性”、“悪路走破性”はとても重要。行きたい時に行きたいところへ必ずたどり着けて、しかも無事に戻って来られる。このクルマなら行けるという安心感や信頼をオーナーの方々に提供することがランクルの大きな使命なのです」(小鑓さん)
■電動仕様が用意されないのはランクルならでは
今回、そんな“ランクルの掟”を踏まえて生まれ変わるのは、ラインナップの頂点に君臨するステーションワゴンタイプ、200シリーズの後継モデルです。新たに「300シリーズ」と呼ばれる新型は、オーナーに安心感や信頼を提供すべく、本質である“信頼性”や“耐久性”、“悪路走破性”にさらなる磨きを掛けた上で、「世界中のどんな道でも運転しやすく、疲れにくい走りを実現する」ことを目標に攻めの開発が行われました。
車体は、ランクルのキモというべきフレーム構造を踏襲しながら、“TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)”に基づき開発された“GA-Fプラットフォーム”を新採用。これにより、フレームと車体を含めたクルマ全体で200kg(!)ものダイエットに成功したほか、低重心化や重量配分の適正化も実現しています。
また、サスペンションを改良した上で、社内テストドライバーの匠やダカールラリーに参戦するプロドライバーたちが徹底した走り込みを行うことで、オン/オフ問わずさまざまな道で運転しやすく、疲れにくい乗り味を実現しています。
もちろん、ランクルならではの悪路走破性の向上も300シリーズの大きなテーマ。接地性を向上させる“E-KDSS(エレクトロニック・キネティック・ダイナミック・サスペンション・システム)や、路面状況を判定して自動で走行モードを選択する“マルチテレインセレクト”、さらに、ドライバー視点で障害物を直感的に可視化できる“マルチテレインモニター”などの採用で卓越した悪路走破性を実現しています。
従来の200シリーズは、4.6リッター自然吸気V8エンジンのみの設定でしたが、新しい300シリーズのパワーユニットは3.5リッターV6ガソリンツインターボと、3.3リッターV6ディーゼルツインターボという2タイプを設定。前者は415馬力/66.3kgf-mを、後者は309馬力/71.4kgf-mを発生し、クラストップレベルの動力性能とドライバビリティを実現しています。なおトランスミッションは、新たに10速ATが採用されました。
ちなみに電動仕様のラインナップは、今のところアナウンスなし。そのため「イマドキ、ハイブリッドもないの!?」と思う人もいるでしょう。とはいえ、“信頼性”、“耐久性”、“悪路走破性”を第一とするランクルならば、辺境の地における修理のしやすさやパーツ入手の容易さも外せない要素。オーナーの安心や信頼を考えれば、当然の設定といえそうです。
もちろんだからといって「環境負荷など考えなくていい」時代でないことはトヨタも重々承知の上。その証拠に300シリーズは、軽くなったボディや小さくなったエンジン排気量、さらに10速ATの採用などで、車両使用時の二酸化炭素排出量がグローバルの全台数分で年間約10%低減できると発表されています。まさにランクルはランクルのやり方で、二酸化炭素排出量を抑えているのです。
■スポーティな「GRスポーツ」も設定されそう
新しい300シリーズは、エクステリアデザインも新しさと歴史の融合を感じさせる仕上がりです。
フロントグリルは従来の200シリーズより上下に拡大され、左右に走る4本のバーが力強さを演出。また、その左右に位置するLEDヘッドライトは上下に薄いデザインとなり、精悍な顔つきを構成しています。ちなみにランプ類の配置やバンパーの造形は、オフロード走行時のダメージを受けにくいよう計算済み。機能美もしっかり追求されています。
一方リアスタイルは、一見、200シリーズとよく似たデザイン。しかし写真を見る限り、左右に走るメッキガーニッシュがなくなったほか、コンビネーションランプのレンズが少し横長となり、灯火類の光源にはLEDが使用されています。
またサイドビューは、リアのサイドガラスが跳ね上がったような形状となり、メッキモールも太くなったほか、タイヤを囲むフェンダーがより強調された形状となるなど、ダイナミックな印象を強めています。
ちなみに300シリーズは、一部グレードを除いて全長、全幅、ホイールベースなどのボディサイズと、ディパーチャーアングル/アプローチアングルなどを200シリーズから踏襲しているといいます。これは悪路走破性を重視してのもので、まさに黄金比と呼べるスペックなのでしょう。
一方、正式発表はないものの、オフィシャル写真から推測する限り、300シリーズにはスポーティグレード「GRスポーツ」が設定されそうです。専用のフロントグリルや前後バンパー、樹脂製フェンダーモールなどの採用で標準モデルとの違いは歴然。スポーティな仕立てのGRスポーツは、ランクルに新たな魅力をプラスしそうです。
一方インテリアでは、悪路走行時もクルマがどのような姿勢になっているかを把握しやすいよう水平基調のインパネを採用。直感的に操作できるスイッチ類を機能ごとに適切にレイアウトするほか、形状や色などで操作性に配慮したデザインとすることで使い勝手も追求しています。
中でも見逃せないのは、インパネ上部の特等席にレイアウトされた大型のセンターディスプレイ。ワイドタイプでマルチテレインモニターなどの各種情報をしっかりチェックできそうです。
もちろん最新のフラッグシップSUVだけあって安心・安全装備もハイレベルです。昼夜の歩行者や昼間の自転車を検知できるプリクラッシュセーフティ機能、交差点での対向してくる直進車や右左折時に前方からくる横断歩行者を検知する機能、さらに、ドライバーによる回避操舵をきっかけとする車線逸脱の抑制をサポートする緊急時操舵回避支援機能などを網羅した最新版の“トヨタセーフティセンス”を搭載。加えて、駐車場での前後障害物や、後退時の接近車両と歩行者を認識して事故防止に寄与するパーキングサポートブレーキも新採用されています。
14年ぶりのフルモデルチェンジで全方位的に魅力と実力を高めた300シリーズ。“ランクルの掟”をしっかり継承しながら攻めの姿勢で新たな境地を切り拓いた新型は、世界中で人気を呼びそうです。
文/上村浩紀
上村浩紀|『&GP』『GoodsPress』の元編集長。雑誌やWebメディアのプロデュース、各種コンテンツの編集・執筆を担当。注目するテーマは、クルマやデジタルギアといったモノから、スポーツや教育現場の話題まで多岐に渡る。コンテンツ制作会社「アップ・ヴィレッジ」代表。
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- Original:https://www.goodspress.jp/news/379140/
- Source:&GP
- Author:&GP
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